Equilibrium Research
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シリーズ教育講座「めまい診療に有用な自覚的評価指標」
7.めまい診療に有用な自覚的評価指標「睡眠障害」
辻井 農亜
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2025 年 84 巻 6 号 p. 475-479

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Translated Abstract

Sleep quality significantly impacts alertness, performance, health issues, longevity, and overall quality of life. Quality of sleep is a key indicator of physical and mental health. A global approach to assessing sleep quality and sleep disorders often uses self-rating tools. In this review, we evaluate a sleep log along with eight self-rating tools for their relevance and measurement properties: the Pittsburgh Sleep Quality Index, Insomnia Severity Index, Athens Insomnia Scale, Epworth Sleepiness Scale, Pediatric Daytime Sleepiness Scale, Morning and Evening Questionnaire, Munich Chrono Type Questionnaire, and Children’s Chronotype Questionnaire. While these self-rating tools can be beneficial in clinical settings with time constraints, their correlations with physiologically measured sleep and subjective assessments of sleep or performance are, at best, modest. In summary, a sleep log and the eight self-rating tools could serve as appropriate sleep quality indicators for patients treated at equilibrium clinics.

 1.緒言

こども,成人,そして高齢者のいずれの年代においても,良質の睡眠は心身の健康増進・維持のために不可欠である1)。しかしわが国では,どの年代においても睡眠時間が不足していることが知られている2)。睡眠の不足は日中の眠気や集中力低下による学業または作業成績に影響を与えることは想像に容易い。しかし睡眠の不足は,情緒不安定や認知機能,または生活習慣病の罹患リスクや死亡のリスクを増加させることに繋がり,これ通じて全般的な生活の質の低下を引き起こすことになる2)

睡眠障害とは睡眠の異常により日中の機能障害が生じる病態の総称であり,睡眠の異常は,①睡眠の質や量,出現パターンの異常(不眠,リズム障害など),②覚醒機能の異常(過眠),③睡眠中の異常な精神身体現象(無呼吸,異常行動,不随意的な筋活動,自律神経活動など)がある場合に大別される3)。睡眠の問題は様々な身体疾患や精神疾患によって損なわれる非特異的な症状として現れるほか,睡眠障害自体が様々な身体疾患や精神疾患と合併することも多い。さらに,睡眠の問題それ自体が精神疾患の発症に関与することに加えて,自殺のリスクを高めることも知られている4)。日常臨床において睡眠の質を評価することは重要であり,その評価法として自記式評価尺度が用いられることが多い1)。本稿ではまず,睡眠の問題や障害の評価に用いられる各自記式尺度の意義や方法,そして評価法について述べ,その後,めまい診療への応用について概説する。

 2.各アンケート検査・調査の意義

睡眠障害は様々な身体疾患や精神疾患と合併することも多く,めまいを主訴に訪れる患者にみられる睡眠評価や,睡眠に関する臨床評価が患者の生活の質の維持改善にも重要となる。図1に睡眠障害の鑑別診断フローチャートをあげた5)。このフローチャートは,各疾患に特徴的な主観的症状をもとに特殊な機器などがなくても普段の臨床場面である程度の精度で鑑別できるように作成されている。このフローチャートを踏まえて睡眠の問題を評価していく。聴取すべき代表的な症状として,①入眠や中途覚醒,早朝覚醒,熟眠障害といった不眠症状の確認,②睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群,特発性過眠症やナルコレプシーなどできたす過眠症状の有無,③昼夜逆転や極端な遅寝,早寝などの睡眠時間帯の異常の有無,④呼吸異常や四肢のむずむず感,ほてりといった異常感覚,不随意運動,睡眠中の異常言動(徘徊,絶叫など),自律神経症状といった睡眠中の異常現象,などがあげられる。これらの症状を構造化された問診や質問票,睡眠日誌等を通して適切な診断と鑑別診断を行っていくことになる5)

図1  睡眠障害の鑑別フローチャート(参考文献5)を著者改変)

 3.各尺度の概要と評価法

日本語版が作成されている代表的な睡眠障害の評価尺度をあげ,それぞれの尺度の概要と評価法を解説する。

 1)睡眠習慣の評価:睡眠日誌

睡眠日誌は睡眠習慣や睡眠・覚醒リズムを把握するために用いられ,主観的な睡眠状況の把握には有効である。「ぐっすり眠った」「うとうとしていた」「眠らずに床についていた」「床についていなかった」といった睡眠状態の評価に加えて,その日の気分の状態やその日の行動について記載する欄があると患者の生活の全体像を捉えやすい6)。概日リズム睡眠・覚醒障害の診断に用いる場合には,平日と休日の両方を評価する必要があることから最低7日間,可能であれば14日間記録することが望ましい7)。日本うつ病学会のホームページ上においても公開されている(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/ippan/shiryo.html)。

 2)不眠の評価

a) ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburg Sleep Quality Index; PSQI)

Buysseらにより,睡眠障害を測定するために開発された質問票であり,過去1ヶ月間の睡眠について18項目の質問があり,「主観的睡眠の質」「入眠時間」「睡眠時間」「有効睡眠時間」「睡眠障害」「睡眠薬の使用」「日常生活における障害」の7項目の点数算出する。各項目は4段階(0–3点)で評価され,合計点は0–21点となる。日本語版は土井らにより作成されている8)9)。原発性不眠症のカットオフ値として,不安症やうつ病といった精神疾患を有する患者を含めた場合には5.5点が最適であると報告されている9)。本尺度の使用については,教育・学術の目的での使用については無料であるが,商業使用については,ピッツバーグ大学から使用料を請求される可能性がある。

b) 不眠重症度質問票(Insomnia Severity Index; ISI)

過去2週間における不眠の程度を評価する尺度であり,不眠症状(入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒)の他に,「睡眠への満足度」「日中の障害」「他者からの気づき」「不眠の精神面への影響(心配/不快)」を含めた7つの項目から構成される。各項目は5段階(0–4点)で評価され,合計点は0–28点となる。日本語版は宗澤らにより作成されている10)。不眠の重症度判定にも用いられ,不眠なし(0–7点),閾値不眠(8–14点),中等度不眠(15–21点),重症不眠(22–28点)に分けられる。本尺度の臨床現場における使用については使用許可を必要としない。しかし論文や学会発表等(事例研究を含む)での公表を目的とした使用には許可が必要となる10)

c) アテネ不眠尺度(Athens Insomnia Scale; AIS)

国際疾病分類第10版(ICD-10)の不眠症の診断基準に基づいて作成された過去1ヶ月間の不眠の重症度を評価する尺度であり,「入眠困難」「夜間中途覚醒」「早朝覚醒」「総睡眠時間」「全体的な睡眠の質」「日中の気分」「身体的及び精神的な日中の活動」「日中の眠気」の8項目から構成される。各項目は5段階(0–3点)で評価され,合計点は0–24点となる。日本語版は岡島らによって作成されており,6点以上を病的不眠のカットオフとして用いることが妥当と示されている11)。なお,本尺度は学術研究が目的の場合には自由に使用できるが,営利目的あるいは非学術研究での使用を目的とする場合には,著者による書面での許可が必要となる。

 3)日中の眠気の評価

a) エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale; ESS)

日常生活における眠気を評価する尺度であり,8つの具体的な場面や状況(読書,テレビ,会議,など)における眠気の評価を行う12)。各項目は4段階(0–3点)で評価され,合計点は0–32点となり,ナルコレプシーの診断においては合計点が11点以上の場合に病的な日中の眠気を示すとされている13)。なお,非営利,営利使用を問わず,本尺度を使用して調査を行う場合は,使用登録申請が必要となる。

b) 子どもの日中眠気評価尺度(Pediatric Daytime Sleepiness Scale; PDSS)

エップワース眠気尺度の評価に用いられる日常生活の場面を子どもの生活状況に合わせて改変した尺度である14)。子どもの理解度に応じて,必要であれば保護者や教師によって評価される。各項目は4段階(0–3点)で評価され,合計点は0–32点になる。11~18歳が対象の場合には21点がカットオフ値として推奨されている。東京医科大学睡眠医学講座のホームページにて公開されている(https://tokyo-med-sleep.tokyo/view/66)。

 4)時間特性

a) 朝型-夜型質問紙(Morning and Evening Questionnaire; MEQ)

体内リズムの個人差の推測に用いられる尺度であり,19の質問項目から構成されている。合計点によって,明らかな朝方(70–86点),ほぼ朝方(59–69点),中間型(42–58点),ほぼ夜型(31–41点),明らかな夜型(16–30点)の5つに分類される15)。また,三島らにより自己評価版の朝型-夜型質問票(MEQ-SA)も発表されており,インターネット上で入手可能である16)

b) ミュンヘンクロノタイプ質問紙(Munich Chrono Type Questionnaire; MCTQ)

個人の朝型―夜型の時間特性を評価する尺度である。「仕事のある日」と「仕事のない日」それぞれの就床・消灯・入眠に必要な時間・覚醒・起床時刻・目覚まし時計の使用の有無と目覚まし時計使用前の起床を尋ねる項目から,睡眠中央時刻(midpoint of sleep on free days)を算出し,クロノタイプを判定したり,社会的ジェットラグ(social jetlag)といったパラメータを算出したりすることができる。日本語版の信頼性と妥当性も検証されており17),質問紙は国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠/覚醒障害研究部のホームページ上で公開されている18)

c) 子どもの朝型-夜型質問票(Children’s Chronotype Questionnaire; CCQ)

就学前から学童期の子ども(4~11歳)の朝型-夜型を評価するために開発された,保護者による自記式尺度である。睡眠/覚醒に関する16の質問(予定のある日についての8項項目,自由な日についての8項目),朝型-夜型に関する11の質問から構成される。保護者は睡眠覚醒に関する項目については該当する数字・文字を記入し,朝型-夜型に関する項目についてはリッカート式の選択肢から回答を1つ選んで報告する(得点範囲:10–48点)。日本語版の信頼性も検討されている19)20)。本尺度の使用には使用時に文献19)20)を明記すること以外の制約はない。

 5)睡眠妨害事象のスクリーニング

不眠症や過眠症以外にも,閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea),むずむず脚症候群(restless legs syndrome),周期性四肢運動障害(periodic limb movement disorder)といった身体疾患についてもスクリーニングを行うことが望ましい7)。むずむず脚症候群に対しては,International Restless Legs Syndrome Rating Scale(IRLS)が,夜間の異常行動に対してはREM sleep behavior disorder screening question(RBDSQ)が用いられる。

 4.めまいへの活用(応用)

睡眠の問題または障害自体が様々な身体疾患や精神疾患と合併することも多い。めまい診療においても,適切な診断と治療方針の決定のため睡眠について網羅的に,また詳細に評価することが望ましい。メニエール病や自律神経失調症に高頻度でみられる睡眠障害に対してPSQIを用い評価することが,めまい診療の診断や治療,さらに,他科との連携のタイミングを判断する上で有用であったことが報告されている21)。近年では,スマートフォンアプリによる睡眠評価の有用性も報告されるようになっている22)。これらの尺度はいずれも睡眠の評価のみならず,生活指導への介入や治療効果のモニタリングにも有効となる。しかし,本稿で紹介した自記式尺度によって測定される睡眠の質や睡眠状態と終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography; PSG)によって客観的に測定される睡眠状態との関連は十分ではないため,精査が必要と考えられるケースの場合には専門医療機関に紹介することが現実的である5)

また,精神疾患に伴う睡眠障害を鑑別するために,Patients Health Questionnaire-9(PHQ-9)やGeneralized Anxiety Disorder-7(GAD-7)等が用いられる場合もある7)。日常診療において網羅的に睡眠障害や精神疾患の存在をスクリーニングするには,DSM-5-TRレベル1横断的症状尺度を用いる方法もある23)。特に,子どもに好発する心身症の一つである起立性調節障害は,様々な自律神経失調状態をきたすなかでめまいが現れることもある。睡眠リズムを整えることで症状に改善が見られることも多い。めまいやその他の身体症状を伴うものの,睡眠障害が中心となるケースでは概日リズム睡眠障害群(睡眠・覚醒スケジュール障害),イライラなどの精神症状が主体のケースでは,不安症や抑うつ状態と位置づけて診療に臨むことが適切とされる24)

めまい診療においては,不適切な睡眠や睡眠障害が合併することがある。良質な睡眠が得られることでめまいを含めた症状に改善が得られるばかりではなく,全般的な生活の質の向上が得られることが期待される。

講演料:武田薬品工業株式会社

寄附講座に所属:富山県

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