2025 年 84 巻 3 号 p. 128-134
Vestibular Evoked Myogenic Potential (VEMP) is used as an otolithic function test, with characteristic findings reported in various inner ear disorders and age-related effects. In Meniere’s disease, the optimal frequency is believed to shift from 500 Hz to 1000 Hz due to the presence of endolymphatic hydrops. This frequency shift is also observed in elderly individuals. In a study where cVEMP was measured at both 500 Hz and 1000 Hz, we investigated the disease-specific characteristics of frequency responses and the effects of aging. The subjects were 175 cases (ages 10–97 years; mean age 55.0 years). The results of cVEMP testing were determined using the corrected amplitude (CA) and asymmetry ratio (AR) at 500 Hz. Frequency characteristics were evaluated using the 500–1000 Hz slope.
Presbyvestibulopathy (PVP) and otolithic dysfunctions were more prevalent in older individuals, with abnormal cVEMP findings in all cases. The rate of failure and positive findings based on slope evaluation were significantly higher in older age groups. The slope positivity rate was higher in sudden deafness (SD) than that in Meniere’s disease (MD). As a test for endolymphatic hydrops, the tuning property test using the slope could yield false-positives in elderly individuals, and caution is required when diagnosing MD.
The tuning property test may serve as a parameter for distinguishing SD from MD and suggesting a transition to Delayed endolymphatic hydrops (DEH). Additionally, combining this with other tests like vHIT may help in elucidating the pathophysiology of SD.
前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential:以下VEMP)は,1992年に強大な音響刺激によって胸鎖乳突筋で記録される前庭由来の反応として報告された1)。その後,外眼筋からも記録可能なことが報告され,胸鎖乳突筋で記録する前庭誘発頸筋電位(cervical vestibular evoked myogenic potential:以下cVEMP)と,外眼筋で記録する前庭誘発眼筋電位(ocular vestibular evoked myogenic potential:以下oVEMP)とに区別された。cVEMPの主たる起源は球形嚢,oVEMPの主たる起源は卵形嚢と考えられ,耳石器機能検査として広く用いられている。VEMPの臨床応用に関する研究も多くおこなわれており,さまざまな内耳障害に見られる特徴的な所見や加齢による影響が報告されている。VEMPの誘発には,気導音,骨導刺激,変法として電気刺激も用いられるが,cVEMPには気導音刺激が最も広く用いられている。クリックでもトーンバーストでも誘発され,健常人において最も効果的な刺激周波数は,400~800 Hzとされ2)~8),トーンバースト刺激では500 Hzで検査されることが一般的である。メニエール病(以下MD)では内リンパ水腫の存在により最適周波数が500 Hzから1000 Hzにシフトすると考えられ2)~5),この周波数特性を指標として算出された500–1000 Hz cVEMP slope値を用いた内リンパ水腫推定検査がMDの補助的検査として用いられている9)。一方,この周波数特性は,健常な高齢者でもみられるとされる5)~7)。当院で500 Hzと1000 Hzの2周波数でcVEMPの測定を行った症例において,周波数特性の疾患による特徴や年齢による影響について検討をおこなった。
当院めまい検査外来では,全症例に対し問診,純音聴力検査,重心動揺検査,赤外線CCD眼振検査,cVEMP,oVEMP,video Head Impulse Test(以下vHIT),自覚的視性垂直位(subjective visual vertical: SVV),温度刺激検査を施行している10)。cVEMPの測定にはNeuropackX 1(日本光電)を使用した。誘発には105 dBnHL,500 Hzのトーンバーストを刺激頻度4.6 Hzでヘッドフォンによる気導刺激として用い測定した。2019年9月から2022年5月まではMDなど内リンパ水腫が疑われる症例に対し500 Hzに加え1000 HzでもcVEMPの測定を行っていたが,2022年6月以降は,疾患による選別はせず,患者の体調や体力により1000 Hzでの追加検査が出来ないと判断した場合を除き,全症例に1000 HzでもcVEMPの測定を行った。2019年9月から2024年5月までに当院めまい検査外来を受診しcVEMP検査を施行した302症例のうち,500 Hzと1000 HzでcVEMPの測定を行った症例は185症例であった。そのうち,中耳疾患,中枢性疾患を除外した175症例(10–97歳,平均55.0 ± 19.3歳,男60名,女115名)を対象とした。測定体位は原則として患者の負担を少なくするため頭部挙上法による両側同時刺激とし,適度な筋緊張を保てるように適宜ベッドをgatch upして測定をおこなった。頭部挙上が困難な症例には,捻転法による片側刺激で測定をおこなった11)12)。
・cVEMP結果
cVEMP結果は,潜時13 msec付近にピークを持つ陽性波p13と潜時23 msec付近にピークを持つ陰性波n23の組み合わせによる2層性の波形が,少なくとも2回の測定で再現性のある場合に反応ありとし,認められない場合は無反応とした。反応ありの場合,振幅を平均背景筋活動により補正したp13-n23補正振幅(corrected amplitude:以下CA)の左右差(asymmetry ratio:以下AR)を用いて,ARが33%未満の場合は両側正常,ARが33%以上の場合は補正振幅の小さい側を反応低下とし,大きい側を正常とした8)。無反応と反応低下をcVEMP異常と判定した。
AR(%) = 100 × (AL − AS)/(AL + AS)
ALは大きい側のp13-n23補正振幅,ASは小さい側のp13-n23補正振幅である。
・cVEMP 500–1000 Hz slope
cVEMPの周波数特性の指標として500–1000 Hz slope(以下slope)を,以下の計算式を用いて算出し,slope <−19.9%のときslope陽性とした9)。500 Hzと1000 Hzのいずれの周波数でもcVEMPの反応が見られなかった場合はslope判定不可とした。
cVEMP 500–1000 slope = 100 × (CA500 − CA1000)/(CA500 + CA1000)
CA500は500 Hzのp13-n23補正振幅,CA1000は1000 Hzのp13-n23補正振幅である。
cVEMP異常,slope陽性のメニエール症例のcVEMP波形を提示する(図1)。

51歳女性,右メニエール症例のcVEMP波形
500 Hzで測定時のcVEMP結果は,左正常(補正振幅1.4),右異常(無反応)
1000 Hzで測定時は,両側再現性のある波形を認め,補正振幅は左2.4,右2.5
500–1000 Hz cVEMP slope値は,左–26.3%,右–100%で両耳ともにslope陽性
統計解析にはEZRを使用した13)。3群の差はKruskal-Wallisにて検定をおこなった。群間の差の多重比較にはSteel-Dwass法を用いた。p < 0.05を統計学的有意差ありとして判定した。本検討は独立行政法人国立病院機構東京医療センター倫理審査委員会の承認を得たものである。(承認番号R23-087)
cVEMPの判定は500 Hzの測定結果(以下:cVEMP500)を用いた。全175症例の疾患の内訳と疾患ごとのcVEMP500判定を表1に示す。左右一側でも異常を認めた場合はcVEMP500異常症例(低下/正常,無反応/正常,無反応/無反応)とした。VEMP以外の検査で異常所見を認めず耳石器の障害がめまい,ふらつきの主たる原因と考えられた症例を耳石器障害と分類した。突発性難聴(以下SD)と遺伝性難聴はめまいの自覚症状のない症例も含まれる。加齢性前庭障害(Presbyvestibulopathy:以下PVP)は60歳以上であることが診断基準に含まれるため,平均年齢は79.5歳と最も高かった。耳石器障害の分類に際して年齢は考慮していないが,全症例が59歳以上であり,PVPの次に平均年齢が高かった。PVPと耳石器障害では全症例でcVEMP500の異常を認めた。次いで,SD(74.2%),顔面神経麻痺(66.7%),MD(55.6%)の順にcVEMP500異常率が高かった。
| 疾患 | 症例数 | 年齢 | cVEMP500異常(%) | slope判定不可(%) | slope陽性(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| MD | 27 | 56.2 | 15(55.6) | 5(18.5) | 13(59.1) |
| DEH | 3 | 31.3 | 1(33.3) | 0(0.0) | 3(100.0) |
| 前庭性片頭痛 | 4 | 30.0 | 1(25.0) | 0(0.0) | 2(50.0) |
| SD | 31 | 63.8 | 23(74.2) | 9(29.0) | 17(77.3) |
| 前庭神経炎 | 13 | 58.5 | 6(46.2) | 3(23.1) | 3(30.0) |
| 顔面神経麻痺 | 6 | 58.7 | 4(66.7) | 1(16.7) | 3(60.0) |
| BPPV | 6 | 56.8 | 3(50.0) | 1(16.7) | 2(40.0) |
| PVP | 6 | 79.5 | 6(100.0) | 3(50.0) | 3(100.0) |
| 耳石器障害 | 13 | 74.0 | 13(100.0) | 10(76.9) | 3(100.0) |
| 遺伝性難聴 | 30 | 37.7 | 13(43.3) | 6(20.0) | 8(33.3) |
| PPPD | 12 | 53.0 | 2(16.7) | 0(0.0) | 3(25.0) |
| 心因性めまい | 11 | 46.1 | 3(27.3) | 0(0.0) | 5(45.5) |
| その他 | 4 | 56.0 | 1(25.0) | 1(25.0) | 0(0.0) |
| 不明 | 9 | 58.1 | 4(44.4) | 3(33.3) | 3(50.0) |
| 合計 | 175 | 55.0 | 95(54.3) | 42(24.0) | 68(51.1) |
BPPV:良性発作性頭位性めまい症,PPPD:持続性知覚性姿勢誘発めまい
cVEMP500において加齢による影響は両側性にみられると推測し,cVEMP500異常症例を一側のみ異常の症例と,両側とも異常の症例にわけた検討をおこなった。つまり正常(正常/正常),一側異常(低下/正常,無反応/正常),両側異常(無反応/無反応)の3群で年齢を比較した(図2)。正常群と一側異常群では年齢に有意差を認めなかったが(p = 0.33),両側異常群は正常群(P < 0.01)と一側異常群(p < 0.01)に比べ有意に年齢が高かった。

全175症例を,正常(正常/正常),一側異常(低下/正常,無反応/正常),両側異常(無反応/無反応)の3群にわけ各群で年齢差の検定をおこなった。各群の症例数と年齢は,正常群が79症例で48.5 ± 18.6歳,一側異常群は39症例で54.4 ± 17.9歳,両側異常群は57症例で64.5 ± 17.5歳であった。正常群と一側異常群では年齢に有意差を認めなかったが(p = 0.33),両側異常群は正常群(p < 0.01)および一側異常群(p < 0.01)に比べ有意に年齢が高かった。
*:p < 0.05,**:p < 0.01
疾患ごとのcVEMP slope判定結果を表1に示す。slope判定の疾患ごとの特徴を分析するため,左右でslope判定が異なった場合,より疾患の特徴を反映すると考えた判定を優先して判定した。すなわち,判定の優先順位を陽性,判定不可,陰性とし,一側でもslope陽性耳を認めた症例をslope陽性症例とし,残る症例で一側でもslope判定不可耳を認めた場合はslope判定不可症例とした。両耳とも陰性の症例をslope陰性症例とした。全症例数に対するslope判定不可症例数の割合をslope判定不可率とした。slope判定可能であった症例数(陰性症例数+陽性症例数)に対するslope陽性症例数の割合をslope陽性率とした。判定不可率は耳石器障害が76.9%と最も高く,次いでPVPが50.0%と高かった。耳石器障害,PVPでは判定可能であった症例の全てがslope陽性であった。遅発性内リンパ水腫(Delayed endolymphatic hydrops:以下DEH)もslope陽性率は100%であったがslope判定不可症例はなく,全症例がslope陽性であった。次いでslope陽性率はSDが77.3%と高く,MDは59.1%であった。
疾患にかかわらずslope判定と年齢との関係をみる目的で,全350耳(175症例)をslope判定結果ごとに陰性,陽性,判定不可の3群にわけ各群の年齢を比較した(図3)。陰性群に比べ陽性群は有意に年齢が高く(p < 0.01),陽性群に比べ判定不可群は有意に年齢が高かった(p < 0.01)。

全350耳(175症例)をslope判定結果で,陰性,陽性,判定不可の3群にわけ各群の年齢差の検定をおこなった。各群の耳数と年齢は,陰性158耳で48.2 ± 18.4歳,陽性102耳で55.3 ± 18.6歳,判定不可90耳で66.6 ± 15.7歳であった。陰性群に比べ陽性群は有意に年齢が高く(p < 0.01),陽性群に比べ判定不可群は有意に年齢が高かった(p < 0.01)。
**:p < 0.01
cVEMPの臨床応用として,前庭神経炎や聴神経腫瘍などにおける反応低下や反応消失を指標とした下前庭神経障害の評価,外リンパ瘻や上半規管裂隙症候群など音刺激に対する感受性の亢進した疾患における閾値の低下や振幅の増大,多発性硬化症など後迷路性病変での潜時の延長など多くの研究がある14)~16)。MDにおける500 Hzから1000 Hzへの最適周波数シフトに関する報告も多くみられる2)~5)。Toddら2)は,この周波数シフトは内リンパ水腫で生じた球形嚢の膜弾性の増加により共振周波数が増加するためと考察し,Rauchら3)は,内リンパ水腫による球形嚢の膨張により生じた共鳴周波数の変化によるものと推測した。Nodeら4)は,この周波数シフトがフロセミド負荷によって正常化されることから,このシフトは内リンパ水腫によって引き起こされた可能性があると示唆した。MDの内リンパ水腫推定にはいくつかの検査が提唱されているが,MD確実例における陽性率は,蝸牛系内リンパ水腫推定検査のグリセロールテストで43~63%,蝸電図で46~71%,前庭系内リンパ水腫推定検査のフロセミド負荷カロリック検査で40~80%,球形嚢系内リンパ水腫検査のグリセロール負荷cVEMP検査で40~59%とされる9)。今回の検討でDEHのslope陽性率は100%,MDで59.1%であり,slopeを用いた周波数特性検査は内リンパ水腫推定検査として有効と考えた。
加齢に伴うVEMPの影響として,振幅の減少や閾値の上昇が生じることが知られているが5)17),高齢者において最適周波数が500 Hzから1000 Hzへシフトすることも報告されている5)~7)。Taylorら6)は,加齢による振幅の減少や閾値の上昇は1000 Hzよりも500 Hzの方が年齢の影響が大きいこと,40歳以上では500 Hzと1000 Hzに比べ250 Hzでの反応が有意に小さくなることを報告し,加齢による耳石の数と密度の低下により共鳴が上方シフトすると推測している。我々の検討ではslope判定が陰性,陽性,判定不能の順に年齢が高くなっていた。加齢によりまず500 Hzの反応が低下し相対的に1000 Hzの反応が大きくslope陽性となり,さらに加齢がすすむと1000 Hzも反応が小さくなり,やがて消失するため,高齢者ではslope判定不可症例が増えるのではないかと推測した。slope陽性は高齢者でも見られる所見と考えられ,高齢者におけるslope検査を用いた内リンパ水腫の診断には注意が必要である。
vHITとVEMPの併用による前庭機能障害部位の組み合わせから病因病態解明の試みも行われている。vHITで後半規管のみの障害を認めた場合,cVEMP異常で球形嚢も障害されていれば下前庭神経炎のような神経障害が考えられるが,cVEMP正常の場合には神経障害より前庭蝸牛動脈の循環障害が考えられる16)18)。このようにcVEMPは病態を解明する上で重要な所見であるが,cVEMPは加齢の影響を受けやすく疾患による障害か判断に苦慮することがある。本研究ではcVEMP500で両側異常(すなわち両側無反応)を示す症例は高齢者に多くみられた。高齢者では,患側のcVEMP500だけで判定するのではなく,両側異常か患側のみの異常か,また1000 Hzで測定した結果も合わせて評価することで,加齢による影響を推測する手がかりになるのではと考えた。今後,slope値だけでなく,振幅の大きさも含めて,500 Hzと1000 Hzの結果を組み合わせることで,加齢による影響を評価できるか検証を続ける。
本研究ではSDにおいてslope陽性率が77.3%と高かった。Horiiら19)は,SD症例の中にも内耳造影MRI検査で内リンパ水腫が認められたとし,SDの内耳障害後に起きた2次的変化と考察している。Pyykköら20)は,SD症例の53%で内耳造影MRI検査において内リンパ水腫が認められたと報告している。またMDの多くが最初の症状として難聴を伴わないめまい,もしくはめまいを伴わない難聴で発症しており,最初の症状からMDの診断までに1~4年かかったと報告している。slope陽性が内リンパ水腫によるものとすれば9),SD発症後早期から見られる場合,SDの病因病態として炎症,血流障害などなんらかの内耳障害により内リンパ水腫が生じた症例や21),MDの初回発作,非典型のMDが含まれていたことも考えられる。slope陽性症例に対してはMDの可能性も念頭に,聴力回復した後も,生活指導を含め,蝸牛症状再発の注意喚起や聴力変動に留意した経過観察を行うことで再発防止につながる可能性がある。slope陽性が陳旧性SDの経過観察中に現れた場合は,2次的変化により内リンパ水腫が形成されたと考えられる。DEHは高度感音難聴から数年から数十年ほどして発症するとされるが,発症より前に内リンパ水腫が形成され,その後のDEH発症に関与するのであれば,高度感音難聴残存症例におけるslope陽性は重要な所見と考えた。SD症例でcVEMPが病態解明や経過観察に有効な検査となるか今後も検証を続ける。
本研究で得られた年齢に関する知見は,疾患の影響が完全には排除されていないため,今後は健常者を対象にした検討が必要である。また,疾患に関する知見には,年齢,発症から検査までの期間,めまい症状の有無が影響を与えている可能性がある。したがって,疾患ごとに年齢,発症時期,随伴症状により階層化した上での前向き研究が必要である。
本研究により,cVEMPの最適周波数が加齢に伴い500 Hzから1000 Hzにシフトし,それに伴いslope値が陽性化する傾向が示唆された。それゆえ,slope陽性所見が得られた際には加齢に起因している可能性も留意して結果を解釈する必要がある。また,cVEMPが前庭機能を評価するのみならず,slope値を求めることにより,聴覚障害を主症状とする症例においても内リンパ水腫の病態を検出する検査として利用可能か検討を続ける必要がある。
本論文の要旨は第83回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会(2024年11月,名古屋)にて発表した。
利益相反に該当する事項はない。