Relapsing polychondritis (RP) is a rare, progressive systemic inflammatory disorder that targets the cartilage and proteoglycan. While occurrence of audiovestibular symptoms has been reported in 20%–50% of cases of RP, reports of detailed vestibular assessments remain limited. This study was aimed at clarifying the characteristics of audiovestibular dysfunction in patients with RP through comprehensive neuro-otological evaluations.
We retrospectively reviewed the data of five patients diagnosed as having RP based on the clinical symptoms and results of cartilage biopsy between 2009 and 2025. All the patients were evaluated by pure-tone audiometry and vestibular testing, including caloric testing, cervical vestibular evoked myogenic potential (cVEMP), and ocular VEMP (oVEMP), and their clinical omit outcomes were evaluated.
All five patients exhibited bilateral sensorineural hearing loss. Although only two patients reported dizziness or imbalance, vestibular function testing revealed moderate to severe bilateral canal paresis and VEMP abnormalities in all five cases. All the patients received steroid therapy, and while the hearing improved in two cases, vestibular dysfunction persisted in all three cases in whom the treatment outcomes were evaluated.
This study showed that detailed neuro-otologic evaluation frequently reveals the presence of asymptomatic vestibular dysfunction in patients with RP, which tends to be refractory to treatment. Therefore, potential balance impairments should be taken into consideration when managing patients with RP.
再発性多発軟骨炎(Relapsing Polychondritis; RP)は軟骨組織および軟骨と共通の基質を有する組織を標的とする原因不明の再発性・進行性の全身性炎症疾患であり,耳介軟骨膜炎,鼻軟骨炎,角膜炎,呼吸器症状,関節炎,内耳障害などの多彩な症状を呈する1)。診断は臨床症状および組織診によって行われるが,本疾患に特異的な検査法は存在せず,診断確定までに時間を要することが多い。
RP症例では,経過中に20–50%の症例で蝸牛・前庭症状が出現すると国内外で報告されているが2)~4),前庭症状についてはめまいの有無にとどまる記述が多く,前庭機能検査に基づく詳細な評価は限られている5)~8)。進行性の経過をたどるRPにおいては,早期診断および適切な治療介入が重要とされるが,RPにおけるめまいや難聴の発症メカニズムは依然として明らかではない。RP患者における蝸牛・前庭機能検査所見を詳細に検討することは,内耳障害の病態解明のみならず,早期診断や治療戦略の構築にも寄与する可能性がある。
今回われわれは,当院で生検によりRPと確定診断された5症例について,臨床症状,神経耳科的検査,治療経過を検討し,治療および予後に関する文献的考察を加えて報告する。
本研究は,2009年4月から2025年3月までに当科にてRPと確定診断された5症例を対象とし,後方視的に検討した。診断はMcAdamら(1976)の診断基準9)に基づき,6つの臨床基準のうち3項目以上を満たし,軟骨生検により病理学的に確定した(表1)。5症例の臨床症状,治療経過,純音聴力検査所見,前庭機能検査所見(温度刺激検査,前庭誘発頸筋電位(cervical vestibular evoked myogenic potential: cVEMP)および前庭誘発眼筋電位(ocular vestibular evoked myogenic potential: oVEMP))を検討した。
| 1.両側外耳軟骨炎 |
| 2.非びらん性血清反応陰性の炎症性多発関節炎 |
| 3.鼻軟骨炎 |
| 4.眼の炎症(結膜炎,角膜炎,強膜炎,上強膜炎,ぶどう膜炎) |
| 5.気道軟骨膜炎(喉頭,気管) |
| 6.蝸牛および前庭機能障害 |
| 上記3項目以上を満たし,病理学的に確定されたものを確定診断とする |
純音聴力閾値は,AA-74およびAA-78純音オージオメータ(RION,東京,日本)を用いて防音室内で測定し,平均聴力レベルの算出法には0.5,1,2 kHzを用いた4分法を採用した。聴力改善は急性感音難聴診療の手引き―2018年版の「突発性難聴 聴力回復の判定基準」に基づき,治療後に0.25,0.5,1,2,4 kHzにおける聴力閾値の算術平均が10~30 dB改善したときを「回復」,30 dB以上改善したときを「著明回復」,10 dB未満の改善のときを「不変」と定義した10)。
前庭機能評価温度刺激検査は,少量注水法(20°C,5 mL,20秒法)で行い,日本めまい平衡医学会による基準に則り11),最大緩徐相速度が20°/秒以上で正常,10°/秒以上かつ20°/秒未満で半規管麻痺(canal paresis: CP)疑い,10°/秒未満で反応のあるものを中等度CP,無反応で高度CPとし,またCP%(=|R−L|/(R + L) × 100)が20%以上で左右差ありとした。
cVEMPは,500 Hzのshort-tone burst(135 dB SPL, rise/fall time 1 ms, plateau time 2 ms)による気導刺激をヘッドフォン(stimulation rate 5 Hz)で行い,胸鎖乳突筋表面電極から頭部挙上法で記録した。
oVEMPは,骨導刺激器(Mini-shaker, Bruel & Kjaer 4810)を用いて前額正中を500 Hzのtone burst(rise/fall time 1 ms, plateau time = 2 ms)で刺激し,刺激音圧は,128 dB re 1 mNのピーク力が生じるよう,駆動電圧を8.0 V(peak-to-peak)に設定した。刺激中は上方の指標を注視させて下斜筋表面電極で記録した。
判定には背景筋電図値で除した補正振幅を用い,cVEMPはp13-n23波頂間振幅,oVEMPはp1-n1波頂間振幅の左右比(Asymmetry ratio: AR = 100 × (Au−Aa)/(Au + Aa))を用い,いずれもAR値が33%以上で左右差あり,反応がみられないものを無反応と判定した12)。
体平衡機能評価重心動揺計(グラビコーダGP5500,アニマ株式会社)と付属の天然ゴム性のフォームラバーを用いてラバー重心動揺検査を施行した。まず,ラバーなしの状態で,つま先を閉じた状態で直立させ,開眼・閉眼でそれぞれ1分間の重心動揺の記録を行った13)。次にラバーを検査台の上に置いた状態で,両踵内側を密着させ足尖方向を45°に広げた状態で直立させ,重心動揺の記録を各1分間行った。計測時は,被検者が転倒しないよう十分に注意を払った。被検者が直立姿勢を維持できない場合は,その時点で検査を中断し“fall”と判定した14)。本研究では,総軌跡長を指標として用いた。
本研究はヘルシンキ宣言ならびに文部科学省・厚生労働省が定める「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に則り,東京大学医学系研究倫理委員会の承認(番号:2487-15)を受けて実施された。
RPと診断された5症例について,患者背景と諸検査結果を表2にまとめた。個々の病歴・経過は以下のとおりである。
| 症例 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年齢 | 71 | 19 | 65 | 68 | 64 | |
| 性別 | 女性 | 男性 | 男性 | 男性 | 男性 | |
| 初診時自覚症状 | 耳介痛 | + | + | + | + | |
| 難聴 | + | + | + | 既往あり | + | |
| めまい | + | + | ||||
| 右平均聴力(dB,4分法) | 治療前 | 36.3 | 33.8 | scale out | 36.3 | 41.3 |
| 治療後 | 20.0 | 38.8 | scale out | 37.5 | 16.3 | |
| 左平均聴力(dB,4分法) | 治療前 | 38.8 | 40.0 | scale out | 28.8 | 80.0 |
| 治療後 | 18.8 | 28.8 | scale out | 27.5 | 36.3 | |
| 重心動揺検査総軌跡長開眼/閉眼(cm) | 治療前 | 192.8/593.6 | 103.6/239.5 | 174.4/259.5 | 118.9/188.2 | 196.7/492.5 |
| 治療後 | 87.0/219.1 | ― | ― | 134.1/276.2 | ― | |
| 温度刺激検査 | 治療前 | 両側中等度CP | 両側高度CP | 両側高度CP | 両側高度CP | 右耳中等度CP 左耳高度CP |
| 治療後 | 両側中等度CP | 両側高度CP | ― | 両側高度CP | ― | |
| cVEMP | 治療前 | 両側無反応 | 両側無反応 | 両側無反応 | 両側無反応 | 左耳反応低下 |
| 治療後 | 両側無反応 | ― | ― | 両側無反応 | ― | |
| oVEMP | 治療前 | 両側無反応 | 両側無反応 | 両側無反応 | 両側無反応 | 左耳反応低下 |
| 治療後 | 右耳無反応 | ― | ― | 両側無反応 | ― | |
| 治療概要 | mPSL: 1 g/日×3日×2 |
mPSL: 1 g/日×3日 |
PSL:30 mg/日 MTX:6 mg/週 |
PSL:60 mg/日 MTX:10 mg/週 |
PSL:60 mg/日 MTX:10 mg/週 |
|
CP:canal paresis,cVEMP:cervical vestibular evoked miogenic potential,oVEMP:ocular vestibular evoked miogenic potential,mPSL:methylprednisolone,PSL:prednisolone,MTX:Methotrexate
症例1.71歳,女性。1年前から耳介痛を反復していた。眼球結膜炎,視力障害,両側難聴,ふらつきが生じ,耳介軟骨生検を行いRPと診断した(図1)。メチルプレドニゾロン(mPSL)1 g/日×3日による副腎皮質ステロイドパルス療法を2クール施行した。治療前後で聴力は両耳とも回復したが(図2),前庭機能はoVEMPで一側の改善をみとめるのみで,温度刺激検査とcVEMPはともに両側障害のまま不変であり,ふらつきは残存した(図3)。重心動揺検査の治療前後における総軌跡長のRomberg率は3.08,2.52であり,いずれもラバー負荷閉眼時はfallであった。

軟骨実質への炎症細胞浸潤や変性像は目立たなかったが,軟骨の辺縁不整や周囲結合織へのリンパ球浸潤を認め,軟骨周囲炎が主体であった。

A:初診時,4分法で右36.3 dB,左38.8 dBの両側感音難聴を示した。B:副腎皮質ステロイドパルス療法後,4分法で右20.0 dB,左18.8 dBへと改善を認めた。

A:治療前のcVEMP。両側無反応。B:治療後のcVEMP:両側無反応。C:治療前のoVEMP。両側無反応。D:治療後のoVEMP。右眼で反応を認めた。▲は刺激開始を表す。SCM;sternocleidomastoid muscle,cVEMP;cervical vestibular evoked myogenic potential,oVEMP;ocular vestibular evoked myogenic potential
症例2.19歳,男性。2年前にぶどう膜炎,1年前に体動時のふらつきを認めていた。4か月前に回転性めまいを伴う両側難聴が出現し,副腎皮質ステロイド点滴治療により改善した。感冒後の嗄声,呼吸困難で当科を受診し,喉頭浮腫に対し副腎皮質ステロイド点滴治療を行ったが,徐々に呼吸困難が増悪したため,気管切開術を施行した。前頸筋群と気管軟骨が一部炎症性に癒着しており,気管軟骨の生検を行い,RPと診断した。副腎皮質ステロイドパルス(mPSL 1 g/日×3日)療法後,プレドニゾロン(PSL)70 mg/日の内服漸減療法を施行した。6か月後に左難聴・耳鳴,ふらつきが出現し,その1週間後に右難聴が出現した。歪成分耳音響放射(DPOAE)は両側とも反応が消失していたが,聴性脳幹反応(95 dBnHL,クリック音刺激)では両側ともV波のみが認められた。重心動揺検査・総軌跡長におけるRomberg率は2.31であり,ラバー負荷閉眼時はfallであった。温度刺激検査は両側高度CPを示し,cVEMPおよびoVEMPは両側無反応であった。再度副腎皮質ステロイドパルス療法を行ったが,10か月後も聴力は不変でふらつきは残存し,温度刺激検査は両側高度CPであった。
症例3.65歳,男性。6年前に耳介軟骨炎,ぶどう膜炎を認めた。4年前に両側難聴が出現・進行し,2年前に聾となった。その後も反復する耳介軟骨炎,ぶどう膜炎の精査目的で当科を受診した。耳介軟骨生検の結果と合わせてRPと診断した。重心動揺検査・総軌跡長におけるRomberg率は1.49であり,ラバー負荷閉眼時はfallであった。温度刺激検査は両側高度CP,cVEMPおよびoVEMPは両側無反応であった。PSL 30 mg/日の内服漸減療法とメトトレキサート(MTX)6 mg/週による治療が行われたが,聴力は聾から改善せず,DPOAEは両側とも反応が消失しており,両側人工内耳手術を施行した。正円窓アプローチで全電極が挿入され,術中神経反応テレメトリー(NRT)の反応は良好であった。
症例4.68歳,男性。3年前に多発関節炎,結膜炎,ぶどう膜炎,右難聴が順次出現した。原田病が疑われ,副腎皮質ステロイドパルス療法が施行され,いずれの症状も改善傾向であったが,後療法としてのPSL 60 mg/day内服漸減時に症状が再燃した。再度副腎皮質ステロイドパルス療法を施行し,リンデロン8 mg/day内服漸減となり,2年前に内服を終了した。以降は数日で軽快する両耳の発赤・腫脹を時折認めるのみであった。1か月前より多発関節痛,両耳介の腫脹・疼痛を認め,右耳介軟骨の生検とともにRPと診断。PSL 60 mg/日で治療を開始し,PSL 30 mg/日+MTX 10 mg/週で退院した。温度刺激検査は両側高度CP,cVEMPおよびoVEMPは両側無反応,重心動揺検査はラバー負荷閉眼直後にfallし,治療開始前後で聴力・前庭機能および体平衡機能は不変であった。
症例5.64歳,男性。3か月前に両側強膜炎,上強膜炎,結膜炎を認めた。2か月前に鼻汁,咽頭痛,咳嗽の上下気道症状を認めるも数日で軽快した。1か月前から発熱,全身倦怠感,食思不振,腰痛,両側耳介発赤,左優位の両側難聴を認め,当院内科に入院した。臨床症状,抗II型コラーゲン抗体陽性,耳介軟骨生検よりRPと診断した。重心動揺検査はラバー負荷閉眼直後にfallし,温度刺激検査にて中等度~高度CP,VEMP検査にて反応低下を認めたが無症候性であった。PSL 60 mg/日で治療を開始し,MTX 10 mg/週を追加した。平均聴力は治療に伴い左耳は80.0 dBから36.3 dBに著明回復,右耳は41.3 dBから16.3 dBへと回復した。
今回の検討した5症例では,気道症状が目立つ症例2を除く4症例で耳介痛を認め,耳介軟骨の生検がRP診断の一助となった。対象症例は,初診時に全症例で難聴の自覚があり(既往を含む),全症例で両側性感音難聴を認めた。全症例に対して副腎皮質ステロイド療法が施行され,症例1および5では純音聴力閾値の回復が認められた。
めまい・ふらつきの訴えは2例のみであったが,重心動揺検査は全症例がラバー負荷閉眼時にfallとなる末梢前庭障害パターンを示し,温度刺激検査では全症例で両側の中等度~高度CPを認め,cVEMPおよびoVEMPに関しても,全症例で異常所見を認め,RPでは比較的多くの症例が無症候性に広範な前庭障害をきたしていることが示された。治療後6ヶ月以上が経過した時点で,症例1,2のめまい・ふらつきは不変であり,この2症例の前庭機能検査は,症例1で一側のoVEMPの改善を認めるのみであった。無症候性の前庭機能障害を認めた症例4については,治療後も同様に全ての前庭機能検査で両側の高度障害を示していた。
本研究では臨床症状および病理所見からRPと診断された5症例を対象に,初診時の難聴,めまい・ふらつき症状の有無にかかわらず,聴覚機能検査・温度刺激検査・VEMP検査・重心動揺検査により蝸牛,前庭および体平衡機能を詳細に分析した。その結果,全例において感音難聴および前庭障害が認められ,重心動揺検査は全例が末梢前庭障害パターンを示していた。特に無症候性の前庭障害が3例で確認され,RPにおける潜在的な前庭障害の頻度の高さが示唆された。副腎皮質ステロイド治療により5症例のうち2症例で聴力回復が得られた一方で,治療前後で前庭機能を評価した3例では全例で機能障害が残存しており,聴覚と前庭機能における治療反応性に差異が認められた。
RPは,耳介・気道をはじめとする軟骨組織のほか,細胞外マトリックスの構成分子の一つであるプロテオグリカンを多量に含む組織(眼,心臓,血管,内耳など)にも再発性かつ進行性に全身性の炎症を引き起こす,原因不明の稀な疾患である1)。長期予後としては診断後10年生存率が68~94%と報告される一方,気道管理が必要な症例では5年生存率は55%に低下する4)15)。このように,RPは神経耳科学的障害に加え,生命予後に関わる全身合併症を伴うことから,早期診断および早期治療が極めて重要である。しかし,RPは非特異的な症状の組合せに基づいて診断され,特異的な診断検査がないため,早期診断が困難である16)。
RPの早期診断において,耳介軟骨炎は早期診断の契機となりうる。RPの全経過中に耳介軟骨炎は78~95%と大多数の症例で認められており2)9)15)16),本研究においても5例中4例(80%)に確認された。RPの初発時における耳介軟骨炎の出現率は,報告により26~91%と幅があるが17),本研究では症例1および症例3の2例(40%)で初発時から耳介軟骨炎を認めた。RPに特徴的な耳介軟骨炎の所見として,炎症が耳輪や対輪などの軟骨部に限局し耳垂(耳たぶ)は侵されないこと,疼痛や発赤・腫脹が反復性に出現すること,約70%で両側性に進展することが挙げられる。再燃と寛解を繰り返すことで耳介が変形し,下垂,カリフラワー耳,外耳道閉鎖などを起こすこともある。さらに,鼻軟骨炎による鞍鼻や気道病変による嗄声など,他の軟骨病変を伴う場合にはRPの可能性がより高まる。感染性あるいは外傷性の耳介炎と比較して,RPに関連する耳介軟骨炎は疼痛が強く,再発頻度が高く,発熱や関節痛といった全身症状を伴うことが多い点も,重要な鑑別所見である。したがって耳介軟骨炎を認めた場合には,RPの可能性を念頭に置き,鼻症状,呼吸困難,眼症状などの全身症状について系統的に問診し,必要に応じて画像検査や組織生検を行うことが重要である。なお,本研究で提示した症例の病理所見は,いずれも進行病変でみられるような軟骨実質への強い炎症細胞浸潤や線維化は認めず,軟骨周囲組織の炎症細胞浸潤や軟骨実質との境界面の不明瞭化といった軟骨周囲炎が主体であり,比較的早期の病変であると考えられた。
RPにおける感音難聴,前庭障害の頻度は,それぞれ全経過を通じて27~42%,6~53%と報告されているが2)15)16)18),本研究ではいずれも全例で認められた。この差異については,前庭障害に関する既報の多くはめまいやふらつきといった症状からの評価に基づいているのに対し,本研究では温度刺激検査およびVEMPを含む詳細な前庭機能評価を実施した結果,無症候性の前庭障害を高頻度に検出することができた可能性が考えられる。さらに,本研究ではRPの診断に病理学的確定を要件とした点や,重症例が集まりやすい大学病院の専門外来における症例を対象としたことから,選択バイアスの影響も否定できない。しかしながら,RPにおいてめまいやふらつきの自覚症状を欠く症例であっても,詳細な前庭機能評価を行うことにより,無症候性前庭障害が高頻度に存在することが明らかとなり,臨床的に重要な知見と考えられる。
治療反応性については,聴覚では5例中2例で副腎皮質ステロイド治療により聴力の回復を認めた。RPに生じる感音難聴は,片側・両側いずれの場合も,緩徐進行性のこともあれば急速に進行することもあり,様々な経過を示すとされている16)18)。初期には副腎皮質ステロイドの投与により聴力改善が得られる可能性があり18)19),本研究でもその効果が一部認められた。一方,症例3のように不可逆的な高度感音難聴に至り,最終的に人工内耳挿入が施行された症例も報告されている5)7)。前庭機能に関しては,既報を渉猟する限り,治療の前後で定量的な評価がなされた報告はなく,治療前の温度刺激検査やvideo Head Impulse Testの所見が記載された報告においては,いずれも両側高度の前庭機能障害が示されている5)7)8)。本研究では,病理組織学的に比較的早期の症例が対象であった可能性があるものの,治療前の時点で全例に両側性の高度前庭機能障害を認めた。さらに,自覚的にふらつきを訴えた症例では治療後の症状改善はみられず,治療前後に前庭機能が評価された3症例ではいずれも障害が持続していた。このような副腎皮質ステロイド治療に対する蝸牛と前庭の反応性の差異は,内耳における解剖学的・血流学的構造の相違や,RPにおける病変の分布の相違による可能性が示唆される。
RPは自己免疫性疾患であり,全身の軟骨組織に対する免疫反応によって炎症が引き起こされることが知られているが,その詳細な病因・病態は依然として明らかではない20)。免疫学的な機序としては,RP患者の約33%でII型コラーゲンに対する自己抗体が検出されており,その他にもIX型,XI型,あるいはcartilage oligomeric matrix protein(COMP)やmatrilin-1などの軟骨関連抗原に対する自己抗体も報告されている21)。こうした抗原に対する免疫応答は,外傷や感染,毒素などの環境因子により軟骨マトリックスや細胞膜の自己エピトープが曝露されることを契機として,遺伝的素因を持つ個体において惹起されると考えられている22)。本研究では5症例すべてにおいて,標準純音聴力検査で両側感音難聴を認めた。DPOAEは,症例2および症例3に施行されたが,いずれも両側無反応であった。ABRは症例2に施行され,両側ともV波のみが描出された。また,ラバー負荷重心動揺検査は全例に施行され,いずれも末梢前庭障害パターンを呈した。これらの結果より,RPにおける難聴および平衡障害は,いずれも内耳性障害による可能性が高いと考えられた。蝸牛および前庭機能障害が生じるメカニズムに関しては複数の要因が関与すると考えられている。まず,RPでは耳介や鼻軟骨,気道軟骨に加えて,内耳に存在する軟骨様組織やその周辺構造にも炎症が波及することがあり,これにより蝸牛・前庭系の感音障害やめまい症状が引き起こされる可能性がある。具体的には,軟骨炎に伴う耳管破壊や内リンパ水腫(endolymphatic hydrops),さらには内耳動脈の蝸牛枝または前庭枝における血管炎(vasculitis)などが関与するとされる19)23)。内耳レベルでは,II型コラーゲンが膜迷路,内リンパ管,螺旋靭帯,蓋膜などの構造に存在していることから,これらの部位に対する自己抗体の関与が示唆されている24)25)。また,抗cardiolipin抗体や蝸牛特異的タンパク質に対する自己抗体の存在も報告されている26)~28)。これらの免疫反応は,耳介軟骨など他臓器にみられる炎症と同様に,内耳構造の破壊を引き起こす可能性がある。さらに,サイトカイン産生の異常22),内耳血管の血管炎9)29),血栓形成30),内耳出血6),および内リンパ水腫31)なども蝸牛および前庭機能障害に寄与しうるとされている。これらの病態要因は相互に関連し,複合的に障害を惹起する可能性があるが,その正確な寄与割合は未解明である。
近年,RPと類似した臨床像を呈する新たな疾患概念としてVEXAS症候群(Vacuoles, E1 enzyme, X-linked, Autoinflammatory, Somatic syndrome)が提唱されている32)33)。本症はUBA1遺伝子の体細胞変異により発症する後天性自己炎症性疾患であり,特に50歳以降の男性に好発する32)。耳介や鼻軟骨炎などRPと重複する症状を呈し,実際にRPの診断基準を満たす患者の一部(報告により7.6~72.7%)にUBA1変異が認められ,特に副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬による治療抵抗性を示す症例ではその割合がさらに高くなることが示されている34)。VEXAS症候群ではJAK阻害薬や抗IL-6抗体が有望な治療選択肢とされる一方で35)36),本研究の対象となった5症例はいずれもVEXAS症候群が提唱される以前に診断されており,遺伝子検査は施行されていない。今後,治療抵抗性を示すRP症例に対しては,VEXAS症候群の可能性を念頭に置き,UBA1遺伝子変異の有無を調べることが診断および治療方針の決定において重要となると考えられる。
本研究の限界として,以下の点が挙げられる。第一に,RPに対する治療プロトコルが統一されておらず,症例ごとに投与量や併用薬が異なるため,治療効果の比較が困難であった。第二に,治療前後の検査実施時期が症例により異なり,治療効果の正確な比較に制約があった。第三に,症例数が少なく統計的有意差の検討が困難であった。このような限界に対応するため,今後の展望としては,多施設共同による症例数の増加と治療プロトコルの標準化が不可欠である。
RPは蝸牛・前庭障害を含む不可逆的な神経障害や致死的合併症を呈することがある。本報告ではめまい平衡障害の訴えの有無によらず,全例で前庭機能障害を認め,感音難聴に比べ副腎皮質ステロイド治療に抵抗性であった。原因不明の再発性耳介軟骨炎を認めた場合は,既往歴や全身症状の有無を系統的に評価し,RPの診断時点において,潜在的な平衡障害を考慮して診療にあたる必要がある。
利益相反に該当する事項はない。