抄録
欧州の国々では、アットリスク精神状態(At Risk Mental State:ARMS)ありきで精神病発症ハイリスク群絞り込みのためのシステムが整えられつつある。欧州精神医学会(European Psychiatric Association:EPA)はそのガイドラインにおいて、ハイリスクの診断はARMSの超ハイリスク基準、もしくは基底症状基準で行うべきとしている。EPAの調査によれば、欧州の約3分の2の国で早期精神病に対する専門サービスが展開され、さらにその3分の2は精神病発症ハイリスク群も対象としている。精神病早期介入の先進地域であるイングランドでは、NICEガイドラインの中でARMSという用語を使用し、ARMSの適切な評価とサービスの提供を求めるに至っており、地域ごとに設置された早期介入サービスにARMSの診療機能を付加したり、独立したARMS専門のサービスを配置したりしている。また、ARMSの評価を各地で実施できるよう、評価尺度の使用法の普及事業を行っている。
このようにARMSの概念は、研究や臨床の現場に精神病の早期発見・介入を普及させる原動力となってきた。しかし、近年の知見を概観すると、ARMSは精神病、特に統合失調症の発症ハイリスク群を絞り込む戦略として必ずしも最適であるとは言えない。それでも現時点で、ARMSの代替となる戦略で実用に至っているものはない。そこで近年は、基本的にはARMSの考え方に立脚しながら、臨床症候に加え生物学的客観指標のデータを収集し、機械学習を用いて解析することで、異質性の高いARMSの個別経過を予測する大規模多施設共同研究が盛んに行われている。