Equilibrium Research
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原著
頭痛の有無に注目した小児めまい例の検討
乾 崇樹栗山 達朗森山 興綾仁 悠介稲中 優子荒木 倫利萩森 伸一河田 了吉田 誠司
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2024 年 83 巻 3 号 p. 156-162

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Translated Abstract

Benign paroxysmal vertigo of childhood (BPVC) is one of the most common causes of vertigo attacks in pediatric patients. Some patients with BPVC suffer from migraine in the future, so that the possibility of migraine is an important consideration in children with recurrent vertigo. Recently, novel diagnostic criteria for vestibular migraine and recurrent vertigo of childhood were published for “Vestibular Migraine of Childhood (VMC)”, “probable Vestibular Migraine of Childhood (probable VMC)” and “Recurrent Vertigo of Childhood (RVC)”.

In the present study, we evaluated patients with vertigo or dizziness who were less than 18 years old, focusing particularly on concomitant headaches. The medical records of 69 patients were reviewed retrospectively. The predominant diagnoses were VMC (n = 4) , probable VMC (n = 10) , RVC (n = 22), orthostatic dysregulation (OD; n = 12), central vertigo and vertigo related to infectious disorder (n = 4 each), psychogenic vertigo (n = 3), benign paroxysmal positional vertigo (BPPV; n = 2), Meniere’s disease (n = 1), and other conditions (n = 7).

Of the total, 33 subjects had concomitant headaches and 13 did not, and the presence/absence of headache could not be confirmed in the remaining 23 subjects. Of the 33 patients with concomitant headaches, 13 were diagnosed as having migraine; 4 as having VMC, 3 as having probable VMC, 3 as having OD, and one each as having central vertigo, infectious disorder, and BPPV. Differentiation between migraine and OD is sometimes difficult, because patients with OD also frequently present with headaches, thus indicating the importance of collaborative intervention with a pediatrician.

A significantly larger number of patients reported having concomitant headaches if they were asked about it, as compared with the number among those who were not directly asked the question by the physician. This result indicates the possibility that prompt history taking about the presence/absence of headaches may influence the diagnostic results in pediatric vertigo patients. It is therefore essential to ask pediatric patients with recurrent vertigo if they suffer from headaches or not.

 はじめに

小児のめまい・平衡障害を訴える例の特徴として,特に低年齢であるほど患者本人からのめまいの性状やQOLについての聴取,臨床検査の施行が困難であることが多い。また疾患構成も成人と異なり,メニエール病などの耳性めまいの割合が低い一方,起立性調節障害(orthostatic dysregulation: OD),小児良性発作性めまい(Benign Paroxysmal Vertigo of Childhood: BPVC)や前庭性片頭痛が多くなる傾向がある1)。BPVCは1964年にBasserによって初めて報告された幼児期に多く見られるめまいで2),前触れなく生じ数分~数時間で自然軽快する回転性めまい発作を繰り返すが,発作間欠期には神経所見や聴力・平衡機能は正常というものである3)。BPVCは一定数が将来片頭痛に移行していく,片頭痛の家族歴が多く見られるという特徴があり4),片頭痛に関連する周期性症候群とされている3)

18歳未満の小児のめまい・平衡障害例において,これまでBPVCとされてきた例について,2021年にBárány SocietyとInternational Headache Societyによる新しい診断基準が発表された5)(以下,本稿においてこれを「新基準」と称する)。この中でBPVCは小児前庭性片頭痛(Vestibular Migraine of Childhood: VMC),小児前庭性片頭痛疑い(probable VMC),小児反復性めまい(Recurrent Vertigo of Childhood: RVC)の3つに分類し直された(表1)。VMCは前庭性片頭痛の診断基準を満たすもの,probable VMCはVMCからめまい発作の回数と頭痛の性状についての条件を広げたもの,RVCはめまい発作を繰り返すものの片頭痛の関与が疑われるエピソードがないものとなる。そしてこの基準を解説した論文では,RVCについては今後サブタイプや片頭痛との関連についてさらなる調査が必要であると述べられている5)

表1 小児前庭性片頭痛,小児前庭性片頭痛疑い,小児反復性めまいの診断基準(文献5)より)

Vestibular Migraine of Childhood(VMC) Probable Vestibular Migraine of Childhood(probable VMC) Recurrent Vertigo of Childhood(RVC)
A.発作の回数と持続時間 回数 5回以上 3回以上 3回以上
持続時間 5分~72時間 5分~72時間 1分~72時間
片頭痛の診断と徴候 BおよびCの双方を満たす BまたはCのいずれか一方のみ満たす BおよびCのいずれも満たさない
B.片頭痛の診断 現在あるいは過去にICHDの「前兆のない片頭痛」あるいは「前兆のある片頭痛」の診断基準を満たした頭痛がある
C.片頭痛徴候 前庭発作の少なくとも50%に次の一つ以上の片頭痛徴候がある
1.次のうち二つ以上の特徴を持つ頭痛(a.片側性,b.拍動性,c.中等度から重度の痛みの強さ,d.日常動作による痛みの増悪)
2.光過敏と音過敏
3.視覚性前兆
D.除外診断 他の最適な頭痛疾患,前庭疾患,他の病態によらない

ICHD:International Classification of Headache Disorders

今回我々は,著者らの施設で診療を行った小児めまい例について,頭痛の有無に注目しながら上述の新基準での診断を行い,これを用いない場合の診断との比較を行った。結果,小児のめまいにおいて,頭痛の有無とその性状について詳細に評価することが重要と考えられる結果が得られたので,文献的考察を加えて報告する。

 対象および方法

2015年1月から2023年3月までの間に大阪医科薬科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科で診療を行った小児めまい患者について検討を行った。本研究では,先の新基準5)に則り,初診時に18歳未満であった69例を対象とした。年齢は2~17歳(中央値12歳),性別は男:女=33:36であり,同期間にめまい・平衡障害を主訴として当科を受診した全患者のうち4.2%を占めた。

平衡機能については非注視下にCCDカメラを用いて観察した頭位および頭位変換眼振,頭振り眼振(head shaking nystagmus: HSN)所見を観察したほか,一部の症例に温度刺激検査および前庭誘発頸筋電位(cervical vestibular myogenic potential: cVEMP)および前庭誘発眼筋電位(ocular vestibular myogenic potential: oVEMP)を行った。HSNは被験者を坐位で30°前屈頭位とし,頭部を2 Hzの速さで左右各45°,20往復,検者により被動的に振り,終了直後に誘発された眼振を観察した。温度刺激検査は少量注水法(20°C,5 mL,20秒法)で行い,日本めまい平衡医学会による基準6)に則り最大緩徐相速度が20°/秒以上で正常,10°/秒以上かつ20°/秒未満で半規管麻痺(canal paresis: CP)疑い,10°/秒未満で反応のあるものを中等度CP,無反応で高度CPとし,またCP%が20%以上で左右差ありとした。VEMPはInteracoustics社のEclipse system®を用いて500 Hz,95~115 dBnHLのshort-tone burst(STB)音による気導音刺激を行い,cVEMPは坐位での頸部捻転法で,oVEMPは視標を見つめることで上方視を維持させて計測した。判定には背景筋電図値で除した補正振幅を用い,cVEMPはp13-n23波頂間振幅,oVEMPはp1-n1波頂間振幅の左右比(Asymmetry ratio: AR)を用い,いずれもARの値が33%以上で左右差ありとした7)

さらにこれらの最終診断,頭痛の有無とその確認方法,長期経過中の片頭痛出現の有無について評価を行った。頭痛の診断は「国際頭痛分類第3版(International classification of headache disorders, 3rd edition 3: ICHD-3)」3)に,起立性調節障害の診断は「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」8)に則った。

本研究はヘルシンキ宣言ならびに文部科学省・厚生労働省が定める「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り,所属機関における研究倫理委員会の承認(番号:2416-1)を受けて行われた。

 結果

対象例における最終診断(疑い含む)は,VMC 4例,probable VMC 10例,RVC 22例,OD 12例,中枢性めまい4例,COVID-19を含めた感染に関連するものが4例,心因性めまい3例,BPPV 2例,メニエール病確実例1例,めまい症が7例であった(表2)。なお,これらの中に複数のめまい症状をきたす疾患が併存する例も見られたが,初診時の主たる疾患で分類した。ODは多くが体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome: POTS)であり,小児科で起立直後性低血圧(instantaneous orthostatic hypotension: INOH)とされたものが2例,遷延性起立性低血圧(delayed orthostatic hypotension: De-OH)と診断されたものが1例であった。

表2 対象例における初診時疾患構成

診断(主たるもの,疑い含む) 患者の頭痛 頭痛家族歴
例数 あり
(片頭痛例数)
なし 確認せず あり なし 確認せず
VMC 4 4(4) 0 0 3 0 1
Probable VMC 10 10(3) 0 0 5 1 4
RVC 22 4(0) 10 8 7 5 10
OD 12 9(3) 1 2 4 5 3
中枢性 4 2(1) 0 2 1 1 2
感染によるもの 4(COVID罹患後 3例) 2(1) 1 1 1 0 3
心因性 3 1(0) 0 2 0 1 2
BPPV 2 1(1) 0 1 0 1 1
MD 1 0 0 1 0 0 1
めまい症 7 0 1 6 0 1 6
合計 69 33 13 23 21 15 33

VMC:vestibular migraine of childhood,probable VMC:probable vestibular migraine of childhood,RVC:recurrent vertigo of childhood,OD:起立性調節障害,BPPV:良性発作性頭位めまい症,MD:メニエール病

紹介元は小児科36例,耳鼻咽喉科23例,内科3例,脳神経外科2例,精神神経科および整形外科1例ずつで,紹介無しが3例であった。以前から通院中であったものを含めると,全69例中の46例で小児科との連携があった。

眼振を認めたのは15例にとどまり,このうち4例は自発眼振あるいは頭位・頭位変換眼振は見られず,HSNのみを認めた。10例で水平性または水平回旋混合性眼振が見られ,その疾患内訳はVMCが2例,probable VMCおよびODが3例,RVCおよび中枢性が1例ずつであった。5例に垂直性眼振を認め,ODの2例と感染症の1例が上眼瞼向き,probable VMCの1例およびRVCの1例が下眼瞼向きであった。温度刺激検査を行ったのは13例で,ODの2例,心因性の1例にのみCPを認めた。cVEMPを8例に施行し,ODおよび中枢性それぞれ1例ずつに一側の反応低下を認めた。oVEMPは4例に施行し,ODの1例にのみ一側の反応低下がみられた。

69例中頭痛の自覚があったのは33例,無かったのは13例で,23例では頭痛の有無を確認されていなかった。頭痛を認めた33例のうち13例がICHD-3の前兆のある片頭痛または前兆のない片頭痛の診断基準を満たし,これらの診断はVMCが4例,probable VMCおよびODが3例で,他にBPPV,感染症,中枢性がそれぞれ1例ずつであった。ODでは,片頭痛以外も含めて12例中9例に頭痛を認めた。一方,VMCのうち1例,probable VMCのうち3例,RVCのうち3例はODの併存がみられた。家族歴では21例に頭痛があり,15例に頭痛がなかったが,33例は家族における頭痛の有無を確認されていなかった。家族歴に頭痛があったのはVMCが3例,probable VMCが5例,RVCが7例,ODが4例,感染症と中枢性がそれぞれ1例であった。

また33例は小児科も含めて半年から数年にわたる通院があり,頭痛の有無についてカルテ上での追跡を行った。結果,片頭痛発作の反復がVMCの全例,probable VMCの2例に見られたものの,経過観察中に新たに頭痛を生じたのは心因性めまいの1例のみで,新規に片頭痛が生じた例は見られなかった。

VMC,probable VMC,RVCについて,新基準を用いない場合(「旧基準」とする)の診断との比較を表3にまとめた。VMCとなった例は,旧基準では全例が前庭性片頭痛または前庭性片頭痛/メニエール病重複症候群であり,probable VMCとなった例は旧基準では前庭性片頭痛疑いが4例,BPVCおよび非耳性めまいが2例,前庭障害に前兆のない片頭痛の併存が疑われたもの,起立性調節障害,めまい症がそれぞれ1例であった。RVCとなった例は旧基準ではめまい症が10例,BPVCが7例,非耳性めまいが2例,心因性めまい疑いが2例,BPPV疑いが1例であり,このうち頭痛を自覚していたのはめまい症2例とBPVC 2例であった。

表3 新旧診断基準による診断の比較


 考察

今回検討対象となった小児めまい例において,約半数に頭痛の併存が確認された。その約1/3が片頭痛であり,ODでも多くの例に頭痛の合併を認めた。また頭痛の有無を確認されていない例が多く,この中にVMCやprobable VMCが含まれていた可能性もあると考えられ,問診により確実に頭痛の有無を確認することが重要と考えられた。

全めまい患者における小児例の割合は,本邦では2%程度と報告されており9)10),海外でも約1%との報告がある11)。疾患頻度については海外ではBPVCや前庭性片頭痛が多いとされる一方で本邦ではODが多いとの報告が多いが9),五島らはVM12),藤本はBPVが最多であったと報告している1)。自験例では全体に占める小児例の割合はやや多く,片頭痛に関連しためまい(VMCおよびprobable VMC)やOD,RVCが多く見られ,片頭痛に関連しためまいが最多であった。良性発作性頭位めまい症やメニエール病などの内耳性めまいの割合が低いことは諸家の報告と同様であった。

小児めまい例の診断において,本研究で眼振は出現率が低く,眼振から診断にいたった例はごくわずかであった。10例以上みられた片頭痛に関連しためまい,RVC,ODの診断には問診が重要である。片頭痛に関連しためまいについて,乾ら13)は前庭性片頭痛例でも患者から頭痛の訴えがあるのは40%程度にとどまり,医療者からめまい患者に積極的な問診を行い,頭痛の有無を確認することが重要であるとしている。本研究でも同様の点が問題であることが示唆される。本研究の対象例を医療者からの頭痛確認の有無によって2群に分けると,頭痛について医療者からの確認のないものが26例で,そのうち患者から頭痛の訴えがあったものはprobable VMCの3例(11.5%)にとどまった。一方,頭痛について医療者からの頭痛の確認を行ったのは43例で,そのうち30例(69.8%)に頭痛の併存が確認された。両群を比較すると,医療者から頭痛の確認を行った群において,確認を行わなかった群に比較して有意に多く頭痛の併存が確認された(Fisher’s exact probability test, p < 0.001)(表4)。過去の報告では本邦と海外で疾患分布に差があることが指摘されているが9),これは国や地域によってODと頭痛に関連しためまいの認知度や取り扱いに差があることが影響していると考えられる。頭痛に関連しためまい,ODいずれも問診で確認しなければ診断には繋がらない。上述のようにめまい患者における頭痛は問診で直接問わなければ確認できないことが多い。特に片頭痛に関連したものでは片頭痛に対する発作予防療法が治療の選択肢となる点で見逃さずに診断することが重要であり,そのためには前述の通り医療者側から直に頭痛の有無を確認することが重要である。とくに典型的な片頭痛はその特徴から診断基準3)を用いて耳鼻咽喉科医にも診断が可能である。

表4 頭痛有無の医療者からの確認の影響

医療者から頭痛確認
あり なし
頭痛あり 30 3
頭痛なし(未確認含む) 13 23

p < 0.001,Fisher’s exact probability test

一方でODにおける頭痛の有症率も2/3以上と非常に高く,小児の頭痛の原因としてODが約4割を占める14)。小児頭痛外来においては片頭痛が最も多く,ODの頭痛が最も多い共存症とされる15)。ODの頭痛発症には身体的機序(起立時の血圧低下と脳血流低下)および心理社会的背景(発達特性,家庭ストレス,学校ストレス)の両方が様々なレベルで関与している16)。片頭痛とODによる頭痛の特徴について表5にまとめたが,併存例もあり,かならずしもその特徴から容易に鑑別できるとは言えない。ODについてはシェロングテストを施行することで耳鼻咽喉科でもPOTSなどINOH以外のサブタイプを診断することは可能であるが,INOHの診断には起立後血圧回復時間の測定が必要になる。実際,自験例でODに分類した中で7例は小児科での評価を受け,このうち2例がINOH,1例がDe-OHと診断された。ODと片頭痛の共存は頻度が高く,心理社会的関与から不登校に陥りやすいなど治療に難渋しやすい。両者に存在する自律神経機能の解決が治療に重要である15)。このことから小児のめまい例の診断,加療においては小児科との連携が重要であると考えられた。

表5 片頭痛と起立性調節障害の頭痛の比較

片頭痛 起立性調節障害(OD)の頭痛
嘔気・嘔吐 あり なし
体動の影響 体動により増悪 運動により増悪
起床,起立直後に多い
頭痛の性質 片側性,拍動性
光・音・嗅覚過敏,視覚性前兆
重症例では拍動性
時間帯 午前に限らない 午前中ひどく,午後軽減が多い
薬剤 トリプタンなど鎮痛薬有効 鎮痛薬効果不良

最後にRVCについて述べる。提唱されている新基準ではRVCはかなり多くの症例をカバーしうるため,診断基準のD項目にあるように他の疾患の除外を十分に行うことが重要となる。自験例でも,例えば頭痛を確認していない8例のうちいくらかがVMCなどであった可能性も否定できない。また今回カルテ上の情報のみであるが,長期経過を追えた例において,RVCに後日新規の頭痛を認めた例はなかった。しかし経過観察中の年齢が片頭痛の好発年齢に達していない例もあり,また長期観察中に詳細に頭痛の有無を確認しているわけではない。BPVCにおいて頭痛の家族歴が多いと報告されているが4),自験例でもRVCの22例中において確認している範囲で7例に頭痛の家族歴があった。RVCと片頭痛の関連を評価するにはさらなる検討を要すると考えられた。

 まとめ

当科で診療を行った18歳未満のめまい症例について,頭痛の有無に注目して検討した。疾患はRVC 22例,片頭痛に関連しためまい(VMCおよびprobable VMC)14例,OD 12例などが多かった。小児めまい例の診断において,VMCおよびprobable VMC,ODなどの鑑別の点から,頭痛の有無のみならずその性状を医療者からの直接の問診によって評価することが重要である。また片頭痛の関与については長期の経過観察を行うことが重要と考えられた。

利益相反に該当する事項はない。

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