2025 年 84 巻 6 号 p. 508-516
Background: Benign paroxysmal positional vertigo (BPPV) is one of the most frequently encountered peripheral vestibular disorders in both specialized and primary care settings. Despite its high prevalence, standardized diagnostic and treatment approaches in primary care remain inadequately established.
Objective: This study was aimed at evaluating the diagnostic and treatment practices for BPPV at referring medical institutions and to identify challenges in its management in the primary care setting.
Methods: We conducted a retrospective analysis of 73 patients diagnosed as having BPPV between January 2020 and December 2024 who initially sought treatment at other medical institutions. We analyzed the patient demographics, diagnostic procedures (including positional and positioning nystagmus tests), treatment modalities, and utilization of imaging studies in this patient cohort.
Results: Older patients showed significantly longer delays before seeking medical attention. Internal medicine clinics were the most common first point of contact; however, positional and positioning nystagmus tests were rarely performed outside of otorhinolaryngology clinics. Imaging studies were overutilized, particularly in hospital settings, despite their limited diagnostic value for BPPV. Canalith repositioning maneuvers were underutilized, whereas pharmacotherapy (often prescribed without strong supporting evidence) was commonly prescribed.
Conclusion: Our findings highlight the need for better standardization of BPPV diagnosis and treatment in the primary care setting. Strengthening healthcare provider education, promoting dissemination of the diagnostic criteria, reducing unnecessary imaging examinations, and encouraging evidence-based management strategies, such as canalith repositioning procedures, are essential for improving patient outcomes and reducing healthcare costs.
日本におけるめまいの有訴率は約20%であり,加齢とともに増加し,65歳以上の高齢者では,男性の23%,女性の36%がめまいを経験している1)。このように,めまいは一般的な症状であり,特に高齢者ではその発生率が高い。
良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV)は日常臨床で最も多くみられる末梢性めまい疾患であり,人口10万人当たりの有病率は10~64人と推定されている2)~4)。また,耳鼻咽喉科診療所ではめまい疾患の23~31%を占める5)~7)。BPPVは自然寛解する場合もあるが,再発率が高く,1年以内に約18~55%が再発する8)9)。したがって,患者によっては長期的な管理が必要になる場合がある。BPPVによるめまい発作は,患者に恐怖感を与え,日常生活動作にも支障きたすことがある。さらに,転倒リスクの増加や高齢者を中心に不安やうつ病などの心理的問題が生じることも指摘されている10)11)。BPPVの診断はフレンツェル眼鏡または赤外線CCDカメラを用いた頭位・頭位変換眼振検査によって,眼振の性状とめまいの有無を確認することで行う12)。治療は耳石置換法による迅速な治療が必要である13)。
BPPVは外来診療において頻繁に遭遇する疾患であり,その診療はめまい相談医に限らず,一般の医師によっても行われる。しかし,BPPVの診断および治療には専門的な知識と技術が求められるため,診療の質にはばらつきがある可能性が指摘されている。海外の研究では,プライマリケア医と神経耳科学専門医の診断精度に大きな違いがあることが報告されている14)15)。また,プライマリケアでは不必要な画像診断14)16)~18)や薬剤投与15)19)20)が行われている。これらの要因により,医療システムや患者に対する経済的負担が増大していることも明らかになっている14)18)。一方で,日本国内におけるプライマリケアでのBPPV診療の実態については,詳細な調査がほとんど行われておらず,その現状は十分に明らかにされていない。
本研究の目的は,当院を受診する前に他医療施設を受診したBPPV患者を対象に,プライマリケアにおける診療実態を明らかにし,BPPV診療の改善に寄与することである。
本研究は,2020年1月~2024年12月までの5年間に他院を受診後,当院(東京都新宿区の無床耳鼻咽喉科診療所)を受診したBPPV患者を対象とした後ろ向き観察研究である。診療は,めまい相談医資格を有する著者が単独で実施した。
BPPVは後半規管型BPPV(半規管結石症),外側半規管型BPPV(半規管結石症),外側半規管型BPPV(クプラ結石症)の3タイプを対象とし,診断は日本めまい平衡医学会の診断基準に基づく確実例とした13)。BPPVの診断には,赤外線CCDカメラ(IME-2,永島医科器械株式会社製)を用いた仰臥位頭位眼振検査,Dix-Hallpike検査およびbow and lean testを実施した。中枢性疾患や他の末梢性めまい疾患を除外するため,脳神経症状や四肢失調の有無を確認し,注視眼振検査,綿棒を用いた追跡眼球運動検査や急速眼球運動検査,ドラム視運動性眼振検査などの神経耳科学的検査を実施した。
前医での診療実態を調査するため,以下の項目を含む問診票を用いて聞き取り調査を実施した。基本情報(年齢,性別),症状関連(症状発現からの経過日数,症状の詳細),既往歴と常用薬,前医(類型および診療科),検査内容(頭部CT・MRI,血液検査,心電図検査,頭位・頭位変換眼振検査,純音聴力検査),めまいの薬物治療(薬剤名,投与日数),めまいの治療(耳石置換法,前庭リハビリテーション)。なお,検査に関しては診療所が外注した検査も含めた。また,医療施設の類型は医療法における施設の定義に,診療科に関しては日本専門医機構が定めた基本的な診療領域に準拠した。
CTおよびMRIの一人当たりの医療費は2024年の診療報酬に基づき,造影剤を用いない場合の撮影料,画像診断料,画像診断管理加算を加えた額の中央値として算出した(CT:14,800円,MRI:21,200円)。中央値は,各項目の金額を昇順に並べ,中央2つの値の平均をとることで求めた。
統計解析にはEZR Version 1.68を使用した21)。発症から当院受診までの日数に関する年齢比較では,Mann-WhitneyのU検定を用い,性別の分布に関する比較には Fisher の正確確率検定を用いた。有意水準は両側検定でp < 0.05とした。
本研究は,ヘルシンキ宣言ならびに文部科学省・厚生労働省が定める倫理指針に従い,日本医師会倫理審査委員会の承認を得た(承認番号 R6-16,承認日2025年2月27日)。
2020年1月~2024年12月までの5年間に当院を受診したBPPV患者276例のうち,前医を受診後に当院を受診した患者は73例(26.4%)であった。73例中,14例は検査や治療を受けずに内科診療所より直接紹介された。一方,59例は検査や治療を受けた後に当院を受診した。なお,検査や治療に関する解析は,この59例を対象とした。対象者の流れを図1に示す。
BPPVの内訳は,後半規管型BPPV(半規管結石症)39例(53%),外側半規管型BPPV(半規管結石症)14例(19%),外側半規管型BPPV(クプラ結石症)20例(27%)であった。性別は男性21例,女性52例であり,年齢は21~93歳,平均年齢は62.7歳(標準偏差16.2歳),中央値は63歳であった。
2)発症から当院受診までの日数対象患者73例の発症から当院受診までの日数は中央値7日(四分位範囲:2–14日),最長4か月であった(図2)。めまい発症から30日以上経過してから当院を受診した患者は12例(16%)であり,この群の年齢中央値は73.5歳(四分位範囲:66.8–82.3歳)であった。一方で,発症から30日未満で受診した患者群(61例)の年齢中央値は60.0歳(四分位範囲:51.0–75.0歳)であり,30日以上経過してから受診した患者群は,30日未満で受診した患者群に比べて有意に年齢が高い傾向が認められた(図3)。なお,発症から30日未満で受診した群と30日以上経過してから受診した群の間で,性別の分布に有意差は認められなかった(Fisherの正確確率検定,p = 1.0)。
3)前医の類型と診療科前医の内訳は,診療所56施設,病院27施設・28診療科であった(図4)。同一患者が複数の医療施設を受診していた例が10例確認された。また,めまい相談医が常勤している診療所は1施設,病院は2施設であった。


(中央値7日,四分位範囲2–14日)

発症から30日以上経過して受診した患者は,30日未満の患者よりも有意に年齢が高かった(Mann-Whitney U検定,p = 0.021)

数字は施設数と割合を示す
前医での検査内容を診療領域別に表1に示す。頭部CTやMRIを実施した施設は,当院へ直接紹介を行わなかった診療所42施設中8施設(19%),病院27施設中20施設(74%)であった。特に病院救急科では全施設で画像検査が実施されていた。頭部CTおよびMRIの両方が実施されていたのは,脳外科診療所1施設,病院救急科5施設,病院内科2施設,病院耳鼻咽喉科1施設であった。
画像検査一人当たりの医療費は,CTで14,800円,MRIは21,200円である。これらを基に画像検査を受けた患者(CT18例,MRI19例)にかかった総医療費を算出すると669,200円となった。また,検査や治療を受けた後に当院を受診した59例で割ると,一人当たりの追加医療費は11,340円と算出された。
頭位・頭位変換眼振検査は耳鼻咽喉科診療所9施設中7施設,病院耳鼻咽喉科では5施設すべてで実施されていた。なお,めまい発作時に難聴,動悸,意識障害などを訴えた患者は認めず,頭部CTやMRI,血液検査,心電図,純音聴力検査では,めまいの原因となる異常所見は指摘されなかった。
5)前医での治療内容
耳石置換法は病院耳鼻咽喉科で1例に実施されていた。前庭リハビリテーションは,診療所および病院耳鼻咽喉科で6例に指導されていた。薬剤は,59例中49例(83%)に処方され,最多で4種類が併用されていた(表2)。
以下に,結果についての問題点と課題,および対策を詳述する。
1)発症から当院受診までの日数発症から受診までの期間が30日以上であった患者群は,30日未満の患者群に比べて有意に年齢が高く,性別による有意差は認められなかった。この結果は,受診の遅れが主に年齢に関連しており,性別には依存しないことを示唆している。高齢者は,めまいを加齢に伴う生理的変化や既存の内科疾患の影響と誤認し,受診を遅らせる傾向があることが推測された。
この結果を踏まえ,プライマリケアの現場では,特に高齢者に向けて早期受診を促す啓発活動が重要であり,そのためには院内でのポスター掲示やパンフレット配布を通じてBPPVの症状や受診の必要性を周知し,早期受診を促す体制の構築が求められる。
2)前医の類型と診療科診療所では内科の受診が最も多く44例であった。一方,病院では救急科が最も多く12例,次いで内科が8例であった。過去の報告でも,診療所では内科の受診が最も多いことが示されている5)22)。BPPVは内科診療においても一般的に遭遇する疾患である。その背景には,高血圧や糖尿病などの内科疾患を有する患者がBPPVを発症することがある点に加え,耳鼻咽喉科医によるめまい診療の重要性や,めまい相談医の役割が十分に認知されていない可能性が推測される。
したがって,めまい相談医の役割を広く周知し,適切な診療が提供される体制を整備することが求められる。
3)前医での検査内容:頭位・頭位変換眼振検査耳鼻咽喉科以外の診療科では,頭位・頭位変換眼振検査は実施されていなかった。本検査が実施されない場合,BPPVの早期診断が遅れ,適切な治療や患者指導の実施が困難となる。その結果,residual dizziness(残存めまい)23)~25)や持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness: PPPD)26)の発症リスクが高まる可能性がある。
残存めまいとは,耳石置換法の成功後も,めまいや不安定感が残る状態を指し23)~25),通常は1~3週間持続するが,1~3か月に及ぶこともある23)24)。発症率は29.6~61.2%と報告されており,リスク因子として,めまいの持続期間の長さ,高齢,不安障害の併存が挙げられている23)~25)。
PPPDは,浮動感・不安定感・非回転性めまいが3か月以上持続する疾患であり,その先行疾患の一つとしてBPPVが挙げられている26)。適切な患者指導が実施されない場合,心理的要因やめまい発作に対する恐怖が回避行動を引き起こし,発症リスクを高める27)28)。
したがって,残存めまいやPPPDの予防のためには,頭位・頭位変換眼振検査を適切に実施し,速やかにBPPVを診断することが重要である。これにより,過度な心配や活動制限を避けるよう指導し,さらに耳石置換法を実行し,めまいの持続を短縮することが求められる。
| 医療施設 | 検 査 | 総件数 | 診療科 | 診療科ごとの件数 |
|---|---|---|---|---|
| 診療所 | CT | 2 | 脳外科 | 1 |
| 内科 | 1 | |||
| MRI | 7 | 脳外科 | 3 | |
| 内科 | 4 | |||
| 眼振検査 | 7 | 耳鼻科 | 7 | |
| 聴力検査 | 3 | 耳鼻科 | 3 | |
| 病 院 | CT | 16 | 救急科 | 9 |
| 内科 | 4 | |||
| 脳外科 | 2 | |||
| 耳鼻科 | 1 | |||
| MRI | 12 | 救急科 | 7 | |
| 内科 | 3 | |||
| 耳鼻科 | 2 | |||
| 血液検査 | 11 | 救急科 | 5 | |
| 内科 | 4 | |||
| 耳鼻科 | 2 | |||
| 心電図 | 5 | 救急科 | 2 | |
| 内科 | 2 | |||
| 耳鼻科 | 1 | |||
| 眼振検査 | 5 | 耳鼻科 | 5 | |
| 聴力検査 | 4 | 耳鼻科 | 4 |
| 薬 剤 | 患者数 (人) |
期間 (日) |
|---|---|---|
| ベタヒスチンメシル酸塩 | 37 | 3~60以上 |
| アデノシン三リン酸 | 20 | 3~60以上 |
| ジフェニドール塩酸塩 | 7 | 5~30 |
| メコバラミン | 4 | 3~30 |
| ドンペリドン,メトクロプラミド | 9 | 頓服~7 |
| ジフェンヒドラミンサリチル酸塩 | 3 | 頓服~7 |
| 漢方薬 | ||
| 五苓散 | 3 | 14 |
| 苓桂朮甘湯 | 2 | 3,14 |
| 補中益気湯 | 1 | 14 |
| エチゾラム | 1 | 頓服 |
| エペリゾン塩酸塩 | 1 | 14 |
| 降圧剤 | 2 | 頓服,14 |
| 不明 | 3 | 不明~7 |
診療所の19%,病院の74%で頭部CTやMRIが実施されており,特に病院救急科ではすべての症例で画像検査が行われていた。しかし,BPPVの診断には,画像検査は必要なく,問診と頭位・頭位変換眼振検査によって診断可能な疾患である14)16)~18)。
本研究では,検査や治療を受けた後に当院を受診した患者一人当たりの画像検査にかかった追加医療費は11,340円と算出された。ただし,これは検査にかかる直接的な費用のみを考慮した試算であり,実際には再診費用,欠勤による経済的損失,確定診断に至らなかったことによる患者のストレスや不安など,間接的な負担も考慮に入れる必要がある。これらの点から,画像検査の過剰実施は医療資源の非効率的な使用につながる可能性があり,患者中心の医療提供という観点から課題が残る。
一方で,急性発症のめまいでは,中枢性疾患との鑑別が不可欠であり,特に神経学的異常(麻痺,構音障害,歩行障害など)を伴う症例では画像検査が必要となる。しかし,BPPVが疑われる症例に関しては,頭位・頭位変換眼振検査の結果やBPPV問診表および脳卒中リスク評価29)30)を活用し,画像検査の実施基準を可能な限り明確化することが望ましい。このような基準の策定により,必要な症例に対して適切に検査を行うことが可能となり,不要な画像検査の削減,医療費の適正化が期待される31)32)。
また,血液検査や心電図と同様に純音聴力検査はBPPVの診断に寄与しないため,必要性は低い。しかし,突発性難聴やメニエール病に伴う二次性BPPVの鑑別には純音聴力検査が有用であり,症状に応じて選択的に実施すべきである。
5)前医での治療内容:耳石置換法耳石置換法は,BPPVに対して最も有効かつ推奨される治療法である13)33)。しかし本研究では1例にしか適用されておらず,実施率は低かった。この背景には,医療従事者の耳石置換法に関する知識・技術不足や,時間的制約,治療用ベッド不足などが影響していると推測される。
一方,前庭リハビリテーションは6例に指導されていた。前庭リハビリテーションは動的前庭代償の促進,適応・感覚代行・慣れの誘導を目的とするため耳石置換法の代替とはなり得ない13)34)。前庭リハビリテーションは,頸椎疾患や特定の心疾患を有する患者,あるいは耳石置換法を希望しない患者に対する補助療法として位置づけるのが適切である。その他,BPPV後の残存めまいやPPPDの改善を目的としたアプローチとしては有用である13)。
BPPVは自然軽快することが多く,耳石置換法を希望しない患者には経過観察も一つの選択肢となる35)。ただし経過観察では症状の持続期間が長引く可能性があり,患者には十分な説明が必要である13)。さらに,経過観察には明確なメリットが乏しく,症状が持続することにより,転倒リスクの増加や日常生活動作・生活の質の低下が懸念される。したがって,経過観察は必ずしも第一選択とはなり得ない。
耳石置換法の実施率向上には,めまい相談医の普及や医療従事者に対して研修会や実技指導の機会を増やし,耳石置換法の標準手技を習得する場を提供することが重要である。
6)前医での治療内容:薬物治療本研究では,59例中49例(83%)に薬剤が処方されていた。耳石置換法の代替として薬物治療が多く行われており,特にベタヒスチンメシル酸塩やアデノシン三リン酸,抗コリン薬が処方されていた。しかし,これらの薬剤はBPPVの根本的な治療には寄与しない13)。薬物治療が多く行われていた背景には,医療従事者のBPPVに関する薬物治療の知識不足や,患者の薬剤希望といった要因が影響していると推測される。
ベタヒスチンメシル酸塩は,高血圧を合併し,発症から1カ月以内の患者に対してEpley法と併用することで,残存めまいを抑制する効果があると報告されている36)。一方で,無投薬群と比較して有意な効果が認められなかったとするランダム化比較試験も存在する37)。
抗コリン作用を持つ薬剤(例:ジフェニドール塩酸塩,ジフェンヒドラミンサリチル酸塩,エチゾラム,エペリゾン塩酸塩)は,重度の嘔気や嘔吐などに対して短期間使用する場合には一定の有用性がある。しかし,日常的または長期的な使用は推奨されない13)23)。特に高齢者では,転倒リスクの増加,排尿障害,眼圧上昇,認知機能低下といった副作用が問題となり,長期使用によってこれらのリスクが高まることが報告されている38)。
以上を踏まえ,BPPV診療において適切な薬物使用を推進するためには,医療従事者に対し薬剤の適正使用に関する教育を行うとともに,患者に対しても,薬物治療は根本的な治療手段ではないことや耳石置換法の有効性について十分に説明し,理解と協力を求めることが必要と考えられる。
本研究は,東京都内の単一の耳鼻咽喉科診療所で実施された後ろ向き観察研究である。そのため,結果が他地域や他医療施設におけるBPPV診療の実態を反映しているとは限らない。今後の研究課題として,多施設共同研究の必要性が示唆される。
また,前医での診療内容は,患者の自己申告や診療記録から得られた情報に基づいている。患者の記憶の不正確さ(想起バイアス)や,診療記録の不備に起因する情報欠損・誤りが生じている可能性がある。特に,検査実施の有無や薬剤処方歴などに関して,報告と実態にずれが生じた可能性があり,その点には慎重な解釈が求められる。
本研究では,前医をかかりつけ医として継続的に受診していたかどうかに関する情報は収集しておらず,受診行動や受診遅延の要因としてかかりつけ医の影響を検討できなかった点も限界である。
その他,前医受診時にはBPPVを発症しておらず,当院受診時に新たにBPPVを発症した症例が含まれている可能性がある。この点は,前医での診療内容とBPPV診断との関連性を評価する上で本研究の限界の一つとして考えられる。
本研究により,プライマリケアにおけるBPPV診療の現状と課題が明らかになった。
・高齢者では受診の遅れがみられ,適切な診断および治療の遅れが生じている。
・耳鼻咽喉科以外では,頭位・頭位変換眼振検査が実施されておらず,早期診断が困難である。
・一部の症例では画像検査が多く行われており,結果として医療費負担が増加する可能性がある。
・耳石置換法の実施率が低く,薬物治療に依存している。
これらの課題を改善するため,以下の対策が求められる。
・院内でのポスター掲示やパンフレット配布を通じたBPPVの啓発活動。
・めまい相談医の周知と,適切な医療機関への紹介体制の整備。
・頭位・頭位変換眼振検査と耳石置換法の普及(医師教育,研修,ガイドライン活用)。
・症例に応じた画像検査の適切な適応基準の設定。
・薬物治療の適正使用推進と,患者教育(薬物は根本治療でないことの周知)。
利益相反に該当する事項はない。