Equilibrium Research
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シリーズ教育講座「めまい診療に有用な自覚的評価指標」
9.めまい症状とQOL
藤原 圭志
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2026 年 85 巻 2 号 p. 35-42

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Translated Abstract

Dizziness is a common symptom with potential impacts on daily life activities that can lead to a decline in the quality of life (QOL). Accurate assessment of persons presenting with dizziness and its effects is crucial for establishing appropriate treatment plans. This review provides an overview of the use of the Dizziness Handicap Inventory (DHI) and Vertigo Symptom Scale-short form (VSS-sf), which are widely used questionnaires for evaluating dizziness and the QOL.

With the advent of new diagnostic tests such as the video Head Impulse Test (vHIT) and vestibular-evoked myogenic potentials, it has become possible to assess semicircular canal and otolith functions in greater detail. However, the subjective dizziness symptom does not always appear to be correlated with objective test results due to factors such as vestibular compensation and psychological state of the patients. In clinical practice, both clinician-reported outcomes (ClinRO) and patient-reported outcomes (PRO) should be considered to ensure a comprehensive assessment of dizziness. DHI and VSS-sf serve as effective PRO tools that facilitate quantification of the symptom severity and treatment efficacy.

DHI, developed by Jacobson and Newman in 1990, assesses the impact of dizziness on daily life activities through three domains: physical, emotional, and functional. It consists of 25 items, with scores ranging from 0 to 100, and higher scores indicate greater disability. The VSS-sf, a shortened version of the Vertigo Symptom Scale (VSS), includes 15 key items and evaluates both vestibular and autonomic symptoms over the previous month, making it a useful tool for efficient screening of the dizziness severity.

Clinical applications of these questionnaires include evaluating the effects of vestibular rehabilitation, identifying psychological factors associated with dizziness, and distinguishing among different vestibular disorders. While DHI is widely used in Japan for QOL assessment of persons presenting with dizziness, the VSS-sf may provide additional insights, particularly with regard to autonomic symptoms. Combined use of these tools could contribute to a more comprehensive understanding of the symptom in persons presenting with dizziness, ultimately improving patient management and enabling selection of the most appropriate treatment strategy.

 緒言

めまいは多くの人が経験する症状であり,日常生活や仕事に大きな支障をきたし,生活の質(Quality of Life: QOL)を低下させる可能性がある。めまい症状を正確に評価しその影響を理解することは,適切な治療計画を立てるために重要である。本稿では,めまいの自覚症状やQOLを評価する問診票として国内外で使用されているDizziness Handicap Inventory(DHI)とVertigo Symptom Scale-short form(VSS-sf)について述べ,めまい症状とQOLの関連性について概説する。

 意義

めまいの他覚的検査として,従来から用いられてきた温度刺激検査に加えて,video Head Impulse Test(vHIT)や前庭誘発筋電位など新しい検査の出現により,半規管や耳石器の機能をより詳細に評価できるようになってきている。一方で,めまい患者の自覚症状は,他覚的検査所見の重症度と必ずしも一致しない1)2)。これは,めまいの自覚症状が前庭代償の程度や患者の精神状態などに大きく左右され,メニエール病や前庭性片頭痛のような反復性のめまいでは発作期と非発作期では自覚症状は大きく異なるためである。

臨床アウトカムの評価には,医療者が評価するアウトカム(Clinician-reported outcome: ClinRO)と患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome: PRO)があり,両者の間には乖離が生じることがあるとされている3)。めまい診療においてはClinROである他覚的検査の結果のみで判断するのではなく,患者の自覚症状を反映するPROも重視する必要がある。DHI,VSS-sfはいずれも簡便であり,めまい症状のPROとして頻用されている4)。これらの問診票を用いることで,短時間で患者の自覚的なめまい症状を評価できるようになり,医療者は患者の症状の重症度や治療効果を定量的に評価しやすくなる。また,QOLを測定する上で重要な指標となる。

 方法

1. DHI

DHIは1990年にJacobsonとNewmanによって報告された問診票で5),Gotoらが日本語版の信頼性,妥当性を報告した6)。DHIは,めまいが患者の日常生活に与える影響を評価するために開発された問診票である。めまいによる身体的な不調や制限に関するphysical(7項目),めまいによる感情面や心理的影響に関するemotional(9項目),めまいが日常生活や社会活動に与える影響に関するfunctional(9項目)の3つのドメインに分かれており,各ドメインは不規則に配置されている(表1)。DHIは全25項目で構成され,各質問に対して「はい(4点)」「時々(2点)」「いいえ(0点)」の3段階で回答する。総得点は0から100の範囲で,高得点ほど機能障害が大きいことを示す。

表1 日本語版DHI

この調査の目的は,あなたがめまいによって,日常生活上どのような支障をきたしているのかを知ることにあります。
それぞれの質問に「はい」「時々」「いいえ」のどこにあたるか〇をしてください。
1 上を向くと,めまいは悪化しますか? はい 時々 いいえ P
2 めまいのために,ストレスを感じますか? はい 時々 いいえ E
3 めまいのために,出張や旅行などの遠出が制限されていますか? はい 時々 いいえ F
4 スーパーマーケットなどの陳列棚の間を歩く時に,めまいが増強しますか? はい 時々 いいえ P
5 めまいのために,寝たり起きたりする動作に支障をきたしますか? はい 時々 いいえ F
6 めまいのために,映画,外食,パーティーなど外出することを制限していますか? はい 時々 いいえ F
7 めまいのために,本や新聞を読むのが難しいですか? はい 時々 いいえ F
8 スポーツ,ダンス,掃除や皿を片付けるような家事などの動作でめまいが増強されますか? はい 時々 いいえ P
9 めまいのために,1人で外出するのが怖いですか? はい 時々 いいえ E
10 めまいのために,人前に出るのが嫌ですか? はい 時々 いいえ E
11 頭をすばやく動かすと,めまいが増強しますか? はい 時々 いいえ P
12 めまいのために,高い所へは行かないようにしていますか? はい 時々 いいえ F
13 寝返りをすると,めまいが増強しますか? はい 時々 いいえ P
14 めまいのために,激しい家事や庭掃除などをすることが困難ですか? はい 時々 いいえ F
15 めまいのために,周囲から自分が酔っているように思われているのではないかと心配ですか? はい 時々 いいえ E
16 めまいのために,1人で散歩に行くことが困難ですか? はい 時々 いいえ F
17 歩道を歩くときに,めまいは増強しますか? はい 時々 いいえ P
18 めまいのために,集中力が妨げられていますか? はい 時々 いいえ E
19 めまいのために,夜暗いときには,自分の家の周囲でも歩くことが困難ですか? はい 時々 いいえ F
20 めまいのために,家に1人でいることが怖いですか? はい 時々 いいえ E
21 めまいのために,自分がハンディキャップ(障害)を背負っていると感じますか? はい 時々 いいえ E
22 めまいのために,家族や友人との関係にストレスが生じていますか? はい 時々 いいえ E
23 めまいのために,気分が落ち込みがちになりますか? はい 時々 いいえ E
24 めまいのために,あなたの仕事や家事における責任感が損なわれていますか? はい 時々 いいえ F
25 身体をかがめると,めまいが増強しますか? はい 時々 いいえ P

P:physical(7項目),E:emotional(9項目),F:functional(9項目)

「はい」4点,「時々」2点,「いいえ」0点で採点

2. VSS-sf

1992年にYardleyらはめまいの重症度に焦点を当てた尺度としてVertigo Symptom Scale(VSS)を報告した7)。VSSは34項目からなり,過去1年間のめまいの持続時間や頻度,強さなどに関する「前庭平衡症状(Vertigo symptoms: VSS-V)」とめまいに随伴しやすい自律神経症状に関する「自律神経症状(Autonomic symptoms: VSS-A)」の2つのサブスケールから構成される。VSSは前庭疾患患者の症状の定量化や,治療介入の効果測定に広く用いられてきたが,その項目数の多さが臨床応用上の課題となることが指摘されていた。この問題を解決するために,より簡便で迅速な評価が可能な短縮版としてVSS-sfが開発された。VSS-sfは,VSSの中から臨床的に重要な15項目を厳選し,短縮することで,評価の簡便性と妥当性を維持しつつ,効率的な前庭症状のスクリーニングを可能にしている8)9)。また,評価する期間は過去1年間から過去1ヵ月間に短縮されている。15項目において症状の程度を,「全くない」から「非常に多い」までの0から4の5段階で評価される(表2)。総スコアは0から60点で表され,高いスコアほど重度の症状を示す。Kondoらにより日本語版の信頼性,妥当性が報告された10)11)

表2 日本語版VSS-sf


 判定基準

1. DHI

国内では0–14点が障害なし,16–26点が軽症,28–44点が中等症,46点以上が重症,という基準が一般的に用いられている12)。46点以上の重症例では不安,抑うつを高率に合併しており,めまいに対する一般的な治療が奏功しない症例では,心理状態への介入が必要とされる12)。海外からの報告13)では,0–30点が軽症,31–60点が中等症,61–100点が重症という基準を用いているものもあり,60点以上の場合,機能性疾患や心因性疾患の関与が多いとされる14)

2. VSS-sf

VSS-sfの判定は12点以上で重症とされる15)。3点以上の改善で臨床上有意な症状の改善と判断される15)

 めまい臨床への活用

DHIは国内外で幅広く用いられており,その臨床応用に関して多くの報告がある。DHIはめまい症状が日常生活やQOLに与えている影響を定量的に評価できるため,診断補助や治療効果の評価に有用である。また,DHIの短縮版であるDHIsfも報告されている16)

Zamyslowska-Szmytkeらは343名のめまい患者にDHIおよび各種めまい検査を施行し,温度刺激検査の結果から前庭代償群と非代償群にわけた際に,非代償群で有意にDHIのスコアが高かったこと,上を向く,頭を素早く動かすなど,頭位変換に関する項目が良性発作性頭位めまい症(BPPV)群で有意に高値を示し,Dix-Hallpike Testに対して75%の感度と92%の陰性的中率を示したこと,DHIのスコアは不安・抑うつと相関したことを報告した17)。BPPVに特異的な項目として上を向く,寝たり起きたりする,頭を素早く動かす,寝返りをする,身体をかがめるの5項目を抽出したところ,BPPV患者では有意に高値であり,BPPVの診断の補助としてDHIが有用とした報告18)もある。また,持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)においても自覚症状の評価としてDHIが用いられている19)。Rizkらは,前庭性偏頭痛とメニエール病患者においてDHIのスコアを比較し,2つの疾患群においてDHIの総スコアには有意差はなかったが,physical,emotional,functionalのドメインでは疾患群により異なるパターンを示し,DHIのスコア解釈が疾患グループによって異なる可能性を示唆している20)。当科では聴神経腫瘍術前後のめまい自覚症状の評価にDHIを用いている21)。西村らは心因性めまい患者において,DHIのemotionalとfunctionalドメインが不安障害の程度と正の相関を認めたと報告し,心因性めまい患者への心理支援がDHIの改善につながる可能性を示唆している22)

DHIのスコアに影響を与える因子について検討した報告23)では,症状が3ヵ月以上持続する患者,めまいの持続時間が長い患者,女性においてDHIが高く,年齢や疾患とDHIスコアには関連は認められなかった。Formeisterらも同様の検討を行い,SF-36などの他のアンケートで評価したQOLやメンタルヘルスがDHIスコアにもっとも大きな影響を与えたと報告している24)。また,DHIスコアは歩行や転倒回数に有意に関連し,DHIが高いほど歩行障害が顕著とされている13)。DHIは前庭リハビリテーションの効果判定のツールとしても用いられており,前庭リハビリテーション前後での有意なDHIスコアの改善が複数の論文で報告されている25)~27)。DHIと臨床所見の相関について検討した報告28)では,各種めまい疾患の患者を,眼振の有無,再発の有無,めまいの持続時間で2群にわけてDHIの平均値を比較したところ,いずれの群においても有意差は認めず,DHIと臨床所見の間には相関は認められなかった。

前述の通り,患者の自覚症状と他覚的検査所見は必ずしも一致しない1)2)。DHIとvHITのvestibulo-ocular reflex(VOR)gainに乖離を認めた当科の症例を提示する。症例1は30代男性で,右真珠腫性中耳炎の再発により水平半規管,前半規管に瘻孔を認め,再手術となった。DHIと患側水平半規管のVOR gainの経過を図1に示す。術前のDHIは50点であり,術後3ヵ月で24点と改善がみられ手術の効果と思われたが,術後6ヵ月の時点で42点と上昇を認めた。さらに術後9ヵ月で68点まで上昇し,視覚刺激によるふらつきも出現したため,半規管瘻孔による半規管障害を先行疾患として持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)を発症したと診断した。The Niigata PPPD Questionnaire(NPQ)29)は54点と高値であった。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を開始したところ,DHIは改善傾向を認めたが再増悪を認めるなど変動あり,SSRIの用量を調整しながら経過観察中である。一方,VOR gainは術前から術後1年3ヵ月までの間,0.5から0.6前後で推移し,大きな変化を認めず,DHIとVOR gainの経過には乖離を認めた。症例2は70代女性で,右聴神経腫瘍に対しwait and scanにて経過観察中の症例である。DHIと患側水平半規管のVOR gainの経過を図2に示す。初診時のDHIは52点と高値であったが,6年の経過観察の間に変動はしつつも徐々に低下し,最終的には10点以下で経過している。一方,初診時には1.03と正常であったVOR gainは経過観察開始4年頃から水平半規管の基準である0.80を下回ることが多くなり,catch-up saccadeも認められ,水平半規管の機能低下と判定された。半規管機能は経時的に低下している一方でDHIで評価される自覚症状は改善傾向を認め,前庭代償による症状改善と考えられた。

図1  症例1のDHI(実線)とVOR gain(点線)の経過
図2  症例2のDHI(実線)とVOR gain(点線)の経過

VSS-sfは海外では広く用いられている一方,国内ではめまい患者のQOL評価にはDHIが使用されることが多く,VSS-sfで評価した報告はまだ少数である。VSS-sfの利点は,DHIには含まれない自律神経症状関連の項目が含まれている点である。自律神経症状の因子は動悸,息切れ,冷え・ほてりなどで構成され,間接的に不安を評価されていることを患者が意識することなく回答しやすい11)。また,心因性めまいにおいて自覚症状の改善は嘔気や発汗異常といった自律神経症状の改善と相関することが報告されており30),心因性めまい患者のめまい自覚症状評価にVSS-sfが有用である可能性がある。15項目とDHIと比べて質問数が少なく,文章も短いため,臨床現場で用いやすいとされる11)

Yardleyらは前庭リハビリテーションによって,VSS-sfの2つのサブスケールであるVSS-V,VSS-Aのいずれもが有意に改善したと報告している9)。KondoらはVSS-sfの日本語版を用い,非中枢性めまいが1ヵ月以上持続する患者を対象に,VSS-sfの因子構造を調査し,日本語版の信頼性と妥当性について検討した10)。その結果,長時間持続する前庭平衡症状,短時間持続する前庭平衡症状,自律神経症状の3因子構造が示され,VSS-sfは症状持続時間を考慮した前庭平衡症状と自律神経・不安症状の評価に有用であることが示された。また,持続性めまい患者における筋骨格系の疼痛および心理的苦痛の影響を検討した報告31)では,疼痛部位数や疼痛強度はVSS-sfと正の相関を示し,特に心理的苦痛を伴う場合にこの相関が強まったとされ,VSS-sfにより持続性めまいの自覚症状の程度を評価している。DHIとVSS-sfの両者を用いた報告32)33)では,両者に有意な相関関係を認めている。いずれもめまい患者のQOLを評価できるツールであるが,DHIは主に日常生活への影響を評価し生活の機能に関する質問項目が多い一方,VSS-sfはめまいの自覚症状の多様性,不安を評価する点で異なる。両者の特性を理解し,必要に応じて併用するのが望ましい。

これらの問診票の限界や問題点として,患者の自己申告に基づく評価であるため,回答に患者の主観が入ることによる点数の差異が生まれてしまうことが挙げられる。また,DHIとVSS-sfはいずれも英語で作成されたものを日本語に翻訳して使用しているため,文化的背景や言語のニュアンスの違いにより評価にばらつきが出る可能性もある。増田らは日本語版DHIを用いる際の注意点として,日本人の日常生活様式にはそぐわない質問項目が含まれていることを指摘している28)。DHIの質に関するreview34)では,内容の妥当性に関するエビデンスは限定的であり,その質も高くないとされ,臨床における最小重要変化(Minimally Important Change),すなわち何点以上の変化が臨床上有意であるのか,に関する情報が不足している,とされている。DHIやVSS-sfはめまい症状が患者のQOLに与える影響を評価するための有用なツールであり,これらの問題点を理解した上で,日常診療の中で適切に問診票を有効に活用していくことが重要である。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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