抄録
遠縁品種から1~2個の主働遺伝子を戻交配によって,既存品種に導入することはすでに確立されている。より一般的にみると,戻交配は,望ましい形質群を,選抜せずに導入することであり,選抜は望ましい遺伝子を集積するか,あるいは不良遺伝子を除く手段である。この両者を総合した育種法が考えられてよい。 例えば,陸稲の圃場抵抗性を導入するには,いもち病について選抜しながら,水稲を戻交配することが考えられる。特定の食味をもつ品種を戻交配しながら,耐病性や強稈性について選抜することも考えられる。 これらを一般的な形に整理してみると,aaBBをAAbbに戻交配し,Bを導入すると共に,Aについて選抜を反復し,AABB型を得ることである。 このような遺伝子対が多く,またA-bに連鎖があると,実際にすべての遺伝子についてAABBを得るのは容易でないと予想される。ここでは,主として戻交配の回数とそれに応じた選抜の強度に関して,いくつかの異なる育種方式を想定し,それらの予想される効果について,シミュレーションによる評価を試みた。 シミュレーションにおいては,8組の,独立に遺伝する相同染色体のそれぞれに,一方の親では,Aiとbi(i=1~8)が,他方の親では,aiとBiが,一組ずつ位置するものとした。またこれらのすべてのAiとbiあるいはaiとBiについて,同じ組換価での相反連鎖があるものとした。遺伝値として,AAおよびBBに2,AaおよびBbに1,aaおよびbbに0を与えて,Aiとaiは形質Aを支配し,Biとbiは形質Bを支配する想定した。これによって一方の親の形質の値は(16,0)となり,他の親は(0,16)となり,育種の目標は(16,16)である。このため形質Aこついては選抜により,形質Bについては戻交配によって向上を計るものと考える。