抄録
シェーグレン症候群では,唾液腺機能の廃絶がみられる.一度萎縮し,廃絶した唾液腺機能の回復は現在のところ困難であり,唾液腺組織の再生,機能回復を目的とした根治的療法が強く望まれている.我々は唾液腺の再生医療を目的として,ヒト口唇小唾液腺培養細胞中の唾液腺組織幹細胞の同定を行った.表面マーカーに依存しない幹細胞に共通した性質を利用したside population(SP)法を施行し,幹細胞が高い割合で含まれる細胞群の遺伝子発現解析を行ったところ,前立腺の前駆・幹細胞マーカーとして報告されているPSCA,また上皮幹細胞の増殖と分化制御に関わるDNp63の特異的な発現を見いだした.培養に伴う発現変動を観察したところ,ヒト唾液腺培養上皮細胞は培養初期にDNp63を発現し,その後,経時的にその発現を低下させ,その後にPSCAが発現する経時的な発現変化を示した.PSCAは前立腺の発生・再生過程において,その発現動態が変化する分子として報告されている.その発現動態より,ヒト唾液腺培養細胞内の分化過程にある前駆細胞群を示すものと考えられる.また,DNp63は上皮幹細胞の増殖と分化制御に関わることから,今後,唾液腺におけるPSCAとDNp63の解析を行うことで,ヒト唾液腺組織幹細胞の同定と,その発生・再生過程について更なる知見が得られるものと考えている.