2025 年 84 巻 3 号 p. 151-157
The video Head Impulse Test (vHIT) is a significant advancement in vestibular function testing, complementing caloric testing, which assesses only the horizontal semicircular canal. vHIT enables evaluation of all three semicircular canals and their corresponding vestibular nerves, providing a more comprehensive assessment.
Principles of vHIT: vHIT measures vestibulo-ocular reflex (VOR) gain using high-speed cameras and accelerometers. Unlike the conventional Head Impulse Test (HIT), which relies on visual detection of catch-up saccades (CUS), vHIT quantifies VOR gain and detects covert CUS, which occur during head rotation and are otherwise imperceptible.
Clinical Advantages: As compared with caloric testing, vHIT has three main advantages: 1. Assessment of Vertical Semicircular Canals – It allows evaluation of the anterior and posterior canals in addition to the horizontal semicircular canal, aiding in the diagnosis of conditions like vestibular schwannoma and superior canal dehiscence syndrome. 2. Independence from Ear Pathologies – Unlike caloric testing, the results of vHIT remain unaffected by external and middle ear conditions, making it useful in cases with conditions such as labyrinthine fistula due to cholesteatoma or otitis media. 3. Reduced Discomfort and Reproducibility – vHIT induces less nausea, allowing for repeated assessments, such as for disease monitoring and post-surgical evaluation.
Future Perspectives: CUS patterns may reflect vestibular compensation, with covert CUS associated with better postural stability. Analyzing CUS transitions could optimize vestibular rehabilitation, offering personalized therapy approaches.
While vHIT should not replace caloric testing, it serves as a valuable complementary tool. Further research into its application in vestibular compensation and rehabilitation is warranted.
従来,半規管機能検査として温度刺激検査が用いられてきたが,水平半規管のみの機能評価であった。近年,新しい半規管機能検査としてvideo Head Impulse Test(vHIT)が登場し1),国内外で幅広く用いられるようになってきている。本稿では,vHITの概要,vHITがどのような場面で有用なのか,vHITの将来展望について述べる。
頭部運動は3つの半規管と2つの耳石器,あわせて5つのコンポーネントにより検知されている。従来,温度刺激検査により水平半規管の機能評価しか行うことができなかったが,前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential: VEMP)2)3)の登場により,球形嚢および卵形嚢の機能評価も可能となった。さらに,vHITの登場により前半規管・後半規管の機能評価が可能となり1),これらを組み合わせることで5つのコンポーネント全ての機能を個別に評価することができ,平衡障害患者の病態を以前に比べ詳細に評価できるようになった。また,前半規管,水平半規管は上前庭神経,後半規管は下前庭神経の支配を受けるため,vHITは前庭神経機能の評価に用いることも可能である。vHITの基となったヘッドインパルス検査(Head impulse test: HIT)は1988年にHalmagyiとCurthoysにより報告された4)。HITは前庭機能の基本である前庭動眼反射(vestibulo-ocular reflex: VOR)を観察することで水平半規管機能を評価する検査法である。検者は患者と向かい合い,鼻を固視するよう指示した後,患者の頭部を左右どちらかへ素早く回転させる。半規管機能が正常であれば頭部の回転に伴ってVORが出現し,検者の鼻を固視し続けることができる。一方,水平半規管障害がありVORが障害されている場合は,頭部の回転にあわせて眼球も頭部回転方向へ偏位してしまう。しかし,固視を維持しようとするため遅れて頭部回転と逆方向の眼球運動が観察される。これをcatch-up saccade(CUS)と呼び,CUSが観察されれば回転した側の水平半規管の機能障害と判断される。HITは特別な機器を必要とせずベッドサイドで簡便に施行可能であるが,定性的・主観的検査であること,頭部回転中に生じるCUS(covert CUS)は肉眼では検出困難,という欠点がある。これらを解決するために開発されたのがvHITである。vHITは眼球運動を記録するための高速度カメラと頭部運動を記録するための加速度センサーを備える。これらにより頭部を急速に回転させた際の眼球速度と頭部速度の比であるVOR gainを測定する。健常者ではVOR gainはおおよそ1となる。VOR gainの一般的な基準は水平半規管0.8以上,垂直半規管0.7以上が広く用いられており,VOR gain低下かつCUSの出現が認められた場合に半規管機能低下と判断される5)。本邦では,2022年4月にvHITが「ビデオヘッドインパルス検査」として保険収載され,国内でも幅広く用いられるようになってきている。
同じ半規管機能検査である温度刺激検査と比較した場合,vHITには以下の3つの利点がある。すなわち,①垂直半規管の機能評価が可能である点,②外耳・中耳病変の影響を受けずに検査が可能である点,③嘔気などの不快な症状が少なく検査が可能である点である。自験例を中心にこれらの利点について症例を提示し解説する。
①垂直半規管の機能評価が可能温度刺激検査では水平半規管のみの評価に限られるが,vHITは垂直半規管の機能も評価できるため,病変が垂直半規管に限局する症例においても異常を検出できる。
・聴神経腫瘍におけるvHIT
聴神経腫瘍において,上前庭神経が障害されると前半規管や水平半規管,下前庭神経が障害されると後半規管に機能低下の所見が認められる。図1は後半規管のみの機能低下を認めた右聴神経腫瘍症例のvHIT所見であり,下前庭神経の障害が示唆された。腫瘍の由来神経と前庭神経障害の関係については一致するという報告6)7)と必ずしも一致しないとする報告8)があるが,術前に前庭神経の障害の有無を推定することは手術計画を立てる上で重要であり,術前の評価手段としてvHITが有用である。当科の報告9)10)では,めまいの自覚症状のある群では前半規管,水平半規管において有意にVOR gainの低下を認め,半規管機能と自覚症状には関連があることが示唆された。腫瘍径とVOR gainの間には有意な相関は見られず,腫瘍が大きいからといってVOR gainが低下しているという結果は得られなかった。その一方で感音難聴とVOR gainには有意な負の相関を認め,蝸牛神経と前庭神経の障害には関連がある可能性が示唆された。

右後半規管のVOR gain低下(点線)およびCUS(矢印)を認める。
・上半規管裂隙症候群におけるvHIT
垂直半規管に限局する病態として上半規管裂隙症候群が挙げられる。Mukherjeeらは上半規管裂隙症候群11耳にvHITを施行し,9耳(82%)で前半規管に異常を認めたと報告している11)。一方,自験例3例では全例前半規管機能は正常であり,報告によって差はあるが,VEMPだけでなくvHITも上半規管裂隙症候群の診断に有用な可能性がある。
・真珠腫性中耳炎半規管瘻孔におけるvHIT
真珠腫性中耳炎の半規管瘻孔の約90%は水平半規管に生じるが,垂直半規管に瘻孔を認めることがある。右真珠腫性中耳炎の再発症例のCT(図2AB)およびvHIT所見(図2C)を示す。本症例では,再発病変は前半規管周囲にまでおよび前半規管に瘻孔を認め,vHITでは前半規管含めて患側の3つの全ての半規管で機能低下を認めた。

CT水平断(A)および冠状断(B)において前半規管周囲の再発病変および半規管瘻孔を認める。vHITでは右前半規管のVOR gain低下(点線)およびCUS(矢印)を認める。
・自己免疫疾患による内耳障害の評価
自己免疫疾患により,全ての半規管の高度な機能低下を認めることがある。自験例では,大動脈炎症候群(図3A)12)および再発性多発軟骨炎(図3B)13)で全ての半規管機能低下を確認した。このようにvHITでは両側全ての半規管の機能低下も評価可能である。

大動脈炎症候群症例(A)および再発性多発軟骨炎症例(B)において,両側全ての半規管のVOR gain低下(点線)およびCUS(矢印)を認める。
温度刺激検査は外耳道に水や空気を注入して行うため,外耳道狭窄や中耳腔に病変がある症例では温度刺激が適切に半規管に伝わらず,評価が困難となる。また,鼓膜穿孔を伴う症例では注水による温度刺激検査は避けるのが望ましい。一方,vHITは頭部外転を刺激として用いるため,外耳・中耳病変の影響を受けず,これらの症例の半規管機能評価に適している。これまで,真珠腫性中耳炎半規管瘻孔14),顔面神経鞘腫15),ANCA関連血管炎性中耳炎16),小児急性中耳炎17),小児滲出性中耳炎18)などでvHITの有用性が報告されている。この中から真珠腫性中耳炎半規管瘻孔症例のvHITの検査結果について提示する14)。真珠腫性中耳炎半規管瘻孔症例の半規管機能評価において,温度刺激検査は前述の通り,温度刺激が半規管に適切に伝わらない可能性があり,瘻孔現象検査は陽性率約20%と偽陰性が非常に多いことが問題である。そのため,中耳病変の影響を受けないvHITが最適な検査法と考えられる。手術で瘻孔が確認された10例を瘻孔群,真珠腫性中耳炎として手術をしたが半規管瘻孔を認めなかった6例をコントロール群として比較を行った。瘻孔群において瘻孔の部位は水平半規管が9例,前半規管が1例であった。瘻孔群とコントロール群のVOR gainを比較したところ瘻孔群では有意なVOR gain低下が認められた(p = 0.001)。また,Dornhoffer & Milewski分類に従って瘻孔の深達度を評価したところ,瘻孔深達度が深い群の方が有意に半規管機能が低下していた(p = 0.016)。以上の結果より,真珠腫性中耳炎半規管瘻孔症例において術前にvHITを施行することで,瘻孔の有無や深達度を推定できる可能性がある。
③嘔気などの不快な症状が少なく検査が可能vHITは温度刺激検査と比較して不快な症状が少なく,複数回の検査が容易である。このため,vHITは術前・術後の比較や,同一症例の長期経過観察に有用である。斜台部に発生した巨大軟骨肉腫症例(図4A)において,術前のvHITでは患側全ての半規管のVOR gain低下およびCUSを認めた(図4B)が,術後には全ての半規管でVOR gainが正常化し,CUSも消失しており(図4C),機能改善を客観的に示すことができた19)。また,当院で手術を施行した聴神経腫瘍19例に対し,術前,術後1ヶ月以内,術後6ヶ月の時点でvHITを施行したところ,全ての半規管において術後に有意な半規管機能低下を認められた(図5)8)。

MRI T2強調像水平断(A)にて左斜台部に発生した腫瘍により内耳道,小脳,脳幹が圧排されている(矢印)。術前のvHIT所見(B)では左側全ての半規管のVOR gain低下(点線)およびCUS(矢印)を認めるが,術後(C)では左側全ての半規管のvHIT所見が改善している。

全ての半規管において,術後に有意なVOR gainの低下を認める。文献8より許可を得て引用,一部改変。
同じ半規管機能検査である温度刺激検査と比べるとvHITは感度が低いと報告されている20)21)。そこで,自験例において両者の検査結果を比較した22)。診察時に眼振を認めなかった症例78例に対し,vHITと温度刺激検査の両者を施行し検査結果を比較した。温度刺激検査は20°C 5 mlの少量注水法で施行した。12例は両検査とも異常,34例は両検査とも正常で,残りの32例(41.0%)は両者の検査結果が一致しなかった。32例のうち28例はvHITが正常で温度刺激検査が異常であり,これまでの報告と同様にvHITの感度が低いことを示す結果であった。一方,4例と少数であったがvHITのみで異常を認めた症例もあり,これらは主に垂直半規管の異常を示していた。このことから,温度刺激検査が正常の症例においてもvHITで異常を検出できる可能性があり,vHITの有用性のひとつと考えられた。
CUSは頭部回転中に出現するcovert CUS(肉眼では観察困難)と,頭部回転後に出現するovert CUS(肉眼で観察可能)に分類される(図6A)。また,CUSがまとまって出現する場合をorganized pattern,ばらついて出現する場合をdisorganized patternと呼ぶ23)(図6BC)。これらのCUSの出現様式は前庭代償の状態と関連している可能性があり,いくつかの報告がなされている。すなわち,covert CUS群とovert CUS群に分けた場合,covert CUS群の方が姿勢や歩行が安定していた24),潜時の短いcovert CUSがdynamic visual performanceに重要である25),organized patternとdisorganized patternを比較するとdisorganized patternの方がDizziness Handicap Inventory(DHI)で評価しためまいの自覚症状が強い23)と報告されており,前庭リハビリテーション(前庭リハ)が有効であった患者においてovert CUSの減少が認められている26)。以上のようにCUSのパターンを観察することで,患者の前庭代償の進行状況を推定できる可能性がある。自験例でも,経過観察の中でCUSの潜時が短縮し,overt CUSがcovert CUSへ変化したり,disorganized patternがorganized patternへと変化した症例を経験しており,前庭代償が進行したことを反映していると推定される。すなわち,これまでvHITは主に半規管や前庭神経の機能評価に用いられてきたが,CUSのパターンを評価することで前庭代償の評価も行える可能性がある。その場合,CUSのパターンに応じたテーラーメイドの前庭リハの導入や,前庭リハ前後のCUSを評価することによっての治療効果判定などへの活用が期待される。また,covert CUSが姿勢や歩行の制御に重要と考えられるため,overt CUSからcovert CUSへの転換を効果的に促す前庭リハを開発することができれば,より効率的な前庭リハを行うことができると考えられる。

(A)頭部回転中に出現するcovert CUSおよび頭部回転終了後に出現するovert CUS。(B)Organized pattern:CUSがほぼ一定の潜時で出現し,潜時のばらつきが少ない。(C)Disorganized pattern:CUSの潜時がランダムに分布し,ばらつきが大きい。
vHITの概要,有用性,将来展望について概説した。vHITは温度刺激検査を代替するものではなく,温度刺激検査に対するvHITの有用性を理解し,両者を適切に施行していくことが重要であると考えられる。また,現在はvHITの用途は機能評価が中心であるが,CUSの評価を通じて前庭代償の進行度を把握することで適切な前庭リハへ繋げ,よりよい治療効果を得るためにも使用できる可能性がある。
利益相反に該当する事項はない。