育種学雑誌
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トウモロコシの発芽種子にみられる脂質およびタンパク質代謝の雑種強勢
三野 真布井上 雅好
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1988 年 38 巻 4 号 p. 428-436

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抄録

近交系Oh545,W22を両親とするトウモロコシF1雑種(Oh545×W22)は種子発芽や芽生えの成長速度で強い雑種強勢を表わす.これまでの研究から,この現象がF1種子胚でのRNA,タンパク質合成が両親よりも活発であることに強く関連することが明らかとなった.一方,トウモロコシ種子ではデンプンを主とした胚乳貯蔵成分だけが発芽に重要なのではなく,胚組織に貯蔵された脂質やタンパク質もが重要な役割を持つと知られている.これらの貯蔵成分はそれぞれ固有の経路を経て代謝され種子発芽の物質的,エネルギー的基礎をなす(Scheme)、本研究は胚組織に貯蔵されている両成分の代謝に係わる酵素活性と発芽時での雑種強勢との関係について調査した. 脂質代謝に関係する酵素群の内,特に重要なリパーゼ(脂質からの脂肪酸の生成),カタラーゼ(脂肪酸のβ-酸化),イソクエン酸リアーゼ,リンゴ酸合成酵素(グリオキシル酸回路)を測定したところ,いずれの酵素も種子浸漬後32~40時間目以降で雑種の活性が両親のそれらより有意に高くなることが分った(Table1).また,胚盤組織中の遊離脂肪酸量はリパーゼ活性の高さを反映する形で,発芽後期において雑種が最高となった(Fig1).胚中の可溶性タンパク質を電気泳動すると少なくとも15本のバンドが検出できる.この内,一極側に近い高濃度の2本のバンド(フラクション2および3)はいずれの系統も発芽の進行に伴い濃度が低下するが,その程度は雑種において最も顕著であった(Fig.2および3).一方,タンパク質分解酵素活性は32時間目以降でF1雑種が両親よりも有意に高かった(Table1).ところが,種子をタンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミド(5×10-5M)で処理した時,フラクション2と3の濃度低下およびタンパク質分解酵素活性は,いずれの系統もが強く阻害された(Fig2およびTable1).シクロヘキシミド処理は種子発芽を完全に阻害することから,タンパク質分解系の抑制が種子発芽の阻害に強く関連することが明らかとなった. 核酸の電気泳動によるリボゾームRNA量の推定値からF1種子胚には両親よりも多くのリボゾームRNAが含まれていることが分った(Tab1e2).このことはF1雑種の胚細胞ではより活発なタンパク質合成の場が与えられていることを示すものであるが,事実,3H-ロイシンの取り込みよりみたタンパク質合成能はF雑種が最も高かった(Table2). 以上の結果から,吸水後のF1種子胚では貯蔵されている脂質とタンパク質が両親よりも速やかに代謝され,それに続く他の多くの物質代謝活性の高まりが両親よりも速やかに進行するもの考えられた.このようなF1種子の代謝生理活性の高さが基礎となって,発芽,芽生えの成長にみられる雑種強勢の発現に結びつくものと緒論した。

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