2025 年 84 巻 3 号 p. 141-150
SLC26A4 is known to cause auditory and vestibular disorders, including Pendred syndrome, DFNB4 and enlarged vestibular aqueduct. Recent investigations using Slc26a4-knockout (KO) mice have revealed diverse anomalies in the bony labyrinth, suggesting that abnormal otoconial formation largely underlies the balance deficits in this condition. However, a detailed understanding of how these defects diverge from normal otic capsule and otoconia development remain elusive. Here, we compared Slc26a4-KO mice with wild-type (WT) mice to clarify the pathogenic mechanism of SLC26A4-related vestibular dysfunction. First, we documented normal otic capsule and otoconial development in WT mice from birth to several weeks of age using micro-computed tomography (micro-CT). This revealed a stepwise calcification of the cochlear base, modiolus, and semicircular canals, as well as a progressive increase in otoconial volume in the utricle and saccule. By two to three weeks postnatally, WT otoconia reached functional maturity, supporting normal vestibular reflexes and stable locomotor behavior. In contrast, Slc26a4-KO mice exhibited a marked reduction or delay in otoconial growth, particularly in the saccule. The micro-CT scans also indicated enlarged vestibular aqueducts and decreased bone mineral density in parts of the labyrinth. Behavioral assays by the rotarod test showed significantly impaired balance and frequent circling behaviors in the KO mice, while vestibulo-ocular reflex analyses indicated diminished responses to tilt (otolith-based) rather than rotational (semicircular canal-based) stimuli. These findings suggest that SLC26A4 mutations disrupt the early mineralization processes of the otic capsule and otoconia, culminating in characteristic vestibular impairments that resemble those encountered in benign paroxysmal positional vertigo. Elucidating the differences between normal and aberrant progression of labyrinthine ossification and otoconial formation may aid in the development of therapeutic strategies—such as pharmacological interventions targeting ion homeostasis—to mitigate balance disorders in SLC26A4-related pathologies.
SLC26A4遺伝子は,Pendred症候群(Pendred syndrome)や前庭水管拡大症(EVA: Enlarged Vestibular Aqueduct),DFNB4などの原因遺伝子として知られ,そのバリアントは難聴だけでなく,めまいや平衡障害の発症にも関与している1)~4)。臨床的には,SLC26A4の病的バリアントを有する患者の約30~50%において回転性めまいを含む平衡障害が報告され,そのメカニズムの解明は診断・治療の両面から極めて重要である5)~8)。内耳においてSLC26A4遺伝子は,内リンパのpH調節や電解質輸送に関与しており,蝸牛血管条,らせん隆起,耳石器(卵形嚢・球形嚢),半規管膨大部,内リンパ嚢で発現している9)~11)。これらの部位の機能異常が,聴覚障害および平衡障害を引き起こすと考えられている。
近年,遺伝子改変マウスを用いた内耳研究が進み,特定の遺伝子バリアントがもたらす構造的・機能的な変化が明らかとなってきた。Slc26a4ノックアウト(KO)マウスはPendred症候群のモデルとして知られ,頭位傾斜や旋回行動といった典型的な前庭異常を示す10)12)。本モデルマウスの形態学的な解析からは卵形嚢および球形嚢の耳石形態に著明な変化や,巨大耳石の存在が明らかになっている10)。また自然発生の点突然変異を持つSlc26a4loop/loopマウスでは半規管内に異所性の耳石が観察されることもある13)。これらのことよりPendred症候群でみられる平衡障害は耳石および耳石器の発生や変性に深く関係していることが推定されてきた。しかし,石灰化に着目した耳石の生理的な形成過程や,どのような経緯で形態異常が生じてめまい・平衡障害の発症へと至るのかについては,未だ十分に解明されていない。
我々はこれまで,SLC26A4遺伝子の欠損や機能不全が蝸牛の形態形成異常や内リンパの恒常性破綻,さらには血管条の変性を介した進行性難聴の発症に深く関与することを,複数のマウスモデルを用いて明らかにしてきた9)14)~17)。特に,Slc26a4発現のタイミングが聴覚獲得にとって重要であること,またその不十分な発現が電気生理学的異常や組織構造の変化を引き起こすことを報告してきた。これらの研究は主に聴覚系を対象としていたが,SLC26A4が平衡機能,とくに耳石器や半規管を介した前庭感覚に与える影響については,依然として十分に明らかではない。
本研究では,マイクロCTによる三次元可視化解析と骨密度(Bone Mineral Density, BMD)の評価を新たに導入するとともに,半規管機能と耳石器機能を個別に評価できる新規マウス眼球運動観察装置を開発し,Slc26a4-KOマウスの平衡障害を多角的に分析した12)18)。さらに,正常発生過程における骨迷路および耳石の形成パターンを非破壊的三次元的に可視化・検証してSlc26a4-KOマウスの異常像と比較検討することで,SLC26A4の病的バリアントによる平衡障害の発症機構をより詳細に理解し,今後の治療戦略に繋げることを目指す。
本研究では,遺伝子改変技術によりSlc26a4遺伝子を欠損させたホモ接合型(homozygous)ノックアウト(KO)マウスを実験群(Slc26a4Δ/Δ)とし,ヘテロ接合型(heterozygous)KOマウス(Slc26a4Δ/+)あるいは野生型(WT)の同系統マウスを対照群として比較解析を行った。KOマウスは生後2週間頃から頭部傾斜(head tilting),上下振動(bobbing),旋回行動(circling)などの異常行動を示すことが先行研究で報告されている10)。今回は生後4週以降のマウスを中心に,詳細な行動学的・形態学的評価を実施した。実験群については,頻繁に旋回行動を認めるマウス(Slc26a4Δ/Δ (circling))と認めないマウス(Slc26a4Δ/Δ (no circling))にも分けて検討した。一方,野生型(WT)のマウスについては,骨迷路および耳石が正常に形成される時系列(生後0~8週齢程度)を観察し,正常発達過程の指標として利用した。
2.2. 行動解析マウスの平衡機能を総合的に評価するために,Rotarod試験を実施した。Rotarod試験では回転するロッド上にマウスを乗せ,加速度を一定条件に制御しながら落下までの時間を計測することで,バランス能力を評価した。
2.3. 眼球運動解析内耳由来の前庭情報を眼球運動へ反映させる前庭眼反射(Vestibulo-Ocular Reflex, VOR)を評価するため,新規に開発した回転と傾斜が可能な眼球運動観察装置を用いて(図1),回転刺激検査,傾斜刺激検査,および温度刺激検査(カロリックテスト)を実施した。回転刺激検査では,回転台に乗せた状態でマウスの頭部を水平に回旋し,眼球運動を赤外線CCDカメラで記録した。傾斜刺激検査では,マウス頭部を前額断面で右下方向にゆっくりと傾斜し,上下左右方向の眼球変位を計測した。温度刺激検査では,頭部をおおよそ60度ほど後屈した状態で外耳道に冷水を注入し,半規管由来の眼球運動を誘発して左右差を検討した。

(A)マウスを無麻酔でテーブルの中央に固定し,右目をCCDカメラで撮影した。テーブルにはモーションセンサーを設置し,加速度と角速度を記録した。円形のテーブルは振り子のように動かすことができ,正方形のテーブルは90°まで傾けることができる。(B)マウスの眼球が完全な球体であると仮定して,眼球の回転角度を計算した。
骨迷路や耳石構造を非破壊的に観察するため,実験群および対照群のマウス頭部に対してX線マイクロCT撮影を行って耳石の体積・局在や骨迷路の形態的特徴などを可視化した。また,野生型における耳石の石灰化過程の経時変化を精査するため,0週齢(出生直後)~8週齢までのWTマウスを複数時点でスキャンし,耳石の初期形成時期を三次元的に把握した。また,骨密度(Bone Mineral Density, BMD)を計算し,耳石の生理的な石灰化プロセスを定量的に評価した。膜迷路の構造を評価するためにホールマウント免疫染色を実施し,有毛細胞の形態と数を解析した。
実験群はRotarod試験での持続時間が対照群に比べて有意に短縮し,平衡障害を示した(p < 0.01)(図2)。

加速するロータロッド装置に留まる能力について各群のマウスを評価した。それぞれのマウスは8日間連続で3回テストされ,落下までの時間(秒)が記録された。実験群は対照群に比べて有意に短縮しており,頻繁に旋回行動を示すマウス(Slc26a4Δ/Δ (circling))ではより高度に障害されていた。★:p < 0.05(Tukey-Kramer検定)
回転刺激に対する眼球運動は,頻繁に旋回行動を認めるマウスSlc26a4Δ/Δ(circling)の一部を除いて,実験群と対照群の間で大きな差異を示さなかった。しかし,傾斜刺激への応答は実験群で著明に低下し,眼球変位の減弱が確認された(図3)。さらに,一部の実験群では,頭部を特定の角度まで傾斜した際に急激な異常眼球運動(眼振)が誘発され(図4),良性発作性頭位めまい症(BPPV)に類似した病態生理が推察された。温度刺激検査では,実験群の眼振最大緩徐相速度において,回転刺激検査と同様に傾斜刺激検査ほどの大きな減弱はみられなかったが,左右のばらつきを認め(図5),末梢前庭機能の不均衡が示唆された12)。

マウスを固定したテーブルをゆっくりと傾斜させていくと対照群では90度に傾けた時点で15度前後の垂直方向の眼位変化がみられるのに対して,実験群では5–10度程度しか眼位変化が見られなかった(A, B)。★★★★:p < 0.0001,★★★:p < 0.001,★:p < 0.05(Tukey-Kramer検定)

実験群のマウスを45°傾けた時点から水平方向の右眼振が観察された。

マウス外耳道に冷水を注入すると眼振(→)が観察されたが,時間経過とともに徐々に眼球運動は消失していった(A)。眼振の最大緩徐相速度は実験群では減弱しているものが多かったが,減弱していないマウスも多く見られた(B)。温度刺激に対する眼振最大緩徐相速度には多くのマウスで左右差が見られたが,実験群のマウスの回旋行動の方向と速度低下の有意側との関係には一定の傾向は見られなかった(C)。★★★★:p < 0.0001,★★:p < 0.01(Tukey-Kramer検定)
WTマウスの骨迷路は出生後から段階的に石灰化が進行し,まず蝸牛基部や前庭周辺が骨化された後,生後8日程度で蝸牛軸や半規管のほぼ全域で骨化が完了し,成体の骨迷路に近い構造となった(図6)。耳石は卵形嚢・球形嚢それぞれで初期の小さな結晶が観察され,生後2~3週までにその体積・大きさ・BMDが徐々に増加し,成体と同レベルに到達した(図7)18)。

生後3–4か月の骨迷路の正面図,側面図,および底面図の外観。骨迷路の骨化は2つの骨中心から始まっており,1つは前半規管の膨大部周辺で観察され,もう一つは,後半規管の膨大部付近で確認された。半規管の骨化は,蝸牛よりも遅れて始まり,生後8日の時点でも前半規管の一部では完成されなかった。

卵形嚢耳石の石灰化は生後3日から10日にかけて徐々に進行し,生後15日でほぼ完了した(E, K)。球形嚢耳石の石灰化は生後6日から10日にかけて徐々に進行し,同じく生後15日になるとほぼ完了し(E, K),生後3–4か月のものとほぼ同様の外観となった(F, L)。
実験群のマイクロCT像では,球形嚢における耳石形成不全が特に顕著であり,耳石体積自体が対照群のマウスに比べて有意に少ない個体が多かった(図8)12)19)。耳石は内耳の重力受容機能にとって不可欠であるが,その形成不全は傾斜刺激に対する眼球変位の障害や体平衡の破綻に結びつくと考えられた。また,しかし,耳石の局在は概ね正常であり半規管内の異所性耳石は認められなかった。迷路部や前庭水管の拡大も確認され(図9)20),これはPendred症候群などで認められる病態と類似した所見であった12)。

対照群のマウス(A)では耳石は球形嚢(矢印)と卵形嚢(矢頭)にそれぞれまとまって存在していたが,実験群のマウス(B,C)ではそれぞれの部位で散らばって存在しており,総体積も減少していた。球形嚢の耳石が完全に欠損しているマウス(C)も見られた。

パネルAとBは正面図,CとDはCTで再構成した骨迷路の背面図。対照群(C)に比べ,実験群(D)では,総脚(矢頭)と前庭水管(矢印)の骨迷路が著明に拡大していた。
ホールマウント免疫染色では,有毛細胞の形態および細胞数は対象群のマウスと比較して顕著な差を示さず,感覚上皮細胞の変性は初期段階では見られないことが確認された(図10)12)。

前庭の神経細胞である有毛細胞をMyo6とPhalloidinにて染色して細胞数と不動毛の形態を評価(A)したが,対照群と実験群の間に明らかな差を認めなかった(B)。すなわち,Slc26a4 KOマウスにおいて前庭の有毛細胞は少なくとも初期には障害されていないことが判明した。
本研究の狙いは,実験群で観察される骨迷路と耳石器の異常を,対照群の正常発生過程と対比することで,その病態メカニズムをより的確に評価する点にある。対照群では,耳石が出生後数日のうちに着実に結晶化し,2~3週齢までに成体の内耳と同程度の大きさ・密度に達していた。一方,実験群ではこの耳石形成が著しく遅延ないし欠損し,傾斜刺激に対する眼球変位の応答低下が観察された。また,回転刺激検査や温度刺激検査では実験群と対照群に大きな差は認めなかった。したがって,Slc26a4-KOマウスにおける前庭機能障害は,主に耳石形成異常によるものであり,半規管機能は比較的保たれていることが明らかとなった。この所見は,SLC26A4の病的バリアントを有する患者において,頭位眼振が見られることやカロリックテストの反応が保たれる,という臨床像と一致する。
先行研究によれば,Slc26a4-KOマウスでは胎生14.5日以降に内リンパ嚢や蝸牛管の拡大が生じ,胎生15.5日頃より内リンパの酸性化が進行すると報告されている21)。こうした内リンパ腔の体積拡大および内リンパのpHの低下は,内耳の発達過程やイオン輸送系に広範な影響を及ぼし,フリーラジカル増加などを招いて,感覚上皮や血管条の成熟を阻害する22)23)。さらに,内リンパの酸性化は前庭のpH感受性のカルシウムチャネルであるTRPV5とTRPV6の機能障害を引き起こすとされており24)25),内リンパ内のCa2+濃度上昇が耳石形成の異常へとつながり,聴覚や平衡覚の機能障害をもたらす可能性が示唆されている26)。
また,実験群に見られた傾斜刺激に伴う異常眼球運動(眼振)は,ヒトの良性発作性頭位めまい症(BPPV)に類似しており,耳石の剥離と半規管への迷入が関与している可能性が示唆される。しかし,異所性耳石の存在は確認されず,BPPVとは異なる病態で眼振が誘発される可能性も考えられた。加えて,本研究では前庭有毛細胞の形態自体は保持されていたことから,少なくとも初期段階では感覚上皮の直接的な変性よりも,内リンパ環境や耳石形態の異常が主要因となっていると考えられる。
4.2. 病態生理と将来的展望Slc26a4-KOマウスを用いた先行研究により,平衡障害の主因が耳石の形成不全にあることが示唆されていたが,本研究では野生型での正常な骨迷路・耳石発生の知見を参照することで,異常発生の具体的経路を明確化できた。すなわち,正常では連続的に形成される耳石の石灰化が,SLC26A4欠損に伴う内リンパpHやイオン交換障害によって阻害され,耳石の剥離脱落や欠損による耳石器の感受性低下,または脱落耳石の半規管への迷入によってめまい・平衡障害を引き起こすというメカニズムが見えてきたのである。
今後は,骨リモデリング機構や内リンパのイオン輸送経路をさらに分子レベルで解析し,耳石の結晶化過程を調節する新規治療法の可能性を探ることが期待される。また,臨床応用に向けては,SLC26A4遺伝子の病的パリアントを持つ患者の頭位性めまい対策として,耳石の安定化や内リンパ環境の調節を目標とする薬物療法・遺伝子治療が検討されるであろう。
Slc26a4-KOマウスでは,骨迷路の異常に加え,耳石の形成不全や欠損が蝸牛障害や前庭障害の主要因となり得ることが示唆されている。本研究では,野生型マウスにおける正常な骨迷路・耳石発生過程を三次元的に検証した結果と組み合わせて解析を行うことで,ホモ接合型KOマウスの異常発生メカニズムをより明瞭に捉えることができた。
具体的には,WTマウスでは出生直後から段階的に石灰化が進み,2~3週齢までに耳石が成熟するのに対し,実験群では耳石の体積減少が顕著であり,重力受容や姿勢制御に不可欠な機能が大きく損なわれる。その結果,回転刺激には比較的対応可能でも,傾斜刺激や頭位変換時に激しいめまい様症状が誘発される。これらの知見は,Pendred症候群を含むSLC26A4関連疾患で見られる特徴的な平衡障害の病態を理解するうえで大いに役立つ。
今後は,耳石の結晶化制御や骨迷路の石灰化過程に着目した治療アプローチ(例:イオンチャネル阻害薬や遺伝子補充療法など)の可能性について,さらなる研究が期待される。また,SLC26A4遺伝子病的バリアントを持つ患者の中でBPPV様症状を呈する群とそうでない群の差異を調べることで,臨床応用へのヒントが得られる可能性が高い。これらの研究成果は,めまい・平衡障害に苦しむ多くの患者に新たな治療選択肢を提供する糸口となるであろう。
利益相反に該当する事項はない。