2026 年 85 巻 2 号 p. 43-48
BPPV-like nystagmus is a common occurrence in patients presenting with inner ear disorders such as sudden hearing loss. In this report, we describe a case of a patient with refractory BPPV who developed direction-changing ageotropic nystagmus following the development of sudden hearing loss. A 75-year-old man was diagnosed as having sudden right-sided hearing loss with vertigo and was treated with intraventricular Dexate injection on day 6 after symptom onset. Neurological examination revealed ageotropic nystagmus with a predominant leftward horizontal nystagmus in the supine right lower head position, the null position in the midline, and no nystagmus induced by the bow & lean test. The duration of the nystagmus was 1 minute, with a latency of 1 to 2 seconds. Based on these findings, we made the diagnosis of left lateral semicircular canal type BPPV cupula stone disease, and attempted otolith replacement by the Brandt-Daroff method and stone release by administering jumping exercises, but the patient failed to show improvement. We examined the mechanism by which ageotropic nystagmus, as seen in this case, occurs within BPPV-like nystagmus and determined that refractory nystagmus with inconsistent laterality developed due to the overlapping effects of two mechanisms: 1) endolymphatic hydrops with contralateral dominance, and 2) disinhibition of the otolith-ocular reflex. Meanwhile, contrast-enhanced MRI of the inner ear also revealed bilateral endolymphatic edema in this patient. Recently, the existence of osmotic receptors in the inner ear has been confirmed, and ADH secretion is now considered as a possible cause of endolymphatic edema formation. The patient was elderly, but he exercised habitually, including activities such as mountain climbing and gardening, had been showing signs of dehydration for the past three years, and was developing chronic elevation of the serum osmolality, which was thought to be the background predisposing to the bilateral endolymphatic edema formation.
突発性難聴など内耳疾患後に起こる背地性眼振は時折経験する病態であるが,その機序は明確に解明されていない。今回は突発性難聴後に背地性眼振を呈した難治性BPPV症例について報告するとともに,その経過を詳細に検討し背地性眼振の起こる機序について文献的考察を加えて検討した。両側性に内リンパ水腫が形成される機序などについても併せて検討したので報告する。
患者:75歳,男性 主訴:右難聴,めまい
既往歴:胃十二指腸潰瘍,虫垂炎,胆嚢摘出,副甲状腺機能亢進症術後,C型肝炎治療後,睡眠時無呼吸症候群
現病歴:X月X日夕方より右耳閉感・難聴を自覚した。翌日,めまい症状も出現し近医にてプレドニゾロン30 mg × 4日間の内服加療をうけ,発症6日目に他院より当科へ紹介され受診した。
初診時所見:鼓膜所見正常。純音聴力検査(4分法):右40 dB,左17.5 dB。ティンパノメトリ:両側A型,歪成分耳音響放射検査(DPOAE):右Refer,左Pass。眼振所見は不明。
経過:めまいを伴う右突発性難聴の診断にて発症6日目よりデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム1.65 mg 1A鼓室内投与を週2回(計4回)施行した。発症8日目に右下頭位で寝た際に気分が悪いと訴えあり。発症13日目に初めて施行された自発眼振検査,注視眼振検査,頭位眼振検査(坐位)ではいずれも眼振は認められず以降変化はなかった。デキサメタゾン鼓室内投与を4回施行した後も聴力・めまい症状の改善は乏しかったがベタヒスチン内服により経過観察とした。頭部MRI/MRA(発症21日目)では前下小脳動脈の描出は不良(図1)であったが,頭蓋内に腫瘍や梗塞巣は確認されず中枢性めまいを積極的には疑わなかった。右下頭位でのめまい感や歩行時のふらつきはその後も持続したため,発症74日目に当科めまい外来にて改めて精査を行った。眼振所見(図2)より左外側半規管型BPPVクプラ結石症と診断しBrandt-Daroff法による耳石置換および跳躍運動1)による結石遊離を試みたが,発症102日目になっても眼振は改善を認めなかった。

左右とも(特に右側の)前下小脳動脈の描出が不良である(矢頭部分)。

頭位眼振は座位では軽度であった。懸垂頭位・仰臥位では背地性眼振がみられ右下頭位での左向き眼振が優位であったが,Null Positionはほぼ正中であった。頭位変換眼振では明確な傾向はなかった。
・純音聴力検査(4分法)結果の推移
①5年前。右13.8 dB,左13.8 dB。②発症2日目。右70.0 dB,左17.5 dB。③発症6日目。右40.0 dB,左17.5 dB。④発症151日目。右30.0 dB,左17.5 dB(以上,図3)。

5年前はほぼ左右差はなく低音部の閾値上昇はわずかである。発症2日目は右耳の全音域で著明な閾値上昇がみられる。発症6日目には右低音部閾値の改善がみられた。発症151日目には右高音部閾値の軽度改善がみられている。
・めまい外来初診時(発症74日目)の眼振(図2)および神経学的所見
注視眼振なし,ETT正常,バレー兆候なし,指鼻試験正常。頭位・頭位変換眼振検査では仰臥位右下頭位で左向き水平性眼振が優位となる背地性眼振を認めた。Null positionは正中でBow & lean testで眼振誘発はなく,眼振持続時間は1分で潜時は1~2秒であった。
・その他の検査所見の推移
採血結果(発症8日前):血清Na138 mmol/L,尿素窒素26 mg/dL,血糖値93 mg/dL,血清浸透圧290.5 mOsm(但,血清浸透圧(mOsm/L) = 2Na(mmol/L) + [血糖値(mg/dL)/18] + [尿素窒素(mg/dL)/6]。正常値:285 ± 5 mOsm.とする)。内耳造影MRI(Gd静注法。発症134日目):HYDROPS画像及び3D-real画像(図4)にて両側前庭・蝸牛に内リンパ水腫像を認め,特に左前庭の水腫が著明であった。カロリックテスト(20°C,50 cc,20秒間注水。発症137日目):自発眼振なし。右20°C:めまい感あり。持続時間:4分40秒,最大緩徐相速度:41.3°/sec。左20°C:めまい感あり。持続時間:4分20秒,最大緩徐相速度:46.3°/sec。CP:5.7%。visual suppression右63%,左22%。グリセロールテスト(発症179日目):右高音・左低音部に軽度閾値改善を認めたが陰性。

矢印(↑)の黒く抜けている部分が内リンパ腔。左右とも蝸牛・前庭に著明な内リンパ水腫が確認される。前庭の水腫は右より左のほうが大きい。
本症例でみられた頭位性眼振は右下頭位で優位な背地性眼振であり難聴耳(右)とのlateralityは一致しなかった。方向交代性眼振のlateralityの不一致は,神田らが「メニエール病に合併した良性発作性頭位めまい症の(中略)38%はメニエールの患側と不一致」2)と報告しているようにメニエール病ではしばしばみられる。メニエール病は病理や画像上で潜在的な両側内リンパ水腫が存在することが知られており3)4),対側内リンパ水腫がlateralityの不一致の原因である可能性がある。本例もメニエール病の診断基準は満たさないが内耳造影MRIにて両側内リンパ水腫を認めており,右急性難聴と左優位の内リンパ水腫に伴う背地性眼振が併存した病態であると推察した。内リンパ水腫により背地性眼振が生じる理由は,耳石の剥離の他にクプラ比重の変化5)6)が考えられる。特に血清浸透圧が高い状態ではクプラの縮小に加え,内リンパ水腫が進行しやすいことが予想されクプラ比重は相対的に重くなりやすい。重野7)やMoneyら8)はグリセロールや重水など比重の高い液体を鼓室内や全身に投与すると背地性眼振が起きることを報告しており,両側の中耳腔にグリセロールを注入すると仰臥位正面での水平性眼振は減弱あるいは消失する6)ことも示している。またSuzuki9)は高浸透圧環境によりクプラが縮小しクプラ結石症と同様の背地性眼振が起きることを述べており,他にも膜迷路穿孔後10),内耳へのゲンタマイシン注入後11),ウシガエルの血流障害モデル12)など何らかの内耳障害が起きた際にクプラが縮小するとの報告がある。本症例では左外側半規管型クプラ結石症として跳躍運動に抵抗する難治性であったことから,これらクプラ結石症以外の病態を示唆する。一方でもう一つの背地性眼振の原因因子として耳石器眼反射の脱抑制が有力である。今回,頭部MRIでは頭蓋内に明確な梗塞巣は見られていないもののカロリックテストにおいて左刺激でのみvisual suppression低下がみられており,小脳片葉や小節の障害13)の可能性が考えられた。難聴および小脳障害であればAICA症候群が想起されるが,突発性難聴における患側の前下小脳動脈は67%がMRAで描出不良があるとの報告14)があるように本症例でも前下小脳動脈の描出は非常に悪かった。城倉15)は小脳虫部の限局性の血管障害で出現する背地性眼振(CPPV)において健側下頭位で最も優位に出現する(報告8例中6例)ことを述べているが残り2例は患側下優位であったことを示しており,本症例はこの2例と同様の患側下優位の稀少症例であったと推察される。背地性眼振のNull positionは正中,Bow&lean testの頭部後屈では眼振は誘発されなかったことより,クプラ結石症では説明しがたいこともこれを支持する。これらの病態(右急性難聴・左優位の内リンパ水腫・耳石器眼反射の脱抑制)が組み合わさることで,難聴の患側とは不一致の背地性眼振が強調されたものと推察した。また頭位治療の効果がないクプラ結石症は難治性の経過をたどるとの報告16)17)があるが,眼振の難治化には耳石器眼反射の脱抑制が関与している可能性が十分に考えられる。
内リンパの恒常性は血管条での内リンパの産生やNa-K-2Cl共輸送体・AQPを介しての水の移動18)により調節されているが,近年,内耳における浸透圧レセプター(TRPV1,TRPV4など19))の存在が確認され,ADH分泌が内リンパ水腫の形成の原因として考えられるようになった。遅発性内リンパ水腫とADH分泌の関係性についてはTakeda20)らが2008年に示している。また徳増ら21)は血清浸透圧289 mOsmを超えるとイソソルビドの効果が減じることを述べており,長沼22)はメニエール病に対する水分摂取治療の効果を示している。本症例の患者は高齢であるが登山や庭仕事を好み,発症前3年間は血清尿素窒素値が20 mg/dL以上で持続する慢性的脱水状態であった。発症前10年間の血清浸透圧は緩やかに上昇傾向を示し(図5),血清浸透圧が290 mOsmを超えた70歳頃には低音部聴力の閾値上昇が軽度みられ,その後血清浸透圧上昇に伴い聴力低下が徐々に進行したものと推察された。本症例の直近9回(74歳以降)の血清浸透圧(平均292.7 mOsm)は,それ以前29回(73歳以前)の血清浸透圧(平均290.3 mOsm)と比べて有意に高く(p = 0.004),また過去の文献23)でも若年者より高齢者では有意に血清浸透圧が高いと示されている。これらの事実を勘案すると,高齢者にクプラ結石症が多い24)25)とされる要因として,耳石剥離以外に血清浸透圧の上昇によるクプラ比重の相対的変化も挙げられるであろう。本症例では浸透圧上昇が内リンパ水腫,突発性難聴,小脳障害のすべてに関わっている可能性が示唆された(図6)。近年,両側性内リンパ水腫の原因因子として血清浸透圧以外にMCP1などの炎症性サイトカイン26)も注目されているが,これらのようなlateralityのない指標を原因因子と考えれば両側性の病態を説明しやすい。

当患者の血清浸透圧の推移を示した。その回帰直線は緩やかな右肩上がりであった。
(y = 0.0237x + 289.64, R2 = 0.0615)

高齢者の血清浸透圧上昇が内リンパ水腫やAICAの血流障害に関与する。健側優位の内リンパ水腫はlateralityの一致しない背地性眼振を起こす。AICAの血流障害は右突発性難聴と小脳障害を起こす。小脳障害は耳石器眼反射の脱抑制に関与し背地性眼振を起こすため背地性眼振は強調されまた難治化する,という病態が考えられる。
突発性難聴後のBPPV様眼振の1症例を経験した。本症例は右前下小脳動脈の血流障害に伴う難聴と,左優位の両側内リンパ水腫に伴う背地性眼振を呈したが,右小脳の血流障害による耳石器眼反射の脱抑制により,lateralityが一致しない背地性眼振が強調され難治化したと思われる稀少症例だと考えられた。血清浸透圧が上昇傾向の高齢者では両側内リンパ水腫が形成されやすい可能性も示唆された。
※本論文は第83回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会(2024年11月13~15日於名古屋)にてポスター発表した「突発性難聴後に方向交代性上行性眼振を呈した難治性BPPV」をもとに原著化したものである。利益相反に該当する事項はない。