日本歯科衛生学会雑誌
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原著
成人健常者の舌圧と握力との関連
畑田 晶子花谷 早希子古賀 恵新井 麻実磯貝 友希大岡 知子畠中 能子
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2026 年 20 巻 2 号 p. 15-21

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Abstract

【目的】超高齢社会の日本において,介護予防の観点から早期にオーラルフレイルの兆候を評価し,機能低下を抑制する歯科的介入が必要である。介入時期の決定には,広い年代における口腔機能の推移を予め明らかにしておく必要がある。そこで本研究では,広い年代の健常成人を対象に口腔機能の一指標として舌圧に焦点を当て,検討を行うとともに,オーラルフレイル予防のための一次スクリーニング法としての握力の有用性を検討した。

【対象および方法】18歳-64歳の男性104名,女性178名の計282名を対象に舌圧および握力の測定を実施した。舌圧は3回測定した平均値を舌圧とし,握力は左右それぞれ1回ずつ測定した平均値を握力とした。

【結果および考察】舌圧と握力のいずれについても明らかな性差が認められ,男性群,女性群ともに握力と舌圧間に有意な正の相関関係が認められた。また本調査対象者においては,舌圧は握力の要因を受けていること,男性と比較して女性の方が舌圧の基準値を下回りやすいこと,舌圧と年齢の間には有意な関連がないことが示唆された。以上より,握力の評価は舌圧の機能低下を探る方法として使用できる可能性が示唆された。

【結論】18歳-64歳を対象とした本調査で,握力と舌圧は正の相関が認められた。18歳-64歳でなおかつ口腔機能低下を自覚していない,または自覚の有無にかかわらず日常生活上の支障のない者では,男性と比較して女性の方が舌圧の基準値を下回りやすい傾向を示す(p<0.01)ものの,両性において相関が確認されており,年齢に関わらず,簡易的な握力測定結果でも握力が舌圧を反映している可能性が示唆された。

Translated Abstract

[Objective] From the perspective of nursing care prevention, dental intervention to evaluate the early signs of oral frailty and suppress functional decline is crucial in a super-aging society like Japan.

In order to determine timing for intervention, clarifying in advance the transition of oral functions across a wide range of age groups is critical. This study focused on tongue pressure as an indicator of oral function in healthy adults over a wide range of ages, and examined the utility of hand grip strength as a primary screening method for preventing oral frailty.

[Subjects and Methods] Tongue pressure and hand grip strength were measured in a total of 282 subjects (104 males and 178 females; aged 18 to 64 years) who did not perceive any decline in oral function. Tongue pressure was calculated as the average of three measurements, and hand grip strength was calculated as the average of one measurement on each side.

[Results and Discussion] There were clear gender differences in both tongue pressure and hand grip strength: those of males were much higher than those of females, and a significant positive correlation was observed between tongue pressure and hand grip strength in both male and female groups. There was no significant correlation between tongue pressure and age.

[Conclusion] This study suggests that hand grip strength may reflect tongue pressure regardless of gender or age, and that measurement of hand grip strength may be an effective screening method for tongue pressure measurement.

【緒 言】

舌口唇運動や咀嚼は一連の口腔特有の運動機能で,重要な口腔機能の中に包含される。口腔機能は年齢を重ねるに従い,自覚がないうちに低下することが多く,高齢者の口腔機能低下は,進行すれば全身の健康状態の悪化,すなわち全身的なフレイルに直結することが報告されている1),2),3)。また口腔機能低下は認知機能の低下とも関連する可能性も指摘されている4)

超高齢社会の日本において,介護予防の観点から早期にオーラルフレイルの兆候を評価し,機能低下を抑制する歯科的介入が必要である5)。しかし,これまでの研究では高齢者を中心に,口腔機能低下を自覚する者を対象にした調査・研究2),6),7)が多い。2022年の診療報酬改定により50歳以上に口腔機能低下症の検査が保険適応された8)。太田らは20歳以上の成人を対象とした調査で,口腔機能低下症の有病率が50歳代で50%であるという報告を行っている9)。また,森田ら10)は,50歳以上を対象とした調査の結果から,オーラルフレイルの者が0%となる年齢は30歳頃であると試算をした。つまり,オーラルフレイルの発現は想像以上に早期である可能性が考えられ,これらから早期オーラルフレイルの兆候を見極めるためには若年層を含めた幅広い年代での調査が必要であると考えられる。

高齢者を対象としたこれまでの研究で,口腔機能を評価する指標として,口腔衛生状態,舌口唇運動機能,咀嚼機能/咀嚼能率,口腔乾燥,舌圧などが調査されているが,指標によっては被験者の口腔環境,特に残存歯数がその結果に強く影響する可能性が示されている11)。そのため,これら多くの評価指標は絶対的な口腔機能状態を測るものとはなり得ないと考えられる。一方,これら指標の中で舌圧(最大舌圧)は,残存歯数の影響を受けないとの報告12)があることから,高齢者の口腔機能低下を把握する一つの有力な指標となる可能性が示唆されている13),14)

一方,成人の口腔および身体機能に関するこれまでの報告15),16),17)から,握力が舌圧と正の相関関係にあることが示されている。握力測定は舌圧測定と比較して感染予防対策の必要がなく,その測定方法も簡便であることから,握力が口腔機能の評価の指標として使用できれば,幅広い年代でオーラルフレイルの早期予防のための有益な情報を提供できる可能性が考えられる。そこで,本研究では,口腔機能低下を自覚していない広い年代の健常成人を対象に,年齢や性差により舌圧と握力がどのように関連するかを検討した。

【対象および方法】

1. 対象

学校職員や関係団体に協力の呼びかけを行い,自発的に本研究への参加に同意された口腔機能低下を自覚していない,または自覚の有無にかかわらず日常生活上の支障のない18-64歳の成人を対象とした。男性104名(18-64歳,(平均年齢(標準偏差))34.8(15.0)歳),および女性178名(18-64歳,35.6(14.3)歳)の計282名(18-64歳,35.3(14.5)歳)を対象とした。

2. 方法

本調査は2020年7月から2024年10月に実施した。

対象者の選定のため,歯科衛生士が調査内容を説明し調査の同意を得る際に,明らかに口腔機能(食べる,話す)に問題が起きていないことを面接により確認した。

対象者に対し,歯科衛生士が対面で年齢,性別の聞き取りおよび舌圧と握力の測定を実施した。

舌圧測定には,老年歯科医学会が推奨する舌圧測定器を用いた舌圧測定法を用いた13)。すなわち,舌圧測定器(JMS舌圧測定器,JMS社,広島県,東京都)を用いて,取扱説明書に従い最大努力で7秒程度圧迫後,最大舌圧の数値確認および機器の調整に必要な時間(10-20秒間)休憩し,最大舌圧を3回測定した。

握力測定にはスメドレー式握力計(竹井機器,新潟県)を使用した。立位にて左右ともに1回ずつ測定した。

3. 解析方法

解析にはSPSS Statistics 28(IBM,東京)を使用し,正規性の検定はKolmogorov-Smirnov検定,平均値の差の検定にはMann-Whitney U-test,unpaired t-testを,相関はSpearmanの順位相関を用いて評価した。また,jamovi2.6.44(https://jamovi.org/)を使用し, 2項ロジスティック回帰分析を実施した。

4. 倫理的配慮

本研究は関西福祉科学大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号20-14)。

【結 果】

1. 舌圧と握力に関する性差

被験者を男性104名,女性178名に分け,両群間の舌圧および握力の差を比較検討した。

本調査においては舌圧測定基準13)を参考に舌圧は平均値を採用することとした。男性群の舌圧を各3回計測した結果の平均値(標準偏差)は39.8(10.3)kPa(範囲:8.0-58.2kPa),中央値は40.1kPa(範囲:6.1-62.3kPa)であるのに対し,女性群の舌圧の平均値は36.7(7.8)kPa(範囲:16.3-52.8kPa),中央値は37.1kPa(範囲:16.1-59.8kPa)であった。舌圧の平均値,中央値ともに正規分布に従わないため,Mann-Whitney U-testを実施した結果,男性群,女性群の間で有意な差が認められた(p<0.01)。一方,男性群の左右の握力の平均値は40.4(9.0)kg(範囲:17.0-67.8kg)であるのに対し,女性群の場合は25.4(5.0)kg(範囲:11.5-37.5kg)で,正規分布に従うためunpaired t-testを実施した結果,握力についても男性群,女性群の間で有意な差が認められた(p<0.01)。

舌圧と握力のいずれについても明らかな性差が認められたことから,舌圧と握力の関連性については,男性群と女性群に分けて検討することとした。

2. 舌圧と握力との関連

男性群での舌圧と握力の関連性を検討した結果,舌圧と握力間に有意な正の相関関係が認められた(r=0.402,p<0.01)(図1)。さらに女性群についても同様の検討を行ったところ,有意な正の相関関係が認められた(r=0.177,p<0.05)(図2)。

図1

舌圧と握力との関連(男性)

図2

舌圧と握力との関連(女性)

3. 舌圧と年齢・性別・握力との関連

舌圧が基準値以下を示す際の影響要因を確認するため,目的変数を舌圧の基準値以下(30kPa未満)か基準値以上(30kPa以上)の2群とし,説明変数を年齢,性別,握力とする2項ロジスティック回帰分析を実施した。本調査対象者の年齢分布を図3に示す。年齢については,2022年の診療報酬改定により50歳以上に口腔機能低下症の検査が保険適応されたということ8)に加え,口腔機能低下症の有病率が50歳代で50%であるという報告を基に9),年齢区分を-19歳以下群,20-49歳群,50-64歳群の3群に分けた。

図3

本調査対象者の人数分布

その結果,本調査対象者においては舌圧と握力は有意に関連しており(p<0.01),男性と比較して女性の方が舌圧の基準値を下回りやすいこと(p<0.01)が示唆された。また,舌圧と年齢の間には有意な関連がないことが示唆された(表)。

表1

舌圧低下(30kPa未満)を目的変数とした2項ロジスティック回帰分析


【考 察】

口腔機能の低下が高齢者の全身の健康状態の悪化,すなわち全身的なフレイルに直結するとの調査・報告1),2),3)がなされている。そのため超高齢社会における介護予防という観点で,歯科医療が果たすべき役割の一つとして,高齢者の口腔機能の低下抑制が挙げられる。この役割を果たすためには,オーラルフレイルの早期の段階で口腔機能の低下を把握し,その進行を抑制するための介入が必要となる。しかしながら高齢者を含まない健康成人での口腔機能に関する調査結果が少ないため,どの段階でどのような歯科的介入が必要か否かという判断基準は示されていない。その理由の一つとしては,高齢者の口腔機能の実態を正確に把握することが困難で,適切な介入時期を知る明確な指標を欠いているという状況が挙げられる。そこで,本研究では,オーラルフレイルの早期発見のための一次スクリーニング法の一つとして握力測定が有用か否かを検討するための前段階として,広い年代における舌圧と握力の関連を解析した。

その結果,舌圧については,女性群と比較して男性群の方が有意に高い値を示すことが明らかとなった。この結果は歯学部2年生を対象とした新谷らの報告18)を支持するものであるが,本研究結果から18歳-64歳の幅広い年齢の健常成人の舌圧にも有意な性差があることが明らかとなった。

握力についても,本研究結果では男女両群間で有意な差が確認されたことから,本研究では,舌圧と握力の関連性については男性群と女性群にわけて検討した。その結果,男性群,女性群ともに舌圧と握力間に有意な正の相関関係が認められた。

先行研究において,舌圧と握力に相関関係が認められることは,対象者が高齢者の場合19)や20歳前後の若年者の場合16),20)で報告されている。本調査対象者においても舌圧と握力に相関関係が認められており,先行研究を支持し,幅広い年代においても同様の結果が得られた。

握力の測定方法については,左右交互に2回測定した最大握力を採用した先行研究16),20)や,利き手のみ3回の握力測定方法を採用した先行研究19)がみられる。どちらにおいても,握力と舌圧は正の相関関係にあることが示されている。現在,握力の測定方法で一般的に多く採用されているのは,立位にて左右交互に2回測定し,最大握力を採用する方法である21)。これは1回目の握力測定時には最大の力が発揮されない傾向にあるということによる。黒崎は,20-22歳を対象とした調査の中で,最も信頼性の高い値は3回測定の最大値であるとしつつ,結論において,臨床では効率性を考え,1回測定値の信頼性は高く選択肢の一つであるとしている22)。時間的制約の多い中での臨床応用を行うにあたりより簡易な方法で測定を行う必要があったため,本調査においては左右1回ずつ測定する方法を採用した。その平均値を握力として採用しても,握力と舌圧は正の相関関係が認められた。

また,握力および舌圧が年齢に影響を受けないことが確認されたことより,18歳-64歳でなおかつ口腔機能低下を自覚していない,または自覚の有無にかかわらず日常生活上の支障のない者の場合は,男女個々の群で程度が異なるものの相関が確認されており,年齢に関わらず,握力が舌圧の低下を早期に発見するための有益な情報を提供する可能性が示唆された。

しかしながら本調査では,18歳-64歳までの男女を対象としており,より口腔機能低下に注意が必要となると考えられている65歳以上の者を対象として調査を実施できていない。また,口腔機能低下の可能性がある者は対象としていない。今後,65歳以上の高齢者および口腔機能低下を自覚する者を対象として,本調査を継続して実施することで,舌圧と握力との関連を再検討し,握力の評価が舌圧の機能低下のスクリーニング法として有効であるか否かを明らかにする必要がある。

【結 論】

18歳-64歳を対象とした本調査では,左右1回ずつ測定した結果の平均握力と3回の最大舌圧の平均の舌圧は正の相関が認められた。また,18歳-64歳でなおかつ口腔機能低下を自覚していない,または自覚の有無にかかわらず日常生活上の支障のない者では,舌圧と握力は正の相関関係にあり,舌圧と年齢の間には有意な関連がないことが示唆された。以上の結果より,簡易的な握力測定結果でも握力が舌圧を反映している可能性が示唆された。

【謝 辞】

本研究の一部は,日本歯科衛生学会第17回,第18回学術大会において発表しました。また,本研究は公益社団法人日本歯科衛生士会2023年度歯科衛生臨床研究助成を受けたものです。

稿を終えるにあたり,多大なるご助言頂きました関西女子短期大学 脇坂聡教授,村上伸也教授,永田英樹教授に深謝いたします。

本研究内容に開示すべき利益相反項目はない。

References
 
© 日本歯科衛生学会
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