抄録
全身性強皮症は血管障害と皮膚および内臓諸臓器の線維化を特徴とする膠原病で,その発症には免疫異常が関与している.その病因はいまだ不明であるが,本症は遺伝因子と環境因子の相互作用により発症する多因子疾患と考えられており,特に双生児研究の結果から環境因子の重要性が示唆されている.エピジェネティック制御で発現が変化している遺伝子は環境要因の影響を受けた疾病因子と考えられるが,転写因子Fli1は強皮症皮膚線維芽細胞において同機序により発現が抑制されており,その異常は線維芽細胞においてI型コラーゲンの発現を亢進させるのみでなく,血管内皮細胞やマクロファージにおいても強皮症独特の形質変化を誘導する.一方,転写因子KLF5は強皮症皮膚線維芽細胞においてエピジェネティック制御により発現が抑制されており,同細胞におけるCTGFの発現亢進に深く関与している.これらの転写因子の二重ヘテロ欠損マウスは4週齢で炎症・自己免疫,4-8週齢で血管障害,8-12週齢で皮膚線維化を生じ,間質性肺疾患や肺動脈性肺高血圧症も自然発症することから,これらの転写因子の発現抑制は強皮症の病態形成に極めて重要と考えられる.同マウスの病態および個々の転写因子が様々な細胞の形質に及ぼす影響を解析することにより,強皮症の病態理解と治療開発が進むことが期待される.