Equilibrium Research
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カンファレンスルーム
CASE 32 五苓散が著効した難治性メニエール病
宮下 武憲
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2026 年 85 巻 1 号 p. 28-32

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 1.症例提示

症例:40歳代,女性

主訴:繰り返す回転性めまい,右耳鳴,右難聴

既往歴:アレルギー性鼻炎

初診時までの現病歴:2年前から両耳閉感,両耳鳴(キーン)あり。昨年より,数時間続く回転性めまい発作が出現するようになり,初診前3か月間では月5~10回の頻度でめまい発作を認めた。めまいの精査加療目的に当科初診となった。

 〈初診時現症〉

右耳閉感,および右耳鳴が増悪するとともに,めまいが出現する。めまい発作時には嘔気・嘔吐を伴い,1~4時間持続する回転性めまい発作を反復していた。めまい発作に頭痛の合併は認めなかった。

鼓膜所見は正常であり,注視眼振は認めなかった。頭位眼振検査では,右下頭位でやや増強する左向き眼振(麻痺性眼振)を,頭振後に左向き眼振を認めた。標準純音聴力検査にて右感音難聴を認めた(図1)。Weber test(128 Hz音叉)では左偏位を認めた。頭部MRIおよびMRI hydrographyでは異常所見を認めなかった。温度刺激検査では右高度CP(49.4%),DP(−)を認め,検査時には左向きの自発眼振(平均緩徐相速度0.99 deg/sec)を認めた。グリセロールテストでは右陽性(図2)であり,蝸電図検査では,右―SP/AP比増大(右0.47,左0.13)を認め(図3),右内リンパ水腫と推定された。シェロングテストは陰性であった。右低音域を中心とした聴力変動が認められ,めまい発作と関連して右聴力の悪化および右聴力変動がみられた。

図1  初診時聴力
図2  グリセロールテスト
図3  蝸電図

 〈診断〉

右メニエール病(Meniere’s Disease)確実例

 〈治療経過〉

メニエール病の治療として,ジフェニドール,イソソルビド,ATP顆粒,めまい発作時の屯用でジフェンヒドラミンサリチル酸塩・ジプロフィリン配合錠(トラベルミン®)を処方した。めまい発作の頻度はある程度減少し,めまい発作時の嘔吐は消失し,嘔気も抑制可能となった。患者は,めまい発作により仕事に支障が出ることが一番困ると訴えた。内リンパ嚢手術を勧めたが,入院を必要とする治療は業務上支障があるため希望しなかった。めまい発作は依然として十分にコントロールできず,聴力の悪化も認められたため,プレドニゾロン20 mgより漸減投与を行ったが,聴力改善せず,めまい発作の頻度も減少しなかった。ジラゼプ塩酸塩水和物(コメリアン®)も無効であった。めまいが起こりそうな不安(予期不安)があり,発作を誘発する要因としてストレスの関与が疑われ,めまい発作の引き金となる予期不安を抑制する目的でパロキセチンを1か月間投与したが,発作の抑制には至らず。「頭がぼーっとする」という副作用により業務に支障が生じたため,患者の自己判断で内服を中止していた。

鼓膜チューブ留置によってめまい発作がコントロール可能であるとの報告を踏まえ,右側に鼓膜チューブを留置したが,発作の改善は認められなかった。鼓膜チューブは3か月で自然脱落し,鼓膜穿孔は自然閉鎖した。有酸素運動および水分摂取を推奨し,生活指導を行ったが,めまい発作の改善には至らなかった。その後もジフェニドール,ATP顆粒を継続し,めまい発作時には屯用としてジフェンヒドラミンサリチル酸塩・ジプロフィリン配合錠を内服した。めまい発作の回数は十分に抑制できなかったものの,発作時の嘔気は良好にコントロールされており,これらの内服を継続していた。17年目,18年目には,めまい発作の頻度が増加したため(図4),19年目に,現在の治療に加えて他に有効な薬剤がないか相談を受けた。

図4  めまい発作回数の推移

 〈19年目〉

S:右耳閉感が増悪すると,めまいが出現する。めまい発作時には,ジフェンヒドラミンサリチル酸塩・ジプロフィリン配合錠の内服等により嘔吐はなく,軽度の嘔気を伴う。30分から6時間持続する回転性めまい発作を反復していた。めまい発作時に頭痛の合併はなかった。急に立ち上がると,ふわっとする浮動感がある。頭位変換時にはめまい症状を認めない。他に起立性調節障害を示唆する症状はない。右難聴には慣れたので,右難聴は気にならなくなった。立ち仕事が多く,下肢がむくみやすいことを自覚していた。

O:鼓膜所見は正常であり,注視眼振は認められなかった。頭位眼振は認められず,頭振眼振では左向き眼振を認めた。シェロングテストは陰性であった。血圧120/74 mmHg,脈拍75回/分。

A:難治性右メニエール病(Meniere’s Disease)確実例

P:イソソルビド,プレドニゾロン,ジラゼプ塩酸塩水和物,ATP顆粒はいずれも効果は限定的であり,「急に立ち上がると,ふわっとする」といった起立性調節障害を示唆する症状がみられた。起立性調節障害にも効果があり,かつ利水(利尿)作用を有し,メニエール病でも使用される半夏白朮天麻湯を1か月内服したが,蝸牛症状およびめまい症状のいずれにも改善は認められなかった。下肢のむくみを訴えており,むくみ改善効果および内リンパ水腫の改善効果が期待できる五苓散を1か月処方した。内服直後から,下肢のむくみは軽快し,めまい発作も著明に改善して消失した。患者さんは五苓散を内服していると体調が良好であるとの実感を持ち,五苓散(2.5 g(1包)/日程度)を自己調整しつつ継続服用している。自己調整にあたっては,めまいの前兆を感じる時(言葉では表現できない予兆を自覚することが多い),降雨前,長時間の立ち仕事前など下肢がむくみそうな時に,五苓散を内服するよう指導した。五苓散の内服開始から5年以上が経過しているが,めまい発作の再発は認められず,下肢のむくみもなく,経過は良好である。めまいの回数の推移を図4に示す。

 2.診療のピットホールとコツ,メッセージ

メニエール病に対する漢方治療においては,併存する症状が薬剤選択の重要な手がかりとなることが多い。例えば,下肢のむくみを伴う場合や,低気圧によりめまい発作が誘発される症例1)に対しては,五苓散が著効することが多い。本症例も,下肢のむくみがあり,五苓散の内服により下肢のむくみも軽快した。特に女性でむくみを伴う症例では,五苓散の使用により「身体が軽く感じられる」といった体調の改善を実感することも多く,患者さんにも好評である。低気圧や雨天で症状が悪化する,いわゆる気象病(めまい,片頭痛,頭痛など)に対しても,五苓散は有効であり,低気圧や雨天で悪化するメニエール病症例にも五苓散は良好な効果を示す。五苓散は漢方のなかでも効果発現が早く,内服初日から効果を実感する例もあり即効性があるとされる1)2)。さらに,偽アルドステロン症の原因となり得る甘草を含まないため,安全性の面からも使用しやすい処方である1)

半夏白朮天麻湯は,起立性調節障害に対しても有効であり,急に立ち上がる際の浮動感や立ちくらみを訴える症例,あるいは胃腸虚弱を伴うメニエール病患者に対して効果が期待される。効果発現には数日から1か月程度を要することがある1)。一方,低血圧傾向が強い場合には,真武湯の方が奏効する可能性が高く,半夏白朮天麻湯が無効な場合には真武湯への切り替えが推奨される3)

苓桂朮甘湯は不安を和らげる作用を持ち,効果の発現も早いとされる1)。イソソルビド単独では治療効果が不十分な場合には,苓桂朮甘湯を併用することで,早期からめまい発作頻度の抑制が期待できる4)。五島は,「診察室に入った瞬間に,聞かれてもいないのに自発的に症状を話し始める患者」に苓桂朮甘湯は効果的であると報告している。

患者への説明としては,「メニエール病は内耳のむくみにより,めまいや難聴が生じる病気なので,むくみを改善する薬剤が有効です。特にこの薬は○○の効果もあるため,最も効果的だと考えられます」と説明している。症状を手がかりに漢方薬を選択しているため,患者からは「実は○○もあるので,私にぴったりだと思います」と好意的な反応を得ることが多い。患者自身が納得し,積極的に治療に取り組むことにより,治療効果はさらに向上すると考えられる。より詳細な実践例や工夫については,漢方薬の魅力を楽しみながら処方し,患者の自然治癒力を最大限に引き出すことを目指した五島著の総説「パフォーマンス漢方1)」の一読を推奨したい。

本稿では,メニエール病に対して五苓散をファーストラインの選択肢の一つとして用いる契機となった症例を紹介した。従来,漢方薬の解説においては,東洋医学の四診(脈診や腹診など)や証をもとに構成されることが多く,腹診を日常外来診療で行う機会の少ない耳鼻咽喉科医にとっては,漢方治療は敷居が高いと感じられることがあった。副作用の可能性がある生薬には十分配慮しつつ,診断名や症状,あるいは成分・薬効といった西洋医学的視点から個々の患者に適した漢方薬を選択することで,より多角的なアプローチが可能となり,治療の幅が広がると考える。

コラム 五苓散
五苓散は,利水作用(利尿作用)を有する漢方薬である。水チャネルであるアクアポリン(AQP2, 3)mRNAのダウンレギュレーションや,ナトリウムチャネルの阻害などを通して,体内の水分分布を是正することで効果を発揮すると考えられている5)6)。この作用により浮腫の改善が期待され,内リンパ水腫の改善にも有効とされている2)5)。メニエール病症例のなかでも,低気圧や雨天時に症状が悪化する症例,下肢等のむくみ(浮腫)を合併する症例において,五苓散は特に有効であることが多い。
めまいについて
低気圧や雨天時に悪化するめまいや頭痛(気象に関連するため,気象病ともいわれる)に対しては,五苓散が著効することが多い5)。めまい以外でも,気象の影響で症状が変動する気象病では五苓散を第一選択として用いられることがある7)。本症例のように,五苓散を内服することでめまいのみならず,下肢の浮腫や腹部膨満感など,全身の浮腫に起因する症状の改善も期待できる。内服前には自覚されていなかった浮腫に対しても,薬効が比較的早期(おおむね7日以内1))に現れ,内服後に浮腫改善を実感する例もある。特に,下肢等にむくみのある女性では著効することが多い印象である。
脳外科領域では,五苓散に脳浮腫を改善させる効果も報告されている8)
聴力について
蝸牛に限局した内リンパ水腫である低音障害型感音難聴でも五苓散の効果が報告されている9)
二日酔
アルコールの過剰摂取による二日酔に対しても,五苓散は効果を発揮する。飲酒後の内服でも効果が期待されるが,飲酒前にあらかじめ内服することで,より高い効果が得られるとされる8)
感染性胃腸炎
ノロウイルスやロタウイルスなどによる感染性胃腸炎,特に下痢症状の改善において,五苓散は高い有効性を示すことが多い8)。小児では,内服が困難な場合に注腸や坐薬(院内調剤)での投与も有効である8)
熱中症予防
五苓散は熱中症の予防にも効果があり,暑熱環境下での予防投与や,口渇,頭痛,嘔気などの症状が出現した場合の症状改善にも有用である8)
文献
 
© 2026 一般社団法人 日本めまい平衡医学会
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