Equilibrium Research
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第83回学術講演会シンポジウム3「ここまでわかる平衡機能検査」
VOG(ビデオ眼運動記録法)
橋本 誠
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2025 年 84 巻 4 号 p. 226-230

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Translated Abstract

Videooculography (VOG) enables evaluation of three-dimensional eye movements, including horizontal, vertical, and torsional components. Recent technological advances have further enhanced VOG as both a research and clinical tool. Developments include quantitative analysis of nystagmus, examinations using visual stimuli, integration with filing systems, and high-speed video recording. High-speed VOG allows for more detailed capture of rapid eye movements as compared with conventional systems. We recorded eye movement responses to galvanic vestibular stimulation (GVS) using our VOG system. Horizontal and torsional nystagmus was observed, with responses depending on the polarity and intensity of the stimulation.

 はじめに

画像認識技術やハードウェアの進歩に伴い,赤外線カメラによって得られた眼球運動の画像をコンピュータで画像解析をするビデオ眼運動記録法videooculography(VOG)が行われるようになった。本シンポジウムの他のテーマと異なり,VOGは何かある特定の機能を評価するというものではない。各種眼振検査や刺激検査が可能であるが,製品による特徴やできること,できないことがある。

VOGは,本来は「眼球動画から眼振図を作成する」ものである。しかしテクノロジーの進歩もあり,単に眼振図を作成するのみでなく,VOGのもつ付加価値や発展性が向上してきた1)2)。研究段階であるが,前庭電気刺激検査にも応用可能である。本稿ではVOGの特徴や発展性について述べる。

 VOGの原理

VOGは1990年頃から行われはじめた3)4)。動画を1秒間数十フレームの静止画像に分解し,画像解析を行うという原理である。眼球運動の水平・垂直成分については画像を二値化して瞳孔を抽出し,瞳孔中心座標から求める。回旋成分については虹彩の輝度のコントラストプロファイルから求める方法が主流である。

 ENGとVOG

皿電極を用いて角膜網膜電位を増幅して記録するENGでは,各種眼振検査,視刺激検査,温度刺激検査,visual suppressionテストなどが施行可能である。水平・垂直成分の眼振図記録,緩徐相速度計測など定量的評価が可能である。閉眼での記録が可能である。一方眼振の回旋成分の記録は不可能である。

VOGでは,ENGで可能なことが,概ね可能である。さらに眼振の回旋成分の記録が可能である。一方閉眼下や,開眼が不十分な状態では記録することができない。

ENGは,電極装着など準備の負担があるため,日々の診療の中で検査を行うにはややハードルが高い。VOGは,赤外線フレンツェルで観察しつつ行うことができる。めまい診療のどの場面でも行うことできるため,眼振を見逃すことなく記録することができ,時系列に沿った評価を行いやすい。

 3成分眼振図表示

VOGの基本的機能としては,回旋成分を含めた3成分の眼振図表示ができることである。後半規管型のBPPVでは,Dix Hallpike法で回旋成分をもつ眼振が誘発されるが,垂直成分も含んでおり,回旋成分の有無や方向の判断が難しく,診断を困難にする場合がある。VOGを行うと,上眼瞼向きの垂直成分と,回旋成分を眼振図として表記することができる。この回旋成分を含めて眼振図として記録することができることが,VOGの利点である。眼振図によって,方向,強さや頻度,増強や減衰など時間経過による推移といった多くの重要な情報を一覧することができる。

 眼球動画と眼振図の同期表示

VOG製品の特徴に,眼球動画と眼振図の同期表示がある。検査中に眼振図を表示するリアルタイムVOGでは,検査をしている最中に,眼球の動画に同期して,眼振図がリアルタイムで表示される。ENGでは,検者である医師は被検者の横でフレンツェル眼鏡や赤外線フレンツェル装置を用いて眼球運動を観察する。一方で,ENG機器(記録の開始や終了・感度調整・コメント入力等)は,技師や補助者が操作している場合がある。その場合,医師自身がリアルタイムにENG機器の眼振図を確認しながら所見を観察することは困難である。VOGでは,検者自身が眼球運動動画と眼振図の両者を確認しながら検査を行うことができるため,眼振の強さや経時的変化いった所見をその場で把握できる。これにより,検者は所見の意味づけや診断的価値をその都度確認しながら,確信を持って検査を進めることができる2)

 温度刺激検査

温度刺激検査はENGで記録されるが,VOGでも記録することができる。眼振図を作成するための数値データを元々もっており,眼振速度などを容易に計算することができる。最大緩徐相速度や平均緩徐相速度の計測,visual suppression%の算出などを行うことができる。末梢前庭機能,小脳機能を評価することができるといえる。

 定量的評価による眼振所見の客観的記録

VOGでは定量的評価をすることにより,眼振の振幅や頻度,緩徐相速度を数値化することができる5)。例えば日々の診療でみられる方向交代性向地性眼振の所見について,検者の主観によらない,客観的な所見として,記録することができる(図1)。

図1  定量的評価による眼振所見の客観的記録

左外側半規管型良性発作性頭位めまい症半規管結石症症例における方向交代性向地性眼振の眼振所見(中央)。VOGで解析を行い,アーチファクトを除いた平均振幅,アーチファクトを除いた平均頻度(1秒あたりの眼振数),緩徐相速度を算出した。左に右下頭位における水平成分の眼振図を示す。右に左下頭位における水平成分の眼振図を示す。振幅と頻度は平均値。

 追跡眼球運動検査

反射ミラー式によるゴーグルとカメラを用いると,暗所のみでなく前方視での記録が可能で,視刺激検査を行うことができる。脊髄小脳変性症例のVOG記録による追跡眼球運動検査では,ENG同様saccadicな追跡の所見をとらえることができる。

我々は,このようなsaccadic patternのETT異常例において,定量的評価を行い,サッケードの個数や,視標と眼球運動の平均速度の差などいくつかのパラメータにおいて,正常例との違いを明らかにしてきた6)

現在のVOG製品では,モニターに視標を提示する方法で行うことができる。比較的簡便に検査を施行できるため,経過観察中に経時的に評価することが可能である。

脊髄小脳変性症例で,ETTをVOG で経時的に行った場合,症例によっては視標速度と眼球速度の差,利得などの項目で,経時的変化をみることができ,病状の変化を把握するのに有用となる7)

 ファイリング機能

VOGでは結果をファイリング管理しやすい。検査結果の保存を,ファイリングシステムと連携させると,検査日やID,患者名などで,検索して確認することができる。動画をDVDなどに録画するだけでは,いつ,どの患者の,どの検査なのか,分かりにくくなる問題がある。ファイリングシステムと連携することにより解消する。

 センサによる頭位記録

加速度センサ・角速度センサを備えた製品では,頭位を感知し眼球動画と同期して記録することができる。頭位眼振検査や頭位変換眼振検査において,眼球動画と眼振図に加え,頭位の3つの情報を同期して記録することができる(特許第7209954号)。眼球動画と眼振図に,頭位情報という付加価値が加わる。

頭位は再生時にもアニメーションと数値で表示されるため,頭位と眼球動画,眼振図をリンクして確認することができる。眼振が出現したときの頭位情報を,客観的に記録していることになる。

 高速度記録

普及している赤外線フレンツェルのフレームレートは,通常毎秒30フレームである(30 fps)。急速眼球運動や眼振の急速相など早い眼球運動を解析するには高い周波数特性が必要となる。高速度カメラを採用した製品では,高速度記録が可能である。毎秒240フレーム(240 fps)での高速撮影記録において,コマ落ちすることなく,回旋成分を含めて記録することができる。

ocular flutter様の異常眼球運動を呈した症例を提示する。10年前が初診で,当時は30 fpsの赤外線カメラで記録した。一旦改善したが,10年後再燃して再診となった。240 fpsのカメラで記録した。30 fpsと240 fpsで撮影したものを,それぞれVOG解析した(図2)。30 fpsと240 fpsでは,捉えている眼球運動の頻度も速度も振幅も違い,30 fpsでは実際の動きを捉えきれていない記録といえる。さらに高速のカメラでは,より正確に急速眼球運動を捉えることができると考えられる。

図2  水平成分眼球運動波形

ocular flutter様の異常眼球運動を呈した症例について,VOGで作成した水平成分の眼球運動波形を示す。a 毎秒30フレームのカメラで記録したもの。b 毎秒240フレームの高速度カメラ記録したもの。

 前庭電気刺激検査への応用

頭部,特に耳後部を電気刺激すると,身体動揺,眼球運動反応・眼振がおこる。Galvanic vestibular stimulation:GVSといい,前庭生理機能の研究や,臨床検査として行われてきた。古くは当教室,および富山大学で,重心動揺計を用いたgalvanic body sway testが行われた8)

一方眼振検査については,ENG記録では,刺激電流がノイズとして記録に混入するため客観的記録が困難であった。我々はGVSによる眼振・眼球運動反応を,VOGにより精密で詳細な解析をすることができるのではないかということで,研究を行っている。

刺激電流,極性を制御し,刺激開始時のトリガ信号と刺激強度を記録できるようにした装置を作成した。右を陽極,左を不関電極として電気刺激すると,回旋成分の目立つ左向き水平回旋混合性眼振が出現した。電極の極性を変えると,眼振の方向が逆転して,右向き水平回旋混合性眼振が出現した。

水平成分の緩徐相速度を,刺激の強さを変えて測定すると,刺激の強度が強くなるにつれて,緩徐相速度が上昇する結果であった。電極の極性を変えると,眼振の方向が変わり,同様に刺激強度に応じて緩徐相速度が上昇した。回旋成分も水平成分と同様に,刺激の極性,強度に応じて緩徐相速度が上昇した。

以上からGVSにより,刺激の極性,強度に応じて,反陽極方向に,水平回旋混合性眼振が出現することが明らかとなった。GVSの臨床的意義についてはさまざまな議論がある。GBSTは後迷路性の評価に有用とされてきたが,GVSの作用部位については,半規管,耳石器,前庭神経など見解が分かれている。

我々が経験した両側前庭機能低下症例におけるGVSに対する眼球運動反応を提示する。56歳男性,歩行時のふらつきで,温度刺激検査で両側CP,VEMPで機能低下を認めた。右陽極,左不関電極で電気刺激すると,左向き眼振が出現した。電極の極性を変えて,左陽極,右不関電極で電気刺激すると,右向き眼振が出現した(図3)。このことから本症例では,末梢前庭器の機能は低下していても,前庭神経は機能している可能性が考えられる。

図3  両側前庭機能低下症例におけるGVSへの反応

両側前庭機能低下症例におけるGVSに対する眼球運動反応をVOGで記録した。上段:刺激の極性と強さを示す。中段は水平方向の眼球運動波形,下段は回旋成分の眼球運動波形を示す。a 右陽極,左不関電極で刺激(0.5 mA, 1.0 mA, 2.0 mA)すると,刺激中に刺激の強さに依存して左向きの水平回旋混合性眼振が出現した。b 右不関電極,左陽極で刺激(0.5 mA, 1.0 mA, 2.0 mA)すると,刺激中に刺激の強さに依存して右向きの水平回旋混合性眼振が出現した。

聴覚では,内耳性,後迷路性を鑑別する手段がいくつか存在する。本シンポジウムで取り上げられた平衡機能検査において,vHITやVEMPのように3つの半規管,2つの耳石器の機能を評価することができるようになってきた。しかし内耳性と後迷路性については鑑別することができない。VOGによるGVSにより,温度刺激検査やvHIT,VEMPとは別の観点から前庭機能を評価することができるとすれば,各種検査の組み合わせにより,障害部位の評価につがなる可能性がある。引き続き研究をすすめていきたい。

 VOGの課題

VOGはテクノロジーの進歩とともに発展しつつある。瞳孔・虹彩の画像を解析するという原理のため,目が開いていないと解析が困難であることが,問題点として挙げられる。瞳孔認識の欠損範囲が小さければ補正が可能であるが,瞳孔認識の欠損範囲が大きなフレームでは瞳孔座標を求めることができず,安定した記録が得られない。また,瞬きなどのアーチファクトを可能な限り処理することが,特に定量的解析を正確に行う上で,必要となる。テクノロジーの進歩で改良できる部分もあるが,ブレークスルーとなる手法の改善も求められると思われ,さらに検討を続けたい。

 謝辞

本稿を終えるにあたり,共同研究者である山口大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学の沖中洋介先生,菅原一真先生,鼓ヶ浦こども医療福祉センター耳鼻咽喉科の池田卓生先生に深謝致します。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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