育種学雑誌
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白菜(Brassica cantpestris)小胞子由来胚の乾燥抵抗性誘発に対するアプサイシン酸および高浸透圧の効果
和久井 健司高畑 義人海妻 矩彦
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1994 年 44 巻 1 号 p. 29-34

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抄録
体細胞胚に種子同様の乾燥耐性を付与することは,乾燥系人工種子として利用できる外,遺伝資源の保存,乾燥耐性のメカニズム解明のモデル系として利用でき,基礎および応用面での利用価値が高い.本研究は,白菜の小胞子由来胚を用いアプサイシン酸(ABA)および浸透圧ストレス処理による乾燥耐性の誘発を試み,体細胞胚の乾燥耐性獲得に及ぼすこれら両処理の影響について調査した.白菜4系統を材料として用い,小胞子から不定胚を形成させた後,1-100μM ABAおよび8.5-14.5%ソルビトール処理を1週間行った.その後,胚を任意の湿度に保ったデシケーター内で徐々に乾燥させた.水分含量約10%になった乾燥胚をB5寒天培地に置床し,発汗率および植物体再生率を調査し,胚の乾燥耐性獲得の程度を評価した.無処理の胚は乾燥処理によりほとんどすべてが枯死したのに対し,供試した4系統すべてにおいて,胚はABA処理により乾燥耐性を獲得した.すべての処理濃度において乾燥耐性を獲得したが,10μMABAが最も効果があり,平均87.6%の発汗率,46.3%の植物体再生率を示した.一方,ソルビトール処理によっても胚は乾燥耐性を獲得したが,その効果はABAよりかなり低く,10.5%ソルビトール処理の時最も高く,!7.1%の発芽率,7.1%の再生率を示した.次に,乾燥胚の土壌条件下での再生能力を調査するため,ABA処理乾燥胚をB5の無機塩を施用したバーミキュライトに直接播いたところ,39.3%の植物体再生率を示し,土壌条件下での再生能があることが判明した.また,乾燥胚と非乾燥胚由来の植物体を比較したところ,両者の問で形態および倍数性に差異は認められなかった.ABAによる胚の乾燥耐性獲得の機構を明らかにするため,胚のタンパク質をSDS-PAGEおよびウェスタンプロットにより分析した.その結果,ABA処理胚において,種子貯蔵タンパク質の増加がみられた.この種子貯蔵タンパク質の蓄積は,乾燥胚の土壌条件下での植物体再生能に関与していると思われた.一方,乾燥耐性の獲得にあまり効果のなかった浸透圧ストレス処理でも,同様のタンパク質の蓄積がみられたことから,これらのタンパク質は乾燥耐性には直接関与していないものと推察された.
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