抄録
等温滴定熱量計を用いて,水溶液中バルビツール酸誘導体(BAs)と2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)の包接複合体形成の機構を検討した。各種pH緩衝液中で測定した複合体形成反応熱量の滴定曲線から形成定数および形成エンタルピー変化を算出した結果,非解離形BAsではモル比1:1の2種類の包接モードをもつ複合体の形成,および解離形BAsでは1種類の包接複合体の形成が確認された。形成定数の大きい順に第1種および第2種複合体とすると,第1種複合体形成はΔG1,ΔH1およびΔS1はpHに依存せずほぼ定値であり,ΔH1が負の小さい値,ΔS1が正の大きい値を示すことから,疎水性相互作用が寄与している。また,第2種複合体形成はΔG2,ΔH2およびΔS2のpH > pKaでの減少,ΔH2が負の大きい値,そしてΔS2が正の小さい値を示すことから,ファンデルワールス相互作用または水素結合が寄与している。つまり,BAs-HPβCD複合体にはBAsのバルビツール酸環5位のR2の疎水性置換基がHPβCD空洞内に包接された第1種複合体とバルビツール酸環がHPβCD空洞内に包接された第2種複合体の2種類の包接モードが存在し,第2種複合体は非解離形BAsにおいてのみ形成される。これらの包接モードは13C-NMRケミカルシフト変化の解析結果と一致し,動力学的計算によって包接複合体の水溶液中での安定性が検証された。