抄録
目的:DSM-5(2013年)において、精神病性障害の推定的前駆状態でもある「減弱精神病症候群」(APS)が収載された。DSM改訂の背景とAPSを巡る議論をまとめ、この領域の方向性を検討する。
対象と方法:精神病性障害のDSM改訂の背景と、APSならびにその導入の可否を巡っての関連論文を非系統的にレビューする。
結果:2013年のDSM改訂では、疾患相互の重複問題と、正常と異常の境界(診断閾値)問題を本質的には克服できなかった。APSに関しては倫理的問題を含め活発な議論があったが、DSM-5精神病性障害ワークグループは、一般臨床での診断信頼性の検証が不十分という理由で、APSを「今後の研究のための病態」(第Ⅲ部)に収載した。この領域の専門家グループもこれを支持した。精神病の超ハイリスク状態は高い精神病移行率(追跡3年で約30%)を示すものの、その状態からの回復や状態の持続、さらに他の障害への移行も見られ、多能性多次元早期症候群という病態概念が適切である。
結論:精神病移行の要件と予防治療の研究は重要であるが、同時に“精神病移行”転帰からの脱却も求められ、APS群全体の新たな転帰の目標設定と個別化医療の実現を推進する領域へと発展することが必要である。そのためには専門家のみならず一般医療従事者などを対象にしたAPSの病態とその通常治療の啓発、さらに、この領域の専門治療、研究、治験が行える専門施設の構築と専門家の育成が重要課題である。