高分子のDSCとTMA

抄録

高分子材料のDSCとTMAについて,装置と解析の両面から基礎的な点に主眼を置いてのべた。装置面では,測定原理のみならず,現在なぜ熱流束型DSCと入力補償型DSCが存在しているのか,なぜ両DSCでチャートの吸発熱が逆になっているのか,についても歴史的なことを交えてのべた。解析面では,DSC・TMA曲線の解釈の基礎となる低分子物質の状態図について復習したのち高分子の特異性を列挙し,これらも結果的にはこの状態図の枠内に納まる現象であるとした。最後に,この特異性の中で最も重要と考えられる高分子結晶のナノサイズ性を取り上げ,結晶サイズ固有の融点の実測例を示した。これは通常のDSCで観測される高分子の融点とは何か,という根本問題の提起であり,それに対する答えでもある。