Equilibrium Research
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第82回学術講演会シンポジウム2「慢性めまいの治療戦略」
慢性めまいの治療戦略としての認知行動療法
姜 静愛田中 恒彦八木 千裕堀井 新
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2024 年 83 巻 4 号 p. 229-234

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Translated Abstract

Dizziness is a commonly reported symptom that often becomes chronic. This article describes the basic concepts of cognitive behavioral therapy (CBT) and the clinical presentation of patients with dizziness from a CBT perspective, followed by a report on the practice of CBT for patients with chronic dizziness at our department. Finally, we discuss the usefulness and limitations of CBT as a treatment strategy for chronic dizziness and compare them with those of other treatment methods.

CBT is a treatment method in which the therapist organizes the patient’s problems and attempts to improve or solve them by teaching the patient problem-solving skills and self-control training. In CBT, the pathology of chronic dizziness is understood through the cognitive-behavioral model and fear-avoidance model. Chronic dizziness patients suffer from characteristic cognitive and behavioral problems that arise from experiencing the dizziness symptom. CBT is aimed at resolving these cognitive and behavioral issues in an attempt to improve the patients’ symptoms and enhance the patients’ quality of life.

Our research group developed and implemented a CBT program for a group of chronic dizziness patients. The results showed improvements in anxiety, depression, dizziness-related functional impairment, and dizziness exacerbation factors, with no adverse events observed. CBT can contribute to improvement of the dizziness symptom by modifying the patients’ attention to and evaluation of their own dizziness.

Comparison of CBT with other treatments revealed that the results of CBT were comparable to those of pharmacotherapy and that CBT may share some commonalities with vestibular rehabilitation. CBT is a broad-spectrum intervention based on a model of symptom exacerbation and maintenance, regardless of the cause. Although this article reports the treatment efficacy of CBT in our practice and suggests that it may yield outcomes comparable to pharmacotherapy, evidence in Japan still remains limited.

 はじめに

めまいは,一般有症率20~25%と比較的頻繁に報告される症状の一つであり1)2),有症者の74%は症状が1年以上持続し,不安症状や機能障害が生じていることがKroenkeらの調査3)により示されている。この様に慢性化しためまいの有症者の多くが困苦し,社会的な損失が生じることがわかっている。従来,慢性めまい治療においては心理療法の有効性が指摘されてきた4)~7)。なかでも認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy; CBT)はめまいに対する有効な治療方法としてエビデンスを積み重ねつつある。近年では,持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness; PPPD)に対しCBTの有効性が報告されている8)~12)。PPPDは,めまい症状を有する患者のうち14.4~20.8%を占めると13)14)され無治療のままでは寛解が見込めず苦渋する患者が多く存在することが報告されている15)。しかしながら,めまいに対するCBTを実施できる施設は限られており,普及は十分とはいえない。本論文では,CBTの基本的な考え方と,CBTの視点からみた慢性めまい患者の臨床像を述べた後,当科での慢性めまい患者に対するCBT実践の経過を報告する。さらに,慢性めまいの治療戦略としてのCBTの有用性と限界を述べ,他治療方法との比較を行う。

 認知行動療法とは

坂野16)によると,CBTとは個人の行動と認知の問題に焦点を当て,そこに含まれる行動上の問題,認知の問題,感情や情緒の問題,身体の問題,そして動機づけの問題を合理的に解決するために計画され構造化された治療法であり,自己理解に基づく問題解決と,セルフ・コントロールに向けた教授学習のプロセスであると定義される。つまり,CBTとは患者の問題を認知・行動モデルに基づいて患者と治療者が整理し,様々な取組を通して問題解決スキルとセルフ・コントロールを獲得することで,問題の改善・解決を目指していく治療方法であると言える。

CBTは,患者の問題に対して仮説モデルを作成し,理解,整理する。代表的な認知行動モデルは,患者のある状況で生じる問題を認知,行動,感情,身体といった4つ側面に分解・分類し,その相互作用により悪循環に陥った結果,問題が生じているという仮説モデルである(図1)。CBTでは,様々な仮説モデルを構築することを通して患者の病態理解・整理が行われる。慢性めまい患者においては,典型的な認知・行動モデルだけでなく,めまい増悪因子に対する不安・恐怖と回避行動がよくみられる。そこで筆者らは,慢性疼痛のfeal-avoidance17)を参考に,慢性めまいのfear-avoidance modelを作成した(図2)。本モデルでは,平衡機能障害の結果,めまいに対する破局的思考,不安・恐怖が警戒心や回避行動を誘発し,それが長期化することで二次的な問題(抑うつや活動制限など)が生じ,更にめまいに対する過敏さが亢進していくという悪循環を想定する。

図1  認知行動モデル

めまい(引き金)に対し否定的な認知・考えが生じ,不安や恐怖などの感情・気分の変化が生じる。それに対する身体反応として実際よりも強くめまいを感じ,その結果,めまい回避行動を取る。認知・考え,感情・気分,身体反応,行動の4つの要素が相互に影響して悪循環を構成するモデルである。

図2  めまいにおけるfear-avoidance model

平衡機能障害の結果生じためまいに対する破局的思考が不安・恐怖,警戒心や回避行動をまねき,それが長期化することで二次的な問題(抑うつや活動制限など)が生じ,めまいに対して過敏反応するという悪循環モデルである。

 CBTの視点からみためまい患者の臨床像

ここで,典型的な慢性めまい症例を患者Aとし,モデル患者を通じて先に挙げた慢性めまいの2つの認知行動モデルを理解することを試みたい。Aはめまい発症以降,外出が怖くなり,常にめまいの予防を図っていた。発症以降Aの生活範囲は狭まり,現在はほとんど外に出ず,たとえ外出したとしても常にめまいを警戒し強い疲労感を感じてしまっていた。

まず,典型的な認知行動モデルからAの状態を捉えてみる。Aは外出の準備をしている時(状況)になると,「出先でめまいがして倒れてしまうかもしれない」という考え(認知)が反射的に生じる。するとAは不安や恐怖を感じ(気分・感情),心臓がどきどきし始め,気が遠くなるように感じ,めまいが強くなる(身体)。そうするとAは,友人との外出をキャンセルし,布団に入って横になる(行動)。さらに横になることで,Aは「人と出かけることすら私はできない」という考え(認知)が生じ,さらに気分が落ち込んでいく。このように認知行動モデルを用いると,めまい患者の障害の一部を認知,気分・感情,身体,行動の悪循環として捉えることができる。

次に,不安・恐怖回避モデルからAの病態を見ていく。Aはめまい発症以降,めまいに派生する問題を次々に発見し考えてしまう破局的思考が生じるようになり,その結果,思考に誘発されて不安と恐怖が生じるようになった。不安と恐怖から,Aはめまい関連刺激やめまい感覚に対し過度な警戒や回避を行うようになり,その結果生活機能が障害され,抑うつやQOL(Quality of life)の低下に至った。Aの生活は困窮するが,警戒と回避によりめまい感覚への曝露は一時的に低下し,束の間の安堵を得た。そうした成功体験を誤って学習してしまった結果,Aはますます警戒と回避を強め,その結果,常に緊張が続き,めまい感覚やめまい誘発刺激への過敏性が増大していく,という悪循環に陥ってしまったと捉えることができる。

CBTではこうした悪循環を理解し,それらを形成する要因に働きかけることを通して,悪循環からの脱却を目指す。具的的には,悪循環を形成する要因を,何らかの認知,行動,身体,感情の問題により生じていると捉え,認知と行動への働きかけを通して問題となる要因を改善し,患者の生活改善を促すといった考えの元で介入計画が練られる。筆者は過去の症例報告18)にて,慢性めまい患者に生じている問題を検討した。その結果,慢性めまい患者は,破局的思考(認知),不安・抑うつ(気分・感情),めまい回避(行動),視覚刺激・平衡感覚への注目(行動),めまいや動悸(身体)といった問題が生じていることが明らかとなった。一方で,楽観的思考(認知),快活動・快感情(感情・気分),社会活動(行動),運動量(行動),安定した身体感覚(身体感),などの反応が不足していることも示された。よって,これらの問題を調整する介入を行うことにより,悪循環から脱却し,生活機能,抑うつ・不安,めまい感覚とめまい誘発刺激への過敏性が改善するという仮説の元,介入プログラムを作成した。

 慢性めまいの認知行動療法:新潟大学病院耳鼻咽喉科での経過報告

前述のCBTによる慢性めまい患者の病態理解に基づき,新潟大学病院耳鼻咽喉科では慢性めまい(PPPD)に対するCBTプログラムが開発され,運用されている(投稿中せ:姜,田中,八木,堀井)。プログラムは心理教育,目標設定,内部感覚曝露,ボディスキャン,行動実験,行動活性化,認知再構成,再発防止のコンポーネントで構成されている(表1)。

表1 CBTプログラム

Session 1 病歴聴取,心理教育
Session 2 目標設定
Session 3 内部感覚曝露
Session 4 行動実験,行動活性化
Session 5 認知再構成法
Session 6 ふりかえり,再発防止

プログラムは2週間程度に1回50分,全6回で構成され,臨床心理士と公認心理師の2資格を持つ2名により実施された。対象者は,めまい専門医がPPPDと診断した成人20名(女性14名,男性6名)であり,初発めまいイベントから平均49ヶ月(SD: 46.69)経過していた。測定指標として,めまいによる日常生活の支障度に対する評価尺度であるDHI(Dizziness Handicap Inventory)19)20),不安と抑うつ状態の評価尺度であるHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)21)22),PPPDの誘発症状の尺度であるNPQ(The Niigata PPPD Questionnaire)23)が用いられた。介入の結果,全ての指標においてp < .01の統計的有意な改善が認められた。効果量(Hedge’s g)もDHIで0.926,HADSの不安で0.80,HADSの抑うつで0.522,NPQで0.706と中程度以上の効果が認められた。また,介入に伴う参加者の脱落,有害事象の報告はなかった。

今回の検討により,CBTは慢性めまい患者の不安・抑うつ(HADS),めまいによる機能障害(DHI),めまいの増悪因子(NPQ)の改善に寄与することが示された。CBTが不安・抑うつ,めまいによる機能障害の改善に寄与することは以前より報告されていたが8)~12),当科の実践により新たにNPQの改善にCBTが寄与することが示された。このことは,CBTで行われている不安・恐怖に対する介入が,NPQが測定している増悪因子に対して働きかけていることを意味していると考えられる。また今回の検討では,初発めまいイベントからCBTが開始されるまで平均49ヶ月経過しており,CBTは難治性とされやすい罹病期間が長期化している患者に対しても有効である可能性が示された。以上から,CBT介入は慢性めまい患者の生活機能と抑うつ・不安の改善に加え,めまい誘発刺激への反応性を改善することが示唆された。

 慢性めまいの治療戦略としての認知行動療法

CBTは認知と行動の変容を通して,気分・感情,身体反応の改善と好循環の生成を狙うアプローチである。一部技法では,注意のコントロールやリラクゼーションスキルの獲得により身体感覚への感受性にもアプローチする。慢性めまいのひとつであるPPPDの患者は,直立姿勢・歩行,体動,複雑な視覚刺激といった症状増悪因子23)24)を有する。患者は,めまいの出現とめまいを誘発するかもしれない刺激を警戒するあまり,めまいに関連するものを過剰に脅威と評価し,さらには自ら探索し,警戒することが常態化している。こうした,脅威評価と探索・注意の常態化はめまい感覚や誘発刺激に対する過敏性を強化してしまい,軽微なめまい感覚であっても大きなめまい感覚として体感してしまう可能性がある。注意と脅威は双方性をもって増大化していき,それに伴ってめまい感覚,めまい誘発刺激への過敏性も悪化していく。このような問題に対し,CBTは注意の方向づけおよび注意資源の分配訓練を行う技法と,めまい感覚と刺激への脅威度を更新する技法を用いることにより,改善を目指す。CBTは患者のめまいそのものではなく,患者の主観的な評価と感覚に対して介入を行い,それらの変容を達成することにより,患者の生活機能,抑うつ・不安,めまいによる障害の改善を狙うのである。

本論文では,慢性めまいの中でも特にPPPDを対象としたCBTの有効性について述べたが,CBTは対象となる疾患の発症因を問わないため,他の慢性めまいの治療にも有効である可能性がある。患者の病態維持が,認知行動モデルや不安・恐怖回避モデルから理解可能で,抑うつ・不安,生活機能障害が認められる場合は,CBTの適応となり得る。

最後に,慢性めまい診療における他の治療法とCBTの比較を行う。薬物療法に関しては,PPPDや心因性めまいに対しSSRI,SNRIなどの有効性が報告されている10)25)~28)。我々は先に述べたCBTプログラムを受けたPPP患者をCBT群とし,当科で過去にSSRI・SNRIによる薬物療法を受けた患者のうち年齢,性別,治療期間を合わせて選択した者を薬物療法群とし,両者において治療効果を比較した。めまいによる生活支障度(DHI),めまいの増悪因子(NPQ),不安・抑うつ症状(HADS)について,群(CBT×薬物療法)と時期(治療前×後)を要因とする2要因分散分析を行なった。その結果,すべての指標においてCBT群は薬物療法群と同等の効果が示された(p < .001)。すなわち,CBTと薬物療法は少なくとも同等の有効性があることが示された。CBTは薬物療法と二者択一の関係というわけではなく,併用することがより効果的である可能性も指摘されている10)。前庭リハビリテーション(Vestibular rehabilitation; VR)もまた,慢性めまいに有効な治療法である29)30)。VRと,CBT技法の一つである内部感覚曝露は,めまい感覚をあえて生じさせ曝露させるという共通点がある31)。両者の異なる点は,CBTが曝露に伴って生じる身体感覚と感情,思考に焦点を当てるのに対し,VRは前庭機能の回復を目標としている点にある。内部感覚曝露は,不快な身体感覚と付随する不快感情をあえて回避することなく味わい,不快な身体反応や感情に対する破局的思考の修正や,身体感覚と感情に対する慣れを狙う32)。また,内部感覚曝露中は,めまいに伴う感覚と感情を緩和させるような反応を妨害することが求められる。例えば,患者の「少しの間だから我慢しよう」「こわいから支えに手を伸ばそう」といっためまい感覚と不快感情を緩和させる行動・思考に対し,口頭で恐怖感情についての実況を行う,膝を手に置くなどの妨害を行う。このように,VRと内部感覚曝露には異同があるが,場合によってVRは内部感覚曝露として機能する可能性がある。

 おわりに

本稿では,慢性めまいの治療戦略としてCBTの概要を述べ,実践報告と他治療との比較研究の紹介を行った。CBTはその発症因を問わず,症状の悪化と維持のモデルを想定し介入することから,対象範囲が広い治療である。本論文においても,治療の有効性を報告し,薬物療法と遜色がない可能性を指摘したが,依然として本邦におけるエビデンスは蓄積されていない。今後は多施設でのランダム化比較試験の実施によるエビデンスの蓄積や,コストやプログラム運用面などの課題を解消し,普及に向けて整備を行う必要がある。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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