2026 年 85 巻 2 号 p. 49-56
We report a case of a 44-year-old man who presented with dizziness, left sensorineural hearing loss, leg numbness, and gait disturbance. Initial MRI of the head and spine and CSF examination revealed no abnormal findings. Neurotological examinations suggested a central pathology: Auditory Brainstem Response (ABR) showed a loss of waves II and subsequent waves, and Vestibular Evoked Myogenic Potentials (VEMPs) revealed bilateral latency delays (cVEMP and oVEMP), indicating decreased neural conduction velocity. The patient’s symptoms, including the hearing and lower limb deficits, responded well to steroid therapy, but relapsed upon steroid discontinuation. After a second relapse six months later, a repeat spinal MRI revealed myelitis, and Anti-Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein (MOG) antibody was detected in the CSF, which led us to make a definitive diagnosis of Anti-MOG Antibody-Positive Myelitis.
Conclusion: This case highlights that neurotological tests (ABR, VEMP, vHIT) can reveal characteristic signs of demyelinating CNS disorders, such as delayed conduction velocity, even when the initial MRI findings are normal. Such physiological tests are valuable tools for suspecting and diagnosing CNS inflammatory demyelinating diseases, including Anti-MOG antibody-associated disease.
めまいを伴う難聴は主に内耳疾患で生じる症状であるが時に中枢性疾患が原因となることもある。めまいを伴う突発性難聴,メニエール病,外リンパ瘻などが内耳疾患の代表である。めまいを伴う難聴はその他に,中耳疾患である真珠腫性中耳炎の内耳への波及,後迷路障害を示す聴神経腫瘍,椎骨脳底動脈などの脳血管障害1)2)による前下小脳梗塞3)4)や脳幹梗塞5),脳脊髄炎などの中枢性疾患によっても生じる。聴覚路や前庭動眼経路,前庭脊髄路などが障害される疾患であればめまいや難聴を示す。障害部位を同定し,内耳性疾患と中枢疾患を鑑別することが,治療をする上で非常に重要である。脳血管障害などの中枢性疾患ではMagnetic resonance imaging(MRI)などの画像診断が有効なことが多いが,画像診断では検出できない中枢病変や病態もあり,生理学的検査によるアプローチが必要となる。今回,めまい,急性感音難聴で当科に入院し,当初の画像検査では中枢病変は明らかでなかったが,神経耳科学的検査にて中枢障害が示唆され,後日抗MOG(myelin oligodendrocyte glycoprotein)抗体関連疾患6)~11)と診断された症例を経験したため報告する。
患者:44歳,男性
主訴:浮遊性めまい,左難聴
既往歴:なし
現病歴:ふわふわする非回転性めまいを自覚し,1週間後近医耳鼻科を受診した。聴力は正常であり眼振所見は指摘されなかった。その後,左難聴と耳閉感が出現し,他院耳鼻科を受診し左感音難聴を指摘されステロイドの内服加療が開始された。難聴を自覚する数日前から両下肢の痺れも自覚していた。難聴は改善せず,めまいも増悪してきたため,発症後1か月で当科を紹介受診した。左感音難聴(図1),立位保持困難なめまい感を認め,入院の上,精査加療となった。歩行障害(歩行器を使用),両側下肢知覚障害,下半身脱力感,排尿困難感も認め,脳神経内科にもコンサルトした。

A,純音聴力検査(4分法):右耳 25 dB,左耳41.3 dBの左感音難聴;B,ABR:左右I波の描出あり,II波以降は描出なし;C,vHIT:両側においてcatch-up saccadesを認めた D,VEMP:cVEMPで潜時の遅延(p13:右23.7 ms,左19.3 ms),oVEMPでも潜時の遅延(n10:右14.0 ms,左13.7 ms)を認めた
神経耳科学的検査所見
鼓膜所見:両側とも異常所見なし。
純音聴力検査:左耳41.3 dBの左感音難聴をみとめた(図1A)。
語音明瞭度検査:右100%(60 dB),左90%(60 dB)であり正常範囲。
自記オージオメトリー:両耳:I型
アブミ骨筋腱反射:左右正常範囲
歪成分耳音響放射(DPOAE):両側反応良好
聴性脳幹反応(ABR)(図1B):両側ともにI波の描出はあるが,II波以降は消失。I波の潜時延長は認めなかった。
眼振検査:注視眼振検査,頭位・頭位変換眼振検査ともに眼振は認めなかった。
電気眼振図(ENG):追跡眼球運動検査(ETT)ではsmooth pursuit,急速眼球運動検査(Saccade)ではdysmetriaは認めなかった。視運動性眼振検査(OKP)では左右ともに解発不良であった。温度刺激検査(エアーカロリック)で最大緩徐相速度は右9度/秒,左6度/秒であり両側前庭動眼反射の機能低下を認めた。
Video head impulse test(vHIT)(図1C)では前庭動眼反射利得は右前半規管1.04,右外側半規管0.82,右後半規管0.91,左前半規管1.45,左外側半規管0.90,左後半規管0.80であり,両側においてcatch-up saccadeを認めた。
前庭誘発筋電位検査(Vestibular Evoked Myogenic Potential, VEMP)(図1D)ではcervical VEMP(cVEMP)とocular VEMP(oVEMP)で潜時の遅延を認めた(cVEMP,p13:右23.7 ms,左19.3 ms;oVEMP,n10:右14.0 ms,左13.7 ms)。明らかな左右差は認めなかった。
脳神経内科での所見:
開脚位で立位保持困難であり動揺性歩行であった。
両側下肢筋力低下,両側腱反射亢進,両側下肢のクローヌス,膀胱直腸障害の所見により中枢疾患が疑われたが,頭部脊髄MRIは全て正常であった。
下肢体性感覚誘発電位(SSEP)(表1):腓骨神経刺激でのSSEPはN8,P15,N21は正常であったが,両側のN30と左側でのP38で反応は認めなかった。橋より頭側での異常が示唆された。
| 波形 | 波形部位 | 正常潜時 | 右腓骨神経 | 左腓骨神経 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| N8 | 末梢神経 | 7–12 ms | 7.5 ms | 7.9 ms | 正常 |
| P15 | 腰髄-胸髄 | 13–20 ms | 16.3 ms | 15.7 ms | 正常 |
| N21 | 上位脊髄-下位脳幹 | 19–25 ms | 22.0 ms | 22.3 ms | 正常 |
| N30 | 橋-視床 | 28–36 ms | 消失 | 消失 | 反応なし |
| P38 | 大脳皮質感覚野 | 36–50 ms | 43.2 ms | 消失 | 左は反応なし |
運動誘発電位(MEP)(表2):首刺激による上肢(橈側手根伸筋,第一背側骨間筋)の反応と腰刺激による下肢(前脛骨筋,短母趾屈筋)の反応は正常であったが,頭部刺激による反応は上肢,下肢ともににおけるともに反応がないかもしくは遅延した。中枢運動伝導時間も延長した。上肢,下肢の末梢神経は正常範囲で,中枢神経での異常を認めた。
| 測定部位 | 刺激部位 | 基準値 | 右側 | 左側 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 上肢 | |||||
| 橈側手根伸筋 | 頭刺激 | 18–23 ms | 消失 | 消失 | 反応なし |
| 首刺激 | 7–11 ms | 8.4 ms | 8.4 ms | 正常 | |
| 第一背側骨間筋 | 頭刺激 | 20–25 ms | 29.9 ms | 26.6 ms | 左右とも遅延 |
| 首刺激 | 12–16 ms | 13.3 ms | 14.3 ms | 正常 | |
| 中枢運動伝導時間 | <15 ms | 16.6 ms | 12.3 ms | 右側で延長 | |
| 下肢 | |||||
| 前脛骨筋 | 頭刺激 | 27–35 ms | 消失 | 消失 | 反応なし |
| 腰刺激 | 10–14 ms | 10.0 ms | 12.2 ms | 正常 | |
| 短母趾屈筋 | 頭刺激 | 37–45 ms | 消失 | 消失 | 反応なし |
| 腰刺激 | 20–24 ms | 21.1 ms | 21.7 ms | 正常 |
髄液検査は細胞数,オリゴクローナルバンド,IgGインデックス,抗アクアポリン4抗体などもすべて正常範囲であった。視力障害は認めなかった。
経過:
入院後,第1病日からステロイド漸減加療(ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム600 mg~,8日間)を開始し,ステロイドの投与後,聴力,めまい,下肢の症状は徐々に改善した。第6病日に中枢精査のため脳神経内科転科となった。ステロイド投与の終了とともに下肢筋力の低下や腱反射の亢進などの症状は再燃し,神経生理検査SSEPとMEPMで中枢病変が疑われた。自立歩行も困難になり,第12病日にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナロリウム1 g × 5日間)が開始となった。ステロイド投与後,症状の著しい改善を認めたため第28病日に2回目のステロイドパルス療法施行した。聴力検査は純音聴力検査(4分法)で右11.2 dB 左11.2 dB,語音明瞭度検査:右100%(50 dB),左100%(50 dB)であり正常化した(図2A)。ABRでは左耳刺激でI波に加えてIII波が出現した(図2B)。vHITでの前庭動眼反射利得は正常範囲(右前半規管0.89,右外側半規管1.09,右後半規管1.34,左前半規管1.26,左外側半規管1.07,左後半規管0.92)であり,catch-up saccadeは軽減あるいは消失した(図2C)。cVEMP,oVEMP での 潜時の遅延は変化がみられなかった(cVEMP,p13:右20.0 ms,左19.3 ms;oVEMP,n10:右14.0 ms,左13.7 ms)(図2D)。2回目のステロイド投与後は症状の再燃を認めず,第36病日に症状軽快のため退院した。退院後は神経内科,耳鼻科に通院し,症状の経過観察をしていたが,6か月後,ふらつき,下肢脱力感などの症状の再燃を認め,脳神経内科に再入院,脳脊髄MRIで脊髄炎の所見を認め(図3ABC),ABRでは,III波は再度消失しI波のみの描出となった。ステロイドパルス療法が施行された。血清検査では抗MOG抗体陰性であったが,髄液検査で抗MOG抗体陽性が判明し,抗MOG抗体関連疾患の診断に至った。退院後はステロイド内服(プレドニゾロン15 mg)で症状の再燃を認めず,2か月毎に5 mgまで漸減し,神経内科で経過観察中である。

A,聴力検査(4分法):右耳11.2 dB 左耳11.2 dB;B,ABR:右:I波のみ描出,左:I,III波描出(潜時の延長なし),C,vHIT(ステロイド投与後):catch-up saccadeは軽減あるいは消失した,D,VEMP(ステロイド投与後):cVEMP,oVEMP での 潜時の遅延は残存

A:橋下部(軸位断)において右橋背部(矢頭),左橋背部(矢印)に微細な高信号域を認めた,B:橋-延髄上部(矢状断)にて橋下部から延髄上部に微細な高信号域(矢印)を認めた,C:頸髄(第1頸椎レベル,軸位断)の左右外側中心に高信号域(矢頭)を認めた,D:頸髄(第2頸椎レベル,軸位断)の右外側中心に高信号域(矢印)を認めた,E:頚髄(矢状断)での第1頸椎レベル(矢頭),第2頸椎レベル(矢印)に高信号域を認めた,F:胸髄(第12胸椎レベル,軸位断)の背側中心に高信号域(矢頭)を認めた,G:胸髄(矢状断)での第12胸椎レベルに高信号域(矢頭)を認めた
抗MOG抗体陽性関連疾患は近年確立された疾患単位であり,血清ないし髄液中の抗MOG抗体が陽性であること,およびMRIを用いて脊髄に急性の炎症性脱髄病変を認めることで確定診断となる。MOGは中枢神経の髄鞘の構成蛋白の一つで髄鞘の再外層に発現し髄鞘の構造維持に関与している6)。平均発症年齢は31歳で小児発症例も少なくなく,男性にやや多い。抗MOG抗体関連疾患はMOGに対する自己抗体を有し,視神経炎,脊髄炎,視神経脊髄炎,急性散在性脳脊髄炎,脳幹脳炎,大脳皮質脳炎などの多彩な症状を呈する疾患群である7)。視神経炎が臨床病型として最も頻度が高いとされ11),視神経脊髄炎の報告は多数認める。ステロイド治療に対する治療反応は良好な疾患である。本症例のように初発時にめまい,難聴を脊髄炎症状に併発している症例は散見する限り初めての報告である。
初診時,左軽度難聴と眼振を伴わないめまいがあり,同時に歩行障害や下肢の知覚障害の訴えもあったため中枢性疾患疑い入院で精査加療を進めた。MRIでは異常所見を認めず,神経耳科学的検査で,ABRでII波以降の消失を認めた。中枢性疾患の場合,8割はABRで異常を認めるとの報告もあり,今症例ではABRの結果からも中枢性疾患を積極的に疑う結果となった。ABRはII波以降の消失のため脳幹特に延髄~橋の障害を疑う結果であった12)13)。またVEMPは,聴神経鞘腫や多発性硬化症などの後迷路病変や中枢性病変でp13やn23などの潜時が延長を示す場合もあり,MRIでとらえられなかった病変の検出に対しても診断の一助になるとされている14)~17)。本症例もVEMPでの両側の潜時遅延を認め,中枢病変が示唆された。また,神経学生理学的検査(MEP, SSEP)でもMEPで右上肢中枢運動伝導時間の延長を認め,SSEPでは橋より頭側の伝導障害を疑う結果となった。多発性硬化症や今回のような抗MOG抗体陽性脊髄炎などの中枢神経系炎症性脱髄疾患は,ABRの異常やSSEPの潜時延長,MEPの中枢運動伝導時間の遅延を認めることがあり,これらの耳科学的,神経生理学的検査は疾患や病変部位の鑑別に有用であったといえる。耳科学検査,神経生理学検査の結果やステロイド加療での治療反応性が良好であったことから多発性硬化症やAQP4抗体陽性視神経脊髄炎(NMOSD),NINJA(Normal-appearing Imaging-associated Neuroimmunologically Justified Autoimmune encephalomyelitis)18)などが鑑別として考えられた。ステロイドパルス療法終了後半年での再燃時に脳脊髄MRIでの多発脊髄炎の所見と,髄液検査での抗MOG抗体陽性であったことから抗MOG抗体関連疾患6)~11)の確定診断に至った。
MRI所見と神経生理学的検査結果をふまえると,MRIで描出された橋下部から延髄部の微細な病変領域周囲は橋背部に該当し,前庭神経核,前庭脊髄路,蝸牛神経核,上オリーブ核,外側毛帯,内側毛帯が存在し,頚髄には副神経核,前庭脊髄路,外側皮質脊髄路が分布する。蝸牛神経核,上オリーブ核,外側毛帯を中心とした聴覚伝導路のいずれかの障害によりABRでの2波以降の消失を生じたと推察される。橋下部から延髄上部の前庭神経核を中心とした前庭動眼反射の経路の障害により,温度刺激検査による最大緩徐相速度の低下やvHITでのcatch-up saccadeの出現,oVEMPの潜時の遅延が起きたと考えた。橋下部から延髄,頚髄の病変により前庭神経核,前庭脊髄路,副神経核のいずれかが障害され,cVEMPの潜時が遅延したと示唆された。SSEPにより示唆された橋より頭側の障害は両橋背部病変における内側毛帯の障害を,MEPにより示された中枢病変は頚髄の両外側病変による外側皮質脊髄路の障害を意味すると思われる。
MRIは抗MOG抗体関連疾患の病変の検出に有効であり,T2強調画像・FLAIRで境界不明瞭なびまん性の高信号像を呈し,経過とともに消失ことも多い19)~21)。必ずしもMRIで描出されるわけではなく,特に初期では検出できないこともある21)。Banksらは抗MOG抗体関連疾患の34%でMRIにおいて脳幹や小脳の病変が描出されたと報告している19)。中枢障害が多いが,稀に脳神経障害を伴うことがある21)22)。原因としてRoot entry zoneでの障害が疑われている22)。
抗MOG抗体関連疾患はステロイド治療を慢性期にも継続することで比較的予後良好な疾患とされており7),症状や画像所見は改善することが多い20)21)。本症例もステロイドパルス施行後はステロイド内服を継続し,症状の再燃なく経過している。
中枢神経系炎症性脱髄疾患は初発時には画像で描出されないことも多々あるが,抗MOG抗体陽性疾患の様にステロイド治療を慢性期に継続することで再発リスクを下げる疾患もあるため11)早期診断,治療が重要になる。そのため中枢性を疑うも画像で描出されない場合には臨床所見,神経生理学的所見,血清や髄液検査が診断に至るための重要な鍵になる。今症例においても初発時に画像所見は得られず,症状や生理学的検査から中枢性疾患を疑ったことで診断に至ることができた。
ABR,VEMP,vHITなどの神経耳科学的検査で中枢神経系脱髄疾患が疑われ,最終的に抗MOG抗体陽性脊髄炎の確定診断に至った症例を経験した。抗MOG抗体関連疾患を含めた中枢神経系炎症性脱髄疾患はMRIなどの画像で描出されないことがあり,神経耳科学的検査を含めた神経生理学的検査で脱髄疾患に特徴的な神経伝達速度の低下を検出することが診断の助けになる。
利益相反に該当する事項はない。