2025 年 84 巻 6 号 p. 517-523
Body vigilance, a maladaptive attentional process driven by fear, is a key mechanism in both the onset and perpetuation of Persistent Postural-Perceptual Dizziness (PPPD). However, a validated tool to specifically measure balance vigilance, which is a core feature of PPPD, has been lacking in Japan. This study was aimed at translating the Balance Vigilance Questionnaire (BVQ) into Japanese and examining the linguistic validity of the translated version (BVQ-J).
The translation and linguistic validation process was conducted according to the International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research (ISPOR) guidelines and included a rigorous process of forward translation, back translation, review by the original developer, and cognitive debriefing interviews of five patients with chronic dizziness. This process identified and resolved several linguistic and conceptual discrepancies, resulting in a final version that was confirmed as being easily understood by Japanese patients while maintaining conceptual equivalence with the original.
The successfully translated and linguistically validated BVQ-J is expected to serve as a crucial tool in Japan for screening patients who are at a high risk for PPPD, quantifying a key therapeutic target for vestibular rehabilitation and psychotherapy, and contributing to elucidation of the underlying pathophysiology of PPPD. Further validation of the psychometric properties of this scale using a larger sample is warranted.
持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural–perceptual dizziness: PPPD)は,近年注目される機能性前庭障害の一つである1)。PPPDにおいて,身体感覚への警戒(body vigilance)は中心的な役割を果たすと考えられている。ここでいう警戒とは,単に症状に注意が向かいやすいということにとどまらず,急性めまい後に生じた再発や転倒への恐怖や予期不安に駆られて,自身の内的な身体感覚に対して,常に意識的な注意を向け,監視し続ける不適応な注意プロセスである2)~4)。近年のシステマティックレビューでは,この身体感覚への警戒の高さが,急性めまい後の不安や破局的思考と並び,PPPD発症の予測因子であることが明らかにされている4)。加えて,身体感覚への警戒はPPPDの病態仮説において症状を永続させる悪循環の維持因子であると見なされている5)。このように,PPPDの発症および持続の双方に関わることから,身体感覚への警戒は前庭リハビリテーションや心理療法における重要な治療標的と位置付けられており2)6),その客観的な評価は,発症リスクの予測,病態理解,および治療効果を測定する上で不可欠である。
身体感覚への警戒を評価する指標として,本邦ではSomatosensory Amplification Scale(SSAS)7)やBody Vigilance Scale(BVS)8)の日本語版が使用されている。しかし,これらの尺度はPPPD患者に特有のバランスへの警戒を捉えるには限界がある。SSASはめまいに特化した項目を含まず,BVSは元来,不安症群における全般的な身体感覚への警戒を評価するために開発されたものであり,めまいに関する設問は1項目にとどまる。BVSに含まれる多くの身体感覚の項目ではPPPD患者と健常対照者との間に有意差が認められず,PPPDに特異的なバランスへの警戒を評価するには不十分であることが示唆されている3)。このため,PPPDのリスク評価や治療効果の判定をより適切に行うには,バランスへの警戒に特化した尺度の開発が求められる。海外ではすでにそのような尺度が開発されて利用されているものの,現時点で日本語で利用できる尺度は存在しない。
Balance Vigilance Questionnaire(BVQ)は,Ellmersらによって開発された6項目からなるバランスへの警戒を評価する尺度である9)。原版BVQは,PPPD患者のみならず,PPPD以外の前庭疾患患者やめまいを自覚する健常対照者など幅広い対象で構成概念妥当性や基準関連妥当性など,心理測定学的妥当性が検証されている。このことは,本尺度が特定の診断に限定されず,めまい症状全体におけるバランスへの警戒を評価する上で有用であることを示唆している。また,原版BVQは内的整合性(Cronbach’s α = 0.905),再検査信頼性(ICC = 0.797)など良好な信頼性も確認されている。そこで本研究では,日本語版BVQ(BVQ-J)を作成し,その言語的妥当性を検証することを目的とした。
BVQ-Jの作成は,原版開発者から許諾を得た上で,International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research(ISPOR)タスクフォースのガイドライン10)および尺度翻訳に関する基本指針11)に準拠し,図1に示すプロセスで実施した。

まず,日本語を母国語とする翻訳者A(医療分野の翻訳経験なし)と翻訳者B(医療分野の翻訳経験あり)の2名の翻訳者が,原版を独立して日本語に翻訳を行った(順翻訳)。次に,作成された2つの順翻訳版を比較し,各項目の表現について翻訳者間で検討を行い,統合された日本語翻訳案を作成した(調整)。
続いて,日本語翻訳案を英文翻訳サービスであるUlatus(Crimson Interactive Pvt. Ltd.)に依頼した。逆翻訳は,原版に関する知識のない翻訳者が担当した。その後,原版開発者が逆翻訳版と原版を比較し,概念的等価性を評価した(逆翻訳レビュー)。修正が必要だと判断された項目は,その指摘に基づき日本語翻訳案を修正し,概念的等価性が確認されるまで再度逆翻訳とレビューのプロセスを繰り返した。なお,BVQが英語以外の言語に翻訳されるのは本研究が初めてであったため,ガイドラインに示されている調和の工程は省略した。
認知デブリーフィングによる言語的妥当性の検証翻訳プロセスの最終段階として,作成した暫定版BVQ-Jが日本の回答者によってどのように理解および解釈されるかを検証するため,認知デブリーフィングを実施した。認知デブリーフィングとは,翻訳の過程で気づかれなかった問題点を特定し,回答者における尺度の理解しやすさや認知的等価性を検討するために行われる質的インタビュー手法であり,5~8名に対する実施が推奨されている。
認知デブリーフィングの対象者については,原版BVQが急性から慢性まで幅広いめまい患者で検証されていることを踏まえた9)。その上で,本邦での言語的妥当性を検証するにあたり,特にバランスへの警戒が病態の鍵となるPPPDなどの慢性めまい患者における言葉の理解度を確認することが重要であると判断した。したがって,本研究では慢性めまい患者群を対象とした。具体的には,五島耳鼻科クリニックに受診しためまい患者のうち,(1)年齢が18歳以上である,(2)めまい症状が3か月以上持続している,(3)日本語を母国語とし,質問紙の読解と意思疎通が可能である,(4)本研究への書面による同意が得られている,という基準を全て満たす者とした。なお,研究責任者が研究への参加が不適切であると判断した者は対象から除外した。
認知デブリーフィングは2025年2月から3月にかけて,筆頭筆者が調査協力者と1対1の対面形式で五島耳鼻科クリニックにて行った。調査協力者には,まず暫定版BVQ-Jへの記入を依頼し,ストップウォッチを用いて回答時間を計測した。回答終了後には半構造化面接を行い,「教示文・質問項目・選択肢で分かりづらい言葉や表現があれば教えてください」といった質問を通じて,教示文,質問項目,選択肢に対する理解度,解釈の一致度,日本語表現の明確さを検証した。なお,認知デブリーフィングは調査協力者の同意を得て,全て録音した。
認知デブリーフィングで得られた質的データをレビューし,著者間で協議の上で,翻訳表現の修正の要否を判断した。修正を加えた場合は,原版開発者に修正した暫定版BVQ-Jを提示し,原文との概念的等価性が維持されていることの確認を求めた。概念的等価性を確認した後,誤字脱字などの最終校正を行い,日本語版Balance Vigilance Questionnaire(BVQ-J)を確定した。
倫理的配慮本研究はNPO法人臨床研究の倫理を考える会の倫理委員会による承認を得て実施した(承認日2025年1月22日,承認番号E2025-01-001)。全ての調査協力者には,事前に研究内容に関する十分な説明をし,書面による同意を取得した。認知デブリーフィングの実施にあたっては,調査協力者のプライバシーの保護に十分配慮した。
図1に示した翻訳プロセスに従って日本語翻訳案を作成し,その逆翻訳版について原版開発者による逆翻訳レビューを受けた。その結果,全体的な概念的等価性は維持されていると評価されたものの,原文のニュアンスをより忠実に反映させるため,3項目に修正の指示があった。具体的な修正内容は以下の通りである。
項目2(原文:I am vigilant to small changes in how steady my balance feels)では,初回の順翻訳「バランス感覚のわずかな変化に対しても用心している」から得られた逆翻訳「I pay attention to even slight changes in my sense of balance」に対して,原文の“vigilant”が持つ強迫的なまでの注意や不安を伴う警戒という強いニュアンスが十分に表現されていない可能性が指摘された。この提案に基づき,日本語翻訳案を「バランス感覚のわずかな変化にも細心の注意を払っている」へと修正し,原文の意図する注意の強度をより明確に反映させた。
項目5(原文:I worry about fluctuations in steadiness)では,初回の順翻訳「バランス感覚の変動を心配している」から得られた逆翻訳「I am concerned about the instability of my sense of balance」に対して,原文の意図するバランス自体の変動よりも,バランス感覚という知覚の変動に偏っているとの指摘を受けた。この指摘を受け,原文の“steadiness”が持つ身体的側面を重視する観点から,日本語翻訳案を「バランスの変動を懸念している」に修正した。
項目6(原文:I avoid situations that I fear will affect my balance and make me less steady)では,初回の順翻訳「バランスが不安定になるような状況を恐れて,避けている」から得られた逆翻訳「I fear and avoid situations that could lead to instability in my balance」に含まれていた“fear”という語の必要性について,原版開発者から検討の余地が示唆された。これを受けて,行動的側面である回避を主眼に置くことが原文の意図をより明確にすると判断し,日本語翻訳案を「バランスが不安定になるような状況を避けている」に修正した。
逆翻訳と逆翻訳レビューのプロセスによって,単語の持つニュアンスの強度(項目2),概念が指す対象(項目5),および項目が焦点を当てる側面(項目6)といった,原版との微細な差異が特定され,修正された。これによって,日本語翻訳案は各項目が原文の意図を正確に反映しており,高い概念的等価性を備えていることが確認された。
認知デブリーフィングによる言語的妥当性の検証翻訳および逆翻訳のプロセスを経て作成された暫定版BVQ-Jの言語的妥当性を検証するため,図1に示す認知デブリーフィングを実施した。調査協力者は慢性めまい患者5名(男性3名,女性2名)であり,その内訳はPPPDが3名,前庭代償不全が1名,心因性めまいが1名であった。調査協力者の平均年齢は47.2歳(範囲22~66歳),平均罹患期間は31.8か月(範囲7~68か月)であった。
調査協力者5名全員から暫定版BVQ-Jの全項目への回答が得られ,平均回答時間は90.6秒(範囲35~148秒),平均得点は18.2点(範囲7~26点)であった。認知的デブリーフィングでは,質問項目の分かりやすさや日本語表現の明確さについて概ね良好な回答が得られたが,表1に示すようにいくつかの表現については修正の必要性が示唆された。最も重要な指摘は,項目1および4で用いた「安定感」という表現に対して,3名の調査協力者から「分かりにくい」という意見であった。この意見を受け,著者らの協議を経て,暫定版BVQ-Jの当該項目をより平易な表現へと修正した。その他の意見については(表1),インタビューを通じて調査協力者が項目の意図を正確に理解していることを確認できたため,修正は不要と判断した。
| 項目 | 日本語表現 | 調査協力者からの意見 | 意見に対する協議結果 |
|---|---|---|---|
| 選択肢 | 「決してそうではない」 | めまい症状が長期間持続しているため,選びにくい(1名)。 | 質問の意図は適切に理解していることが確認できたため,修正は不要と判断した。 |
| 1,4 | 「安定感」 | 常に不安定なので安定感という表現がしっくりこない,表現が回りくどくて分かりづらいのでシンプルな表現の方がいい(3名)。 | 「安定感」という表現を削除し,項目1を「突然あるいは一時的なバランスの変化に対して不安になる」,項目4を「バランスに影響するようなことが起こると,どれくらい悪化したのか不安になって確認する」に修正した。 |
| 1 | 「不安になる」 | 将来に対する不安なのか,その瞬間の不安なのか分かりにくい(1名)。 | 質問の趣旨を適切に理解できていることが確認できたため,修正は不要と判断した。 |
| 4 | 「確認する」 | 目には映らないものなので,何をもって確認するのか分からない(2名)。 | 質問の趣旨を適切に理解できていることが確認できたため,修正は不要と判断した。 |
以上の認知デブリーフィングのプロセスによって,暫定版BVQ-Jが日本の患者にとって分かりやすく,原版との認知的等価性を有することが確認された。原版開発者による最終的な承認を受け,日本語版Balance Vigilance Questionnaire(BVQ-J)を確定した。完成したBVQ-Jの全項目を表2に示す。
| 以下の文を読んで,あなたのバランスに対する感じ方に最も近いものとして,1(決してそうではない)から5(いつもそうである)の中から番号を選んでください。 | |||||
| 決して そうでは ない |
ときどき そうである |
いつも そうである |
|||
| 1.突然あるいは一時的なバランスの変化に対して不安になる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 2.バランス感覚のわずかな変化にも細心の注意を払っている | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 3.バランスが悪くなるとすぐに気づく | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 4.バランスに影響するようなことが起こると,どれくらい悪化したのか不安になって確認する | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 5.バランスの変動を懸念している | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 6.バランスが不安定になるような状況を避けている | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
本研究では,PPPDの発症および遷延に関与する身体感覚への警戒を,めまい症状に特化して評価するため,日本語版BVQ(BVQ-J)を作成し,その言語的妥当性を検証した。ISPORのガイドライン10)に準拠した厳密なプロセスを経て,BVQ-Jが原版との概念的等価性を保ちつつ,本邦の患者にとって理解しやすい表現であることが確認された。
本研究で作成されたBVQ-Jが持つ臨床的・学術的な意義は大きい。第一に,PPPDのリスク評価への貢献である。近年のシステマティックレビューでは,身体感覚への警戒は急性めまい後の不安や破局的思考と並び,PPPD発症の予測因子であることが確認されている4)。BVQ-Jは,PPPD患者に特有のバランスへの警戒を簡便に評価できる本邦初の実用的なツールであり,急性めまい患者の中からPPPDへ移行するハイリスク群を早期にスクリーニングし,予防的介入が必要となる対象者を特定する上で重要な役割を果たすことが期待される。
第二に,治療標的の明確化と治療メカニズム解明への貢献である。PPPDにおいて,身体感覚への警戒は前庭リハビリテーションや心理療法における重要な治療標的と位置付けられている2)6)。この警戒というメカニズムはPPPDに特有のものではなく,線維筋痛症や過敏性腸症候群といった他の機能性身体疾患とも共通する診断横断的な治療標的であることが指摘されている12)13)。この事実は,他の疾患領域で有効性が報告されている治療アプローチがPPPDにも応用可能である可能性を示しており,その治療効果を測定する上で警戒の評価は極めて重要である。BVQ-Jは,この診断横断的な治療標的の変化を定量的に捉えることで,治療効果を客観的に評価する指標となり得る。例えば,PPPDに対する有効性が示唆される認知行動療法14)や森田療法15)といった異なる理論的背景を持つ心理療法が,バランスへの警戒にどのように作用するのか,BVQ-Jはそのプロセスと効果を定量的に評価可能にする。これは,治療メカニズムの解明に大きく寄与すると考えられる。
本研究の限界は,言語的妥当性の検証にとどまる点である。BVQ-Jが標準化された尺度として利用されるためには,大規模なサンプルを用いた多角的な心理測定学的特性の評価が不可欠である。具体的には,まず内的整合性や再検査信頼性といった信頼性を検証する必要がある。また,心理測定学的妥当性として,BVQ-Jの因子構造の検証や関連概念との相関などの構成概念妥当性や,PPPDなどの診断群ごとの弁別の精度といった基準関連妥当性などを多角的に検証することが求められる。さらに,治療効果を測定する上では,介入による得点の変化を適切に捉える反応性の評価も重要となる。これらの心理測定学的特性が確認されて初めて,本邦の臨床データに基づいたカットオフ値の設定,疾患ごとのスコアの比較,さらには前向き研究によるPPPD発症の予測マーカーとしての有用性の検証といった,臨床研究を展開することが可能となる。これらの検証を経て,BVQ-JはPPPDをはじめとする慢性めまい患者の診療において,病態理解から発症リスク評価,治療効果測定までを一貫して捉えるツールとなることが期待される。
本研究は,PPPDにおいて病態の中心的な役割を果たす身体感覚への警戒のうち,既存の尺度では評価が困難であったバランスへの警戒に特化した日本語版BVQ(BVQ-J)を作成し,その言語的妥当性を検証した。尺度翻訳のガイドラインに準拠した厳密なプロセスを経て,原版との概念的等価性を保持しつつ,本邦の患者にとって理解しやすいBVQ-Jが完成した。本尺度は,今後の本邦におけるPPPDなどの慢性めまいに対する臨床実践および研究において,病態メカニズムの解明,リスク評価,治療効果測定の一助として広く活用されることが期待される。
利益相反に該当する事項はない。
本研究の一部は,公益財団法人メンタルヘルス岡本記念財団の研究助成を受けた。
本論文の作成過程において,表現の校正および英文抄録の翻訳の補助目的で生成AI(Google Gemini)を使用した。