近年,歯科衛生士による研究活動はますます活発となり,本学会においても多くの演題発表や論文投稿が行われています。臨床や教育,地域活動の中で生まれた問いを研究として形にし,学術的知見として共有していくことは,歯科衛生士の専門性向上に大きく寄与する重要な取り組みです。
こうした研究活動の発展とともに,研究倫理を取り巻く環境も大きく変化しています。倫理審査は研究不正を防止するためだけの仕組みではなく,研究対象者の権利や個人情報を守り,研究成果の信頼性を社会に示すための重要なプロセスとして位置づけられています。研究者が「良い研究をしたい」と考えるだけでなく,「研究対象者や社会から信頼される研究を行う」という視点が,これまで以上に求められる時代となっています。一方で,研究活動の広がりに伴い,「どのような場合に倫理審査が必要となるのか」「教育活動や事業活動と研究の違いは何か」「既存データの活用はどこまで認められるのか」といったご相談を受ける機会も増えてまいりました。日々の教育実践や臨床活動の中で得られたアンケートや既存データを,後から学会発表や研究へ活用したいという相談も増えております。しかし,研究倫理は単に「発表できるかどうか」を判断するための仕組みではありません。研究対象者の権利や尊厳を守り,安心して研究協力いただくための基盤であり,同時に研究者自身を守るためにも重要なものです。「匿名だから大丈夫」「教育目的だったから問題ない」と考えていても,学会発表という形で外部公表する段階で,研究性が生じる場合があります。また,研究利用を想定しないまま収集されたデータについては,同意取得やオプトアウト,個人情報管理などの観点から慎重な判断が必要となります。研究倫理は,研究を始める前から研究終了後まで継続して考え続けるべきものであり,「研究者としての姿勢」そのものでもあると感じています。さらに,適切な倫理的配慮は,研究成果への社会的信頼を高め,歯科衛生士研究の発展を支える重要な基盤となります。だからこそ,研究を始める前の段階から,「これは研究に該当するのか」「どのような倫理的配慮が必要か」を考えることが大切です。倫理審査は研究を制限するためのものではなく,より良い研究を行うための“準備”であり,研究の質を高める過程でもあります。また,研究者自身が安心して研究活動を進めるためにも,研究倫理に関する理解は欠かせません。
本学会では,これまで研究討論会を継続してまいりましたが,2026年度より「歯科衛生研究 STEP-UP プログラム スタートアップ研究集会」として新たな取り組みを開始いたします。第1回は,2026年9月20日に「研究を始めるための第一歩─研究倫理の基礎と実践─」をテーマとして開催予定です。研究倫理の基礎に加え,倫理審査申請や審査過程における実際の事例紹介を通じて,研究計画立案時に直面しやすい課題や留意点について,実践的に学べる機会となることを目指しております。
研究は,一部の特別な人だけが行うものではありません。日々の臨床,教育,地域活動の中で感じた小さな疑問こそが,研究の出発点です。そして,その問いを大切にしながら,研究対象者への敬意と倫理的配慮をもって探究を進めることが,歯科衛生士の未来につながると考えています。
本学会が,安心して研究に取り組み,共に学び合える場としてさらに発展していくことを願っております。