2026 年 85 巻 2 号 p. 70-73
症例:24歳女性
主訴:めまい
既往歴,家族歴:特記事項無し
現病歴:20XX年10月中旬に初めてのダイビングを施行中(最深15 m),両耳の耳抜きができないまま30分程度潜水をした。浮上後,両耳痛の持続とめまいを自覚した。ダイビングを行う前には自覚が無かった乗り物酔いの症状を認めた。めまい症状などが改善しないため11月中旬に近医耳鼻科を受診し,両側鼓膜の腫脹を指摘された。ATP,ビタミンB12,イソソルビドを投与されたが改善せず,12月下旬に当科を受診した。当科受診時,耳痛は消失しており,難聴の自覚も無かった。
初診時所見:両側鼓膜正常
純音聴力検査:右16.3 dB 左15 dB 4分法(図1a)

a 初診時純音聴力検査,b 術後純音聴力検査:初診時,術後ともに左右差を認めなかった。
注視眼振検査:眼振無し
頭位眼振検査:右下頭位で右向き水平回旋混合性眼振
圧迫眼振検査:右陰性,左陽性(眼振誘発あり)
経過:経過から外リンパ瘻を疑い,精密検査を施行した。
c-VEMP:右186.6 左261.8 AR10%
o-VEMP:右34.63 左73.13 AR26%
video Head Impulse Test(vHIT):全半規管でVORgain正常 CUSなし(図2)

両側ともVORgainの低下,CUSを認めなかった。
側頭骨CT:異常なし
内耳造影MRI:左前庭の内リンパ水腫(著明)を認めた(図3)。

左は,前庭に内リンパ水腫(矢印)を認め,左蝸牛,右蝸牛・前庭には内リンパ水腫を認めなかった。
抗めまい薬の投与および前庭リハビリテーションを施行したが,症状の改善を認めなかったため,20XX + 1年2月(発症110日目)に左内耳窓閉鎖術を施行した。
術中所見:全身麻酔下でTMフラップを挙上し,CTP検査サンプルを採取した(CTP:17.8 ng/ml)。次いで鼓室内を観察したところ,明らかな瘻孔や外リンパ漏出は認めなかった。正円窓偽膜は除去し,骨の張り出しも削開した。正円窓およびその周囲にも瘻孔は認めなかった。正円窓窩に,結合織,軟骨を留置し,フィブリン糊で固定した。アブミ骨周囲には結合織を留置し,フィブリン糊で固定した。
術後経過:手術翌日には,歩行時の浮遊感が改善した。術後3週間程度経過した時点で,乗り物酔いが無くなった。vHITは術前と同様正常であり,聴力も変化を認めなかった(図1b)。
本症例は,ダイビング後に発症(外リンパ瘻カテゴリー2)しためまいであり,外リンパ瘻を疑うことは難しくない。ただし,発症後3か月以上持続しているめまいの原因が,外リンパ瘻によるものか,他疾患を合併しているのかを判断するのは容易ではない。聴力は正常であり,vHIT,VEMPでも異常所見を認めなかったため,この時点では明らかな器質的な異常は認めなかった。一方,右下頭位で眼振を認めたこと,さらに左耳の瘻孔症状が陽性であったことが,外リンパ瘻を強く疑う要因となった。さらに内耳造影MRI検査で左前庭の著明な内リンパ水腫を認め,左前庭に病的変化が存在することが示唆された。外リンパ瘻では自然治癒の可能性もあるが,投薬,リハビリテーションで発症から3ケ月以上改善を認めなかったため,手術を施行した。
術中に外リンパ漏出や瘻孔は認めなかったが,内耳窓閉鎖により手術翌日からめまい症状は改善した。発症から3か月以上持続していた前庭症状が,手術翌日に改善したことは,内耳窓閉鎖術の効果と考える。CTPは17.8 ng/mlと陰性であったが,CTP検査の基礎データでは,陰性コントロールの多くがCTP検出限界(8.9 ng/ml)未満であったことを考えると,微量の漏出が存在した可能性がある。
われわれは外リンパ瘻のめまいは,卵形嚢の過剰刺激が原因と考察しており1),そのためめまいの急速な改善が得られると考えている。一方,内リンパ水腫がめまいの要因という報告も多い。本症例は患側に内リンパ水腫(前庭)を認めており,過去の報告を支持する所見と考える。本症例の術後の内リンパ水腫の変化は興味があるが,MRI検査は施行していない。
診断,患側の決定,バイオマーカーによる診断について説明する。
解説欄でも記載したが,本症例はダイビングを契機に発症しているため,外リンパ瘻を疑うことは難しくない。ただし,ダイビング後に内耳障害を生じる疾患として,内耳型減圧症も鑑別に挙がる。耳抜き不良の問診が重要であり,外リンパ瘻では耳抜き不良の自覚がある一方,内耳型減圧症では自覚がない2)。CTP検査の多施設共同研究のデータでも,外リンパ瘻が示唆される結果であった3症例は,いずれも耳抜き不良の自覚があった。また外リンパ瘻は,ダイビング中もしくは直後から症状を自覚するが,内耳型減圧症ではダイビング終了後2~3時間後に発症し,その後徐々に悪化するという特徴がある。両疾患の鑑別には耳抜き,発症時期の問診が重要である。
本症例のように,難聴の自覚がない場合,患側の判断が難しくなる。vHIT,VEMPなどの機能検査でも有意な左右差は認めなかった。頭位眼振検査では眼振を認めたため,前庭症状が示唆されたが,患側の同定はできない。外リンパ瘻では,患側下で眼振が増強すると報告されているが,本症例は,健側である右下頭位のみで眼振が誘発され,非典型的である。本症例で患側の同定に寄与したのは,瘻孔症状とMRI検査である。外リンパ瘻における瘻孔症状の陽性率は高くないが,特徴的な所見であり,患側の同定も可能である。ただし瘻孔症状は,上半規管裂隙症候群などの第3の窓症候群や内耳梅毒でも陽性になるため,注意を要する。またMRIで内リンパ水腫を認めたことも,診断のポイントとなった。ただし内リンパ水腫は,めまい,難聴を認めない症例でも認める可能性があるため,MRI所見のみで診断,患側の決定をしない方がよい3)。
最後に,CTP検査による診断である。現状CTP検査は,1回しか施行できないため,どのタイミングで施行するか迷うところである。本症例は病歴,瘻孔検査,MRI検査から左外リンパ瘻が疑われた。そのため,術前ではなく,術中に検体を採取した。また聴覚症状を欠く症例では,採取側の決定も容易ではない。個人的には,そのような症例では,両側採取が許容されると考える(保険審査の判断は各地域によって異なる)。またCTP検査が陰性であっても,外リンパ瘻が否定されるわけではない(間歇的漏出や極微量な漏出)ことに留意する4)。
外リンパ瘻の診療でもっとも大事なことは,外リンパ瘻を常に疑うことである。誘因があり,瘻孔症状を認めるなど典型的な症例は決して多くないため,少しでも外リンパ瘻を疑う所見があれば,外リンパ瘻を念頭において診療にあたる必要がある。
利益相反に該当する事項はない。