抄録
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、動静脈血栓症や習慣流産/胎児発育不全などの妊娠合併症といった特徴的な臨床症状を呈する自己免疫疾患である。抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントさらには抗プロトロンビン抗体)が引き起こす自己免疫血栓症であり、SLEに合併することがもっとも多い。抗リン脂質抗体は直接リン脂質に反応するのではなく、β2グリコプロテインIやプロトロンビンなどのリン脂質結合蛋白に結合するという大変ユニークな生物活性を有している。
1999年には「サッポロクライテリア」とよばれるAPSの分類基準がコンセンサスに至り、臨床研究や診断にひろく用いられるようになった。サッポロクライテリアは、2006年に「シドニー改変」がおこなわれ、現在に至る。APSの症状は容易に再発することが問題点であり、その管理には十分な注意を要する。
抗リン脂質抗体、特にβ2グリコプロテインI依存性抗カルジオリピン抗体の病態形成に関する研究から、リン脂質膜上での凝固因子を介した作用機序以外にも向血栓細胞(単球など)の活性化にp38MAPK経路が重要であることを明らかにしてきた。β2グリコプロテインIは血漿蛋白であり、そのような蛋白を介してなぜ単球に活性シグナルが伝わるかをプロテオミクスの手法を用いて解析したところ、新たなβ2グリコプロテインI結合分子が同定され、さらにインテグリンを介して単球内にシグナルを伝達し、組織因子を中心に向凝固因子が単球から産生されることが明らかになった。これらの細胞表面分子ならびにシグナル伝達分子はいずれもAPS治療の分子標的となる可能性がある。最近、APSの発症に補体の活性化が関与することも明らかになり注目されている。またβ2グリコプロテインIの様々な分子活性も明らかになってきた。