2026 年 20 巻 3 号 p. 34
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う蝕は依然として我が国における主要な口腔疾患の一つであり,特に小児から高齢者に至るまで幅広い年齢層に影響を及ぼす慢性疾患です。しかしながら,う蝕の発症・進行に関する知見はこの数十年で大きく進展し,今日ではう蝕を「細菌感染による不可避な病変」としてではなく,「生活習慣病の一形態」として捉える視点が主流となっています。このような背景の中で,う蝕に対する考え方や予防・管理の方法も大きく変化しつつあります。
本講演では,歯科衛生士がう蝕予防・管理に関わるうえで知っておくべき基本的かつ最新の知識を整理し,実際の臨床現場で活用できるように分かりやすく解説したいと思います。まず,う蝕の基本的な病因論に立ち返り,う蝕発症の4要素(細菌,糖質,宿主,時間)の相互作用と,それによる脱灰・再石灰化の動的平衡について丁寧に解説します。さらに,う蝕はバイオフィルム(歯垢)の性質に依存する「不均衡なエコロジー」によって生じることが明らかになっており,この「エコロジカルプラーク仮説」にも触れながら,口腔内環境の変化と病変発現の関係についても考察します。
次に,個別化されたう蝕リスク評価の重要性について,CAMBRA(Caries Management by Risk Assessment)やCariogramなどのリスク評価ツールの活用法,そして患者の年齢やライフスタイルに応じたリスク分類と,それに基づく予防・管理戦略の立て方を紹介します。とくに,フッ化物応用,食事指導,プラークコントロールといった各種介入法の科学的根拠と実際の応用についても,国内外の最新ガイドラインなどを簡単に紹介します。
また,従来型のう蝕治療から「削らずに管理する」MI(Minimal Intervention)への転換が進む中,歯科衛生士が果たすべき役割も質的に変化しています。初期う蝕の非侵襲的管理,行動変容を促すコミュニケーション技法(Motivational Interviewing),そして患者との継続的な関係性構築によるセルフケア支援など,専門職としての関わり方についても実践的な視点が必要です。
う蝕は予防可能な疾患であり,その管理には多職種連携の中で歯科衛生士が担う役割が非常に大きく,また重要です。本講演が,日常臨床におけるう蝕予防・管理の実践を見直し,患者中心の口腔ケアの質をさらに高めるきっかけとなることを願っています。
井上 剛(いのうえ ごう)
【現職】東京科学大学大学院 う蝕制御学分野 講師
【職歴】2006.4-2007.2 東京医科歯科大学歯学部付属病院 医員
2007.3-2024.5 東京医科歯科大学大学院 う蝕制御学分野 助教
2008.6-2009.5 National Institute for Standards and Technology Guest Researcher
2024.6-現在 東京科学大学大学院 う蝕制御学分野 講師
【著書・論文等】著書
『ホントは痛くないむし歯治療!? 痛みを感じる意外な理由とは?』,GQジャパン
『接着の論点 臨床の疑問に答える』
論文
Transverse microradiography evidence on the effect of Phosphoryl Oligosaccharides of Calcium (POs-Ca) in toothpaste on decalcified enamel. Crystals. 2023
Morphological and mechanical characterization of the acid-base resistant zone at the adhesive-dentin interface of intact and caries-affected dentin. Operative Dentistry. 2006
【学会活動等】日本歯科保存学会専門医・評議員
日本歯科理工学会会員・Dental Materials Senior Advisor
日本接着歯学会専門医
日本歯科医学教育学会会員