Equilibrium Research
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原著
持続性知覚性姿勢誘発めまいに対する薬物治療の副作用と治療効果との関連
實川 純人柏木 智則岩切 綾花高野 賢一
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2025 年 84 巻 6 号 p. 501-507

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Translated Abstract

Persistent Postural-Perceptual Dizziness (PPPD) is a leading cause of chronic dizziness, and antidepressant therapy, vestibular rehabilitation, and cognitive-behavioral therapy have been reported as effective treatments. However, side effects associated with antidepressant therapy could reduce treatment adherence. This study was aimed at evaluating the side effects and treatment outcomes of antidepressant therapy for PPPD. We enrolled a total of 21 patients who visited our Department of Otorhinolaryngology between May 2022 and September 2024, were diagnosed as having PPPD according to the 2017 Bárány Society criteria, and received antidepressant therapy for at least three months. Treatment efficacy was assessed using the Niigata PPPD Questionnaire (NPQ), with a reduction by 13 points or more considered as representing significant improvement. Adverse effects were classified according to the CTCAE Ver5, with severe adverse effects defined as those that necessitated discontinuation of the same medication. Severe adverse effects were observed in 5 of the 21 patients (23.8%), consisting primarily of gastrointestinal symptoms, along with akathisia and muscle stiffness. Patients who experienced severe adverse effects exhibited significantly higher NPQ scores prior to treatment initiation, particularly for items related to standing, motion, and visual stimulation. However, despite experiencing adverse effects, all five patients showed symptomatic improvement of the dizziness after six months of continued treatment. The results suggest that patients with higher NPQ scores prior to treatment are more likely to experience adverse effects, but that symptom improvement can still be achieved with continued treatment. Effective communication with patients about potential side effects before initiating antidepressant therapy may enhance treatment adherence. Further studies are warranted to validate these findings and improve the treatment strategies for PPPD.

 緒言

めまいは耳鼻咽喉科領域において頻繁にみられる症状であり,特に3ヵ月以上持続する場合は慢性めまいと定義される。その中でも,持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural Perceptual Dizziness: PPPD)は慢性めまいの原因として最も多く,全体39%を占めるとされる1)。PPPDの診断基準には,浮遊感や不安定感などが日常的に続き,立位姿勢や視覚刺激で増悪することが含まれる。治療は抗うつ薬を用いた薬物治療,前庭リハビリテーション,認知行動療法の有効性が報告されている。薬物治療開始に伴う副作用の出現率が高く,選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)は6割以上に副作用が出現するとされ,治療継続率の低下が懸念される2)。治療開始に際し,副作用の出現を予想し,そのような症例の治療効果について患者に説明することができれば,治療継続率の向上につながると考えられる。そこで,副作用を強く生じる症例の特徴を明らかとし,それらの症例の治療効果について明らかとすることを目的とした。

 方法

当院では,治療効果と継続率の向上を目指して2022年5月より当院精神科と連携してPPPDの治療にあたっている。耳鼻咽喉科を3ヵ月以上持続する慢性めまいで受診した患者に対し,めまい精査を進めていく。Barany SocietyのPPPDの診断基準に準じて,PPPDと診断した症例には病気の説明,治療方法について説明し,当院精神科に紹介する。精神科ではPPPDを熟知した固定の医師により,改めてPPPDについて説明の上,薬物治療を開始する。抗うつ薬の第一選択はエスシタロプラムとし,副作用で継続が難しい症例は第二選択としてボルチオキセチン,さらに「継続が難しい」もしくは「副作用がつらく抗うつ薬の継続を強く希望されない」際はタンドスピロンに変更する。いずれも,うつ病の用法用量に規定される半量より開始し,段階的にうつ病の通常量まで症状を見ながら増量する。タンドスピロンは1日30 mgより開始し60 mgまで増量する。必要時には消化管運動機能改善を期待してモサプリドクエン酸塩を併用する。治療経過は耳鼻咽喉科と精神科で診ていく。

今回,2022年5月から2024年9月の間に,「3ヵ月以上ほぼ毎日続くめまい」を主な症状として当院耳鼻咽喉科を受診し,PPPDと診断された患者のうち,薬物治療を開始し,少なくとも6ヵ月以上経過観察ができた21例を対象とした。診断はBarany Societyが2017年に策定したPPPD診断基準3)に準じて行った。治療効果は新潟PPPD問診票(Niigata PPPD Questionnaire: NPQ)の治療前から治療後にかけてトータルスコアの13点以上の低下を有意な症状改善4)と判定した。薬物治療は,当院精神科に紹介の上,抗うつ薬の使用を基本とした。薬物治療の開始に伴う副作用については,CTCAE Ver5に準じて,同一薬剤の継続が困難な副作用(Grade 2以上)を高度副作用,副作用対策を講じながら継続可能な副作用を軽度副作用とした。年齢,先行疾患,病悩期間,精神疾患の合併,前庭機能障害の合併,薬物治療開始前のNPQ,DHI(Dizziness Handicap Inventory),STAI(State Trait Anxiety Inventory)を比較検討した。年齢は薬物治療開始時の年齢,病悩期間は問診より得ためまい症状が出現した時期から薬物治療開始までの期間を月単位で評価した。前庭機能障害を認め,先行して前庭リハビリテーションを施行した症例は,前庭リハビリテーションガイドライン2024年度版に準じて2ヵ月以上行い,症状の再評価を行なった。前庭機能障害はカロリックテストにてCP(半規管麻痺)が20%以上,もしくはvideo Head Impulse Testにて前庭動眼反射利得(VORゲイン)が0.8未満かつcatch up saccades(CUS)を認めることとした。精神疾患の合併は非特異的な診断名での睡眠薬や抗不安薬の内服症例は含めず,精神科にて精神疾患の診断が確定している症例を合併ありと判断した。各群の年齢,病悩期間,NPQ,DHI,STAIは対応のないt検定を用いて群間比較を行い,性別,精神疾患の既往,前庭機能障害の合併についてはFisherの正確検定を用いた。NPQを説明変数,STAIを目的変数として両者の関連を検討するため,最小二乗法による単回帰分析を行った。統計解析にはJMP Pro 17を用い,有意水準はp < 0.05とした。なお,本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認(承認番号362-195)を得て研究を行ったものである。

 結果

 薬物治療開始に伴う副作用について(表1
表1 各群における患者背景とNPQおよびDHI

なし・軽度副作用 高度副作用 p値
症例 16 5
年齢(平均±SD) 60.4 ± 16.8 63.6 ± 20.2 n.s.
性別(男性/女性) 7/9 0/5 n.s.
病悩期間(ヵ月)(平均±SD) 34.8 ± 33.5 27.2 ± 32.3 n.s.
精神疾患合併(%) 12.5 0 n.s.
前庭機能障害合併(%) 25 20 n.s.
NPQ(総合)(平均±SD) 34.9 ± 12.8 57.6 ± 5.1 0.0012
NPQ(立位)(平均±SD) 10.9 ± 5.2 20.2 ± 1.9 0.0010
NPQ(体動)(平均±SD) 11.4 ± 3.6 19.2 ± 2.5 0.0002
NPQ(視覚)(平均±SD) 12.1 ± 6.1 18.2 ± 3.8 0.0499
DHI(総合)(平均±SD) 46.8 ± 17.1 57.3 ± 36.0 n.s.
DHI(Physical)(平均±SD) 17.1 ± 3.0 18.0 ± 4.0 n.s.
DHI(Emotional)(平均±SD) 14.9 ± 8.8 20.0 ± 15.6 n.s.
DHI(Functional)(平均±SD) 14.9 ± 9.1 19.3 ± 17.0 n.s.
STAI(状態不安)(平均±SD) 49.3 ± 11.2 45.5 ± 9.9 n.s.
STAI(特性不安)(平均±SD) 47.5 ± 9.8 49.0 ± 21.2 n.s.
先行疾患 BPPV 4例
末梢前庭障害3例
メニエール病1例
前庭神経炎1例
不明7例
BPPV 2例
メニエール病1例
不明2例

年齢,性別,病悩期間,精神疾患合併,前庭機能障害合併,DHI,STAIに有意差は認めなかった。NPQは高度副作用を認めた症例で有意に高い。

n.s.:no significant

SSRIであるエスシタロプラムを開始したところ,PPPD症例21例中5例に高度副作用を認めた。高度副作用として消化器症状を全例(5例)に認め,他にアカシジアを1例,筋硬直を1例に認めた(重複を含める)。消化器症状については嘔気3例,便秘1例,下痢1例であった。いずれの症例も消化管運動機能改善を期待してモサプリドクエン酸塩を併用し,必要に応じてメトクロプラミドを併用したが,薬物治療開始平均8日(2日~16日)で,副作用のため第一選択薬であるエスシタロプラムを継続困難と判断した。そのうち4例はボルチオキセチンに変更するもやはり消化器症状を強く認め,タンドスピロンに変更し継続した。1例はエスシタロプラムの副作用が強く,抗うつ薬の中止の希望が強く,タンドスピロンに変更することで治療を継続した。軽度副作用は5例に認め,消化器症状(胃部不快感2例,食欲不振1例,嘔気1例)を4例に認め,もう1例は口渇症状であり,含嗽剤で対応した。高度副作用を認めた症例は,治療開始前のNPQスコアが「なし・軽度副作用群」と比較して有意に高く,増悪因子を評価したところ,立位,体動,視覚のいずれにおいても有意に高い結果であった(図1)。DHIは高度副作用を認めた症例に高い傾向はあったが有意差は認めなかった。また,高度副作用を認めた症例は全例女性であった。STAI,病悩期間,精神疾患の合併,前庭機能障害の合併については,有意な差は認めなかった。

図1  治療開始前のNPQ

高度副作用群の治療開始前NPQスコアがなし・軽度副作用群と比較して有意に高い。

 治療経過について

両群ともに治療開始6ヵ月時にNPQスコアの有意な改善を認めた。治療開始6ヵ月時のNPQスコアの改善は,高度副作用群で有意に大きく,高度副作用群は薬物治療開始6ヵ月時には5例全例で症状改善を認めた。(図2)。

図2  治療経過

両群ともに治療開始6ヵ月時にNPQスコアの有意な改善を認めた。

治療開始時と治療開始6ヵ月時のNPQスコアの改善は,高度副作用群で有意に大きく,高度副作用症群は薬物治療開始6ヵ月時には5例全例で症状改善を認めた。

 不安と副作用の出現について

両群間にSTAIスコアの有意な差は認めなかった(図3)。またNPQとSATIに有意な関連は明らかではなかった(図4)。

図3  治療開始前のSTAI

両群に有意な差は認めなかった。

図4  NPQとSTAIの関係

最小二乗法に基づく単回帰分析を行った。

p値>0.05であり,有意な関連は認められなかった。

 考察

PPPDに対する治療は抗うつ薬を中心とした薬物治療,前庭リハビリテーション,認知行動療法の有効性が報告される1)。治療の主軸となる抗うつ薬は治療開始に伴う副作用を高頻度に認め,治療継続率の低下が懸念される。抗うつ薬開始に伴う副作用の出現率は65%程度と報告され2),当院でも軽度副作用を含めると約半数に認めた。患者は長期にわたってめまい症状に苦しんでおり,さらに治療開始に伴い消化器症状を中心とした副作用が出現するとなると,治療のモチベーションの低下が懸念される。そこで,治療開始前に副作用の出現を予想し,高度な副作用を生じた症例において,治療を継続するメリットがあるのか,治療経過を検討した。

PPPD症例21例中,高度副作用を生じた症例は5例(23.8%)であり,治療開始前のNPQスコア,各増悪因子ともに,「なし・軽度副作用群」と比較して有意に高い結果であった。PPPDの発症リスク因子として高い不安傾向が認められることが示されている5)。不安を評価する心理検査としてSTAIが広く使用されている。STAIは特性不安と状態不安を評価し,特性不安は状況によって変わらない心配性といった性格を表し,状態不安は状況による不安を表す。自験例では,両群ともにSTAIスコアは高値であり,高い不安を示した。不安が強い症例はNPQスコアが高く評価され,薬物治療開始に伴う副作用を強く感じる可能性を考えた。そこで,両群においてSTAIを比較したが,有意差は認めず,高度副作用群で不安が強いということは明らかではなかった(図3)。そしてNPQとSTAIの関連についても検討したが,有意差は認めず(図4),不安が強い症例が必ずしもNPQが高値となるということはないようである。また,高度副作用を認めた症例は全例,女性であった。一般的に,SSRIの副作用は薬物動態の影響から女性に多いと報告され6),PPPDに対しても同様の可能性が考えられる。また女性は男性よりも抗うつ薬の治療に対する反応が良く,特にエストロゲンがこの効果を高める役割を果たしていると報告7)があり,閉経前の女性はPPPDに対する薬物治療の効果が高い可能性があるが,今回の検討では薬物治療開始6ヵ月後のNPQの平均改善スコアが女性は17.7,男性は8.7と女性で反応が良い可能性はあるものの,有意な結果は得られなかった。抗うつ薬の副作用と治療効果の関連性は明らかとなっていない。しかし,副作用の負担は治療経過に影響を及ぼすとされ,一般に抗うつ薬の副作用は開始2週間以内に出現することが多く,その後軽減・消退するものの,患者が感じる副作用の負担はしばらく持続するとされる8)。今回,高度副作用を生じた症例の多くは,抗うつ薬の開始後に副作用症状について外来に問い合わせをしている。例えば「薬を飲んで3日間は大丈夫だったが,○月○日の朝から回転性めまい,吐き気,立ちくらみ,全身の痺れ,震え,寒気,息苦しさ,胸が締め付けられる感じがして,すごく怖い。どうしたら良いですか?」といった内容であった。抗うつ薬の管理に不慣れであれば,薬物治療の中止とすることも少なくないと考えられる。実際には精神科で,丁寧な説明,診察を早める,薬剤を変更するなどの対応することで,治療から脱落することはなかった。そして,高度副作用を認めた症例は治療開始6ヵ月時には全例症状改善となり,副作用を認めながらも治療を継続していく意義があると考える。一方,高度副作用を認めた症例は治療開始前のNPQスコアが,「なし・軽度副作用群」と比較し有意に高い結果となったが,治療開始前のNPQスコアが高い症例が高い治療効果を期待できるかは,今後の検討が必要である。YagiらはDHIが18点以上改善した症例を「治療反応あり(responders)」と定義した際,治療前のDHIの平均スコアがrespondersは68点,non-respondersが50点と,respondersで有意に高い結果であったと報告している。治療開始時のDHIが高値の症例は治療効果が期待できるが,NPQを含めHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)や罹病期間に有意差はなかったとしている9)。今回の検討では,「なし・軽度副作用群」はDHIの平均スコアが46.8に対して,高度副作用群はDHIの平均スコアが57.3と高い傾向ではあったが,有意差は認められなかった。高度副作用が生じる症例は治療開始前のNPQだけでなく,DHIも高い可能性があり,DHIが高い症例は有意に高い治療効果を期待できる可能性がある。

PPPDの診断はBarany SocietyのPPPDの診断基準に準じて行なっているが,特異的な検査所見はなく,スクリーニングとしての有用性が報告されるNPQを積極的に活用している。しかし,カットオフ値の27点以上であった慢性めまいの8割はPPPD以外の診断であったとの報告10)もあり,薬物治療導入時の副作用も考慮すると診断は慎重に行う必要がある。当院ではPPPDの鑑別として頻度が高いとされる良性発作性頭位めまい症,前庭機能障害,メニエール病,前庭片頭痛,起立性調節障害10)~12)を積極的に疑い,除外した後にPPPDの診断基準に準じて診断している。前庭機能障害を認めた症例はまず前庭リハビリテーションを積極的に導入し,症状を確認後,前庭機能障害のみではめまい症状の説明がつかない際,PPPDと診断している。そのため,PPPDと診断するまでに時間を要し,PPPDと診断する症例は決して多くないのが現状である。そのため症例数が少ないのが今回の検討の限界である。今後も引き続き症例の蓄積を行なっていく。また当院のPPPD治療は,患者が耳鼻咽喉科と精神科の2つの診療科を受診する必要があり,患者の負担を生じている可能性は十分にある。幸い,2つの診療科で治療することの目的をきちんと説明することで,これまでに診療科を1つに絞りたいと申し出た患者はいない。抗うつ薬開始に伴う副作用が生じるのは最初の2週間に多いため,導入・安定後は耳鼻咽喉科のみの診察にすることも検討しているが,副作用の患者負担は2週以後もしばらく持続しているとの報告もあるため,この点は精神科医師としっかりと協議していく必要がある。高度副作用を認めた症例をはじめ,現在までに薬物治療の副作用が原因で治療を中止した症例は認めず,耳鼻咽喉科と精神科で連携して加療していくことの有用性を考える。また今回の検討で,治療開始前のNPQスコアが高い症例は副作用を強く生じる可能性が示唆された。このような症例は,治療継続率の向上のためにも,積極的に精神科と連携して加療することも必要かもしれない。

 結論

本研究ではPPPD患者を対象に抗うつ薬開始に伴う副作用を高度に認める症例について検討した。高度副作用群の治療開始前のNPQスコアが「なし・軽度副作用群」と比較して有意に高い結果となった。高度副作用症例は薬剤変更などを行い治療を継続することで,十分な治療効果を期待できる。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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