抄録
カラタチ(Poncirus trifoliata)種子を用いて,不定芽を直接誘起するための培地の条件を検討した。実験は,(1)不定芽または球状胚の誘起,(2)その増殖,(3)不定根形成,の3段階に分けて行なった。 カラタチ種子は滅菌後,種皮を剥いだ後置床した。培地は,CHATURVEDI and MITRA(1974)の基本培地に種々の濃度の植物ホルモンを組み合わせて用いた。置床した種子は3から4日で発芽し,5.0mg/l以上のBAを含む培地で10日後には不定芽または球状胚様体の形成がみられた。なかでも最もよく形成をみたのは,1.0mg/l NAA+5.0mg/l BAの培地と2.0mg/l NAA+10.0mg/l BAの培地であった。 この結果をふまえ,次に1.0mg/l NAA+5・0mg/l BAを含む培地でまず不定芽または球状胚様体を誘起させた後,それを切りとり,新しい培地に移植することによってその増殖を調べた。その結果,不定芽または球状胚様体の増殖は,NAAによって余り影響されず,2.5または5.0mg/l BAでよく形成されることがわかった。 次に不定根の形成を調べた。実験材料としては発芽初期の子葉をとり除いた茎頂端を含む2~3mmmの茎を供した。その結果,不定根の形成はBAを加えない培地でのみ得られた。なかでも2.0mg/l NAAにおいて発根,伸長ともに良かった。4.0mg/l NAAでは発根とともにカルスの形成がみられた。 以上のことから,カラタチでは,不定芽または球状胚様体が容易に誘起でき,それを利用した増殖系が確立できることがわかった。