日本歯科衛生学会雑誌
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原著
日本語版 Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)による性格特性と口腔保健行動の関連
小林 柚帆木野 志保 安達 奈穂子品田 佳世子
著者情報
キーワード: TIPI-J, 性格, 口腔保健行動
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2026 年 21 巻 1 号 p. 16-22

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Abstract

【目的】歯科保健指導の際には個人の性格に配慮した対応が必要であると考えられるが,先行研究で用いられている性格評価指標は質問項目が多く回答に時間がかかる。本研究では,日本語版Ten Item Personality Inventory (TIPI-J)を用いて,得られた5つの特性(外向性,協調性,勤勉性,神経症傾向,開放性)と口腔保健行動との関連を検討する。

【対象および方法】対象は,2023年度東京科学大学歯学部に在籍する学生計202名とした。対象者にアンケートを実施し,属性,口腔保健行動,TIPI-Jによる性格特性について回答を得た。口腔保健行動に関する4項目(1日の歯磨き回数,歯間清掃用具の使用習慣の有無,歯科の定期健診への受診の有無,歯磨き指導に従ったか)を目的変数,5つの性格特性を説明変数とし,年齢,性別,学年,学科を調整変数とした。分析には,Poisson regression with robust error varianceを用い単変量解析および多変量解析を行った。

【結果】分析対象者は105名であった。多変量解析の結果,協調性が高いほど(存在率比: 0.59; 95% Confidence Interval(CI): 0.42-0.82),また,勤勉性が高いほど(存在率比: 0.65; 95% CI: 0.49-0.87),1日3回以上歯を磨く者の割合が1日2回以下歯を磨く者の割合と比較して少なかった。一方で,勤勉性が高いほど歯科定期健診を受診していた(存在率比: 1.42; 95% CI: 1.08-1.90)。

【結論】本研究の結果から調査した歯学部学生において,協調性,勤勉性が口腔保健行動と関連していることが明らかになり,性格特性を考慮することは効果的な口腔保健指導の実現につながることの一助となりえることが示唆された。

Translated Abstract

[Purpose] The personality of individuals should be taken into account when providing dental hygiene instruction. However, the personality assessment indices used in previous studies have many questions and are time-consuming to answer. Therefore, the Japanese version of the Ten Item Personality Inventory (TIPI-J) was used in this study. We examined the relationship between the five personality traits (Extraversion, Agreeableness, Conscientiousness, Neuroticism, and Openness) and oral health behavior.

[Subjects and Methods] The participants were a total of 202 students enrolled in the Faculty of Dentistry at the Institute of Science Tokyo in the 2023 academic year. A questionnaire was administered to the subjects, asking them to respond to questions about their demographics, oral health behaviors, and personality traits according to the TIPI-J. Four items related to oral health behaviors (i.e., toothbrushing frequency per day, use of interdental cleaning tools, regular dental checkups, and whether they followed tooth brushing instructions) were used as dependent variables, and the above five personality traits were used as explanatory variables, and age, sex, grade, and department were used as adjusting variables. Univariate and multivariate analyses were performed using a Poisson regression with robust error variance.

[Results] There were 105 participants in the analysis. Multivariate analysis showed that the higher the level of agreeableness (Prevalence Rate Ratio (PRR): 0.59; 95% Confidence Interval (CI): 0.42-0.82) and the higher the level of conscientiousness (PRR: 0.65; 95% CI: 0.49-0.87), the smaller the percentage of respondents who brushed their teeth three or more times a day compared to those who brushed their teeth twice a day or less. On the other hand, the higher their level of conscientiousness, the more they received regular dental checkups (PRR: 1.42; 95% CI: 1.08-1.90).

[Conclusions] The results of this study revealed that agreeableness and conscientiousness were associated with oral health behaviors among the dental students surveyed, suggesting that taking personality traits into account can help achieve effective oral health instruction.

【はじめに】

う蝕や歯肉炎・歯周炎などの口腔疾患の予防には,適切なセルフケアや歯科の定期受診・歯磨き指導をはじめとするプロフェッショナルケアによる口腔衛生状態の維持が重要である。このような口腔保健行動は個人の性格特性に左右されると考えられ,いくつかの研究で一定の関連性が示唆されている1),2),3),4)。園木ら1)は歯学部学生を対象とした研究で,口腔保健学科の学生は1日の歯磨き回数が多いほど,新しいことへの挑戦心や知的好奇心の高さを表す「開放性」が低く,歯学科男性は,自己統制感や責任感,計画性を表す「誠実性」が高かったと報告した。一方で白木ら2)は大学生を対象とした研究で,歯磨きの頻度や歯科の定期健診の有無は性格特性と有意な関連は認められなかったと報告した。また仲野3)は患者の心理的行動に配慮した歯科衛生介入がセルフケアの積極性向上につながったと報告した。

これらの報告から口腔保健指導には個人の性格に配慮した対応が必要であると考えられるが,先行研究で多く用いられているエゴグラムSHE605)やNEO-FFI6)などの性格評価指標は,質問項目が多いため回答に時間がかかり診療などにおいて患者に回答を要求することは患者の負担になることから現実的ではない。一方,日本語版Ten Item Personality Inventory (TIPI-J)はGosling7)らによって作成された性格指標であるTen Item Personality Inventoryを日本語に翻訳したものである8)。本指標は質問項目が10項目と少ないため回答に時間を要さず簡便に調査が実施できるため,臨床において応用しやすいと考えられる。

本研究は,TIPI-Jを用いて歯学系学生を対象に性格特性と口腔保健行動の関連を調べ,性格に配慮した効果的な口腔保健指導の実現のための基礎資料とすることを目的とした。

【対象および方法】

Ⅰ. 対象

対象者は2023年度東京科学大学歯学部歯学科1年生58名,2年生59名,口腔保健学科口腔保健衛生学専攻(以下,口腔保健学科)1年生21名,2年生22名,3年生24名,4年生18名,計202名とした。Google Forms(Google LLC, USA)を用いてアンケートを実施し,回答しなかった者,同意が得られなかった者は統計処理から除外した。

Ⅱ. 調査方法

1. 属性

対象者の属性について,年齢,性別,学年,学科の4項目を尋ねた。

2. 性格評価指標

個人の性格特性を評価するための指標は,日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)を用いた。このTIPI-JはBig Five9),10),11),12) という性格特性を5つの次元(外向性,協調性,誠実性,神経症傾向,開放性)で表す尺度に基づいて作成されたTIPIの日本語版である。Big Fiveは60項目の質問から構成されるが,TIPI-Jはこの60項目の質問を10項目に集約して性格特性を評価することができる。TIPI-Jは各質問を「1:全く違うと思う」から「7:強くそう思う」までの7段階で回答してもらい,得られた回答を得点化し性格傾向の強さを5つの性格特性(外向性,協調性,勤勉性,神経症傾向,開放性)で評価する(表1)。ここでの外向性とは「活発で外向的な性格傾向」,協調性とは「人に気をつかう優しい性格傾向」,勤勉性とは「しっかりしていて自分に厳しい性格傾向」,神経症傾向とは「気分が安定しておらず心配性でうろたえやすい性格傾向」,開放性とは「新しいことを好む性格傾向」である。なお,TIPI-Jは大学生を対象とした研究で信頼性・妥当性が検証されている8)

表1

日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)の質問項目


得点化の方法を以下に示す9)。各項目名には,回答で得られた1~7までの数値を代入する。各5つの性格特性において,得点は1~7点で表され点数が高いほどその性格傾向が高いことを表している。

・外向性:(項目1+(8-項目6))/2

・協調性:((8-項目2)+項目7)/2

・勤勉性:(項目3+(8-項目8))/2

・神経症傾向:(項目4+(8-項目9))/2

・開放性:(項目5+(8-項目10))/2

3. 口腔保健行動

従属変数として以下4項目(回答選択肢)を使用した。

・1日の歯磨き回数(2回以下,3回以上)

・歯間清掃用具(デンタルフロスや歯間ブラシ)を使用する習慣 (有,無)

・歯科定期健診の受診(受けている,受けていない)

・歯磨き指導の際,指導に従ったか(従った,従わなかった)

Ⅲ. 統計分析

統計分析にはStata MP version 18(StataCorp LLC, USA)13)を用い有意水準は5%とした。

5つの性格特性を説明変数とし,口腔保健行動に関する4項目(1日の歯磨き回数,歯間清掃用具の使用習慣の有無,歯科定期健診の受診の有無,歯磨き指導に従ったか)を目的変数,年齢,性別,学年,学科を調整変数とした。分析には,モデル適合度を確認したうえで,Poisson regression with robust error varianceを用いて単変量解析および多変量解析を行い,存在率比を算出した。なお,稀ではない2値アウトカムに対してオッズ比を算出すると,標準誤差が過小評価される可能性がある。そのため,標準誤差を適切に求め,正確な信頼区間および点推定値を得る目的で,本解析方法を用いた。また,存在率比はある時点での有病率を示す値である14)

Ⅳ. 倫理的配慮

対象者には本研究の概要について説明しアンケートの同意欄にて同意を得た。また,アンケートは無記名であり,参加は任意で不参加であっても成績等に不利益は生じず,回収したデータは個人情報の保護に配慮した。なお,本研究は東京科学大学歯学系倫理審査委員会の承認を得たうえで実施した (承認番号:D2023-055)。

【結果】

Ⅰ. 分析対象者

歯学科40名(男性23名,女性17名),口腔保健学科女性65名を分析対象とした。回答者数(各学科学年の中での回答率)は歯学科1年生30名(51.7%),2年生10名(16.9%),口腔保健学科1年生8名(38.1%),2年生22名(100%),3年生19名(79.2%),4年生16名(88.9%)であった。なお,歯磨き指導に従ったかの項目については歯磨き指導を受けたことが無い者(14名)は除外した。

Ⅱ. 性格傾向と口腔保健行動および属性との関連

2に性格傾向と口腔保健行動および属性との関連を示す。各性格傾向(平均得点±標準偏差)と口腔保健行動について,1日の歯磨き回数(2回以下vs 3回以上)は協調性が高いほど(4.8±0.9 vs 4.5±0.8),また開放性が高いほど(4.3±1.3 vs 3.9±1.3)回数が少なかった。歯間清掃用具を使用する習慣(習慣なしvs習慣あり)は勤勉性が高いほど(3.0±1.2 vs 2.6±0.9)習慣がない傾向がみられた。歯科の定期健診の受診(受診しないvs受診する)は,協調性が高いほど(4.8±0.8 vs 4.5±0.9)受診しておらず,勤勉性が高いほど(2.4±0.9 vs 3.0±0.9)受診していた。歯磨き指導に従ったか(従わなかったvs従った)について神経症傾向が高いほど(4.6±1.2 vs 4.1±1.5)指導に従っていなかった。

表2

口腔保健行動と性格傾向および属性


Ⅲ. Poisson regression with robust error varianceの結果

単変量解析の結果を表3に示す。1日の歯磨き回数について協調性が高いほど回数が少なかった(存在率比: 0.76; 95% Confidence Interval (CI): 0.58-1.00)。また,歯科定期健診の受診については勤勉性が高いほど受診していた(存在率比: 1.44; 95% CI: 1.02-1.79)。

表3

4 項目を目的変数とした単変量解析の結果


多変量解析の結果を表4に示す。1日の歯磨き回数については協調性が高いほど(存在率比: 0.59; 95% CI: 0.42-0.82)また,勤勉性が高いほど(存在率比:0.65; 95% CI: 0.49-0.87)回数が少なかった。歯科定期健診の受診については勤勉性が高いほど (存在率比: 1.42; 95% CI: 1.08-1.90)受診していた。

表4

4 項目を目的変数とした多変量解析の結果


【考察】

歯学部歯学科および口腔保健学科学生を対象に,性格特性と口腔保健行動との関連を検討したところ,協調性が高いほど,また,勤勉性が高いほど1日の歯磨き回数が少ないことが明らかになった。また,勤勉性が高いほど定期的に歯科健診を受診していることが明らかになった。性格特性を考慮することは効果的な口腔保健指導の実現につながることの一助となりえることが示唆された。

本研究対象者のうち歯磨き回数1回以下と回答した者が4名(3.8%)と少なかったため分析には2回以下か3回以上の2群で比較した。このため本研究結果から量反応関係に言及はできないが,1日の歯磨き回数について,協調性が高いほど,また勤勉性が高いほど2回以下の者と比較して3回以上磨くと回答した者が少なかった。1日の歯磨き回数と性格特性との関係については既にいくつかの先行研究がある。歯科系学生を対象としNEO-FFIを用いて性格特性を測定した先行研究では,開放的でないほど,また誠実であるほど1日の歯磨き回数が多いことが報告されている1)。NE0-FFIはBig Five同様に性格を5つの次元(神経症傾向,外向性,開放性,調和性,誠実性)で把握する性格検査で60項目の質問から構成されている。性格を5つの次元で把握している点や質問数はBig Fiveと類似しているが,本研究で用いたTIPI-Jとは質問内容や質問項目数,表される性格は異なっている。従って,本研究では先行研究と違う結果を得られた理由として,異なる性格評価指標を用いたことが異なる関連を示す要因になった可能性が考えられる。一方で本研究と同じTIPI-Jを用いて歯学系学生ではない大学生を対象とした先行研究2)では,歯磨き回数と性格特性は有意な関連が認められなかったと報告している。本研究と異なる結果を示している理由は,歯学系学生とそうでない学生という対象者の属性の違いが結果に影響を与えた可能性が考えられる。また1日に3回歯磨きするためには,3回のうちの1回は大学での昼食後に実施する場合が多い。しかし,環境の不備や周囲の目が気になるため大学で昼食後に歯磨きすることは難しい状況にあり,特に協調性が高い人は周囲の状況を把握する能力が高いため,この影響を受けた可能性が考えられる。また勤勉性が高いほど歯磨き回数が少ない結果となった要因として,以下の2つの要因が考えられる。まず,時間配分の偏重である。すなわち,学業やその他の活動への強い責任感から多くの時間を割く傾向にあると考えられるため,歯科的なセルフケアがおざなりになってしまった可能性が考えられる。2つ目に慢性的なストレスや疲労の影響が考えられる。過度な努力に起因する心身の疲労は,特に歯科のセルフケアの優先順位を低下させ,その頻度を減少させる要因となりうると考えられる。しかし,本考察を裏付けるエビデンスは乏しいため,今後の研究で明らかにする必要がある。歯科定期健診の受診の有無について,本研究の対象者は,勤勉性が高いほど受診していた。歯科定期健診の受診と性格特性との関連を検討した先行研究2)では,関連が認められなかったとする一方,勤勉性は適度な運動や十分な睡眠というような健康行動と関連するとの先行研究もある15)。健康行動の中には口腔保健行動も含まれるため,本研究で明らかになった勤勉性と良い口腔保健行動である歯科定期健診の受診との関連も説明し得る可能性が示唆された。

本研究の強みとしてインターネット調査であるため完全な回答のみを回収できたことがあげられる。一方で弱みとしてアンケートの回答率が低いこと,アンケートの回答はすべて回答者の主観にもとづいていること,1校の歯学系大学生のみを対象としているので一般化の可能性が低いこと,Poisson regression with robust error varianceを用いた分析結果から学科と性別に強い相関関係がみられることから,分析において考慮が必要であった可能性が挙げられる。

以上より,本研究と先行研究では異なる結果を示した項目もあることから各特性と口腔保健行動との関連を明確にするには対象者の一般性の確保,逆因果の可能性を軽減するための縦断研究,幼少期からの習慣を考慮に含めた研究など,さらなる検証が必要であると考えられる。

【結論】

本研究で調査した歯科系学生においてTIPI-Jを用いた性格評価により,協調性および勤勉性の指標が口腔保健行動と関連していることが明らかになり,性格特性を考慮することは効果的な口腔保健指導の実現につながることの一助となりえることが示唆された。

本論文に関し開示すべき利益相反事項はない。

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