Equilibrium Research
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シリーズ教育講座「めまい診療に有用な自覚的評価指標」
5.不安,パニック症
井上 幸紀
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2025 年 84 巻 3 号 p. 113-119

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Translated Abstract

Anxiety is an unpleasant emotion that everyone experiences at some or the other time, and is often accompanied by physical sensations such as palpitations, dizziness, and/or a feeling of lightheadedness. Rather than a concrete emotion, it is usually a vague sense of unease, but it serves to trigger our attention and caution. The level of anxiety one feels is related to both the magnitude of the stress and the individual’s ability to cope with it. If the stress is perceived as overwhelming and difficult to handle, the feeling of anxiety increases; if the stress seems small and manageable, the feeling of anxiety decreases. Therefore, not only the actual magnitude of the stress, but also personal traits, such as coping ability, affect how anxiety is experienced. In response to anxiety, along with the physical sensations and heightened alertness, one also tries to detect danger and respond appropriately. However, in many cases, people feel incapable of handling anxiety-inducing situations, which leads to further anxiety. This recognition of anxiety can lead to a vicious cycle, where increased anxiety distorts one’s perception of stress, leading to further physical reactions such as tension or dizziness, which, in turn, heighten the feeling of anxiety. Anxiety is an unpleasant feeling that could also be unconsciously repressed as a defense mechanism. However, repressed anxiety can manifest in physical symptoms. Proper recognition and assessment of anxiety are crucial. Various disorders related to anxiety have been defined, and both subjective and objective evaluations are conducted through various questionnaires. Common tools include the CMI and GAD-7 used for screening, MAS, STAI, and HARS used for evaluation of general anxiety, PDSS and PAS for evaluation of panic symptoms, and LSAS for evaluation of social anxiety. Understanding the appropriate use, strengths, and weaknesses of these tools is essential for accurate assessment.

 緒言

不安は誰もが経験する不快な感情で,動悸,めまい,頭が軽くなるような浮遊感などの身体感覚を伴うことも多い。具体的な感情というよりは漠然としたものであるが,不安が生じることで我々に注意や警戒感が呼び起こされる。不安にはストレスの大きさと個人の対処能力が関係する。関係するストレスが大きく対応困難であると理解すれば不安は大きく,ストレスが小さく対応可能と考える場合には不安は少ない。そのため,ストレスの実際の大きさ(対応の困難さ)だけではなく,個人の資質(対応能力)によっても不安の感じ方は異なる。不安,それに伴う身体感覚,呼び起こされる注意や警戒感に対し,我々は危険を察知しようとしたり,適切に対応しようとしたりする。しかし,不安を感じる状況では自分では対応困難であると感じることが多い。我々が不安を認識することにより,ストレスに対する不安がより増大し,それが緊張,めまいなど不適切な身体反応にもつながり,その増大した不安や身体反応がストレスの捉え方を歪めることによりさらに不安を増大させるという悪循環が生じる1)。恐怖もよく似た感覚ではあるが,高所恐怖,不潔恐怖,先端恐怖などという言葉のように,既知の,外界の,はっきりと限定された脅威に対する感情である。不安とは,動悸,めまい,発汗,不眠などの生理的現象を伴った漠然とした恐れであり,恐怖とは異なり一般に不特定の,不明瞭な,目標のあいまいな危険に対する反応といえる2)。不安は不快な感情であり,自己の防衛のために気づかず抑圧されることもあるが,抑圧された不安は歪曲され,様々な身体的症状として表現されることがある。不安を正しく認識し評価対応することは重要であり,不安に関する様々な疾患が定義され,様々な質問紙により主観的・客観的に不安の程度,種類などが評価されている。

精神疾患の診断統計マニュアル3)では様々な精神疾患が定義されているが,不安症群/不安障害群についても典型的な発症年齢の順に並べられている。DSM-5のコードが付された様々な不安症をICD-10のコードと共に並べると,分離不安症/分離不安障害 309.21(F93.0),選択的緘黙313.23(F94.0),限局性恐怖症300.XX(F40.X),社交不安症/社交不安障害300.23(F40.10),パニック症/パニック障害300.01(F41.0),広場恐怖症300.22(F40.00),全般不安症/全般性不安障害300.02(F41.1),他の医学的疾患による不安症/他の医学的疾患による不安障害293.84(F06.4),他の特定される不安症/他の特定される不安障害300.09(F41.8),特定不能の不安症/特定不能の不安障害300.00(F41.9)などが挙げられている。生涯有病率として,全般不安症は人口の3~8%,パニック症は1.5~4%4)とされるなど,不安症群は最も頻度が高い精神疾患とされている。また年間有病率は17.7%で,女性の有病率は男性より高いという報告もある1)。ここでは,全般不安症/全般性不安障害300.02(F41.1),パニック症/パニック障害300.01(F41.0),社交不安症/社交不安障害300.23(F40.10),について診断基準の概略を示すことで,不安とそれに関する疾患のイメージを得ていただきたい(表1表2表3)。

表1 全般不安症/全般性不安障害3)

A. (仕事や学業などの)多数の出来事または活動についての過剰な不安と心配(予期憂慮)が,起こる日のほうが起こらない日より多い状態が,少なくとも6ヵ月間にわたる。
B. その人は,その不安を抑制することが難しいと感じている。
C. その不安および心配は,以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(過去6ヵ月間,少なくとも数個の症状が,起こる日のほうが起こらない日より多い)。
注:子どもの場合は1項目だけが必要
1.落ち着きのなさ,緊張感,または神経の高ぶり
2.疲労しやすいこと
3.集中困難,または心が空白となること
4.易怒性
5.筋肉の緊張
6.睡眠障害(入眠または睡眠維持の困難,または,落ち着かず熟眠感のない睡眠)
D. その不安,心配,または身体症状が,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
E. その障害は,物質(例:乱用薬物,医薬品)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)の生理学的作用によるものではない。
F. その障害は他の精神疾患ではうまく説明されない[例:パニック症におけるパニック発作が起こることの不安または心配,社交不安症(社交恐怖)における否定的評価,強迫症における汚染または,他の強迫観念,分離不安症における愛着の対象からの分離,心的外傷後ストレス障害における外傷的出来事を思い出させるもの,神経性やせ症における体重が増加すること,身体症状における身体的訴え,醜形恐怖症における想像上の外見上の欠点や知覚,病気不安症における深刻な病気をもつこと,または,統合失調症または妄想性障害における妄想的信念の内容,に関する不安または心配]
表2 パニック症/パニック障害3)

A. 繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは,突然,激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し,その時間内に,以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
注:突然の高まりは,平穏状態,または不安状態から起こりうる。
1.動機,心悸亢進,または心拍数の増加
2.発汗
3.身震いまたは振え
4.息切れ感または息苦しさ
5.窒息感
6.胸痛または胸部の不快感
7.嘔気または腹部の不快感
8.めまい感,ふらつく感じ,頭が軽くなる感じ,または気が遠くなる感じ
9.寒気または熱感
10.異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
11.現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
12.抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
13.死ぬことに対する恐怖
注:文化特有の症状(例:耳鳴り,首の痛み,頭痛,抑制を失っての叫びまたは号泣)がみられることもある。この症状は,必要な4つの異常の1つと数えるべきではない。
B. 発作のうちの少なくとも1つは,以下に述べる1つまたは両者が1ヵ月(またはそれ以上)続いている。
1.さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う,心臓発作が起こる,“どうかなってしまう”)。
2.発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった,パニック発作を避けるような行動)。
C. その障害は,物質の生理学的作用(例:乱用薬物,医薬品),または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症,心肺疾患)によるものではない。
D. その障害は,他の精神疾患によってうまく説明されない(例:パニック発作が生じる状況は,社交不安症の場合のように,恐怖する社交的状況に反応して生じたものではない:限局性恐怖症のように,限定された恐怖対象または状況に反応して生じたものではない:強迫症のように,強迫観念に反応して生じたものではない:心的外傷後ストレス障害のように,外傷的出来事を想起するものに反応して生じたものではない:または,分離不安症のように,愛着対象からの分離に反応して生じたものではない)。
表3 社交不安症/社交不安障害3)

A. 他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する,著しい恐怖または不安。例として,社交的なやりとり(例:雑談すること,よく知らない人に会うこと),見られること(例:食べたり飲んだりすること),他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。
注:子どもの場合,その不安は成人との交流だけでなく,仲間達との状況でも起きるものでなければならない。
B. その人は,ある振る舞いをするか,または不安症状を見せることが,否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち,恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう,拒絶されたり,他者の迷惑になるだろう)。
C. その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。注:子どもの場合,泣く,かんしゃく,凍りつく,まといつく,縮みあがる,または,社交的状況で話せないという形で,その恐怖または不安が表現されることがある。
D. その社交的状況は回避され,または,強い恐怖または不安を感じながら耐え忍ばれる。
E. その恐怖または不安は,その社交的状況がもたらす現実の危険や,その社会文化的背景に釣り合わない。
F. その恐怖,不安,または回避は持続的であり,典型的には6ヵ月以上続く。
G. その恐怖,不安,または回避は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
H. その恐怖,不安,または回避は,物質(例:乱用薬物,医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
I. その恐怖,不安,または回避は,パニック症,醜形恐怖症,自閉スぺクトラム症といった他の精神疾患の症状では,うまく説明されない。
J. 他の医学的疾患(例:パーキンソン病,肥満,熱傷や負傷による醜形)が存在している場合,その恐怖,不安,または回避は,明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。

 各アンケート検査(調査)の意義,方法(手法),評価法(判定基準)

不安を評価する質問紙には,その目的に応じて様々なものが存在する。研究における評価を含め,不安のスクリーニングやアセスメントを目的としてCMI(Cornell Medical Index-health Questionnaire)やGAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)が,不安一般であればMAS(Manifest Anxiety Scale),STAI(State-Trait Anxiety Inventory),HARS(Hamilton Anxiety Rating Scale)が,パニック症状であればPDSS(Panic Disorder Severity Scale)やPAS(Panic and Agoraphobia Scale)が,社交不安症であればLSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale)などが用いられる。これら以外にも不安を中心とした様々な症状に対し多様な評価法があり,その適応,長所や短所を理解して使用することが求められる。

 コーネル・メディカル・インデックス(Cornell Medical Index-health Questionnaire: CMI)

コーネル・メディカル・インデックス(CMI)は精神面と身体面の両方にわたる自覚症状を短時間に調査すること,健康診断を目的とした質問紙であり,ニューヨーク,コーネル大学のBrodmanらにより1955年に開発され,1972年に金久,深町により日本語版が作成されている。特徴として,臨床医が初診の患者に尋ねる問診の内容を広範囲に,詳細に,医師が患者に質問する形で,患者が理解しやすい言葉で質問をしている5)

CMIの質問項目は身体的項目と精神的項目に大別され,各々12と6のカテゴリーに区分されている。米国の原版では身体的自覚症の質問項目数144と精神的自覚症の質問数51であるが,日本語版では身体的自覚症状の項目数が男性で16,女性で18追加されており,項目数に違いがある。

結果は,自覚症プロフィールによる判定,深町による神経症判別基準(神経症:精神疾患ほどには症状はきつくないもののそれに類似した心身の不調を有する症候群),9個の特定の精神的自覚症項目による精神的不健康度状態の判定,の3つの形で検討される。臨床的応用として,一般外来患者から神経症患者をスクリーニングするテストとされ,身体ないし器質的疾患,神経症,心身症に特徴的な所見があるとされる。限界として,被験者が故意に歪んだ回答をしてもそれを察知できない,精神疾患の診断に有用ではない,「はい」「いいえ」の2択で「どちらでもない」の選択肢がないため回答に無理が生じる可能性があるとされている。

 全般不安症評価尺度(Generalized Anxiety Disorder-7: GAD-7)

全般不安症(GAD)の評価尺度であるGAD-7は,7つの症状項目(過剰な不安,不安や心配を自己制御するのが困難であること,複数の活動又は出来事についての過剰な心配,予期不安,落ち着きのなさや緊張感または感情の高ぶり,易怒性,くつろげない)と1つの日常機能障害の項目からなる自記式尺度である。10分程度で実施できることから,簡易スクリーニングやアセスメントツールとして使用される6)。各項目を0から3点で評価するが,日常機能障害は合計点に加えず,21点満点で4点までは症状なしとし,点数が高くなるほど重症度を高く評価する。DSM-5のGADの診断基準に含まれる,易疲労性,集中困難,筋肉の緊張,睡眠障害,の各項目は含まれていない。GAD-7の最初の2項目,「過去4週間のほとんどの時間,心配,緊張を感じて,あるいは不安に悩まされていましたか?」「頻繁に,緊張し,イライラし,睡眠の問題を持っていましたか?」のみを抽出したGAD-2では,GAD-7による診断に対する感度89%,特異度82%とされ,診断の補助として使用されることがある7)

 顕在性不安尺度(Manifest Anxiety Scale: MAS)

顕在性不安尺度(MAS)は,ミネソタ多重人格検査(MMPI: Minnesota Multiphasic Personality Inventory)から身体面・精神面に表出される慢性不安反応を測定するための質問項目を抽出し,Taylorにより1953年に作成された。最終的には50項目からなり,個人が持つ様々な不安を包括的に測定する自記式質問紙である。不安には常に変化する情動反応である「状態不安」と,状況を脅威と認知して不安な態度で反応しやすい個人の傾向である「特性不安」に分けられるが,MASはこの「特性不安」を計測する。用途として,スクリーニング検査,治療経過の確認,被験者の識別などが挙げられ,特性不安に着目した研究でも使用される2)8)。記入や採点は容易で,得点分布,平均得点は健常者と神経症者では大きく異なるとされている。「そう」「ちがう」「どちらでもない」の3択で回答するが,疑問点と無回答が10以上の場合は結果に信頼性がないとされる。また,妥当性尺度(理想的だが実行困難な行動の質問)が11点以上の場合も妥当性がないと判断される。日本語版MASでは,一般男性で23点以上,一般女性で26点以上が高度の不安と判定される9)

 状態・特性不安検査(State-Trait Anxiety Inventory: STAI)

状態・特性不安検査(STAI)は状態不安尺度と特性不安尺度を区別して測定できる質問紙である10)。前述のCMI,MASは主に特性不安を測定していたが,不安になりやすい人がいつも不安であるわけではなく,不安耐性の強い人が全く不安にならないわけでもないため,1972年にSpielbergerの状態-特性不安理論に基づき双方を測定する目的で作成された。状態不安と特性不安を区別して評価する研究などで使用される。各20項目,1から5までの5段階評価であり,20点から80点に分布する。状態不安の質問には「今現在の」,特性不安の質問には「普段の」と注釈をつけることで区別をしている。STAIには,不安項目だけではなく抑うつ項目も含むSTAI-Xと,不安項目だけを含むSTAI-Y,またSTAI-Yの日本語版で肯定と否定項目を同数にした STAI-JYZなども出版されているが,抑うつ項目を積極的に排除することで感度が低下する報告もあり,臨床ではSTAI-Xを使用した方が良いという報告がある2)

 ハミルトン不安評価尺度(Hamilton Anxiety Rating Scale: HARS)

ハミルトン不安評価尺度(HARS)は不安症と診断された患者の不安症状の重症度を定量的に評価することを目的に1959年Hamiltonにより開発され,研究でもそのような目的で使用される11)。HARS以外にもHamilton Anxiety Scale(HAM-A, HAS)など複数の呼称を持つ。HARSで評価可能な不安症は,パニック症,社会不安症,全般不安症などであり,強迫症,解離症,変換症は含まない。HARSは不安関連症状14項目を0から4点で評価する。精神症状項目(不安気分,緊張,恐怖,不眠,認知の変化,抑うつ気分の6項目)と身体症状項目(筋肉系症状,感覚系症状,心血管系症状,呼吸器症状,胃腸症状,生殖器・尿路系症状,自律神経症状の7項目)を医師が読み上げながら20から30分かけて評価する。注意点として,過去1週間の平均的重症度を評価すること,日内変動を考慮し評価は同じ時間帯にすること,以前の評価は参照しないことが挙げられている。この検査では評価者間一致度が低いとされていたため,インタビューマニュアルも作成され,評価者間一致度の向上が図られている。

 パニック症重症度評価尺度(Panic Disorder Severity Scale: PDSS)

パニック症重症度評価尺度(PDSS)は,パニック障害と診断された患者に対し,パニック症の症状に精通しPDSSの評価について訓練を受けた専門家により,10から15分程度で,過去1ヶ月の中核的症状の重症度を7項目で評価する臨床面接評価尺度であり,1997年にShearらにより開発された12)。パニック症の一般研究目的で使用されることがある。

7項目(症状限定エピソードを含むパニック発作の頻度,症状限定エピソードを含むパニック発作による不快感や苦痛,予期不安の重症度[パニック関連性の恐怖,懸念,心配],広場恐怖と回避,パニックに関連した感覚への恐怖と回避,パニック障害による職業上の機能障害,パニック障害による社会機能の障害)から成り,0から4の5段階で重症度設定がなされている。カットオフスコアーは8点とされている。パニック症では,①予期しない/されるパニックアタック,②予期不安,③回避行動などの行動上の制限(広場恐怖症の併存に関連),④うつ病や他の不安症の併存,の4項目について評価することが望ましいとされているが,PDSSではこのうち①~③が評価されることになる13)

 パニック障害・広場恐怖症評価尺度(Panic and Agoraphobia Scale: PAS)

パニック障害・広場恐怖症評価尺度(PAS)ではパニック発作,広場恐怖や回避行動,予期不安,病気による障害,健康に関する危惧の5つの下位尺度13項目を0~4点の5段階で評価する(52点満点)。境界で平均4.3点,軽症で11.3点,点数が高いほど重症とされる。1995年にBandelowらによって開発され,所要時間は15分程度である。患者が自己評価するものと治療者が評価するものがあり,その結果はClinical Global Impressionと相関性が高く,研究としては薬物治験に利用されることもある14)15)。パニック症患者の全般的な重症度や症状の変化を評価する点ではPDSSと同様である。健康に関する危惧の項目で心気的訴えを評価できるともされ,広場恐怖や回避行動の一部で恐怖を感じる具体的状況23場面を提示しているなどPDSSとは異なる特徴を持つ13)15)。一方,診断用の評価尺度ではないことに注意が必要である。

 リーボヴィッツ社交不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale: LSAS)

社交不安症(Social Anxiety Disorder: SAD)には,多様な社会的場面で不安を感じる全般型と,限定された社会的場面で不安を感じる限局型がある。SADで最も使用される評価尺度がリーボヴィッツ社交不安尺度(LSAS)である。めまいなどの耳鼻咽喉科疾患により社会的場面で不安を感じることもあるが,精神疾患であるSADを鑑別するためにはどのような社会的場面が苦手なのか,具体的かつ特徴的な症状を評価する必要がある。LSASは治療者評価尺度として開発されたが,自己記入式評価尺度としても信頼性妥当性が証明されている。過去1週間について,特定の状況において感じる恐怖の程度と回避行動の頻度を評価する。対人交流場面11項目とパフォーマンス場面13項目で0から3の4段階で評価する。結果は,総得点と,6つの下位評価(対人場面に対する恐怖感,パフォーマンス場面に対する恐怖感,恐怖感の合計,対人交流場面に対する回避頻度,パフォーマンス場面に対する回避頻度,回避頻度の合計)が評価できる。恐怖感や不安感の点数が低いが回避行動が見られる場合は,なぜ回避するのか質問する必要がある。汚染など別の恐怖に基づく回避行動の場合には社交不安ではないことから回避得点にはしないなどの配慮が必要である16)。カットオフ値は治療者が行った場合は42点,自記式の場合は44点とされ,全般型では50点を超えることが多く,95点以上では仕事や学業などの社会活動能力に支障をきたすと推測される17)

 耳鼻咽喉科領域への活用(応用)

メニエール病,持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD),良性発作性頭位めまい症(BPPV),耳鳴を含めた耳鼻咽喉科疾患では,その治療困難さもあり,様々な不安が生じる。今度いつ症状が起きるだろうかという予期不安などはその一例である。患者はめまいなどの感覚や不安について,ある,ない,の2択で表現することがある。めまいや不安は意識をその症状に向けてしまうと,多くの場合症状があることを再認識することとなり,症状が「ある」ことで時に絶望的な気持ちになる。めまいに伴う不安の強さの評価にもMAS,STAIやHARSなどが用いられる。運動や睡眠などでも症状が改善せずに持続する場合には抗不安薬が投与されることがある。抗不安薬には様々な作用時間があり,急速に高まった不安には短時間作用型(クロチアゼパム,エチゾラムなど)の,不安状態が持続する場合には長時間作用型(ジアゼパム,ロフラゼプ酸エチルなど)の投薬が行われる18)。不安だけではなくめまいなどの症状も,投薬で完全ではなくとも一部は改善することも多い。MAS,STAIやHARSなどの具体的評価を通し,不安に加えめまいなどの症状は服薬を含めた様々な方策で軽減することができるという認識を持つことで,症状に対する不安が軽減する。そして,この不安の軽減がめまいを含めた症状の軽減に結びつき,生活の質の改善に結びつき,さらに症状が軽減する認識を持つなどの好循環を認める。このことを患者と医師が共有することで認知行動療法的なアプローチが可能となる。なお抗不安薬の投薬については漫然と行うのではなく,その効果も見極めながら,減薬も念頭に入れた投薬調整を行うことが必要である。また,不安によく似た症状を呈する身体疾患として狭心症や心筋梗塞,過換気症候群,低血糖,甲状腺機能亢進症なども挙げられる。耳鼻咽喉科医師として患者の不安症状に主治医自ら向き合うことは必要であるが,精神科を含め信頼できる他科医師と連携することもまた望まれる。

利益相反に該当する事項はない。

文献
  • 1)   井上 令一監修:不安症群.カプラン臨床精神医学テキスト第3版.435–440頁,株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2016
  • 2)   曽我 祥子:不安のアセスメント―MAS,STAI―.心理アセスメントハンドブック第2版.284–295頁,西村書店,2003
  • 3)   高橋 三郎, 大野 裕監訳:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2014
  • 4)   岩脇  淳, 仙波 純一監訳:不安症群/不安障害群.カプラン臨床精神医学ハンドブック第4版.203–221頁,株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2020
  • 5)   上地 安昭:コーネル・メディカル・インデックス(CMI).心理アセスメントハンドブック第2版.273–283頁,西村書店,2003
  • 6)   吉田 斎子, 川上 寿郎, 松澤 朱里,他:全般不安症の評価尺度.精神医学 66: 543–546, 2024
  • 7)   大坪 天平:全般性不安障害(GAD).不安障害診療の全て.165–192頁,医学書院,2013
  • 8)   高石  譲:顕在性不安検査(MAS).精神・心理機能評価ハンドブック.237–238頁,中山書店,2017
  • 9)   松本  啓, 飯島 和子:MAS.心身医学のための心理テスト.22–27頁,朝倉書店,1990
  • 10)   中里 克治:不安検査(STAI).精神・心理機能評価ハンドブック.238–240頁,中山書店,2017
  • 11)   大坪 天平:ハミルトン不安評価尺度(HARS).精神・心理機能評価ハンドブック.240–241頁,中山書店,2017
  • 12)   高塩  理:パニック障害重症度評価尺度(PDSS).精神・心理機能評価ハンドブック.241–243頁,中山書店,2017
  • 13)   塩入 俊樹:パニック症の評価尺度.精神医学 66: 547–552, 2024
  • 14)   貝谷 久宣, 陳  峻文, 村岡 理子,他:不安障害.臨床精神医学増刊号.146–159頁,アークメディア,1999
  • 15)   貝谷 久宣, 石井  華:パニック障害・広場恐怖尺度(PAS).精神・心理機能評価ハンドブック.243–244頁,中山書店,2017
  • 16)   朝倉  聡:LSAS.精神・心理機能評価ハンドブック.245–246頁,中山書店,2017
  • 17)   高塩  理, 高橋 彩子, 杉田 秀太郎:社交不安症の評価尺度.精神医学 66: 553–558, 2024
  • 18)   五島 史行:メニエール病.心療内科学.263–266頁,朝倉書店,2022
 
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