育種学雑誌
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野生稲細胞質雄性不稔に対する回復系統育成のための葯培養の利用
鳥山 欽哉日向 康吉
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1987 年 37 巻 4 号 p. 469-473

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抄録

勝尾・水島(1958)は,中国野生稲の1系統(W1)を細胞質とする細胞質雄性不稔個体を得た。しかし,こ の細胞質に対する回復系統は育成されていない、本実験では,葯培養を用いて,野生稲(W1)自身の持つ回復 遺伝子を栽培稲に導入して回復系統を育成することを試みた.はじめに,W1/染分の正逆F1の葯培養を行なったところ,カルス形成率と再分化率について細胞質による差異は見られなかった(Table1)・W1(♀)/染分F1 の葯培養から緑色2倍体が2個体得られた.それらはいずれもF1よりも高い花粉染色率を示した。そして,一方(622-1)は種子稔性があったが,他方(622-4)は種子不稔であった(Fig1)・622-1の自殖系統(A2)も 高い種子稔性を示した.次に,W1を細胞質とする雄性不稔のレイメイを母本として,A2を検定交配したとこ ろ,そのF1は正常の種子稔性を示し,A2が回復遺伝子を持っていることが確認された.しかし,そのF2では花粉染色率は高いが,種子稔性は高い個体と低い個体が存在した(Fig.2).一方,通常交雑で得たW1(♀)/ 染分のF2とB1F1は稔性が幅広く分離し(Fig.3),通常交雑では回復遺伝子の選抜は容易でないと思われた. 以上より,雑種不稔が存在する遠縁種から栽培種に回復遺伝子を導入する際に蒲培養が有効に利用できること が示唆された.

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