Equilibrium Research
Online ISSN : 1882-577X
Print ISSN : 0385-5716
ISSN-L : 0385-5716
シリーズ教育講座「めまい診療に有用な自覚的評価指標」
10.抑うつに有用な評価指標
森本 拓頌柳 雅也橋本 衛
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2026 年 85 巻 3 号 p. 117-126

詳細
Translated Abstract

Depression is a common psychiatric disorder that encompasses a wide range of psychological and physical symptoms. Among elderly patients, physical symptoms are particularly prominent, with dizziness being a notable example. For assessing dizziness clinically, otolaryngological examinations should serve as the initial step. If no organic cause is identified, clinicians should consider the potential presence of underlying depression. The diagnosis of depression primarily depends on evaluating psychiatric symptoms through clinical interviews, guided by standardized diagnostic criteria such as the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM) and the International Classification of Diseases (ICD). As a preliminary measure prior to formal diagnostic evaluation, self-rating scales for depression provide a convenient tool for screening individuals for the potential presence of depressive symptoms.

Self-reported depression scales are tools for assessing patients’ subjective psychological experiences. Commonly used instruments include the Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9), Zung Self-Rating Depression Scale (SDS), and Beck Depression Inventory (BDI). Each scale offers distinct features tailored to specific purposes, enabling efficient screening for depressive symptoms. However, their application requires careful consideration. In addition to relying on the patient’s cognitive capacity and comprehension, self-reported scales are prone to overestimation/underestimation of the severity of symptoms. Additionally, the inclusion of somatic symptoms in these scales may result in the misattribution of physical symptoms, such as dizziness, as depressive symptoms in patients with comorbid physical illnesses. To improve the diagnostic accuracy, clinician-administered rating scales such as the Hamilton Depression Rating Scale (HAM-D) and Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale (MADRS) are recommended. These tools enable a more objective evaluation of depressive symptoms, but require adequate training to ensure proper use. In conclusion, careful selection and application of depression rating scales, aligned with specific clinical objectives, are crucial for effective patient care.

 はじめに

 抑うつ状態・うつ病とは

うつ病は非常にありふれた疾患であり,日本人の約15人に1人が生涯のうちにかかるとされる1)。うつ病は,気分が沈む,興味や喜びを感じられなくなるといった精神症状のほかに,食欲低下や不眠,倦怠感,頭痛・頭重感などの身体症状がみられ,多彩な症状を呈する疾患である。診断は面接による臨床評価が基本であり,米国精神医学会によるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5-Text Revision(DSM-5-TR)や世界保健機関(WHO)によるInternational Classification of Diseases 11th Revision(ICD-11)が診断基準として一般に用いられる。DSM-5-TRでは,中核症状とされる①抑うつ気分,②興味や喜びの減退,のうち少なくとも一つをみとめ,以下③~⑨〔③食欲・体重の減少または増加,④不眠または過眠,⑤精神運動興奮または制止,⑥疲労感または気力の減退,⑦無価値感,または過剰(不適切)な罪悪感,⑧思考力や集中力の減退または決断困難,⑨死についての反復思考・自殺念慮・自殺企図〕の症状とあわせて合計5つかそれ以上存在する場合にうつ病の可能性があるとされる。これらの症状は過去2週間以上に渡って,ほとんど毎日,ほとんど1日中存在することがうつ病と診断するための要件となる。ただし,それらの症状のために社会生活を送る上で障害をきたしていること,ほかの精神疾患や身体疾患,薬剤起因性によるものではないことを確認する必要がある2)。本邦のうつ病患者の24%は精神科を受診しているが,15%が耳鼻科や内科などの精神科以外の診療科を受診していると報告されている3)。このように,精神科以外の診療科においてもうつ病を有する患者を診察する機会は少なくない。これらの診療科を受診する患者は,倦怠感,疲労感,不眠,体重減少をはじめ,耳鼻科においてはめまいやふらつきといった,うつ病に伴う身体症状を主訴に受診する。

しかし,日々の診療のなかで,うつ病やその他の精神疾患についての認識や対応が不十分であると,うつ病を有する患者を適切な診断に結びつけることが困難になる。結果,うつ病とは診断されず,適切な治療に至らない可能性がある。

 うつ病の身体症状について

うつ病の好発年齢は中高年であり,女性に多い1)。高齢者のうつ病では,抑うつ気分や精神運動抑制が目立たない一方,身体的・心気的訴えがみられやすく,全身倦怠感・頭重・めまい・肩こり・食欲不振・睡眠障害など様々な愁訴が心気性を帯びて執拗に繰り返されることが特徴とされる4)。耳鼻科を受診するケースについて考えると,めまいや耳鳴り,咽喉頭異常感などについて耳鼻科疾患をはじめとする身体疾患で説明できない場合,それがうつ病に伴う身体症状である可能性がある。

 めまいを有する患者にうつ病の評価尺度を用いる意義

以上のことから,耳鼻科診療において例えばめまいの一般的な治療に反応せず,治療に難渋する場合,精神疾患の存在を考慮する必要がある。めまいの原因が耳鼻科疾患に起因するか調べることの重要性は言うまでもないが,原因がみつからない場合,心理的な要因を考慮する必要がある。その場合,うつ病や不安症,医学的に説明のつかない身体症状が持続する身体症状症などといった精神疾患が鑑別にあげられる。そのなかにおいて,うつ病にはSSRIやSNRIを中心とした薬物療法が一定の治療効果をもたらすため,うつ病の症状を見逃さず適切な治療に結びつけることの重要性は高い。また,耳鼻科疾患を有していたとしても,うつ病や不安症などの精神疾患が併存している場合があり,これらの疾患はめまいの症状を悪化させるほか,慢性化させる可能性もある5)。さらに,慢性的なめまいは日常生活の制限や社会的孤立を引き起こし,それが抑うつ状態につながることもある。こうした場合において,現在どの程度抑うつ症状を有しているのか調べるために,うつ病評価尺度を適切に使用することが一定の有用性をもつ。本稿では,耳鼻科診療においてうつ病をみいだすための一助となることを念頭に,代表的な抑うつ評価尺度について概説する。

 うつ病の自己評価尺度について

 使用する目的

一般に評価尺度は診断を確定するためのツールではなく,スクリーニングや症状の重症度を評価する補助的な目的で使用される。高得点の場合には,さらに詳細な評価や診断を要する。自己評価尺度は患者自身が質問に答える形式であり,特別なトレーニングを受ける必要がないため,医師や医療スタッフにかかる負担が少ない。診察前の待ち時間などを利用して記入してもらうことで,忙しい日々の診療の中で時間を要さず抑うつ症状をスクリーニングすることができる。自己評価尺度は,患者自身が感じている症状の程度を直接反映するため,患者の抑うつなど主観的な心理状態を評価しやすく,対面の診察では訴えにくい希死念慮などについて患者が率直に回答しやすいといった利点もある。また,自己評価尺度は得点化されるため,抑うつの程度を客観的に評価でき,定期的に測定することで,経時的変化を追跡しやすくなる。精神科医療においても,Measurement Based Care(MBC)として評価尺度を治療経過に沿って都度測定し,治療の最適化に役立てようとする取り組みが近年試みられている6)

 使用時の注意点

自己評価質問票を用いる際には,利用目的(スクリーニング,重症度評価など),利用対象(子供,成人,高齢者など)に応じた質問票を選択することが必要となる。しかし,どの検査においても質問票のみで診断ができるものはなく,総合的な判断が求められるため,検査結果の取り扱いや患者への伝え方には注意が必要である。自己記入式であるため,患者の理解力や認知機能に依存し,認知機能が低下している患者では正確な回答が得られない可能性がある。また,主観的に判断するため,実際よりも症状を過大評価するリスクや,逆に,精神的な問題を認めたくない患者や自覚に乏しい患者では,過小評価するリスクがある。さらに,例えば耳鼻科疾患に起因しためまいを有する患者では,うつ病評価尺度に含まれる身体症状(疲労,睡眠障害,集中力低下など)が,めまいに由来する症状と重複する可能性がある。めまいに対する不安感やめまいに伴う億劫さ等の心理的な反応が,精神症状として評価尺度の点数を上げうる。こうした場合,質問紙の選択や点数の解釈にあたっては注意を要する。また,未診断の者にスクリーニングとして用いる場合は,うつ病の他に双極性障害(躁うつ病)や統合失調症などの他の精神疾患でも抑うつ症状を示すことに留意する必要がある。自己評価尺度を用いる場合は,あくまでも面接の補助的な情報収集の一手段であるという自己評価尺度の限界を認識しておくことが不可欠である。

①PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)

アメリカで一般診療科医が精神疾患を簡便に評価するための診断ツールとしてPrimary Care Evaluation of Mental Disorders(PRIME-MD)が1994年に開発された。PRIME-MDは医師が患者へインタビューを行う形式で,約20分程の所要時間の検査であった。PRIME-MDが時間がかかるという課題を解決するために,PRIME-MDを簡略化し,自己記入式の評価尺度として開発されたのがPatient Health Questionnaire(PHQ):患者健康質問票である7)。PHQは4頁にわたる自己記入式質問票であるが,うつ病性障害だけをスクリーニングする目的で,PHQのうち,うつ病性障害に関する9項目の質問のみを抽出して2001年に作成された自己記入式質問票をPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)と呼ぶ8)。PHQ-9はDSMに基づいていることから,スクリーニングに有用であるとともに,症状レベルの重症度を測定する評価尺度として推奨されている。実施する対象年齢は18歳以上で,所要時間は3~5分である。症状評価はPHQのうつ病評価に関する①興味・喜びの低下,②気分の落ち込み,③睡眠障害,④疲労感・気力の低下,⑤食欲の変化,⑥自己評価の低下,⑦集中力の低下,⑧活動性の変化,⑨死についての考え,の9つの質問に対して過去2週間の患者の経験について尋ね,「全くない:0点」「数日:1点」「2週間のうち半分以上:2点」「ほとんど毎日:3点」として,総得点0~27点を算出する。また①から⑨の問題により,仕事や日常生活がどれくらい困難になっていたかも「全く困難でない」「やや困難」「困難」「極端の困難」の4段階で評価する。重症度は,「0~4点:なし」「5~9点:軽度」「10~14点:中等度」「15~19点:中等度から重度」「20~27点:重度」の症状レベルであると評価する。なお,オリジナル版では「過去2週間」であるが,DSM-5-TRで推奨されているものは「過去1週間」で評価する。スクリーニングとして用いる場合のカットオフスコアは10点とされる9)。DSM-5-TRではうつ病性障害の症状の重症度を測定する評価尺度としてPHQ-9が推奨されており,英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン10)において,うつ病治療の効果指標として推奨している。PHQ-9は簡潔であるため,臨床および研究ツールとして有用である。

②SDS(Zung Self-rating Depression Scale)

Zungの自己評価式うつ病尺度(Zung Self-rating Depression Scale: SDS)は1965年にDuke大学のZungによって考案された評価尺度である11)。我が国においては福田一彦,小林重雄による日本語化が行われた12)。本来は治療効果をモニターする事を目的として,うつ病の重症度の評価のために作成された。しかし,今日ではうつ病のスクリーニング目的として使用されることが多く,現在においても広く用いられている。SDSは20項目の質問から成り,10項目は「気分が沈んで憂うつだ」のような否定的な経験を表し,10項目は「食欲はふつうだ」のような肯定的な経験を表し,逆スコア化され,対象者にパターンがわかりにくいように工夫されている。過去1週間の抑うつ気分や希望の喪失といった感情面や睡眠,食欲,体重変化といった身体面に関する設問が多く,「ないか,たまに:1点」「ときどき:2点」「かなりのあいだ:3点」「ほとんどいつも;4点」の4段階の頻度で評価される。40点をカットオフスコアとし,重症度は,「41~47点:軽度~中等度」「48~55点:中等度~重度」「56点以上:重度」とされる。

日本語版SDSでは,3群粗点の平均値と標準偏差から,「23~47点:正常」「39~59点:神経症」「53~67点:うつ病」を目安として示している。SDSの項目では身体に関するものが多いため,実際の身体疾患が評価に与える影響については注意する必要がある。また,若年者および高齢者では,健常群においてもSDS粗点が高くなることが示唆されている。その他,知的能力の低い患者での利用に困難があること,精神的な問題を認めたくない患者や自覚に乏しい患者ではスコアが低めになること,実際よりも症状を過剰にとらえる患者ではスコアが高めになること,そして強いうつ症状のため動きや反応が鈍く活動性が低下している患者ではスコアが低めになること,の4点の問題が指摘されている13)。適応年齢は18歳以上,所要時間は約15分とされる。なお医科診療報酬点数表で,認知機能検査その他の心理検査の操作が容易な検査として80点の算定が可能である。

③日本語版QIDS-SR(Quick Inventory of Depressive Symptomatology-Self Report)

QIDS-SR:自己記入式簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology-Self Report)は16問からなる自己記入式うつ病評価尺度であり,うつ病の重症度を評価する目的で用いられる他14),職域におけるスクリーニング尺度としても用いられてきた。日本語版QIDS-SRは,厚生労働省のウェブサイトに認知行動療法マニュアルと併行してアップロードされている15)。過去1週間の状態について,大うつ病エピソードの診断基準に対応した9種類16問に回答し,睡眠に関する項目(第1~4項目),食欲・体重に関する項目(第6~9項目),精神運動状態に関する項目(第15,16項目)は,それぞれ最も高い点数がつくものを1つずつ算入する。その他の項目はそれぞれそのまま算入する。以上の合計9項目を合計して総点を算出する。合計点は0~27点で,「0~5点:正常」「6~10点:軽度」「11~15点:中等度」「16~20点:重度」「21~27点:きわめて重度」と評価する。QIDS-SRは,アメリカ精神医学会の大うつ病の診断基準の9項目に一致した症状を評価できるといった点や,症状の頻度と重症度の双方の情報が明記され評価基準が明確といった利点がある。記入に必要とされる時間は5~7分であり患者への負担が少ない。また,パブリックドメインであり,使用料なしに誰でも利用できる。

表1 日本語版QIDS-SR項目

1.寝付き 9.体重増加(最近2週間で)
2.夜間の睡眠 10.集中力/決断
3.早く目が覚めすぎる 11.自分についての見方
4.眠りすぎる 12.死や自殺についての考え
5.悲しい気持ち 13.一般的な興味
6.食欲低下 14.エネルギーのレベル
7.食欲増進 15.動きが遅くなった気がする
8.体重減少(最近2週間で) 16.落ち着かない

参考文献15)より作成

④HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)

一般的に精神症状に関する評価尺度には,身体的に健康であることを前提に作られたものが多い。身体疾患を有する患者において精神症状を評価する場合,身体疾患の症状そのものに精神症状は修飾されうる。HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)は,病院に通院中の患者を対象に,身体症状を除外した,不安(Anxiety)および抑うつ(Depression)の症状をスクリーニングするために開発された心理評価尺度である。1983年に開発され,短時間で簡便に使用できるため,臨床現場で広く用いられる16)。日本語版は北村らにより開発されており,使用の許諾は文献16)参照のこと。①抑うつや不安が疑われる患者のスクリーニング,②治療効果のモニタリング,③身体疾患患者の心理的健康状態の評価などの場面で用いられる。主に身体疾患を持つ患者が対象であり,身体症状の影響を最小限にするよう配慮されている。5~10分程度と短時間で実施が可能であるといった簡便さがある。全14項目で構成され,それぞれ7項目が不安(HADS-A)と抑うつ(HADS-D)を評価する。各項目は4段階(0~3点)で評価され,合計点が高いほど症状が重いことを示す。評価基準としては,「0~7点:正常範囲」「8~10点:軽度」「11点以上:中等度以上の不安または抑うつが疑われる」と解釈される。身体症状(疲労感,食欲不振など)を評価に含めていないため,身体疾患を有する患者への使用に適している。HADSを使用することで,めまいなどを呈する身体疾患を抱える患者が不安や抑うつなどの精神症状を有しているかをより適切にスクリーニングすることができる。一方で,HADSは身体症状を除外した評価を特徴とするために,身体症状を前面とする患者のうつ病を見逃す可能性があることには注意を要する。抑うつと不安は明確に分けることは困難なこともあるため,同時に評価ができる利点がある一方,抑うつ症状と不安症状を呈する疾患を区別することは出来ないといった注意点がある17)

⑤BDI(Beck Depression Inventory)

Beck Depression Inventory(BDI)は,ペンシルベニア大学の精神科医Aaron T Beckらが考案した評定法である18)。すでに診断されているうつ病の重症度評価に用いられるが,スクリーニングにおける有用性も指摘されている。数回に渡り改定がなされており,初版は1961年に刊行され,DSM-IVの使用開始に際して,質問項目の削除および追加,回答選択肢の修正,症状の対象期間の変更を行ったBDI-IIが,1996年に公刊された19)。我が国においても,小嶋雅代らによるBDI-IIの日本語版20)が,日本文化科学社から販売されており利用可能である。BDIは全21項目で,各項目は4段階である。各項目は0~3点で合計は0~63点となる21)。初版のBDI-Iでは合計点が「0~13点:正常」「14~24点:軽度から中等度のうつ病」「25点以上:重症のうつ病」としている。第2版のBDI-IIでは「0~13点:最小」「14~19点:軽症」「20~28点:中等症」「29~63点:重症」としている。Hiroeらの研究22)では,BDI-IIの日本語版においても,「14~19点:軽症」「20~28点:中等症」「29点以上:重症」とするのが妥当であることが示唆されている。BDIでは気分および認知に重点が置かれており,身体症状に関する項目は比較的少ない。また,各項目で示唆される症状の重要性などによって項目に重みづけをするようなことはされていない。所要時間は,5~10分程度で,適用年齢は13~80歳とされている。

表2 BDI-II項目

1 悲しさ 12 興味喪失
2 悲観 13 決断力低下
3 過去の失敗 14 無価値感
4 喜びの喪失 15 活力喪失
5 罪責感 16 睡眠習慣の変化
6 被罰感 17 易刺激性
7 自己嫌悪 18 食欲低下
8 自己批判 19 集中困難
9 自殺念慮 20 疲労感
10 落涙 21 性欲減退
11 激越

参考文献21)より作成

 うつ病の他者評価尺度について

うつ病では,表情・話し方などの非言語的な情報も重要な指標となるが,自己評価尺度ではそれらを反映できない。こうした客観的な評価を含むうつ病の病状の変化をより正確に捉えるため,他者評価尺度としてハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale,HAM-D)やモンゴメリーアスバーグうつ病評価尺度(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale, MADRS)が用いられる。これらは主にうつ病の治療効果を検証する臨床研究などで用いられる。標準化された客観的指標として正確な評価をするためには評価者の訓練が必要であるといった注意点があるが,概要について紹介する。

 ①ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale, HAM-D)

うつ病の重症度を評価するために最も広く使用されている他者評価尺度の一つである23)。形式としては面接形式で評価者が実施する。うつ病を診断するためのものではなく,すでに「うつ病」と診断された患者に対して,その重症度の推移を観察するために開発されたものである。そのため,うつ病の診断基準には含まれていないものの,うつ病でよく見られる不安症状,不安に伴う身体症状,疲労感といった全身症状,食欲不振などの胃腸症状,など評価項目は多岐にわたる。原著は21項目版であるが,重症度評価は17項目で行い,残りの4項目はうつ病の性質を示す症状項目と位置づけられている。各項目を0~2点または0~4点のスケールで評価し,合計点を算出する。

表3 ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の評価項目と重症度

評価項目 重症度
日本語版 英語版
1 抑うつ気分 Depression mood 0 1 2 3 4
2 罪責感 Feelings of Guilt 0 1 2 3 4
3 自殺 Suicide 0 1 2 3 4
4 入眠障害 Insomnia Early 0 1 2 
5 熟眠障害 Insomnia Middle 0 1 2 
6 早朝睡眠障害 Insomnia Late 0 1 2 
7 仕事と活動 Work and Activities 0 1 2 3 4
8 精神運動抑制 Retardation 0 1 2 3 4
9 精神運動激越 Agitation 0 1 2 3 4
10 不安,精神症状 Anxiety Psychic 0 1 2 3 4
11 不安,身体症状 Anxiety Somatic 0 1 2 3 4
12 身体症状,消化器系 Somatic symptoms Gastrointestinal 0 1 2
13 身体症状,一般的 Somatic symptoms General 0 1 2
14 生殖器症状 Genital symptoms 0 1 2
15 心気症 Hypochondriasis 0 1 2 3 4
16 体重減少 Loss of Weight 0 1 2 
17 病識 Insight 0 1 2 
18 日内変動 Diurnal variation 0 1 2 
19 現実感喪失・離人感 Depersonaization and Derealization 0 1 2 3 4
20 妄想症状 Paranoid symptoms 0 1 2 3 4
21 強迫症状 Obsessional and Compulsive symptoms 0 1 2 

参考文献23)より作成

合計点で,「0~7点:正常範囲またはうつ病なし」「8~13点:軽度のうつ病」「14~18点:中等度のうつ病」「19~22点:重度のうつ病」「23点以上:非常に重度のうつ病」と評価する。実際のHAM-Dの使い方や採点方法,評価上の注意点などが稲田らの解説書に詳述されている24)。あらかじめ具体的な評価方法を十分に修得した上で,評価面接を行うことが望ましい。重症度の評価に当たって,HAM-Dでは評価面接や評価期間内における被験者の行動観察とともに,症状の程度と頻度の両方に重点を置いて最終的な重症度を決定する。HAM-Dの問題点としては,①DSM-5-TRで定義される大うつ病性障害の診断基準が網羅されておらず,逆に診断基準にない自律神経症状を示す項目が多数含まれている,②睡眠・食欲が増加する非定型うつ病の特徴が評価されない,③「不安,精神症状」の項目はイライラ感と不安感を含んでいるように多様な構成概念を含む項目がある,④重症度をもとに評価する項目と頻度をもとに評価する項目の混在や,3段階評価と5段階評価の項目が混在しており,合計得点に不均衡が生じる,などがあげられる25)。多くの研究で信頼性と妥当性が確認されており,臨床研究などで標準的な評価基準として用いられるが,評価者が訓練を受けていないと評価結果にばらつきが生じうる。また,実施に時間を要するため,日常診療には不向きである。

 ②モンゴメリーアスバーグうつ病評価尺度(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale, MADRS)

うつ病の重症度を評価する,他者評価尺度の1つである26)。我が国では上島ら27)によって日本語版が公表され,MADRS構造化面接ガイド(Structured Interview Guide for MADRS:以下SIGMA)を用いることによって高い評価者間信頼性の得られる事が報告されている28)。日本語版の信頼性検証及び重症度の標準化が行われ,現在,うつ病の薬効評価や臨床評価において広く使用されている評価尺度のひとつである。ハミルトンうつ病評価尺度が不安の身体症状や消化器系の身体症状など身体的要因も含めてうつ病症状を多次元で評価する尺度であるのに対して29),MADRSは身体症状を排して精神症状を中心とした抑うつ症状と無快感症の評価を重視し,それを一次元的に評価するといった特徴がある。各項目の重症度の具体的な評価基準を設け,示されたすべての質問を手順通りに行うことによって,各項目についての十分な情報が得られ,一定した評価を行うことが可能となる。面接形式で評価者が患者に質問し,10項目について0~6点の範囲でスコアをつける。総得点は0~60点で,スコアが高いほど重症度が高い30)

表4 モンゴメリーアスバーグうつ病評価尺度(MADRS)の評価項目と重症度

評価項目 重症度
1 外見に表出される悲しみ 0 1 2 3 4 5 6
2 言葉で表現された悲しみ 0 1 2 3 4 5 6
3 内的緊張 0 1 2 3 4 5 6
4 睡眠減少 0 1 2 3 4 5 6
5 食欲減退 0 1 2 3 4 5 6
6 集中困難 0 1 2 3 4 5 6
7 制止 0 1 2 3 4 5 6
8 感情をもてないこと 0 1 2 3 4 5 6
9 悲観的思考 0 1 2 3 4 5 6
10 自殺思考 0 1 2 3 4 5 6

文献29)30)を参考に作成

合計点が「0~6点:正常または軽微な症状」「7~19点:軽度のうつ病」「20~34点:中等度のうつ病」「35点以上:重度のうつ病」と解釈される。身体症状を重視するHAM-Dと比べ精神的な症状に重点を置いているため,抗うつ薬や心理療法の効果を敏感に測定できる。10項目のため,HAM-Dよりも簡便で短時間で検査が可能であり,日常診療での治療効果判定にも適している。ただし,精度の高い評価のためには評価者が項目の基準を正確に理解している必要があり,訓練を要する。

表5 うつ評価尺度一覧

自己評価尺度 他者評価尺度
PHQ-9 SDS QIDS HADS BDI-II HAM-D MADRS
目的 スクリーニングと重症度評価 うつ状態の評価(スクリーニング) 重症度評価(スクリーニング) 身体疾患患者におけるスクリーニング 重症度評価 重症度評価 重症度評価
対象年齢 18歳以上 18歳以上 18歳以上 16歳以上 13歳以上 成人 成人
所要時間 3~5分程度 15分程度 5~7分程度 5~10分程度 10分程度 15~20分程度 15分程度
特徴 診断基準に準じた9項目簡便に使用できる。 20項目から成り,気分,身体症状を含む。 診断基準に基づいた16項目の評価。評価基準が明確。 身体疾患の影響を受けにくい。うつ(7項目)と不安(7項目)を評価。 21項目で,認知的・感情的側面を中心に評価。 身体症状を含めた多元的な評価。評価者の訓練を要する。 身体症状を排した精神症状の評価。評価者の訓練を要する。

PHQ-9:患者健康質問票 SDS:Zungの自己評価式うつ病尺度 QIDS:自己記入式簡易抑うつ症状尺度 HADS:病院不安うつ尺度 BDI-II:ベック抑うつ質問票 HAM-D:ハミルトンうつ病評価尺度 MADRS:モンゴメリーアスバーグうつ病評価尺度

 おわりに

うつ病の自己評価尺度及び他者評価尺度について表に示した。めまいをはじめ身体症状を訴える患者において,原因となる身体疾患を認めない場合や,耳鼻科治療に反応せず治療に難渋する場合,うつ病やその他の精神疾患が関与している可能性を考慮することが重要である。うつ病の自己評価尺度を適切に使用することで,めまいの背景にうつ病がないか調べるための補助となる。また,評価尺度を用いてうつ病の重症度を定量的に把握することにより,うつ病に対する治療の効果判定の補助ともなる。こうしたうつ病の自己評価尺度を用いた取り組みが,精神科以外の診療科を受診する患者にみられるうつ病を適切に判別し,専門治療へと繋げる一助になることが期待される。それぞれの評価尺度の特徴を理解し,あくまでも面接の補助的な情報収集の一手段であるという評価尺度の限界を認識したうえで適切に使用することが望まれる。

▷PHQ-9入手先

「こころとからだの質問票」(ヴィアトリス製薬合同会社)

URL: https://www.cocoro-h.jp/-/media/Project/Common/CocorohJP/Images/Depression/Pdf/EFX46J001D.pdf

*上記URLで自己記入可能

▷日本版SDS入手先

・三京房

〠605-0971 京都府京都市東山区今熊野ナギノ森町11

TEL: 075-561-0071/FAX: 075-525-1244

▷日本語版QIDS-SR入手先

厚生労働省ホームページ URL: https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/02.pdf

*上記URLで自己記入可能

▷日本語版HADS入手先

Zigmond AR,Snaith PR,北村俊則.Hospital anxiety and depression scale(HADS尺度).季刊 精神科診断学 1993; 4(3): 371–372.参照

▷BDI-II日本語版入手先

日本文化科学社

〠113-0021 東京都文京区本駒込6-15-17

Tel: 03-3946-3134 URL: http://www.nichibun.co.jp

*心理検査販売代理店を通じて入手すること。

▷HAM-D入手先

・星和書店

〠168-0074 東京都杉並区上高井戸1-2-5

TEL: 03-3329-0031/FAX: 03-5374-7186

・日本精神科評価尺度研究会

〠104-0032 東京都中央区八丁堀3-23-8 ニュー石橋ビル5F 株式会社イメージブレーン内

URL: http://jsprs.org E-mail: info@jsprs.org / FAX: 03-3555-0776

▷MADRS入手先

・じほう

〠101-8421 東京都千代田区猿楽町1丁目5番15号猿楽町SSビル

TEL: 03-3233-6333/FAX: 03-3233-6338

・日本精神科評価尺度研究会

〠104-0032 東京都中央区八丁堀3-23-8 ニュー石橋ビル5F 株式会社イメージブレーン内

URL: http://jsprs.org E-mail: info@jsprs.org / FAX: 03-3555-0776

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
© 2026 一般社団法人 日本めまい平衡医学会
feedback
Top