Equilibrium Research
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原著
聴神経腫瘍に併発したメニエール病疑い例
釼持 新瀬尾 徹岡野 洋平中村 学小森 学
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2026 年 85 巻 3 号 p. 143-148

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Translated Abstract

We report the case of a patient whit Meniere’s disease who was diagnosed as having a vestibular schwannoma (VS). The patient was a 40-year-old man who presented with vertigo. He gave a history of recurrent right-sided hearing loss, which led to a presumptive diagnosis of Meniere’s disease on the right side. Magnetic resonance imaging (MRI) performed to screen for intracranial lesions revealed a right VS. The patient was therefore referred to our hospital for vertigo evaluation and follow-up.

At the initial visit, no overt abnormalities were observed, and the vertigo was initially attributed to the VS. However, the absence of significant findings on neuro-otological examinations raised questions about whether the symptoms were truly caused by the tumor. We then performed the cVEMP (cervical Vestibular Evoked Myogenic Potential) tuning property test, which yielded positive results in both ears, suggesting the presence of bilateral endolymphatic hydrops (EH). Gadolinium-enhanced inner ear MRI further confirmed the diagnosis of bilateral EH.

Given the presence of EH in the contralateral ear, we concluded that this was a case of right Meniere’s disease with subclinical EH in the left ear, and that the right VS was an incidentally coexistent asymptomatic lesion. The patient’s symptoms have since remained stable under treatment with isosorbide.

 はじめに

反復するめまい・難聴を主訴とする患者の精査において,MRIにより聴神経腫瘍が偶発的に発見されることがある。そのような場合,これらの症状を聴神経腫瘍に起因するものと判断されてきた1)2)。しかし,聴神経腫瘍は増大が緩徐で無症候性に経過する例も少なくない3)。とくに,めまい・難聴を反復する症例においては,内リンパ水腫を背景とするメニエール病との鑑別,あるいは両者の併存を考慮する必要がある。今回われわれは,聴神経腫瘍が確認され,めまい・難聴を反復し,臨床的にメニエール病と診断された症例に対して,神経耳科学的検査および内耳造影MRIを施行した。その結果,症状の成因を考察する上で示唆に富む所見を得たため,若干の文献的考察を加えて報告する。

 症例

40歳男性,医師:20xx年y月z日,COVID-19罹患による隔離の後,職場復帰当日の勤務中に20分以上持続する回転性めまいが出現した。嘔吐も伴った。翌日,右耳閉感が出現し,前医耳鼻咽喉科を受診した。このとき右低音障害型感音難聴(図1)と右向き自発眼振を認めた。5年前と2年前にも右難聴の既往があったので,右メニエール病が疑われ,利尿薬(イソソルビド)が処方された。その後も,当直や勤務中に右耳閉感と数十分持続する回転性めまいを繰り返し,過労や睡眠不足などのストレス時に症状が増悪するとの自覚があった。頭蓋内病変の精査のため実施したMRI検査で,右内耳道内に聴神経腫瘍を認めた。今後のフォローおよびめまい精査目的でz + 40日に当院を紹介受診となった。既往歴として高脂血症,右突発性難聴(5年前),右急性低音障害型感音難聴(2年前)があった。

図1  当院初診までの聴力検査

a:5年前,b:2年前,c:前医受診時のものである。いずれも当初右低音障害型感音難聴を呈している。a,bにおける●は,治療後の聴力安定時の右聴力閾値を示し,それぞれ正常に改善している。

初診時所見:耳鼻咽喉に明らかな異常はなく,注視眼振,頭位眼振は認めなかった。頭振り眼振は右向き眼振を誘発した。純音聴力検査では,軽度右感音難聴を認めた(図2a)。前医でのMRI検査にて右内耳道内に大きさ約8.5 × 5.3 mmの卵円形の腫瘤を認め,聴神経腫瘍と診断した(図3)。めまい精査のために神経耳科学的検査を施行した。温度刺激検査(15°C 60秒刺激のエアーカロリック検査)の最大緩徐相速度は,右11.9度毎秒,左11.3度毎秒であり両CP疑いであったが,vHITではいずれの半規管にもVORの低下やcatch-up saccadeを認めなかった。ABRでは,右耳刺激で潜時の延長がみられた(図4)。前庭誘発頸筋電位検査(cVEMP)では左右差はなかった。cVEMP tuning Property法4)では,両耳陽性であり両耳の内リンパ水腫の存在が強く疑われた(図5)。そこで,内耳造影MRI検査を行ったところ,右耳の蝸牛と前庭に水腫を認め,左耳は前庭に水腫を認めた(図6)。以上より右聴神経腫瘍とともに両耳の内リンパ水腫をともなう右メニエール病と判断した。

図2  当院初診以降の聴力検査

a:当院初診時は軽度右感音難聴を認める。b:初診12か月後で左右差は消失している。

図3  内耳道MRI所見

右内耳道内に卵円形の透亮像をみとめ聴神経腫瘍と考えられる。

図4  聴性脳幹反応(ABR)

上段は左耳,下段は右耳刺激である。I波,III波,V波の潜時はそれぞれ,左耳では5.74,3.59,1.30 msec,右耳では6.43,4.38,1.44 msecであり,右のIII波とV波の遅延を認めた。特に右I–III波間潜時の延長が著しい(左2.29 msec,右2.94 msec)。

図5  cVEMP tuning property法

内リンパ水腫推定検査であるtuning property法は,次式のslopeが−19.9未満の場合を陽性とする4)

slope = 100 × (A500 − A1000)/(A500 + A1000)

A500とA1000は,それぞれ500 Hzと1000 HzにおけるcVEMPの補正後振幅を示す。

本例において,右耳ではA500 = 0.847,A1000 = 1.680でありslope = −33.0となり,左耳ではA500 = 0.720,A1000 = 1.611でありslope = −38.2となり,両耳とも陽性を示す。▽は刺激開始を示す。

図6  内耳造影MRI

右耳の蝸牛(*)と前庭(矢印)に,左耳の前庭(矢印)に内リンパ水腫を認める。

繰り返すめまい,聴覚症状は右メニエール病によるものの可能性があり,聴神経腫瘍は内耳道内の小腫瘍であり,無症候かあるいは軽微な症状を引き起こしているていどであることを患者に説明し,脳神経外科医とも相談の上,6か月毎に聴力検査とともにMRIを撮像することでwait and scanとした。内リンパ水腫に対しては,引き続き利尿薬(イソソルビド)投与とともに生活指導,有酸素運動などを指導するなど,メニエール病間歇期の治療指針に基づき治療を行った。初診後12か月において,めまい,難聴の再発は認めておらず(図2b),MRI検査においても腫瘍の増大傾向は認めていない。

 考察

聴神経腫瘍は,前庭蝸牛神経から発生する良性のSchwann細胞由来の腫瘍である。腫瘍の増大スピードは比較的緩徐であり,小脳橋角部が好発部位で第Ⅷ神経の外側または頭蓋内に隣接して発生する。側頭骨病理標本によると517例中5例(0.97%)で認められ,決してまれなものではない3)。男性よりも女性に多く発症すると言われる。聴神経腫瘍罹患患者の一般的な主訴は,難聴(51.5%),めまい(17%),耳鳴り(11.2%)である5)。CT検査やMRI検査といった画像診断技術が進歩するにつれ,発見される機会が増し,発生率が上昇したと考えられている。今回,めまい・難聴の精査中に聴神経腫瘍が発見された症例について考察する。

聴神経腫瘍が蝸牛前庭症状を引き起こす機序として,いくつかのものが考えられてきた。ひとつは腫瘍による神経自体の圧迫障害であり,もうひとつは腫瘍による内耳動脈や前下小脳動脈の圧迫による内耳循環障害である。いずれも局所の障害に由来するとの考えである。しかし,腫瘍の大きさと難聴の程度は関連しない,腫瘍より末梢側である蝸牛外有毛細胞に障害がみられる,非腫瘍側に難聴がみられることがあるなどの報告があり6),これらは上記の局所の障害説だけでは説明できない。近年は神経鞘腫組織由来のサイトカイン(TNFα)や細胞外分泌小胞(エクソソーム)などが聴神経腫瘍における内耳障害に関与する可能性が指摘されるようになってきた7)

一方,内リンパ水腫が聴神経腫瘍の蝸牛前庭症状の発現に関与する可能性も指摘されている。聴神経腫瘍の側頭骨病理学的研究では,Mahmudらはその11例中4例に8),Omerらは12耳中8耳に9),Wongらは43名中6例に内リンパ水腫を認めた10)と述べている。内耳造影MRIによる研究では,Moayerらは2例の内リンパ水腫をともなう聴神経腫瘍患者について報告した11)。Mengらは,聴神経腫瘍26例中6例に内リンパ水腫を認めたと報告している12)。またWangらは,聴神経腫瘍では前庭の内リンパ腔容積が拡大し,彼らの判定基準ではその16.7%に内リンパ水腫をみとめたと報告している13)。このように,聴神経腫瘍において二次性に内リンパ水腫が生じることが指摘されているが14),その機序は明らかではない。腫瘍由来のサイトカインが内リンパ嚢に発現・作用し内リンパ水腫が形成される可能性が示されている12)。しかし,腫瘍が小脳橋角部に進展したものよりも内耳道内に限局するものほど水腫の程度が強い傾向があること13),特に内耳内神経鞘腫に見られやすいことなどより14),局所病変による内リンパ水腫の形成が示唆されている。

本症例で,聴神経腫瘍と内リンパ水腫を関連づけるうえでもっとも興味深い点は,両側耳に内リンパ水腫を認めたことである。内リンパ水腫は,メニエール病のほかに様々な内耳疾患でも見られる。このうち両側性に生じ疾患としては,メニエール病,コーガン症候群,前庭水管拡大症,聴神経腫瘍,髄膜炎,内耳梅毒などが知られているが14)15),本症例ではメニエール病,聴神経腫瘍以外の疾患は否定的である。メニエール病における内リンパ水腫の形成は,精神的ストレスなどによりストレスホルモンである抗利尿ホルモンが産生され,内リンパ嚢に存在する抗利尿ホルモン受容体を介しアクアポリン2の活性化が生じ,その結果内リンパ腔に水分が蓄積されたものと考えられている16)。つまりメニエール病は全身性の疾患と捉えられ,一側性であっても対側に潜在性の内リンパ水腫がみられることが知られている17)~20)。聴神経腫瘍の二次性の内リンパ水腫は,対側耳にも形成されることが指摘されている。Karch-Georgesらによると,非造影MRIによる検討ではあるが,聴神経腫瘍183例中8例(4.3%)に,対側耳に内リンパ水腫を認めたという21)。このような対側耳における内リンパ水腫の形成は,腫瘍由来のサイトカインなどによるものと考えられている。本症例の病態について考えると,めまいの発症に精神的ストレスが関与していることから,左耳に潜在性の内リンパ水腫をもつ右メニエール病であり,右聴神経腫瘍は無症候性あるいは軽微な症候性に併発しているものと考えたい。ただし,聴神経腫瘍による二次性の内リンパ水腫であることを積極的に否定する要因はない。

本症例における聴神経腫瘍は軽微な症状しか示しておらず,6か月に1回MRIを撮像することでwait and scanとした。良性で進行の緩徐な聴神経腫瘍において,wait and scanは有効な選択肢とされている。その60%程度において増大傾向をみとめないものとされている22)。増大傾向のある場合,外科的療法あるいは放射線療法へ移行することとなるが,どの時点で移行するのかについては施設の属性などに依存し,一定のコンセンサスは得られていない23)。腫瘍のサイズが1年に2.5 mm以上の増大があれば聴力の温存は困難とされるので,これが一つの目安になるかもしれない24)。また3年から5年の間に増大傾向を認めない場合は,その後も増大する可能性が少ないことが知られており,少なくともその間は6か月毎のMRI検査が必要と考えられる23)

最後に本症例の診断名について考察する。メニエール病の診断基準を文言通り解釈するならば,本症例では聴神経腫瘍が存在するのでメニエール病疑い例と診断できる25)。聴神経腫瘍が無症候性に存在するなら,本症例は確定診断例と同列に扱ってもよいように思われるものの,腫瘍と内リンパ水腫の関係を完全に説明することは困難であり,メニエール病疑い例と診断するべきと考える。むしろ前述のように聴神経腫瘍と内リンパ水腫は併存することが多いので,その病態,臨床的意義の検討が必要であろう。そのためには,本症例のような併存例を聴神経腫瘍・内リンパ水腫重複症候群などとした症例の蓄積が望まれる。本症例のように,聴神経腫瘍に内リンパ水腫を併発した症例において,内リンパ水腫に対する利尿薬投与が自覚症状の軽快に有効であるとの報告がある11)。メニエール病やめまい,難聴の精査中にMRIで聴神経腫瘍が発見された場合,聴神経腫瘍による症状と直ちに判断するのでなく,神経耳科学的検査および内耳造影MRIにより内リンパ水腫についての評価を行い,適切な治療を行うべきであると考える。

 まとめ

1.右内耳道内聴神経腫瘍と両内リンパ水腫を併発した症例を経験した。

2.繰り返すめまい,低音部感音難聴を訴えた。

3.MRIで右聴神経腫瘍が発見された。

4.カロリックテスト,vHIT,cVEMP,oVEMPに異常を認めなかった。

5.cVEMPのtuning property法で両耳陽性であった。

6.内耳造影MRIで,右蝸牛・前庭水腫,左前庭水腫を認めた。

7.本症例は,潜在性左内リンパ水腫をともなう右メニエール病疑い例による症状であり,右聴神経腫瘍は無症候性に併発したものと考えたが,聴神経腫瘍による二次性の内リンパ水腫も完全に否定しえなかった。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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