2024 年 18 巻 2 号 p. 14-25
論文を投稿する際には,患者さんから情報を収集したり,実験で数値データを出したり,アンケート調査を施してデータを集め,そのデータをまとめて図や表にします。そして統計処理が必要になる場合がほとんどです。この流れのなかでどのようにデータを集め,まとめて,統計処理したらよいのかをできるだけわかりやすく解説していくことが本連載の目的です。日本歯科衛生学会雑誌に投稿される論文の原稿では,図表の表記方法の誤り,統計処理方法に誤りがあることが少なくありません。本連載では,統計学のなかで多くの方が誤りやすいポイントや基本的な内容でも理解しにくいポイントに重点を置いて,わかりやすい例を挙げながら解説をしていく予定です。日常の歯科臨床の中で,あまり「統計学」に関する内容に触れることは少ないかと思います。各章のまとめを「ポイント」として挙げています。また,もう一歩進んだ内容を「アドバンス」として記載しています。本連載を通じて皆さんの論文作成に必要な統計処理の知識の向上に少しでもお役に立てれば幸いです。
例1:日本男性の平均的な体重を知りたいとき,相撲部屋に行って力士の体重を計った結果を日本男性の平均的な体重とすることができるでしょうか。
例2:男女の身長を比較したとき,男性を一般の人から集めて女性をバレーボールの女子日本代表選手から集めて比較すると,女性の方が男性よりも身長が高くなることが予想されます。
これらは皆さんの常識的な感覚からしてもおかしいと感じると思います。これはデータの集め方に問題があるからです。データの集め方には決まりがあってサンプリング理論と呼ばれています。例1では,日本男性の平均的な体重では問題がありましたが,力士の平均的な体重では問題ありません。例2では,男性と女性の比較という観点からは問題がありました。しかし,女子日本代表のバレーボール選手の身長が平均的な男性の身長より高いかを知りたい場合には問題がないように感じられると思います。これは,母集団の設定が根拠にあります。母集団とは知りたい集団と考えて下さい。母集団は任意に設定できます。「日本代表選手のことを知りたい」,「東京都民のことを知りたい」,「日本人のことを知りたい」,「世界全体の人々のことを知りたい」,「ある病院に入院している糖尿病患者さんのことを知りたい」,「日本全体で入院している糖尿病患者さんのことを知りたい」,「世界全体の糖尿病患者さんのことを知りたい」など,どれでもかまいません。世界全体の糖尿病患者さんのことを知りたい場合,世界中の糖尿病患者さんのことを調べなければいけません。日本人の糖尿病患者さんのことを知りたければ日本人の糖尿病患者さんのことを調べなければいけません。しかし,実際には全員を調べることは不可能です。そこで何人かの糖尿病患者さんを調べて得られた結果から,糖尿病患者さんの特徴を捉えます。ここで調べた何人かの糖尿病患者さんのことを標本(サンプル)といいます。母集団全体を調査することを全数調査,悉皆(しっかい)調査といい,これに対して標本を選んで調査することを標本調査といいます。さきほどの標本調査で得られた何人かの糖尿病患者さんの特徴はあくまで標本である患者さんの特徴です。この結果から糖尿病患者さんの一般的な特徴を述べる場合,得られた結果から糖尿病患者さん全体の特徴を推定することになります。つまり得られた標本から母集団を推定するということです。この考え方は統計学の基礎となる考え方です。
2.2 標本抽出法標本から母集団を推定する場合,母集団を代表するような標本を選ばなければ,得られた結果の信頼性が低下します。例1で力士の体重は日本男性全体の体重を代表しているとはいえません。例2でバレーボール女子日本代表選手の身長は日本女子全体の身長を代表しているとはいえません。このような偏った標本を選ばないようにするためにいくつか標本の選び方があります。これを標本抽出法といいます。標本抽出法の基本的な考え方は無作為と独立です。無作為の意味は作為がないこと,偶然にまかせることで,標本を偶然に任せて選ぶことで偏った標本を選ぶことを避けることができます。これを無作為抽出法,英語ではランダムサンプリングといいます。独立とは標本がそれぞれ独立していることで標本同士に関連がないことが必要です。例をあげると,母集団から10人を選ぶ場合,一卵性双生児を5組選んでしまうと結果に影響がでてしまいます。標本抽出法は上記の無作為抽出法の他,系統抽出法,層化抽出法,集落抽出法などがあります。
2.3 論文作成に必要な標本抽出法の考え方研究計画を立てる際に全数調査を実施することが不可能である場合が多いです。標本調査でも厳密な標本抽出法に従う場合,質問紙調査等で地域の代表的な標本を得るためには住民基本台帳から無作為抽出等の抽出した標本で調査を実施する必要があります。実際の日本歯科衛生学会雑誌に投稿される論文では,学生を調査対象とした研究,イベント参加者への質問紙調査,特定の歯科診療所通院患者に対する研究が見られます。これらの研究対象者は日本人全体を代表する標本とは言いがたいことが多いです。よって得られた結果から日本人全体のような母集団を推定するには無理があります。しかし厳密な標本抽出法に従った標本を得ることが不可能な場合が多いため,標本抽出法の不備によって論文が却下(リジェクト)されることは少ないです。重要なことは,標本抽出法の限界を考慮した考察を書くことで,過剰とも思われる推論で一般的な母集団に対して推定をしないで,研究の限界(リミテーション)として標本の特徴と推定の限界(外部妥当性といいます)を記載することで対応します。
ポイント1
●標本から母集団の性質を推定するのに統計学が必要である。
●標本は偏りが生じないように標本抽出法に従い標本抽出を行うべきである。
●厳密な標本抽出法に従った標本抽出ができない場合,過度な母集団推定を行わない。論文には研究の限界として標本の偏りによる結果への影響が無視できないことを記載する。
例3:ある小学校の1年生のA組とB組からそれぞれ3人を無作為に抽出して身長の平均値を比較する場合,A組の3人の身長の平均値とB組の3人の身長の平均値は完全に一致するでしょうか。身長の平均値が完全に一致する可能性は非常に少ないと思います。必ず差が生じます。結果はA組の児童3人の平均値が150cm,B組の児童3人の平均値が150.5cmであったとします。
例4:ある小学校の1年生A組と6年生A組のそれぞれから3人無作為抽出して身長の平均値を比較する場合,身長の平均値が完全に一致する可能性は非常に少なく,差が生じます。結果は1年生A組の児童の3人の平均値が150cm,6年生A組が165cmであったとします。
例3,例4のそれぞれ0.5cm,15cmの身長の差は必然的に生じたものでしょうか。それとも偶然生じたものでしょうか。例3では偶然生じた差,例4の差は必然的に生じたものと考えるのが妥当です。例3の0.5cm差,例4の15cmの差は何%の確率で生じるかを示すのが有意確率です。有意確率を計算するときに「母集団には差がない」という仮定をします。これが帰無仮説です。
例3の場合,1年生A組とB組の児童を母集団として,「身長に差がない」とします。統計学ではこの平均値と後で述べるばらつきによって0.5cmの差が生じる確率を計算することができます。1年生A組とB組の児童に身長の差がないとした場合,0.5cmの差は高い確率で生じると考えられます。その確率が80%であったとすると有意確率は0.80となります。
例4の場合,1年生A組と6年生A組の児童に「身長の差がない」と仮定すると15cmの大きな差が生じる確率は低くなります。その確率が3%であったとすると有意確率は0.03になります。「身長に差がない」とする仮定が正しいか誤りかと検討する場合,有意確率0.05(5%)が一般的な基準になっています。論文では有意水準0.05と記載します。
例3の1生年A組とB組の児童の身長の差は有意水準として設定された5%を超える80%の高い確率で生じるので母集団に差がないと考えます。つまり,帰無仮説である母集団に差がないと考えます。これを「帰無仮説を採択する」といい,論文では「有意差なし」とします。
例4の1年生A組と6年生A組の15cmの差は母集団に差がないとした場合,5%未満の3%の低い確率でしか生じないので「母集団に差がない」とする仮説に誤りがあると考えます。これを「帰無仮説を棄却する」といい,論文では「有意差あり」とします。これら一連の過程を仮説検定といいます。
3.2 論文作成に必要な仮説検定の考え方初学者では,単に有意確率0.05以上で有意差なし,0.05未満で有意差ありという結果のみを考えていることが多いです。このように,有意差,有意な関連ありとする基準を有意水準と言います。しかし有意水準の0.05には理論的な意味はなく,単なる決まりです。差の仮説検定においてはあくまでも母集団から抽出した標本で母集団の差を推定していることを忘れてはなりません。また,多くの場合,標本抽出法に限界があることから,推定している母集団を常に念頭に置いて論文の構成を考え,執筆をすべきです。
ポイント2
●母集団から標本抽出法に従い抽出された標本で統計処理を行い,その結果から母集団の性質を推定することが統計学の基本的な考え方である。
3.3 関連例5:小学校1年生の男子50人の身長と体重を調べたところ,身長が高いほど体重も重かった。統計処理をしたところ有意確率が0.05未満で有意であった。
例2,3,4では2つの群で差をとって比較をしていました。例5では関係があるかをみています。有意確率が0.05未満であることから統計学的に有意な関連があるといえます。ここで注意することは母集団の設定です。この結果から,小学校1年生の男子を母集団とした場合,母集団では身長と体重に関連があると推測できます。しかしこの結果が小学校1年生の女子にあてはまるとは限りません。小学生全体にあてはまるとはいえません。日本人全体にあてはまるとはいえません。この例は簡単な例ですが,実際の日本歯科衛生学会雑誌に投稿される研究では歯科衛生士養成機関の学生を対象とした研究が散見されます。一般人よりも歯科知識を学んだオーラルヘルスリテラシーの高い集団から得られた結果が,一般集団に適用できるかは慎重に検討する必要があります。
これまでに述べてきたことをまとめたのが図1です。

統計学の基本的な考え方 母集団から標本抽出法に従い得られた標本のデータを,統計学を用いて得られた結果から母集団の性質を推定するのが統計学の役割である。
ポイント3
●統計学でできる基本的なことは,標本から得られた結果から,母集団で差があるかと関連があるかの2点である。
ここまで述べてきたことは,ヒトを対象とした疫学調査,社会調査,臨床研究を主題としています。日本歯科衛生学会雑誌には実験を基本とした基礎研究の論文も投稿されています。基礎研究では,実験に使う細胞や細菌は均一だから標本抽出の影響はないので必要のない考え方であると思われるかもしれません。しかし,実験による測定値には必ず誤差が含まれます。また,実験の技術が向上して後に行った実験結果ほど良い結果になる場合もあります。このような影響を避け実験研究を適正に実施するために実験計画法という体系が整えられています。実験計画法では3つの原則が確立されており,反復,無作為化,局所管理であり,これをフィッシャーの3原則といいます。反復とはそれぞれの処理に対して同じ条件で2回以上の繰り返し実験を行うことです。反復実験の結果から平均値を真の値の推定値とします。無作為化とは,比較したい処理群を無作為に割り付けて結果に影響を与える要因の影響を小さくすることです。局所管理とは,いくつかの実験をブロックとして行い,ブロック内で条件の異なる実験を組み合わせて行うことです。このようにして実験に影響を与える因子の影響を最小限にします。フィッシャーの3原則をイメージしやすいようにしたのが図2です。

フィッシャーの3原則 無作為化:実験を行う順序を無作為に決める。 反 復:同じ実験を複数回行う。 ブロック化:複数回行う実験を一塊のセットにしてセットの中で条件の異なる実験を行う。 この操作によって実験に影響を与える因子の影響を少なくする。
ポイント4
●実験データには誤差が含まれている。誤差が含まれたデータから真の値を推測するために統計学が必要である。
●基礎実験では,実験計画法に従い実験の順序を組み立てることによって実験に影響を与える因子の影響を少なくすることができる。
4.1 論文作成に必要な実験計画法の考え方実験に影響を及ぼす因子は,既知のものの他,未知のものも存在します。これらの因子の影響を少なくするためにフィッシャーの3原則に沿って実験計画を立案すべきです。また,ヒトに対して介入を行うことも実験に含まれます。ヒトを対象とした場合には,倫理的な問題が含まれるためフィッシャーの3原則を適用することが困難な場合も存在しますが,できるだけ,フィッシャーの3原則に沿った介入計画を立案すべきです。
統計学で使用するデータは2種類の変数,4種類の尺度のいずれかに分類されます。分析するデータがどの変数,尺度に分類されるかを知っておくことは非常に重要です。変数,尺度の種類で検定の方法が決まったり,グラフ表現の方法も決まってきます。
例6:四則演算を例にとって変数の分類を説明します。
[1]男性+女性
[2]鈴木÷田中
[3]3位-1位
[4]3位÷1位
[5]3位と1位の平均
[6]20℃-10℃
[7]20℃÷10℃
[8]10cm-1cm
[9]10cm÷1cm
[1]から[5]までの計算はできません。[1],[2]の性別や氏名は名義尺度と呼ばれるもので,分類のみを行うものです。尺度に順序,量がありません。この名義尺度では加算,減算,乗算,除算の四則演算はすべてできません。
[3],[4],[5]の順位は順序尺度と呼ばれるもので変数に順番があります。しかし,順番が等間隔に並んでいる訳ではありません。1位と3位の差,101位と103位の差の意味が異なることを考えれば理解できると思います。国際競技で日本の平均順位は何位であったというような表現がされることはありません。順序尺度は名義尺度と同様に四則演算はできません。
[6]から[9]までの計算では,[7]のみ計算することができません。気温では,夜は昼間より10℃低いといった表現はされますが,昼は夜より2倍暖かいといった表現はされません。これは,気温,温度は原点を任意に設定できるからです。気温の0℃は温度が全くないという意味ではありません。[6],[7]の計算式で0℃を-273.16℃を絶対零度とするケルビン温度で表現すると,それぞれ293.16K-283.16K=10K,293.16K÷283.16K=1.035Kと引き算の値は同じですが,割り算の値は異なります。温度のように原点を任意に設定できる尺度を間隔尺度といいます。間隔尺度の例はあまり多くありません。他にはテストの点数が間隔尺度になっています。間隔尺度の考え方を図3で説明しました。

海面に立てられた2本の杭 海面の位置を原点と考える。海面の位置が異なっても杭の長さの差(A=C-B)は同じであるが長さの比(C÷B)の値は異なる。間隔尺度は原点を任意に設定できるため足し算,引き算は可能であるが,かけ算,割り算はできない。
[8],[9]の例で示した長さや,重さ,お金などは0が何もないことを意味しています。これを比例尺度(比尺度もいう)といい四則演算がすべて可能です。
以上,4種類の尺度(名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比例尺度)について述べてきました。統計学では,おおまかに名義尺度と順序尺度を質的変数(カテゴリー変数,離散変数)とし,間隔尺度と比尺度を連続変数として,変数を2つに分類することによって理論体系が構築されています。この尺度の分類は重要で統計手法の多くは変数の種類と分布によって決まります。
5.2 論文作成に必要な尺度,変数の種類の考え方調査計画の時点で調査項目の尺度を意識しておくことは重要です。結果の表現方法に大きく影響するからです。投稿された論文ではまれに順序尺度で平均値を求めているものがあります。特に,「大変そう思う」,「そう思う」,「どちらでもない」,「あまり思わない」,「そう思わない」といった数段階で評価する尺度を用いた調査表を利用したものに多く見受けられます。この例の場合,5段階の評価が等間隔で評価されていれば問題ないのですが,ほとんどの場合,等間隔が理論的に証明されていることはありません。等間隔が担保されていない以上,平均値を求めることは誤りです。中央値や最頻値で表現することは誤りではなく,結果の表現は度数分布表や各カテゴリーの頻度を棒グラフで表現するのが妥当です。また,CPI(Community Periodontal Index:CPI)をはじめとする歯周病の疫学指標の多くは順序尺度になっています。
ポイント5
●調査項目の尺度は計画段階で意識しておく必要がある。尺度によっては平均値を使用することが誤りになるものがある。
●統計学では,質的変数(カテゴリー変数,離散変数)と連続変数の2つに分けて理論体系が構築されている。
●変数の種類,分布で統計手法が決まることが多い。
50人の人の身長のデータがあったとします。この50例のデータをそのまま見せられてもその特徴を見分けるのは困難です。そこで50人のデータを単純な数値で表現できれば便利です。そのために利用できるのが集団の代表値と呼ばれるもので英語ではSummary statisticsと言います。
例7: 集団の代表値で最も多く使われるのが平均値です。表1のテストの点数を例にとって説明します。
Aさん,Bさんともに平均点は90点です。AさんとBさんを比較するとBさんの方が点数にばらつきがあります。平均値だけでは表現できない部分があることがわかります。これを表現するために (各点数-平均値)をサンプル数の3で割った数値を考えます。
Aさんの場合:{(90-90)+(90-90)+(90-90)}÷3=0
Bさんの場合:{(100-90)+(100-90)+(70-90)}÷3=0
ともに0になってしまいます。そこで(各点数-平均値)の二乗を考えます。
Aさんの場合:{(90-90)2+(90-90)2+(90-90)2}÷3=0
Bさんの場合:{(100-90)2+(100-90)2+(70-90)2}÷3=(100+100+400)÷3=200
これで,AさんとBさんのばらつきの違いが表現できました。これが分散です。平均点の90に対して200は大きな数値です。そこで二乗しているので平方根をとって元に戻すことを考えます。これが標準偏差です。
Aさんの標準偏差:√0=0
Bさんの標準偏差:√200=14.1
6.2 中央値,最頻値平均値,分散と標準偏差を使うことで集団のデータを単純な数値で示せることがわかりました。しかし,この平均値,分散,標準偏差は万能ではありません。
例8:診療所に勤務する歯科衛生士3人がお金を今いくら所有しているかを調べたところ,2人が1万円,残りの1人はたまたま宝くじが当たって3億円もっていたとします。
診療所に勤務する歯科衛生士の所持金は平均で1億円になります。この1億円は歯科衛生士が通常所持する現実的な金額とはかけ離れています。これは平均値が外れ値の影響を受けやすいという性質によるものです。平均値は非常に大きな値や小さい値があると極端に大きくなったり,小さくなったりします。そこで,中央値,最頻値を使って集団の代表値にする必要がある場合があります。中央値とはデータを小さい順に並べたときにちょうど真ん中に来る値のことです。最頻値とは最も頻度が高い値のことです。例8の場合,中央値は1万円,1万円,3億円の真ん中の1万円です。最頻値は1万円が2人いるので1万円になります。平均値より中央値,最頻値の方がより現実的な値になっていることがわかります。
中央値ではサンプル(標本)が偶数の場合,真ん中の2つの値の平均値で示します。1,2,3,4の中央値は2と3の平均をとって2.5になります。中央値を用いた場合,データのばらつきを示すにはデータ全体の小さい方から数えて25%と75%の値を示します。これによってデータ全体の75%が含まれる範囲でデータのばらつきを表示します。
6.3 平均値,中央値,最頻値が一致しない例平均値,中央値,最頻値が一致しない代表的な例に家計収入があります。図4は国民基礎調査による収入の分布を示しています。

令和4年度 国民生活基礎調査 所得の分布状況 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
平均値は545.7万円ですが,中央値は423万円で,最頻値は200-300万円です。日本の平均家計の収入が545.7万円と聞くと自分の感覚より多いと感じる人が多いのは最頻値とその前後の100万円から400万円の間の家計が40.3%と多いためです。図をみてわかる通り,数は少ないですが高額所得の家計があります。これらの値が平均値を引き上げています。
【アドバンス1】
nで割る? n-1で割る?
母分散と標本分散
数理統計学では平均値を期待値と呼ぶ。
平均値はμ=E[X]
分散はσ2=E[(X-μ)2] で表す。
k=1,2,3,…に対してμk`= [Xk]を原点まわりのk次のモーメントという。
μk`= [(X-μ)k]を平均値まわりのk次のモーメントという。
このようにモーメントを導入することによって連続分布のみならず,二項分布やポアソン分布に従う離散変数にも分散の概念を拡張することができる。
また,kの値を変えることによって歪度,尖度のような分布の特性値を拡張することができる。
数理統計学では母集団の分布と標本の分布を別に扱い標本の分布を標本分布と呼ぶ。
母集団の平均,分散を母平均,母分散とよびそれぞれ以下の式で表現する。
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標本の平均値であるの期待値,分散は
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標本分散であるS2の期待値は
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以上のように標本から母集団の分散を推定する場合はnではなくn-1で割る必要がある。
上記の理論はX1,X2....Xnが独立で同一分布に従っていることが前提になっている。統計ソフトを使用している場合は問題がないが,表計算ソフト等を用いて自分で計算する場合は注意が必要である。
ポイント6
●集団の代表値は平均値が一般的に使用されるが,平均値は万能ではなく極端に大きい値や極端に小さな値の影響を受ける。
●データの散らばりを表すには分散,標準偏差を用いる。分散,標準偏差は平均値が妥当な場合のみ有用である。
●標本から母集団の分散,標準偏差を推定する場合,サンプル数のnでなくn-1で割る。
●データが後述する正規分布に従う場合に平均値,標準偏差で集団の代表値を示すが,正規分布に従わない場合は中央値,25,75パーセンタイルで集団の代表値を示す。
例9:テストの点数を表2に示します。
この表を度数分布表といいます。平均点は80点です。中央値,最頻値も80点です。この集団を母集団とすれば,標準偏差は13.09に,この集団を標本とすれば母集団の標準偏差の推定値12.47になります。母集団の設定は任意なので,ここではこの集団を標本とします。この集団を母集団としても問題はありません。
この表を棒グラフで示すと図5のようになります。

テストの点数の分布
図から平均点の80点が最も人数が多く,平均点から離れるほど人数が少なくなっていることがわかります。このようなデータの広がり方を分布といいます。この分布では,平均値,中央値,最頻値が一致しています。またグラフの形が左右対称になっています。このような分布を正規分布とよび,身長,体重の分布などをはじめ自然界に最も多い分布になっています。統計学的検定や推定はこの正規分布を基本としています。データが正規分布に従っているか,いないかで検定の方法が異なります。
7.2 正規性の検定正規分布に従っているか,いないかで統計学的検定の方法が異なるのですから,データが正規分布に従っているかを確認することは重要な作業になります。データが正規分布に従っているかを調べる方法を正規性の検定といいます。正規性の検定には2つの方法があり,サンプル数が少なく50未満の場合にはシャピロ–ウィルク検定を,50以上の場合にはコルモゴロフ–スミルノフ検定を用います。正規分布とのずれが大きいほど有意確率が小さくなり有意確率が0.05未満のときは正規分布に従っていないと判定します。
図6の(A),(B)でシャピロ–ウィルク検定を行った結果,有意確率はそれぞれ0.3,0.04 で正規分布に従っていません。このようなデータにt検定や重回帰分析を行ってはいけません。集団の代表値も平均値,標準偏差で示すのではなく,中央値,25-75パーセンタイルで示すべきです。正規分布に従っていないデータを用いて正規分布が前提となっている検定方法であるt検定や重回帰分析を行っても正しい検定結果は得られません。

テストの点数の分布
シャピロ–ウィルク検定の結果(A),(B)それぞれの有意確率は0.3,0.04で正規分布に従っていないことがわかります。なお図5に示したデータでは有意確率は0.69で正規分布に従っていることがわかります。
ポイント7
●正規分布は自然界に最も多い分布で,統計学的検定はデータが正規分布に従うか,従わないかで検定方法が異なる。
●データが正規分布に従っているか,従っていないかはサンプル数が50未満の場合にはシャピロ-ウィルク検定,50以上の場合にはコルモゴロフ-スミルノフ検定を用いる。
●正規分布に従っていないデータで正規分布を前提としたt検定や重回帰分析を行っても正確な結果は得られない。
ポイント3で述べたように統計学でできる基本的なことは,標本から得られた結果から,母集団で差があるかと関連があるかの2点です。2群の比較を行う場合,母集団で2群に差がないと仮定して標本から得られた差がどの程度の割合で生じるかを計算したのが有意確率です。差がないと仮定した場合,このような大きな差が生じる確率はすくない,その確率は5%未満である場合に「母集団で差がないとはいえない」として,便宜的に有意差ありとします。これが仮説検定です。
基本的な統計学的検定の方法は変数の種類とその組み合わせ,正規分布に従うか従わないかで決まります。これをまとめたのが表3です。データが正規分布に従う場合の検定をパラメトリック検定,従わない場合の検定をノンパラメトリック検定といいます。薬を飲む前後の血圧の比較など,同じ人や物を前後で比較する場合を対応のある検定といいます。2群以上の前後比較には高度な統計処理方法が必要となります。
8.1 検定の基本的な考え方検定では各群の差や分散を使ってそれぞれの検定方法に合わせて統計量を算出します。この統計量は検定方法ごとに経験的にそれぞれ従う分布がわかっています。そして,この統計量が分布から何%の確率で生じるかを示す有意確率を計算します。有意確率が0.05以上の時,有意でないとし,0.05未満のときに統計学的に有意とします。
【アドバンス2】
例として二標本t検定の統計量を示します。
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この統計量が自由度(n1+n2-1)のt分布に従うことを利用し,実際の数値を代入して何%の確率で生じるかを計算する。
注)t検定では群1,2の分散が等しいと仮定できるかによって計算方法が異なる。
【アドバンス3】
対応のある検定の考え方
例10のように対応のあるt検定ではAさんを薬を飲む前と飲んだ後の血圧を2回測定している。この服薬前後のデータは統計学的に独立でない。対応のあるt検定では前後の差から統計量を算出し,統計量がt分布に従うことを利用して有意確率を求める。
計測されたデータではなく,差が正規分布に従うか,従わないかによって検定方法が変わる。
【アドバンス4】
ノンパラメトリック検定の考え方
正規分布に従わない検定の場合,適合する正規分布以外の分布に当てはめる方法と順序統計量を求めて検定を行う方法がある。基本的な検定方法では順序統計量を算出して検定を行う。
独立2群Mann WhitneyのU検定を用いる。ノンパラメトリック検定では検査値そのものではなく検査値を小さい順番に並べた順位から統計量を算出し,U検定表から有意確率を求める。この例では有意確率は0.05で有意差なしとなる。
注)多くの血液検査値は対数正規分布に従うことが知られている。検査データを対数変換し,正規性の検定を行い,正規性が確認できればパラメトリック検定を行うことができる1)。
例11では有意差なしという結果であった。ノンパラメトリック検定ではサンプル数が3以下ではどんなに差があっても有意にならない,4例では偏ったデータではすべて有意差ありと判定されることが知られている。一般的にノンパラメトリック検定は6例以上で実施すべきとされている2)。
【アドバンス5】
適合度の検定
正規性の検定では,データが正規分布に適合しているかを検定した。χ2検定も適合度の検定であり周辺分布から算出した比率にデータが適合しているかを検定するものである。
χ2検定で,有意確率0.01以下で有意となる。
この表を,全体を100%で表すと以下の表になる。
表で合計の部分を周辺分布という。上の表からう蝕「あり」が56.7%,フッ素の使用「なし」が33.3%であるからう蝕「あり」,フッ素の使用が「毎日」の場合 56.7%×33.3%=18.9%になることが期待される。実際は16.7%で周辺分布からの計算とずれている。χ2検定ではこのデータと周辺分布のずれから検定量を算出しχ2分布から有意確率を求める。つまり,データが周辺分布に適合しているかを検定している。適合しているか否かを検定しているだけなので,フッ素使用なしより時々でも使用した方がう蝕予防効果が高いとか,毎日使用した方が時々使用するより予防効果が高いといった用量反応性を述べることはできない。χ2検定の結果から用量反応性を考察している投稿がみられるがこれは誤りである。
ポイント8
●基本的な検定方法は,変数の種類,正規分布に従っているか,対応のある検定かによって検定方法が決まる。