2025 年 84 巻 6 号 p. 495-500
Conversion disorder (CD) is a mental health condition in which psychological stress manifests as physical symptoms that cannot be attributed to medical or neurological conditions. These symptoms may include paralysis, difficulty in swallowing, dysphonia, and/or sensory disturbances. While CD falls within the domain of child psychiatry, affected patients may present to an otorhinolaryngologist with complaints such as difficulty in standing and walking.
Brief direction-changing nystagmus like periodic alternating nystagmus (PAN) should primarily be considered as a sign of a central lesion involving the cerebellum or brainstem. PAN is characterized by cyclical nystagmus, in which right-beating and left-beating phases alternate, and could be either congenital or acquired; acquired PAN is typically associated with cerebellar disease.
We report the case of an 11-year-old male patient who presented with difficulty in standing and walking. He did not experience dizziness while sitting or eating, and ataxia-like movements occurred only when he attempted to stand. He exhibited spontaneous nystagmus and saccadic pursuit. While the brief direction-changing nystagmus could not initially be identified, it was recognized subsequently. A comprehensive systemic examination revealed no evidence of a central nervous system disorder. During a pediatric consultation, significant household stress was identified, and a subsequent pediatric psychiatric evaluation led to the diagnosis of CD. The patient’s nystagmus was ultimately presumed as representing congenital nystagmus. Following a few weeks of cognitive behavioral therapy, his ability to stand and walk improved markedly.
転換性障害は,以前に‘ヒステリー’と呼ばれたこともある精神疾患だが,DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)1)にて「変換症/転換性障害(機能性神経症状症)」と記載されている。心理的ストレスが身体の機能障害に転換されるもので,運動機能や感覚機能の障害を呈する疾患である。小児の転換性障害は主に精神科や小児科での治療となることが多いが,平衡障害が初発症状である場合には耳鼻咽喉科を最初に受診する場合がある。
周期性方向交代性眼振(periodic alternating nystagmus, PAN)は水平方向性自発眼振の方向が周期的に変わる異常眼球運動であり,先天的にみられる場合と,脳幹・小脳障害等によって後天的に生じる場合とがある。典型的なPANではおよそ90–120秒毎に方向が変化する2)が,実臨床では長時間観察しなければ指摘が困難であり,各々の眼振で方向の逆転を指摘することで方向交代性自発眼振(direction-changing spontaneous nystagmus, DCSN)と表記する報告もある3)4)。乳幼児期以降にはじめてPAN/DCSNを指摘された際には,先天性か後天性かの鑑別が非常に重要であるが,症例が小児の場合は成人よりも検査が不十分となる場合もあり,両者の鑑別が困難な状況が起こりうる。
今回われわれは,立位歩行困難で紹介受診し,DCSNを認め最終的に転換性障害の診断に至った小児例を経験した。診断までに時間を要したため,診断までの過程を見直し文献的考察を交えて報告する。
症例:11歳 男児
主訴:浮動性・回転性めまい,立位歩行困難
既往歴:低体重出生(1300 g),斜視手術(2歳)
現病歴:X − 1年12月に,普段と同じように小学校に登校し教室で過ごしていたが,特に誘因なくふらつきが出現した。前医耳鼻咽喉科を受診し,顕著な眼振は認めなかったものの右軽度感音難聴を指摘され,プレドニゾロン20 mg 3日間,10 mgを3日間の内服治療が行われ,投薬終了後にはめまい・感音難聴ともに改善を認めた。X年1月上旬にふらつきが再燃し歩行困難となった。前医を再診し,左向き水平回旋性眼振を指摘された。頭部単純MRIでは異常所見を認めなかった。メニエール病を疑われてプレドニゾロンや五苓散の内服加療を受けるも改善傾向に乏しく,精査目的にX年1月下旬に当院を受診した。
車いすを母親に押してもらいながら診察室に入室したが,車いすでの座位姿勢は安定していた。問診にて,めまいは持続的な浮動感と主に起床時と昼寝から起きた際の10分前後の回転性めまいとのことであった。自宅では地面を四つん這いで移動しているが,食事やトイレ,テレビゲームは座位で苦痛なくできているとのことであった。学校では目立ったトラブルなく,これまで発達障害を指摘されたこともなかった。特にめまいの契機となるイベント等もなかった。診察時の眼振所見は,右向き自発眼振および全注視方向で右向きの自発眼振を認め,赤外線CCDカメラ下では仰臥位で左向きの頭位眼振を認めた(図1)。ビデオヘッドインパルス検査は理解困難で実施できなかった。座位から立位を取ろうとすると力が入らず失調様動作となり他者による支持が必要であった(図2)。標準純音聴力検査では左耳に比べて右耳で5 dB程度の閾値上昇があるものの顕著な難聴は認めなかった(図3)。頭部単純CTおよび単純MRIおよび血液検査では明らかな異常所見を認めなかった。シェロングテストは立位困難のため実施できなかった。追跡眼球運動検査および視運動性眼振検査は,当院に使用可能な検査機器がないため実施できなかった。

a):注視眼振検査。b):頭位眼振検査。全方視で右向き注視眼振を認めた。仰臥位にて左向き眼振を認めた。

立位を取ろうとすると脱力様になり他者による支えが必要であった。再び座位になるとふらつきを認めず安定した座位が可能であった。

各種検査後の結果説明のため再度診察室に入室したところ,左向き水平性自発眼振を認め,初回検査時と眼振方向が逆転していた。しばらく眼振を観察していたところ,数秒-3分間隔と不規則であるが短時間で自発眼振の方向が逆転する所見(J-STAGE Dataに動画1,動画2を掲載:https://doi.org/10.60266/data.jser.29498006)を認め,DCSNと考えられた。これまでめまいの既往がなかったこと,また前医からもDCSNの指摘は特になかったことから,後天性DCSNの可能性を考えて受診日当日中の小児科的な全身精査を提案した。しかし本人・母親とも当日中の受診を希望されず帰宅し,5日後に当院小児科を受診した。小児科診察にて,小脳性運動失調や錐体路症状を認めず,深部腱反射の亢進・低下も認めなかった。髄液検査は脳炎症状に乏しいため施行されなかった。担当した小児科医の詳細な問診にて,妹が本人へ強く依存しており,妹への対応が毎回本人の強い精神的ストレスになっていると申し出があった。小児科医診察後に心因性立位歩行障害および先天性PAN/DCSNである可能性を想起した。本人の顔面の位置を観察すると,軽度だが右側へのHead turn(顔面の回転)を認めた(図4)。診察時に左右交代性のHead turnは認めなかった。後日児童精神科を紹介受診したところ,発達障害,軽度知的障害および転換性障害と診断された。DCSNが先天性かどうか明らかではないが,今回の症状との関連性は乏しいと判断した。当院初診時から転換性障害の診断までに3週間の時間を要した。

やや右側へのHead turnを認めた。診察中に左側へのHead turnは認めなかった。
経過:重心動揺検査にて暗算負荷をかけると開眼時・閉眼時ともに暗算負荷ない状態の動揺に比べて動揺の改善を認めた(図5)。また明所下,正面視の状態で片眼遮蔽したところ,両眼とも非遮蔽眼方向へのjerk型眼振を認め,潜伏眼振と考えられた。児童精神科への通院加療を開始し,本人の好きなイベントへの参加を目標に立位保持練習を開始したところ,2週間後には車いす離脱可能となり,4週間後には学校通学を再開した。幼少期に斜視の手術後,眼科を定期的に受診しており,担当医に今回の診療経過を報告したところ,手術当時の診療録に「眼球の揺れあり」の記載があったことが伝えられた。学校通学再開から6カ月経過したが,めまいの再燃なく学校生活も支障なく継続できている。DCSNは症状改善後も変化なく残存しており,経過からDCSNは先天性であると推測した。

a):暗算負荷なし。b):暗算負荷あり。暗算負荷を行うと,暗算負荷がない状態と比べて動揺範囲の縮小を認めた。
今回我々は,立位歩行障害で発症した転換性障害にDCSNと発達障害を合併した小児例を報告した。本症例は一側性聴力障害と眼振所見から当初メニエール病を疑われており,経過がメニエール病として非典型的であることから当院へ紹介となった。当科での初回診察時もメニエール病としては考えにくい印象であったが,自発眼振・注視眼振と頭位眼振で方向が反対であることの病的評価が不十分であった。2回目の診察時にDCSNに気づき,初回診察時の自発眼振と頭位眼振の方向逆転はDCSNの方向逆転をみていたものと考えられた。また本症例は家庭内の精神的ストレスが立位歩行障害として身体症状に転換された転換性障害であり,耳鼻咽喉科的には心因性平衡障害であるが,転換性障害そのものは精神科的疾患である。今回小児科的視点があったことも診断に至る大きな手掛かりとなったが,当初から心因性めまいを鑑別の上位に想定していれば診断までの時間が短縮できた可能性が考えられた。
心因性立位歩行障害は確立した診断基準はないものの,診断のポイントとして神経学的所見に一致しない極端な動作や姿勢をとること,症状に心因的要素の関与があること,が指摘されている5)6)。初回診察時にも心因性めまいを考慮して学校生活など含めて問診したものの,家庭内ストレスの話を引き出すことができなかった。病院内とはいえ保護者や本人も初対面の医師に家庭内のことまで話をしたくないという心理がはたらく可能性や,めまいの原因として捉えていない可能性もあり,特に小児例での心因的病歴の聴取は小児科を含めた複数診療科で対応することも必要であると考えらえた。転換性障害は心理的ストレスから無意識のうちに自分を守る反応で,症状があるときとそうでないときの差が大きい,また症状が出現する状況が決まっていることが指摘されている7)。振り返ってみると,眼振所見から後天性PANの可能性も考慮して当日他科紹介を勧めた際に希望されなかった点,さらに立位歩行困難の程度に比べてテレビゲームや食事は座位で不自由なく行っていた点も,転換性障害・心因的要素を疑うヒントであったと思われた。転換性障害では視覚障害や聴覚障害を伴うこともある7)が,本症例では視覚聴覚症状の訴えは認めなかった。転換性障害では疾病利得という心理状態の関与があり,症状によって困難な状況が回避でき(一次疾病利得),周囲が症状に注目して配慮することで症状が遷延される(二次疾病利得)。そのため器質的異常のための検査の反復が逆に症状を悪化させる7)。ただし転換性障害の診断には身体的異常所見の除外が必須であるため,なるべく早い段階で身体的異常の除外をきちんと行い精神的要因を疑うことが症状悪化の予防につながる。心因性めまいを見つける病歴聴取以外の方法として,心因性ロンベルグ検査が有用とされている6)。心因性起立歩行障害では起立時に注意をそらすことで身体動揺が改善することが特徴とされ,本症例でも車いすを離脱できた後に実施したところ,暗算負荷にて開眼時・閉眼時とも動揺面積の大きな縮小を認めた。
PANは左方向と右方向への眼振が移行帯をはさんで交互に繰り返す眼振である2)。先天性PANは生後からみられる先天性眼振の一つであるが,先天性眼振では通常の光量下での固定指標注視において動揺視をきたすことは稀とされる8)。一方後天性PANは主に小脳病変によって起こり,中枢の抑制障害や速度蓄積機構の障害によるとされている2)。後天性PANでは動揺視を引き起こすが,GABA作動薬のバクロフェン投与によって抑制機構を再構成することでPANが改善することが特徴的である9)。本症例では動揺視の訴えはなかった。さらに中枢神経障害を示唆する神経学的所見にも乏しく,頭部画像検査でも異常を認めなかった。また先天性PANでは視野を中心窩でとらえるためにHead turn2)10)を認める場合があるが,本症例でも診察時にやや右向きのHead turnを認めた。以上のことから本症例の眼振は後天的ではなく先天的が眼振であると判断した。尚,本症例の眼振は方向交代性ではあるものの,典型的PANのような90–120秒毎の方向逆転を指摘できなかった。今回はDCSNという表現を使用した3)4)が,非典型的眼振所見を有する先天性PANの可能性は否定できない。先天性PANの静止位の移動周期は一定ではなく左右どちらかに偏ることも多いと指摘されている11)。Head turnも静止位の移動に伴って交代性となれば認識しやすいかもしれないが,交代性のHead turnがない症例もあり,PANの診断に至らない原因の一つとされている2)。本症例も前医診察時や当科初回診察時にはその‘非対称性’をみていたためPAN/DCSNに気が付かなかったと思われた。先天性眼振の特徴の一つとしてHead turnの他にも動揺病の合併を指摘する報告10)があるが,本症例では動揺病の有無に関しては未確認であった。動揺病は小児において起立性調節障害が重要な鑑別疾患の一つであるが,小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン7)において身体症状項目の一つに含まれている。初診時問診の時点で動揺病の有無について確認しておくことも診断の手掛かりになると考えられた。
本症例では潜伏眼振の合併を認めた。潜伏眼振は,乳児白内障や斜視など視覚発達中に起こる両眼視の障害との関連が指摘されている12)。本症例の幼少期の眼科診察で指摘のあった眼振に関して詳細を問い合わせたところ,先天性外斜視を認め両眼とも手術加療を行っていた。当時のカルテに片眼遮蔽した際に非遮蔽眼に眼球の振動があったと返答があり,おそらく潜伏眼振がその当時から存在していたと思われた。当科での初回診察の段階で片眼遮蔽を行い潜伏眼振の有無も確認しておくことが望ましかった。片眼遮蔽そのものはSkew deviation(斜偏倚)の有無を検索する際に行われるcover test13)としても応用可能で,短時間で行うことができる検査であり,めまい診療におけるルーチン項目に含めるべきと思われた。また,斜視に関連する先天性眼振の一つに眼振阻止症候群(nystagmus blockage syndrome: NBS)があり,片眼あるいは両眼を内転させることで眼振を減弱させ内斜視となった状態である14)。本症例では外斜視手術後で診察時に明らかな内斜視を疑う所見は認めなかったが,斜視の存在は先天性眼振の発見の契機となるため,その有無について確認することは重要である。
DCSNを有する,起立歩行障害で発症した転換性障害の男児の1例を報告した。初回診察時に先天性眼振所見を意識した観察ができず,また心因性めまいを疑う病歴に留意できなかったため,診断までに時間を要した。眼振所見と症状に乖離があった場合,PANなど先天性眼振の合併を疑い,数分程度の時間をかけた眼振観察および片眼遮蔽による潜伏眼振の有無やHead turnの有無の確認を行う必要がある。小児めまいにおいて心因性めまいは特に重要な鑑別であり,場合によっては小児科の協力も得ながら丁寧な病歴聴取や身体診察を行うことが重要である。
本論文の要旨は第83回日本めまい平衡医学会・学術講演会(愛知)にて発表した。
利益相反に該当する事項はない。
全てのエビデンスデータはJ-STAGE Data で利用できます。(リンク先)The data analysis file and all annotator data files are available in J-STAGE Data, (link here)