抄録
6000Kの太陽から3Kの宇宙空間への熱輻射は,地球表面上における気象活動・生物活動を引き起している。したがって,熱力学第二法則が表す不可逆過程は,宇宙空間を3Kに保っている宇宙膨張に起因するものだといえる。クラウジウスが定式化した熱力学は,基本的には,エネルギーの理論ではなく物質の理論であり,「エントロピー」とは物体の「内部転化」を表す状態量である。熱伝達と拡散という不可逆過程で生成されるエントロピー増大が熱力学的に導出され,ボルツマンの原理が導かれる。混合エントロピーから導かれるギブズの背理と,輻射エントロピーから導かれる光量子論は,熱力学が量子論の胚をはらんでいたことを示している。局所平衡の仮定に基づく非平衡熱力学は,散逸構造論と共に,我々が日常に接する物体の振舞いや構造の形成を説明する。最後に,エントロピー概念の経済過程への適用は,資源と環境の問題の重要性を浮き彫りにすることが強調される。