子育て研究
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日本における「孤育て」とマルティプル・ペアレンティングという子育てのあり方
斎藤 みほ
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2024 年 14 巻 p. 39-53

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抄録
現在日本では、保育所不足、児童虐待、育児ノイローゼなど、さまざまな場面で子育ての問題が議論されている。これらの問題の背景として、社会から孤立しがちな親に対する社会的支援の不足が一般的に指摘されている。このような親の社会的孤立は「孤育て」とも呼ばれ、社会問題となっている。急速な産業・経済成長につれて、日本では介護や家事の負担が女性に大きくのしかかってきたことに加え、「母性」や 「ジェンダー規範」といった文化的観念の影響もある。この男女格差は、出生率の急激かつ継続的な低下と相まって、育児ノイローゼ、児童虐待、過干渉育児といった憂慮すべき傾向をもたらしている。このような状況に対して、最近の研究では、「アロペアレンティング」や「マルティプル・ペアレンティング」といった、子どもの生物学上の親以外の複数の人間が子育てに関与することを特徴とする、前近代社会で行われていた子育てスタイルを見直す動きが提案されている。本稿では、ポリネシア諸島の民族誌に記録されたマルティプル・ペアレンティングの事例、カナダの先住民族カワチョディンヌの養子縁組の慣例、日本における擬似親子や「村の子ども」の概念などを取りあげ概観する。さらに、これらの実践を現代の子育てスタイルと比較し、現代の日本社会における親の孤立解消のため、マルティプル・ペアレンティグ戦略を取り入れることの利点と可能性について論じる。
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© 2024 日本子育て学会
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