育種学雑誌
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コムギとオオムギ品種の発育段階で区分した早熟特性の差異
吉田 久神尾 正義
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1985 年 35 巻 3 号 p. 323-331

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抄録

コムギはオオムギより一般に1~2週間熟期が遅く,オオムギ並に早熟たコムギ品種の育成が期待されている.そこで,コムギとオオムギの早熟特性の差異を発育段階に分けて検討した.コムギ296品種・系統とオオムギ65品種を埼玉県鴻巣市の圃場で秋播栽培し,4つの生育期間,すなわち播種から茎立ち(第1期間),茎立ちから出穂(第2期間),出穂から開花(第3期間)および開花から成熟に到る期間(第4期問)の長さを生育の開始時期との関係で比較した.その結果,コムギはオオムギに比べて,早熟化には次のような不利な特性をもっていることが明らかになった.1)幼穂分化が遅く,第1期間が長いこと,例外的に,オオムギ並に幼穂分化が早い品種もあったが,稈の伸長がオオムギより早くて,幼穂が早春の凍霜害を受ける危険が大きい.2)第2期間,第3期間および第4期間のいずれもがオオムギより長いこと・とくに,第4期間はオオムギとの差が顕著である.コムギの第2,第3および第4期間の生育に要する積算温度は,それぞれ少なくともオオムギより50C70謔30℃高かった.コムギ品種の早熟化の成果からみて,コムギの4つの期間の短縮は次のように考察された.第1期間はなお短縮できるであろうが,幼穂への凍霜害の危険が大きい.第2および第3期間はコムギ品種間の遺伝的組換えによって,最も短縮できる可能性があるとみられた.しかし,大きな短縮はこれらの生育に対して温度要求の小さい新たなコムギ遺伝子源の探索が必要である.第4期間の短縮は極めて難しいとみられた.

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