2024 年 83 巻 4 号 p. 215-222
Refractory cases of benign paroxysmal positional vertigo (BPPV) are characterized by bilateral onset, frequent recurrence, and various subtypes. Etiology and pathophysiology were assessed in 35 cases of refractory BPPV that required multiple rounds of treatment (>10 times) in 1 year after undergoing the canalith repositioning procedure (CRP). The conditions were investigated based on patients’ clinical courses after undergoing CRP. Additionally, the treatment approaches were evaluated. The suspected causes of refractory BPPV included systemic or local otolith organ damage (97%), CRP failure (71%): lack of effective CRP for BPPV-cupulolithiasis; canalith jam caused by the size and number of otoliths in the semicircular canals, re-entry and canal conversion (34%): habitual head position during sleep with the affected-ear-down, and complications of secondary BPPV and central disorders (31%). The pathological conditions often coexisted. Recommended treatment approaches include measurement of vitamin D and prescription of supplements, extension of the time for maintaining head position at 135° with the healthy-ear-down, tapping of the affected temporal region, and keeping the patients’ heads with the affected-ear-up during sleep on the day of CRP.
良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo: BPPV)は自然治癒を認める,また耳石置換法により早期に軽快が期待できる予後良好な疾患である1)。しかし,症例の中には,効果的な耳石置換法にも関わらず頭位性めまいや眼振が持続するあるいは軽快が観察された後に頻回に再発を繰り返す難治性のBPPV症例がある2)3)。これら難治性BPPV症例は頻回に外来を受診し,治療に難渋する。原因として,繰り返し卵形嚢斑から耳石の脱落があり再発する,半規管内の耳石が耳石置換法によって卵形嚢に戻らない(耳石置換法の不成功),耳石置換法によって耳石が一旦は卵形嚢に戻っても再び同じ半規管に入ってしまう(re-entry)あるいは別の半規管に入ってしまう(canal conversion)4),内耳疾患や頭部打撲などの二次性BPPV2)5)が推測される。だが,これらの原因を引き起こす病態は様々であり,さらに病態が推定できても確実な対応策は見つかっていないのが現状である。ここでは,難治性のBPPV症例について,その病態を耳石置換法の効果や臨床経過から推定し,その対処方法について検討した。
2014年4月1日から2023年3月31日までの9年間に,耳石置換法後も1年間に10回以上当院を受診し治療を要したBPPV再発・持続症例(難治性BPPV)35症例を対象とした。同時期にBPPVおよびBPPVに関連した頭位眼振症例は1896例(男性514人,女性1372人)あり,この難治性BPPVは2%を占めていた。
難治性BPPV35症例の特徴を検討した。
難治性BPPVの原因に対する病態を耳石置換法の効果や臨床経過から推定し,難治性BPPV各35症例がどの病態と関連するかを検討した。以下に推測される病態を示す。
1. 繰り返し卵形嚢斑から耳石の脱落があり再発する(耳石器の障害)短期間に両側にBPPVが発症する場合,全身的な要因による卵形嚢障害を推察させる3)。一側BPPVが軽快した後,1~2週間以内に同側にBPPVが再発した場合,局所的あるいは全身的な卵形嚢障害が推測される3)。近年,BPPV再発のリスクファクターとしてビタミンD欠乏や骨粗鬆症が報告されている5)。
2. 半規管内の耳石が耳石置換法によって卵形嚢に戻らない(耳石置換法の不成功) 1) 耳石置換法の有効性の問題後半規管型BPPV-半規管結石症や外側半規管型BPPV-半規管結石症に対して有効な耳石置換法が報告されている1)。しかし,耳石がクプラに固着していると考えられる外側半規管型BPPV-クプラ結石症や後半規管型BPPV-クプラ結石症に対する有効な耳石置換法は乏しい6)7)。また耳石の固着がクプラの半規管側(long-arm側)あるいは卵形嚢側(short-arm側)によって耳石置換法が異なるはずであるが,両者を明確に区別した耳石置換法の報告は少ない7)。
2) 半規管内の耳石の大きさや耳石数の問題後半規管型BPPV-半規管結石症や外側半規管型BPPV-半規管結石症に対して,Epley法8)や健側下135度法9)を行なっても翌日に同様な眼振が観察された場合,それぞれ半規管非膨大部側末端に耳石が留まっていて卵形嚢に戻っていない可能性がある。耳石塊の大きさや耳石の数が関わり,これらの耳石によって半規管が閉塞されたcanalith jam8)の状態が推測される。
3. 耳石置換法によって耳石が一旦は卵形嚢に戻っても,翌日再び同じ半規管に入ってしまう(re-entry)あるいは別の半規管に入ってしまう(canal conversion)4)耳石置換法を繰り返し行った場合,一度卵形嚢内に戻った耳石が同じ半規管やその他の半規管に入る可能性がある。また,耳石置換法により卵形嚢に戻った耳石が,習慣的な睡眠頭位などにより再び半規管内に戻るかもしれない10)11)。
4. 内耳疾患や頭部打撲などの二次性BPPV,あるいは中枢障害合併の影響めまいを伴う突発性難聴やメニエール病などの内耳疾患や頭部外傷の既往症があると,BPPVの再発が多いことが報告されている2)5)。耳石器障害が強く,また卵形嚢から脱落した耳石の数が多い可能性がある。原因は明らかではないが,何らかの中枢障害や片頭痛5)合併の関与が疑われる症例がある。
難治性BPPV35症例の病歴,耳石置換法の効果や眼振経過から,各症例がどの病態に当てはまるかを推測した。
本臨床研究は長崎市医師会倫理委員会の承認を受けた(番号2023-1)。
表1に35症例の臨床的な特徴を示した。難治性BPPVの特徴として,経過中に両側にBPPVが発症した症例が40%を占めた(両側罹患が7例,短期間に対側にも発症が7例),多くのBPPV亜型が観察された,すでにめまいやBPPVの既往がある症例が66%を占めた,検討した9年間に20%の患者が 難治性BPPVを繰り返した,中枢障害の合併例が17%に認められた。
臨床的特徴(35症例) | |
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平均年齢 | 74.2歳(49–91) |
性別 | 女性:24,男性:11 |
患側 | 片側:21,両側:14(両側罹患:7,短期間に対側にも発症:7) |
BPPV亜型 | P-can,P-can(atypical),P-cup(あるいはshort-arm),P-下眼瞼向き,L-can,L-can(背地性),L-cup,健側向き頭位眼振,Light cupula,A-BPPV |
以前のめまいやBPPVの既往(2014年3月以前) | めまいやBPPV:23,今回初めて:12 |
難治性BPPVの回数 | 1回:28,2回:5,3回:2 |
既往歴,併存症 | |
内耳疾患や頭部外傷 | 突発性難聴:2,メニエール病:1,頭部外傷:2 |
中枢疾患 | 脳梗塞:3,外傷性クモ膜下出血:2,下垂体腺腫:1 |
骨粗鬆症,ビタミンD測定 | 治療中:4,25(OH)ビタミンD測定:5 |
睡眠頭位(初診時) | 右耳下:15,左耳下:6,特になし:8,不明:5 |
L:lateral semicircular canal,P:posterior semicircular canal,A:anterior semicircular canal,can:canalolithiasis,cup:cupulolithiasis
表2に,推測された難治性BPPVの病態について症例数を示した(重複あり)。4つに分類した原因の中では,耳石器障害が疑われる症例(97%)が一番多く,続いて耳石置換法の不成功の症例(71%),さらにre-entryやcanal conversion(34%),二次性のBPPVや中枢障害合併症例(31%)が続いた。1項目のみ病態が推測された症例は10例,重複が2項目は10例,3項目は6例,4項目は8例,5項目は1例あった。35例中25例が重複例であり,24例の重複項目は異なっていた。代表的な3症例を示す。
1.繰り返し卵形嚢斑から耳石の脱落があり再発する(耳石器の障害) | 34(97%) |
① 短期間に両側にBPPVが起こる | 14 |
② 一側のBPPVが軽快した後,1~2週間以内にBPPVが再発する | 13 |
③ ビタミンD欠乏 | 3 |
④ 骨粗鬆症 | 4 |
2.半規管に入った耳石が耳石置換法によって卵形嚢に戻らない(耳石置換法の不成功) | 25(71%) |
① 耳石置換法の有効性の問題 | |
外側半規管型BPPV-クプラ結石症や後半規管型BPPV-クプラ結石症 | 11 |
② 半規管内の耳石や耳石塊の大きさ,耳石数の問題 | |
耳石置換法を行なっても翌日に同様な眼振あるいはcanalith jam | 14 |
3.耳石が一旦は卵形嚢に戻っても翌日は再び同じ半規管に入ってしまう(Re-entry)あるいは別の半規管に入ってしまう(Canal conversion) | 12(34%) |
① Re-entryやCanal conversion | 6 |
② 習慣的な睡眠頭位 | 6 |
4.内耳疾患や頭部打撲などの二次性BPPVや中枢障害合併の影響 | 11(31%) |
① 突発性難聴やメニエール病などの内耳疾患 | 3 |
② 頭部外傷 | 2 |
③ 中枢障害,片頭痛 | 6 |
症例1(短期間に両側にBPPVが起こる,および骨粗鬆症が合併した症例)
70歳代の女性で,聴力は年齢相応,頭部打撲や中枢障害の既往はない。以前から骨粗鬆症のためビスホスホネートを内服していたが,BPPV発症6週間前から月1回のビスホスホネートの静注に変更(3回施行)されていた(表2の1④)。当院への初診時より強い頭位性めまいがあり,頭位・頭位変換眼振検査では両側の後,外側,前半規管型BPPVなど様々なBPPV亜型を繰り返した(図1)(1①)。耳石置換法は有効だが,一側のBPPVが改善しても対側のBPPVが顕著になり,全く軽快はみられなかった。耳石が繰り返し,両側の卵形嚢斑から脱落していると考えられた。BPPVの難治の原因は不明だが,ビスホスホネートの静注への変更により難治性BPPVを誘発した可能性を推測した。ビスホスホネート静注の中止を担当医に依頼し,副甲状腺ホルモン製剤に変更してもらった。変更後次第に眼振は小さくなり,2ヶ月後に自然軽快した。
頭位・頭位変換眼振検査では両側の後,外側,前半規管型BPPVなど様々なBPPV亜型が合併し,繰り返していた。明らかな一側の後半規管型BPPV-半規管結石症から下眼瞼向き回旋混合性頭位眼振に移行が見られ,回旋方向から前半規管型BPPVと推定した(文献15)を引用)。X:患側,L:lateral semicircular canal,P:posterior semicircular canal,A:anterior semicircular canal,can:canalolithiasis,cup:cupulolithiasis
症例2(耳石置換法の有効性の問題,および半規管内の耳石や耳石塊の大きさ,耳石数の問題が疑われた症例)
60歳代の女性で,フラツキのため来院。初診時,supine head roll testにより持続性の方向交代性背地性頭位眼振を認め,右下頭位が左下頭位より眼振が弱い,また仰臥位正面では右向き(前屈位では左向き)水平性眼振を認めた。明らかな中枢症状はない。右患側の外側半規管型BPPVを疑い,患側下135度法9)を行なうと一過性の方向交代性向地性頭位変換眼振に移行した。右外側半規管前方の膨大部内の耳石が,患側下135度法により慣性と重力により前方の膨大部から外側半規管脚方向に移動したと推測された。したがって,右外側半規管型BPPV-半規管結石症(背地性)が,外側半規管型BPPV-半規管結石症へ移行したと考えられた9)。続いて,耳石の卵形嚢への移動を目的とした健側下135度法9)を行った(図2)。
右外側半規管型BPPV-半規管結石症(背地性)が,外側半規管型BPPV-半規管結石症へ移行。しかし,その後も同様の眼振経過を4回繰り返し,5回目以降は右外側半規管型BPPV-クプラ結石症に移行した。
しかし,翌日も同様の持続性の方向交代性背地性頭位眼振を認め,患側下135度法により一過性の方向交代性向地性頭位変換眼振に移行し,さらに健側下135度法を行なった(表2の2②)。その後も同様の眼振経過を4回繰り返したが,5回目以降は患側下135度法や速い頭位眼振検査を繰り返しても持続性の方向交代性背地性頭位眼振に変化は見られなくなった12)(2①)。この持続性の方向交代性背地性頭位眼振は5か月後に自然軽快した。
今回の35例中,同様の経過を示した症例が3症例あった。方向交代性背地性頭位眼振は,1例は2ヶ月後に軽快,もう1例は10ヶ月後も持続している。
症例3(突発性難聴による二次性BPPV症例)
70歳代の男性で,めまいを伴う左突発性難聴を罹患。発症1週間後から頭位性めまいを繰り返すようになった(表2の4①)。入院後ステロイド点滴などの治療を受けたが,左高度感音難聴(87.5 dB)の改善は得られなかった。頭部MRには異常はなかった。左突発性難聴発症後から左後半規管型BPPV-半規管結石症と左外側半規管型BPPV-半規管結石症(背地性)9)が持続し,約3か月後に軽快した。しかし,軽快5ヶ月後から,再び左後半規管型BPPV-半規管結石症が再発した。Epley法は有効で軽快するが,6日あるいは8日後に再発を認め(1②),以後自宅でのself-Epley法(3回/日)を勧めた13)。1ヶ月後さらに1か月後に非定型的な後半規管型BPPV(reverse後半規管型BPPV-半規管結石症14),後半規管型BPPV-下眼瞼向き頭位眼振15))(2②)を認め,2週間後に左後半規管型BPPV-半規管結石症に戻った(図3)。
難治性BPPVは,これまでの報告2)3)同様,経過中に両側にBPPVが発症する,短期間あるいは長期にわたり再発を繰り返す,経過中や再発時に多くのBPPV亜型が観察されるなどの特徴がみられる。
難治性のBPPVの原因として,全身あるいは局所的な耳石器障害,耳石置換法の不成功,re-entryやcanal conversionや二次性のBPPVや中枢障害合併が推測される。これらの原因は重複するため,個々の症例へ対応した治療が必要である。
繰り返し短期間に両側にBPPVが発症する場合,全身的な病態すなわち耳石の主な構成成分であるCaの代謝障害が疑われる。近年,BPPVとCaの代謝障害の関係,特に骨粗鬆症の併存やビタミンDの欠乏が報告され,ビタミンDの内服でBPPVの再発が減少することが報告されている16)。また,耳石置換法により一側のBPPVが軽快しても1~2週間後に同側にBPPVが再発する場合,局所的あるいは全身的な耳石器(卵形嚢)障害が加わっている可能性がある。今回の35例中4例はすでに骨粗鬆症として治療(活性型ビタミンDの投与)を受けていた。その4例を除いた5例について,25(OH)ビタミンDを測定し4例に欠乏を認めたが1例は正常範囲内であった。少ない症例だが,難治性BPPVには必ずしも骨粗鬆症やビタミンD欠乏は関わっていないと考えられる。現在,骨粗鬆症に対して治療中以外のBPPV症例に25(OH)ビタミンDを測定し,20 ng以上であればビタミンD以外のリスク因子を検討,20 ng未満であれば内科あるいは整形外科へ紹介し骨密度の測定後に骨粗鬆症の治療が開始される。もし骨粗鬆症がなければ,ビタミンDのサプリメント内服を勧めている16)。
症例1は,骨粗鬆症に対しての治療中に極めて難治性のBPPVが持続した症例である。ビスホスホネートの静注により,Caの代謝障害特に耳石の生成と吸収のアンバランスが出現し,耳石が繰り返し両側の卵形嚢斑から脱落していると推測した。ビスホスホネートによる副作用に顎骨壊死が知られているが17),BPPVとの関連についての報告は見当たらない。症例1で疑われたビスホスホネートの静注と難治性BPPVの関係は今回の検討では明らかでないが,今後注意すべき事象と考えられた。
半規管に入った耳石が耳石置換法によって卵形嚢に戻らない耳石置換法の不成功には,2つの病態が考えられる。1つは耳石置換法そのものの有効性が乏しい病態12)であり,耳石がクプラに固着した外側半規管型BPPV-クプラ結石症や後半規管型BPPV-クプラ結石症が疑われる。方向交代性背地性頭位眼振は外側半規管型BPPV-クプラ結石症と診断されることが多いが,その中には予後の良い外側半規管型BPPV-半規管結石症(背地性)が含まれている9)。耳石置換法が無効な方向交代性背地性頭位眼振が外側半規管型BPPV-クプラ結石症と考えられる12)。外側半規管型BPPV-クプラ結石症は比較的短期間に自然軽快が期待できるとされているが18),今回の症例のように軽快に2~5ヶ月を要し,あるいは 10ヶ月たっても軽快が見られない症例が存在する。BPPV-クプラ結石症に対して,耳石の固着がクプラの半規管側(long-arm側)あるいは卵形嚢側(short-arm側)かを推定した効果的な耳石置換法の開発が望まれる。耳石置換法の不成功のもう1つは,耳石が集合し大きな固まりとなったため,あるいは耳石の数が多く半規管非膨大部側末端付近に耳石が停滞して卵形嚢に戻らない病態(canalith jam)である。症例2は外側半規管の半規管側クプラに付着した耳石を半規管脚に移動させることはできるが,卵形嚢に戻らず,同様の眼振経過が数回観察された症例である。おそらく,耳石塊が大きいため外側半規管非膨大部側末端付近に耳石塊が留まり(canalith jam),睡眠頭位や頭位変換により再び半規管側クプラに付着,その後次第に固着し外側半規管型BPPV-クプラ結石症に移行したと推測された。外側半規管型BPPV-クプラ結石症に移行したため耳石置換法の効果が得られなかったと考えられた12)。最終的には,クプラに固着した耳石塊は融解し19),外側半規管型BPP-クプラ結石症が軽快した可能性がある。現在,このような外側半規管型BPPV-半規管結石症(背地性)を繰り返す症例には,健側下135度の維持時間を長くする,患側側頭部に検者の掌によるタッピングを加えるなどの処置を加え,canalith jamへ対応を試みている。
耳石置換法により半規管内の耳石は一旦卵形嚢に戻ったにも関わらず,翌日再び同じ半規管(re-entry)や別の半規管(canal conversion)に入る場合があり,病態として習慣的な睡眠頭位との関係が疑われる10)11)。しかし,re-entryなのかcanalith jamかの区別はできない。一方,canal conversionは,耳石置換法直後や翌日に,後半規管型BPPV-半規管結石症と外側半規管型BPPV-半規管結石症の間でしばしば出現する。習慣的な睡眠頭位が一因となり得るが,今回の難治性BPPV症例では両側例が多く,推測は困難であった。BPPVへの耳石置換法後の頭位抑制は必要ないとの報告があるが,実際どの程度の頭位抑制ができていたかの検討は行なわれていない20)。習慣的に患側を向いて寝ている睡眠頭位と翌日のre-entryやcanal conversionの出現との関係が否定できないため,これらが疑われた場合は患側を上(枕を腰に当てて)で1~2日寝てもらうよう指導している9)。
BPPVが突発性難聴などの内耳障害あるいは頭部外傷や頭部打撲後におこる二次性BPPVが難治である報告は多い2)21)。内耳障害や頭部外傷(打撲)による卵形嚢障害により繰り返し卵形嚢斑から耳石が脱落する,あるいはこの卵形嚢障害に何らかの全身的な要因が加わったためかもしれない。症例3は,左突発性難聴後に,患側が左と推測される様々なBPPV亜型が出現した症例である。現時点では,それぞれのBPPV亜型に対する耳石置換法を繰り返す,あるいは明らかに有効な耳石置換法がないBPPV亜型には経過観察を行っている。このようなBPPV亜型は,次第に変化し,典型的なBPPVに移行するあるいは自然治癒することが多かった。今回難治性BPPV症例の中には,明らかな中枢性障害の既往や併存した症例が見られた。中枢障害とBPPVとの関係は不明であるが,難治性の要因になっているかもしれない。
現在,個々の難治性BPPV症例で,単一の病態が明らかになることは少ない。今後さらに症例数を増やし推測される病態に対して治療を試み,その有効性を検討する必要がある。
耳石置換法後も1年間に10回以上当院を受診し治療を要した難治性BPPV 35症例について,その原因や病態を,耳石置換法の効果や経過観察から推定した。難治性の原因として,全身あるいは局所的な耳石器障害(97%),耳石置換法の不成功(71%),re-entryやcanal conversion(34%),二次性のBPPVや中枢障害の合併(31%)が推測された。これらの原因を起こす病態は重複していることが多い。ビタミンDの測定やサプリメント処方,健側下135度頭位での維持時間の延長やタッピングの併用,睡眠頭位の指導などの対処法を推奨した。
利益相反に該当する事項はない。