Equilibrium Research
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第83回学術講演会ミニシンポジウム1「これからの前庭リハビリテーション」
~理学療法士の立場からの前庭リハビリテーション~
浅井 友詞川村 愛実
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2025 年 84 巻 3 号 p. 158-164

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Translated Abstract

Vestibular rehabilitation (VR) was first reported by S. T. Cawthorne and F.S. Cooksey in the 1940s. In the1990s, Susan Herdman began advocating the importance of individualized VR exercise program prescriptions by physical therapists. In recent years, the American Physical Therapy Association has issued and updated (2023) VR clinical practice guidelines, which was followed by Japan instituting the Japanese Society for Equilibrium Research in 2024. This article describes the widespread beneficial effects of physical therapy prescribed VR. Since 2021, Nagoya City University Hospital has been providing physical therapy at the request of the otolaryngology department and prescribed by a rehabilitation physician. Physical therapist-prescribed VR has been approved by the ethics committee and typically includes the following: 1) Gaze stability exercises; 2) Habituation exercises; and 3) Substitution exercises. These exercises are performed for up to 40 minutes per session. In addition to the physician’s diagnosis, determining the appropriate VR exercises requires listening to the patient’s complaints and development of an individualized VR program. Representative case examples of patients who have benefitted from VR prescribed by a physical therapist are included. Case1 describes the successful recovery of a patient with persistent postural-perceptual dizziness (PPPD) with the chief complaints of neck pain and dizziness. Case 2 describes the successful return to daily activities of a patient who had been suffering from dizziness for 10 years. Thus, physical therapist-prescribed VR can be highly effective for improving the symptom of dizziness and functional activity tolerance. Furthermore, research suggests that further effects of VR can be expected through incorporating on-demand training using mobile sensors and mobile applications, training in virtual environments using neuromodulation, development of vestibular implants, and robot-assisted gait training. Physical therapy education in VR has become essential, and medical fees for VR are important for successfully managing dizziness.

 はじめに

前庭リハビリテーション(vestibular rehabilitation:VR)は,1940年代にCawthorne S.T,Cooksey F.Sが初めて報告して以来1)2),多くの臨床研究が行われ,めまい感の改善や姿勢の安定性,固視機能に有効であることを報告した。続いてNorre M.E(1980, 1988),Shepard N.T(1990)らはめまいが起こる動作を繰り返し行うことで動作時のめまい感を減少させることを示し,リハビリテーション医療の一領域としてVRは諸外国で広く定着している3)~5)。また,前庭機能障害患者に対するVRは,1990年代にHerdman S.Jにより理学療法士(physical therapist: PT)による個別運動プログラムの重要性が提唱された6)7)。さらに,2015年のコクランレビューでVRは,中等度から強度のエビデンスがあり安全で効果的な方法であると報告されている8)。私自身は1998年,米国Rancho Los Amigos Rehabilitation CenterにてVRの紹介を受け,2004年Loma Linda Universityの学生留学プログラムに帯同した際に講義を聴講し,大変興味を持った。米国では,PTに対するVRの卒前・卒後教育は充実しており,VR専門の理学療法クリニックが存在するなど理学療法の一領域として位置づけられている。

 ガイドライン(表)
表 ガイドライン

急性/亜急性の一側性前庭機能障害 慢性的な一側性前庭機能障害 両側前庭障害
頻 度 1日3回
合計12分以上
1日3~5回
合計20分
1日3~5回
合計20~40分
期 間 2~3週間 4~6週間 8~12週間
PT介入方法 週1回の指導 週1回の指導 週1回の指導

2016年米国理学療法士協会は,VRガイドラインで一側性末梢前庭障害に対するVRの有効性を示し9),2022年には急性期末梢前庭障害,両側性末梢前庭障害に対しても有効であると改定している。2022年に更新されたガイドラインでは,前庭機能低下による,めまい・ふらつき,視線および歩行の不安定性,空間における姿勢制御の障害は,個人の生活の質,日常生活,運転,および仕事の活動に悪影響を及ぼす可能性があると記載している10)。また,本邦においても日本めまい平衡医学会が2024年にガイドラインを発刊した11))。また,めまい・ふらつきの症状は様々な原因で発症し,リハビリテーション現場で遭遇する機会が多い症状であり,理学療法の役割は大きいといえる。

 名古屋市立大学病院でのVRの取り組み

名古屋市立大学病院では,2021年より理学療法士が介入する,VRを行っている。

1)耳鼻咽喉科医師の診断・依頼

耳鼻咽喉科では問診,アンケート,眼振検査,温度刺激検査,重心動揺検査,などの種々の平衡機能検査を行い,めまい診断がなされ,カンファレンスを経て,VRの適応を判断され,リハビリテーション科(リハビリ科)に理学療法が依頼される。カンファレンスには医師,検査技師,PTが参加している。

2)リハビリテーション医師処方

リハビリ科医師は依頼を受け,対象者の併存疾患等を合わせ診察し,理学療法を処方する。

3)理学療法

PTは医師からの処方を受け,Dizziness Handicap Inventoryなどのアンケートや理学療法評価による問題点に基づきVRを開始する。理学療法は,1回あたり40分(2単位)の個別VRを3カ月間に7回実施している。

a)機能評価:重心動揺検査(開眼・閉眼・ラバー負荷なし・あり),Time Up and Go test,Dynamic Gait Index,Functional Gait Assessment,Motion Sensitivity Quotientを中心に必要に応じて下肢筋力評価,頸部関節可動域評価,知覚評価を行う。

b)理学療法:プログラムは,1)Gaze stability exercise,2)Habituation exercise,3)Substitution exerciseをパンフレット12)に沿って実施し,動作の難易度は,座位や遅い動作から開始し,動作の安定に合わせて徐々に難易度を調整する。評価で確認した患者が苦手な動作に基づいた訓練も実施する。介入期間中は毎日2回以上,合計20分以上の自宅での自主トレーニング(Home VR)を行うよう指示し,Home VRの進捗状況を日記にて管理する。なお,上記VRは,名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を得て行っている(管理番号46-21-0002)。

 PT介入による効果の紹介

代表的症例を提示し,ガイドラインに沿ったVRに加えPTによる個別VRの効果について紹介する。

 症例1

年齢・性別 : 70歳代,女性。

主訴:頭位性のめまい,持続性の浮遊性めまい。

現病歴:X年5月に,数秒程度継続する頭位性めまいを発症し,以後浮遊性めまいを繰り返した。近医受診し投薬治療も改善なく,浮遊性めまいが持続するようになり,8月当院耳鼻咽喉科初診となった。

併存疾患:頚椎症

現症:めまいに対する恐怖感と頸部痛のため,十分な懸垂頭位を取れない中で行った頭位変換眼振検査にて左下懸垂頭位にて左向き回旋性眼振を認め,左後半規管型良性発作性頭位めまい症(BPPV)と診断された。また,持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)を併発していると診断された。前庭機能検査では,温度刺激検査は正常,video head impulse test(vHIT)では,左後半規管のみ前庭動眼反射の利得(VOR gain)が0.35と低下を示し,他の半規管は正常であった。頸部痛と恐怖感にて医師によるEpley法は断念された。9月9日にSemont法指導を目的にリハビリ科へ依頼され,頸部痛に対し画像検査にて頸部運動の禁忌がないことを確認後にVR及び頸部理学療法を処方された。当初,頸部痛のためVRを患者が拒否されたが,理学療法にて頸部の疼痛を抑制した。その後,頸部運動を獲得し,VRが可能となった13)

理学療法:初回プログラム(図1):リラクセーション,頸部自動運動,頸部Home エクササイズ指導を行った。2回目以降のプログラム(図2):1)頸部周囲筋徒手的緊張抑制 2)鏡を用いた上位・下位頸部関節可動域エクササイズ 3)頭位変換トレーニング 4)VR 5)頸部Homeエクササイズ指導を行った。5回目には,頸部運動が十分可能となり耳鼻咽喉科医師と共にEpley法を施行した。6回目はVRすべての動作が可能となり,7回目介入時にはすべての症状が消失した。

図1  初回理学療法

a)リラクセーション b)鏡を用いた頸部自動運動

図2  2回目以降の理学療法

a)徒手療法 b)Semont法

理学療法を行うにあたり,初回は頸部痛とめまい感による頭位変換への恐怖心がありVRに対する拒否があった。そこで,リラクセーション位での頸部自動運動,鏡を用いた自動運動を指導し,頭部回旋運動を誘導した。2回目には徒手的に頸部筋緊張を抑制し,頸部の解剖学的構造に基づき頸部全体の運動促通と上位頸部の動きを獲得した(図3)。上位頸部の動きは前庭との関連性が高く,めまい症状の抑制に寄与したと考えられた。

図3  鏡を用いた下位・上位頸部のyaw・pitch・roll 運動

 症例2

年齢・性別:30歳,女性。

現病歴:10年前に1日以上続く回転性めまいを発症,以後持続的な浮遊性めまいがあり当院耳鼻咽喉科を受診した。一時的な浮動性めまいは,動作や視覚刺激で悪化し,疲れやすく就業が困難な状況であった。

現症:眼振所見は認めず,温度刺激検査では右半規管麻痺100%,vHITでは右前半規管ではVOR gainの低下,前庭誘発筋電位検査(cVEMP, oVEMP)においても右の反応低下を認めた。右急性前庭障害を先行するめまいとして発症したPPPDと診断された。VRの適応と診断され,理学療法が処方された。

理学療法:初回介入時はVRパンフレットにて動作確認をした。日常生活内での頸部運動を意識(買い物,床・窓拭きなど)するように指導した。2回目は1回目介入後より立位安定性を自覚(特に閉眼)したため,物拾い動作を追加した。3回目来院時にはVR開始時より活動量が増加していた。独自に開発した多機能マットを使用し,立位にて足関節底背屈運動による前足部,踵部への体重移動を指示し,重心の前後移動を誘発することで下肢・体幹・頭部への外乱刺激時の協調性を獲得させた。4回目にはプールで水面の視覚外乱を加えた歩行練習をするように指導した。1カ月後評価では,方向転換動作での不安定性残存を認めた。軸回転は可能であったが右移動回旋動作は不安定であった。そこで,平衡機能検査の結果および患者の訴えから前庭脊髄路の概念14)に基づき,その場での物拾い動作や広い範囲での物拾い動作を追加した(図4)。2カ月後評価時には,広い範囲での物拾い動作を継続させ,3カ月後評価時には,右移動回旋動作でのふらつきは改善した。しかし,家事や掃除,仕事への復帰が困難であり3カ月評価以降にプログラムの再構築を行った(図5)。

図4  修正したプログラム

a)定位輪投げ動作:立位にて体幹頭部の上下,回旋運動

b)移動輪投げ動作:ステップを加えた体幹頭部の水平移動および上下,回旋運動

図5  プロトコール

プログラムは,視覚刺激装置付き床反復刺激装置(オージー技研社製)を用い姿勢保持評価を行い,多機能マットを用いてトレーニングを指導した(図6)。

図6  再構築したプログラム

a)床移動:床面を8 cmの幅でランダムに前後方向へ刺激し,同時に視覚刺激を加える。

b)多機能マット:中央部を硬くし,足関節の底背屈運動による頭部・体幹への外乱刺激を容易にしたマットの使用

姿勢保持評価では頭部の動揺が大きかったが,5カ月後には頭部が安定し足関節戦略が獲得された(図7)。

図7  再構築したプログラムの効果

3カ月介入+5カ月後では床外乱刺激時,頭部の安定性が獲得され,足関節,膝関節の外乱に対する揺らぎが連動し足関節戦略が獲得された。

 展望

本邦でのVRは,医師によりパンフレットを用いた指導が中心となっているが,前庭機能障害患者の中には複合的な症状を訴える患者も多く,ガイドラインに基づくVRに加え,Narrative Based Physical Therapyの役割が期待される。我々は,PTが関わり,ガイドラインに基づいた治療に加え個々の症状に合わせたプログラムを行うことで,難症例も改善することを経験した。また,Home VR指導で各症例に適した運動の目的を伝え実施することは,高い治療効果が期待できるといえる。

VRの目的は,平衡覚,視覚,体性感覚にアプローチする姿勢安定性の獲得に加え,身体的な状態と身体活動レベルを向上させること,正常に近い社会的活動の参加に戻らせること,社会的な孤立感を減少させることが挙げられている9)10)。PTは,神経生理学・運動生理学・バイオメカニズムを基本とした運動療法を治療の手段としており,個別VRは平衡障害のみならず筋力や柔軟性,持久性の向上にも効果が期待されると考える。また,リハビリテーション医療の役割は,国際生活機能分類(International Classification of Functioning:ICF)に基づき,患者の活動性の向上,社会参加を強調しており前庭障害患者の社会復帰に貢献することに適するといえる。一方,VRがめまい症状や姿勢の改善に適応し医療経済効果は高く,将来的には,モバイルセンサー・モバイルアプリによるオンデマンドトレーニング ,仮想環境でのトレーニング(神経調節の使用),前庭インプラントの開発,ロボット支援歩行訓練を取り入れ,PTの専門教育のための高い基準や病態生理学的概念に基づく新しいリハビリテーションプログラムの構築へと進むことが期待される15)。したがって,本邦においてもVRが根付き,さらに治療機器を含めた研究が期待できる分野である。

本邦では本学会のご指導と日本前庭理学療法研究会の活動,2024年に示されたガイドラインの提示によりVRに携わるPTは増加しつつあり,VRに関する多くの報告がある12)16)~25)。したがって,診療報酬の認可を目指して,前庭機能障害に対しPTが行う個別VRの本邦におけるエビデンスを構築する必要がある。

 まとめ

VRは,本邦において医師によるパンフレットを用いた指導が一般的に行われている。しかし,諸外国ではPTによる個別VRが施行されその効果が示されている。そこで今回は,PTによる個別VRのシステムと効果について紹介した。

 謝辞

VRに対するPTの介入に関して,名古屋市立大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 岩﨑真一教授,蒲谷嘉代子先生はじめ,めまいグループの先生方にご指導を賜り,深謝申し上げます。

 利益相反に関する事項

投稿論文に関連する研究助成に関して,オージー技研株式会社より視覚刺激装置付き床反復刺激装置の提供を受けた。

文献
 
© 2025 一般社団法人 日本めまい平衡医学会
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