Equilibrium Research
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シリーズ教育講座「めまい診療に有用な自覚的評価指標」
6.自律神経機能異常とめまい:関連する主観的評価指標と臨床応用
橋本 和明端詰 勝敬
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2025 年 84 巻 4 号 p. 169-175

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Translated Abstract

Abnormal autonomic function has a significant impact on the appearance and severity of dizziness. Therefore, it is important to evaluate the autonomic nervous system function in clinical practice. While the autonomic nervous system is anatomically classified as a peripheral nervous system, it is innervated by a higher central nervous system that is associated with psychological factors such as stress and emotion. Abnormal autonomic function has both organic and functional aspects, and both often coexist and are difficult to categorize clearly. However, the degree of dysfunction perceived by the patients themselves can be assessed by means of several questionnaires. The Toho Medical Index consists of 43 questions on symptoms related to autonomic dystonia and 51 questions on psychological symptoms, which can be answered with a “yes” or “no”. The index can be classified into four patterns, such as “Vegetative syndrome,” by answering “yes” or “no” to questions consisting of 43 autonomic nervous system-related symptoms and 51 mental symptoms. Another method is to observe autonomic dysfunction indirectly by evaluating the effects of the central nervous system, known as central sensitization. The Central Sensitization Inventory is used internationally to evaluate central sensitization. The Somatic Symptom Scale-8 is a questionnaire that assesses the burden caused by physical symptoms, including dizziness, through eight questions. In our previous study, we were able to extract the effects of central sensitization in somatic symptom disorder with high accuracy by utilizing this questionnaire. In the clinical evaluation of dizziness, it is necessary to evaluate not only organic abnormalities of the autonomic nervous system but also functional disorders of the autonomic nervous system, and the questionnaires mentioned above may serve as simple screening tools.

 緒言

ヒトの内部環境の保全には自律神経系の働きは欠かせない。古くはWalter B. Cannonによって提唱された概念であるホメオスタシスに代表されるように,ヒトの内部環境はストレスのような外部環境,身体的な刺激や要因による影響に対して自律神経系を介した変化が生じることで恒常性が保たれている。しかし,内部環境が安定に至るまでの過程は様々であり,時にこの移り変わりの過程において,身体症状を呈する場合がある。特にめまいやふらつきは自律神経系の影響が反映されやすく,患者が知覚する症候としても頻度が多い。そのため,めまいの診療においては,不随意で常に変動的である自律神経系の影響を考慮する必要がある。自律神経系の機能を評価するためには,関連する生理反応や影響を及ぼす心理反応を捉えることが重要である。本稿では,自律神経機能とストレスの関連性や障害機序の違いについて概論するとともに,めまいの診療における自律神経系の評価指標として自記式の質問紙を活用する方法について論じる。

 自律神経系に対するストレスの影響

自律神経系は解剖学的には末梢神経に分類され,前頭前野や島皮質,帯状皮質,海馬,扁桃体といった高次の中枢神経系からの神経支配を受けている。これらの領域は大脳辺縁系とも重複し,ストレスや情動といった心理的要因に影響される。ストレスが及ぼす生理的なメカニズムについては明確な解明には至っていない。仮説としては,ストレスの負荷がかかると扁桃体などの領域を中心として,心理的な負荷情報を統合し,Hypothalamic-Pituitary-Adrenal axis(HPA軸)を介したホルモンバランスの変動や交感神経系の活性化といった機序を介することで様々な臓器・器官に影響を及ぼし,結果として疾患の発症や身体症状を増悪させる要因となると考えられている。

ストレスは,ライフイベント,デイリーハッスルズ,トラウマティックイベントという3つに大別することができる。ライフイベントとは,身近な人間との死別や離別,就職,結婚,転居といった人生の分岐点となるような大きなイベントのことである。ヒトはライフイベントに対してある程度は耐久力が備わっており,多くの場合に乗り越えることができる。しかし,ライフイベントの回数や大きい負荷が短期間に重なることで心身の健康状態が損なわれると考えられている1)。それに対し,デイリーハッスルズとは,通勤・通学や仕事,家事・育児,人間関係といった日常生活で経験するような小さなイベント2)のことあり,長期的に蓄積し続けることで健康状態の悪化や,幸福度の低下に寄与する要因となる3)4)。そして,トラウマティックイベントとは,日常的にはあまり経験しないような,著しく悲惨で脅威的な体験のことであり,一般的には自然災害や犯罪,戦争といった死を想起するような出来事が該当する。トラウマティックイベントに暴露すると過覚醒を伴い,chronodisruptionと呼ばれる生体リズムの乱れが生じ,ノルアドレナリンやHPA軸の機能に影響を及ぼすことで自律神経系における恒常性が障害される5)

無論,こうしたストレスの反応は,遺伝的な素因や生物学的な要因に加え,性格や気質,レジリエンスに代表される自我の柔軟性や養育環境,文化・環境・宗教などの社会的環境といった多面的で複合的な要因を受ける。そのため,一時的な自律神経系の乱れが生じても,恒常性によって自然に改善する場合もあれば,身体疾患の悪化である心身症,精神疾患の発症あるいは増悪に進展する場合もあり,個人差が大きい。これらの多角的な要素を評価するために,忙しい臨床場面においては自記式質問紙が活用されることになる。不安や抑うつ気分といった精神症状や,性格,感情といった心理的状態,介護のストレス,社会的孤立といった社会的状態を評価する指標に至るまで,様々な自記式質問紙が存在するが,自律神経系の障害は生理現象であるために,質問紙で評価する場合には患者が自覚する症候として解釈することになる。そのため本稿では特に,症候学的な側面に注目した質問紙を紹介する。

 自律神経系の機能評価の方法と判定基準

自律神経系の障害について直接的に焦点を当てたスクリーニングツールは多くはない。国内で汎用される質問紙としては,自律神経失調という概念が提唱されはじめた1960年代から1970年代,多彩な症状を評価するために開発されたToho Medical Index(TMI)6)がある。TMIは43問の自律神経性愁訴と51問の精神性愁訴から構成される質問紙である(表12)。それぞれ11点を境とし,自律神経失調型などの4つの類型(図1)に分類することで,臨床場面における薬剤選択の参考所見としての活用が報告されている7)

表1 Toho Medical Indexにおける自律神経症状の質問項目

1:いつも耳鳴りがしますか? 22:皮膚が非常に敏感でまけやすいですか?
2:胸か心臓のところが締め付けられるような感じを持ったことがありますか? 23:顔がひどく赤くなることがありますか?
3:胸か心臓のところが押さえつけられるような感じを持ったことがありますか? 24:冬でもひどく汗をかきますか?
4:動悸が打って氣になることがよくありますか? 25:よく皮膚に蕁麻疹(じんましん)ができますか?
5:心臓が狂ったように早く打つことがありますか? 26:よくひどい頭痛がしますか?
6:よく息苦しくなることがありますか? 27:いつも頭が重かったり痛んだりするために,気がふさぎますか?
7:人より息切れしやすいですか・ 28:急に熱くなったり,冷たくなったりしますか?
8:ときどき座っていても息切れすることがありますか? 29:たびたび,ひどい「めまい」がしますか?
9:夏でも手足が冷えますか? 30:気が遠くなって倒れそうな感じになることがありますか?
10:手足の先が紫色になることがありますか? 31:今まで2回以上氣を失ったことがありますか?
11:いつも食欲がないですか? 32:からだのどこかに「しびれ」や「痛み」がありますか?
12:吐き気があったり,吐いたりしますか? 33:手足がふるえることがありますか?
13:胃の具合が悪くてひどく氣になることがありますか? 34:からだが,カーッとなって汗が出ることがありますか?
14:消化が悪くて困りますか? 35:疲れてぐったりすることがよくありますか?
15:いつも胃の具合が悪いですか? 36:とくに夏になるとひどく体がだるいですか?
16:食事のあとか,空腹のときに胃が痛みますか? 37:仕事をすると疲れ切ってしまいますか?
17:よく下痢しますか? 38:朝起きるといつも疲れ切っていますか?
18:よく便秘しますか? 39:ちょっと仕事をしただけで疲れますか?
19:肩や首すじがこりますか? 40:ご飯が食べられないほど疲れますか?
20:足がだるいですか? 41:気候の変化によって体の調子が変わりますか?
21:腕がだるいですか? 42:特異体質と医者にいわれたことがありますか?
43:乗り物に酔いますか?
表2 Toho Medical Indexにおける精神症状の質問項目

1:試験の時や質問の時に汗をかいたりふるえたりしますか? 26:精神病院に入院したことがありますか?
2:目上の方が近づくと,とても緊張してふるえそうになりますか? 27:家族の誰かが精神病院に入院したことがありますか?
3:目上の人が見ていると仕事がさっぱりできなくなりますか? 28:ひどい「はにかみ」や神経過敏なたちですか?
4:物事を急いてしなければならない時には頭が混乱しますか? 29:家族にひどい「はにかみ」や神経過敏な人はいますか?
5:少しでも急ぐと誤りをしやすいですか? 30:感情を害しやすいですか?
6:いつも指図や命令をとりちがえますか? 31:人から批判されるとすぐ心が乱れますか?
7:見知らぬ人や場所が気にかかりますか? 32:人から気むずがしがり屋と思われていますか?
8:そばに知った人がいないとオドオドしますか? 33:人からいつも誤解されますか?
9:いつも決心がつきかねますか? 34:友人にも気を許さないですか?
10:いつも相談相手がそばにいてほしいですか? 35:仕事をしようと思ったらいてもたってもいられなくなりますか?
11:人から気がきかないと思われていますか? 36:すぐカーっとなったりイライラしたりしますか?
12:よそで食事をするのが苦になりますか? 37:いつも緊張していないとすぐ取り乱しますか?
13:会合に出ても一人ぼっちの感じがして悲しいですか? 38:ちょっとしたことが癇にさわって腹がたちますか?
14:いつも不幸で憂うつですか? 39:人から指図されると腹が立ちますか?
15:よく泣きますか? 40:人から邪魔されてイライラしますか?
16:いつもみじめで気が浮かないですか? 41:自分の思うようにならないとすぐカーっとなりますか?
17:人生はまったく希望がないように思われますか? 42:ひどく腹を立てることがありますか?
18:いっそ死んでしまいたいと思うことがありますか? 43:よく体が震えますか?
19:いつもクヨクヨしますか? 44:いつも緊張してイライラしていますか?
20:家族にもクヨクヨする人がいますか? 45:急な物音で飛び上がるように驚いたり震えたりしますか?
21:ちょっとしたことでも氣になってしかたがないですか? 46:どなりつけられるとすくんでしまいますか?
22:人から神経質だと思われていますか? 47:夜中急に物音がしたりすることがよくありますか?
23:家族に神経質な人がいますか? 48:恐ろしい夢で目の覚めることがよくありますか?
24:ひどい神経症(ノイローゼ)になったことがありますか? 49:何か恐ろしい考えがいつも頭に浮かんできますか?
25:家族にひどい神経症になった人がいますか? 50:よく何のわけもなく急におびえたりしますか?
51:突然冷や汗のでることがよくありますか?
図1  Toho Medical Indexにおけるパターン分類

海外で使用されているスケールとしてはComposite Autonomic Symptom Score (COMPASS)-318)がある。COMPASS-31は自律神経機能として起立性不耐症,血管運動,分泌運動,胃腸,膀胱,瞳孔運動の6つの下位項目について31問の自覚症状を評価する質問紙である。合計スコアは0点から100点の範囲で得点が高いほど症候性であることを意味する。COMPASS-31はもともと,164項目のCOMPASS9)の短縮版として開発された経緯がある。COMPASSは起立試験や定量的軸索反射性発汗といった生理検査をスコアリングすることで自律神経障害の程度を評価するComposite autonomic scoring scale(CASS)10)との相関性が知られている。但し,COMPASS-31は明確なカットオフ値は開発されていない。探索的ではあるが,2型糖尿病における先行研究では,心血管性自律神経障害のスクリーニングにカットオフ値を28.67点とした場合に中程度の精度で判別できたと報告されている11)。また,パーキンソニズムをきたすパーキンソン病と多系統萎縮症の鑑別には13.25点をカットオフ値として用いる方法も報告されている12)。このように疾患毎にスコアにはばらつきがあるため,臨床において使用する際には留意する必要がある。

自律神経系の障害について,間接的に評価しうるツールがある。心身医学の領域では近年,中枢性感作という概念が注目されている。中枢性感作は疼痛性疾患における神経生理学的な病態として概念化されたものである。中枢性感作とは,中枢神経の侵害受容性ニューロンの興奮性が増強されることで,上行性の痛覚刺激に対する感受性が高まる現象とされ,心理的要因や社会的要因の影響を強く受けることが報告されている14)。例えば,めまいに関連する疼痛性疾患として,片頭痛や線維筋痛症が有名であるが,両者では自律神経症状をきたすことが知られており,その背景病態として中枢性感作が存在する可能性がある13)。このように,中枢性感作を評価することは,間接的に自律神経系の不調を抽出できる可能性が考えられる。

中枢性感作の測定ツールとしては,Central Sensitization Inventory(CSI)14)が国際的に汎用されている。CSIは“筋肉に硬さや痛みを感じる”,“明るい光に過敏である”といった中枢性感作に伴う自覚症状について,0点から4点の5段階で評価する25項目の設問から成るパートAと,これまでの関連疾患についての既往をスコアリングするパートBから構成されている質問紙である。CSI-Aの合計得点は0点から100点であり,一般的なカットオフ値は40点であるが,日本人では諸外国よりもスコアが低い15)ことも報告されていることは留意する必要がある。CSIについても生理指標との相関が確認されており,下行性疼痛抑制系の機能障害を示唆する血清Brain-Derived Neurotrophic Factorとの相関性16)が示されていることから,簡便なスクリーニングツールとしての利用価値は高い。CSIによって中枢性感作の程度を評価することは,高次の神経領域の機能障害を測定することであり,間接的に自律神経症状の生じやすさを観察可能であると考えられる。

中枢性感作の評価については,Somatic Symptom Scale-8(SSS-8)17)18)という8項目の質問から構成された質問紙でも,より簡便にスクリーニングすることができるかもしれない。アメリカ精神医学会の基準では,慢性的な機能性疾患の殆どは身体症状症という概念に含まれるが,SSS-8はこの身体症状症で汎用される質問紙である。身体症状症ではめまいを含む多彩で慢性的な症状を認め,SSS-8では特に頻度が高い胃腸の不調,腰背部痛,腕・脚・関節の痛み,頭痛,胸痛・息切れ,めまい,疲労感・気力低下,睡眠障害の計8症状に対する臨床的な障害度を5段階のリッカートスケールで評価する。SSS-8の合計点は0点から32点であり,得点が高いほど障害度が高いことを意味している。我々の調査では,身体症状症では13点をカットオフ値として中枢性感作の影響(中枢性感作症候群の抽出)を評価する方法を報告している(図219)

図2  身体症状症の中枢性感作を抽出するためのSSS-8のカットオフ値

そして,めまいの診療ではVertigo Symptom Scale(VSS)20)が自律神経症状を含めて評価する尺度として知られている。VSSについては日本語の短縮版21)も開発されており,臨床的にも有用であるが,誌面の都合上,使用方法や尺度の詳細については開発者である近藤先生が執筆された論文22)や他号のシリーズ教育講座等をご参照されたい。

 “自律神経失調”と“自律神経障害”の違い

症候学の視点から自律神経系の不調に対する質問紙の活用について述べてきたが,ここで自律神経系の不調についての種類に言及したい。自律神経系の障害は,自律神経障害と,いわゆる自律神経失調がある。自律神経障害では器質的な障害の要素が大きいのに対して,自律神経失調では非器質的な機能障害が主体である。自律神経失調とは“発熱”や“うつ状態”のような状態名であり,厳密な疾患名ではないが,自律神経症状が強い病態像を呈している,というニュアンスで用いられている。両者はよく混同されているが,そもそも併存している場合も多い。例えば,線維筋痛症は全身の痛みに加えて,頻繁に機能的なめまい症状をきたす疾患であるが,線維筋痛症では両者が併存していることが知られている。生理機能検査と質問紙を組み合わせて実施された以前の研究23)によると,線維筋痛症は器質的な自律神経障害の程度に比較して自律神経症状が強いことが示されている。つまり,線維筋痛症は心理社会的な課題を抱えやすいという臨床的特徴があり,もともとの器質的な自律神経障害に加え,心理社会的なストレスに伴う心身症としての病態像を呈することで自律神経失調としての症状を患者が自覚しやすい,と考えることができる。

めまいの診療においては,Schellong試験やPassive head-up tilt testによる血圧の変動,coefficient of variation of R-R intervalやパワースペクトル解析による心拍変動といった生理検査が自律神経障害における器質的な要因の評価方法として用いられる。しかし,それらの結果が正常であったとしても,いわゆる自律神経失調を除外することは難しいことを意味している。一方で,質問紙では,患者の症候を評価するため,自律神経障害と自律神経失調の判別を目的とすることはできない。臨床においては質問紙と生理検査の両方を上手に併用することが,包括的に患者を評価するために重要であると考えられる。

 まとめ

本稿では自律神経系の機能障害について,そのメカニズムと自記式質問紙を活用した臨床場面での評価方法について概説した。自律神経系は恒常性を有している一方,ストレスや心理状態の影響を受けやすく,結果として機能的なめまいなどの身体症状として患者に自覚される。生理検査とは異なり,質問紙のスコアは必ずしも病状の程度を直接的に反映しているとは限らない。一方で,自律神経症状は身体的要因だけではなく,なんらかの心理社会的な課題が患者に存在している可能性を示唆すると考えられるため,めまいの臨床においても簡便で有用な指標として活用できるだろう。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
© 2025 一般社団法人 日本めまい平衡医学会
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