Equilibrium Research
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原著
市中病院におけるリハビリテーション専門職と連携した前庭リハビリテーションの導入経験
平岡 晃太梅本 真吾福井 文子田尻 玲央平野 隆
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2026 年 85 巻 3 号 p. 149-156

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Translated Abstract

Introduction and Purpose: Vestibular rehabilitation (VR) has been established as an effective treatment based on high-level evidence, as outlined in the 2024 Japanese guidelines; however, its adoption remains limited in Japan. This study was aimed at examining the clinical effectiveness of the first year of an outpatient VR program introduced at the Kunisaki City Hospital in collaboration with rehabilitation professionals (RPs), including physical and occupational therapists.

Methods: This retrospective study included eight patients with chronic dizziness (six women, two men; mean age 76.0 years) who received outpatient VR between June 2024 and May 2025. The diagnoses included persistent postural-perceptual dizziness (PPPD) (three cases), unilateral vestibular hypofunction (two cases), dizziness of other etiologies (two cases), and bilateral vestibular hypofunction (one case). Based on the Japanese guidelines, the VR program was conducted by RPs for three months, focusing on a customized program of head movement, balance, gait, and habituation exercises. Patient-reported outcomes and changes in objective measures after the intervention were examined using the dizziness handicap inventory (DHI), Niigata PPPD questionnaire, activities-specific balance confidence (ABC) scale, functional gait assessment (FGA), dynamic gait index (DGI), timed up & go test, and 10-meter walk test.

Results: Statistically significant improvements were observed in the DHI, ABC scale, FGA, DGI, and 10-meter walk test.

Conclusion: The outpatient VR program conducted in collaboration with RPs, in its first year, demonstrated significant therapeutic effectiveness in improving subjective disability, balance confidence, and gait ability in patients with chronic dizziness. These results indicate that building a collaborative framework between otolaryngologists and RPs, even those initially inexperienced in VR, is a key factor in the effective and widespread adoption of VR.

 はじめに

末梢前庭障害患者に対する前庭リハビリテーション(vestibular rehabilitation: VR)は,2024年に本邦でガイドラインが発刊され,慢性期の一側性末梢前庭障害や持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness: PPPD)に対するVRの有用性が示されている1)。米国のAmerican Physical Therapy Associationでは,理学療法士(PT)が専門職としてVRの一翼を担っており,神経学部門内にVRを専門とするSpecial Interest Group(SIG)が設置され,2015年には会員数がおよそ1800名に到達したことが示されている2)。VRの有効性は本邦のガイドライン上もエビデンスレベルAと定義されているが1),実臨床の医療現場においては,PT,作業療法士(OT)を含むリハビリテーション専門職(Rehabilitation Professionals: RPs)と耳鼻咽喉科医師との連携不足に加え,マンパワー不足,診療報酬面での問題など,制度上の課題からVRの普及が進んでいない現状がある3)

国東市民病院(以下,当院)は,2024年4月に耳鼻咽喉科を常勤化した4)。赴任前に耳鼻咽喉科医師側からVRを導入したいという構想を伝え,ビデオヘッドインパルス検査(Video Head Impulse Test: vHIT)の購入を病院に依頼した。赴任後にリハビリテーション部門へ呼びかけを行い,VRに関心を示した6名のRPsを選出し,VR実施体制の構築を開始した。導入当初,RPsには前庭領域の臨床経験がなく,耳鼻咽喉科医師自身も外来で患者への簡易な指導を行う程度で,RPsとの連携したVRの実施経験はなかった。そのため,RPsがガイドラインおよび関連資料を用いて基本的な病態理解,評価法,訓練手技を学習し,耳鼻咽喉科医師との協議の上,外来で施行可能と判断した時期をもってVR診療を開始する方針とした。結果として常勤医赴任から約2ヶ月後の2024年6月に,VRを提供できる体制が整備された。VR開始時点で外部のめまい相談医またはめまい専門会員に個別に意見を求めたわけではないが,運用開始後の不明点については,他施設のめまい相談医・めまい専門会員に適宜相談するとともに,院内でも講師を招いての講演会や2週間に1回のカンファレンスを行いながら診療体制の改善を図った(図1)。本研究では,VR未経験の耳鼻咽喉科医師およびリハビリテーション専門職が連携し,外来VR体制を構築した導入初年度の臨床成績を後方視的に検討した。

図1  当院における外来VR導入体制構築の流れ

 対象と方法

2024年6月から2025年5月までの期間に,発症から3ヶ月以上経過した慢性めまい症に対して当科外来でRPsによるVRを施行した症例を対象とした。BPPVやメニエール病のような反復性の発作性のめまい疾患は対象外とした。当院では,外来でVRを導入する症例については原則としてRPs介入下で実施した。医師による一般的な生活指導のみを行った症例は本研究の対象には含めなかった。本研究では,vHITにて,前庭動眼反射(Vestibulo-Ocular Reflex gain: VOR gain)利得が<0.8かつCatch up Saccade(CUS)を認めた場合は5),前庭障害として定義した。前庭誘発頸筋電位(cervical vestibular evoked myogenic potential: cVEMP)による評価で振幅の左右比(asymmetry ratio: AR)を用いて,振幅の小さい方を患側とし,ARが33%を上回る場合に球形嚢機能〜下前庭神経の障害を示唆する所見として判定している6)。cVEMPは前庭機能を検討するための補助的検査と位置づけ,VR導入初期には検査体制が十分に整っておらず,全例では実施できなかったため,本研究では主要評価項目には含めず,参考所見として扱った。また半規管機能の評価としては,温度刺激検査などがあるが,当院にはENG(electronystagmography)記録装置がなく,本検査は実施できなかった。「PPPD」の診断に関しては,Barany Societyの診断基準を満たし,かつ前庭障害のみでは症状を十分に説明できないと判断した症例をPPPDとして分類した7)。「その他のめまい症」に関しては,vHITおよびcVEMPによる前庭機能低下を示す所見,ならびにPPPD7)の診断基準のいずれも満たさないものの,慢性のふらつきや歩行不安定性が持続し,日常生活障害を認め,運動療法的介入による改善が期待される症例として定義した。

治療内容は,ガイドラインに基づいた,1.頭部運動訓練,2.バランス訓練,3.歩行訓練,4.慣れを誘導する訓練の4つを中心としたプログラムを作成し1),週1回以上40分から60分程度のRPsによる訓練指導と可能な範囲での自宅でのホームエクササイズ指導を3ヶ月間実施した。自宅でのホームエクササイズは,前述した4つの訓練を中心に指導し,実施回数や時間は一律には定めず,症例ごとに調整した。介入期間中は,耳鼻咽喉科医師による診察を実施し,現状の確認を定期的に行なった。

対象患者に関して,当科からATP製剤,ベタヒスチン,ジフェニドールのような抗めまい薬の追加処方は行っていない。また他院処方分の抗めまい薬に関しても可能な限り中止を指示した。

自覚症状の評価には,Dizziness Handicap Inventory(DHI)8),The Niigata PPPD Questionnaire(NPQ)9),Activities-specific Balance Confidence Scale(ABC scale)10)の3つの問診票を用いた。

DHI(100点満点)はめまいによる日常生活上の障害度を評価し,46点以上を重症,28点以上45点以下を中等症,16点以上27点以下を軽症,14点以下を障害なしと評価した11)。また小項目として,DHI-P(Physical/身体面),DHI-E(Emotional/感情面),DHI-F(Functional/機能面)も前後で比較を行なっている。PPPD診断症例に関しては,PPPDの重症度を評価するNPQ(72点満点)も使用し,診断のカットオフ値27点を目安として表に記載した。また体動,立位・歩行の3つの小項目に関しても前後で比較を行った。NPQはPPPD以外の症例でも取得していたが,解釈上の混乱を避けるため,表ではPPPD症例のみ記載した。今回はABC scaleは,屋内外における日常生活動作に対する自信度に関する項目を問診で評価を行い,100%を満点とし,67%未満で転倒リスク増加と判断した。他覚的な歩行能力の評価として,Functional Gait Assessment(FGA)12),Dynamic Gait Index(DGI)13),Timed Up & Go Test(TUG)14),10m歩行15)16)を用いた。FGA(10項目,30点満点)およびDGI(8項目,24点満点)は,方向転換や障害物回避など,日常の多様な歩行環境下での安定性を評価する指標である17)。それぞれの評価において,FGA 23点未満およびDGI 19点未満を転倒リスク増加の目安として,介入前後の機能改善を比較検討した。TUGは,立ち上がり,歩行,方向転換,着座を含む複合的な動作の所要時間を測定し,全身の移動能力と動的バランスを簡便に評価する。方向差の影響を考慮し,時計回りおよび反時計回りで各1回,計2回施行し,そのうち最短時間を解析に用いた。本検査の所要時間の変化は,特に前庭リハビリテーションによる移動の自信度や速度の改善を客観的に示す指標として用いた。10 m歩行に関しては,介護要否の目安ともされ15),フレイル評価の改訂日本版CHS基準の簡易項目の歩行速度<1 m/sにも該当されており16),10秒以下を正常値とした。対象患者の身体的背景を把握する目的で,初回評価時に握力を確認したが,これらは介入前後での変化を検討する評価項目には含めなかった。対応ある2群の差の検定にはWilcoxonの符号順位検定を行った。統計学的検討はGraphPad Prism software® version 9.0(GraphPad Software, Inc. San Diego, CA)を使用し,p < 0.05を有意水準とした。

本研究の実施にあたっては,ヘルシンキ宣言ならびに「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などの倫理指針を遵守し,研究内容を被験者に充分説明し同意を得た旨を明記するとともに,当該研究が国東市民病院倫理審査委員会の承認(R6-4)のもとに行われたことを付記する。

 結果

本研究は,2024年6月から2025年5月までの期間で検討を行った。耳鼻咽喉科で診察を行っためまい患者149名のうち,慢性めまい患者は20名で前庭機能評価やMRI評価の後に外来でRPsによるVRを希望した8名を検討対象とした。3ヶ月の治療期間で治療中断例は認めなかった。患者の内訳は女性6名,男性2名であり,平均年齢は76.0歳(66~82歳)であった。RPsによるVRの実施頻度は基本的に週1回で実施しており,症例3のみ経過と本人の希望を踏まえて第2週および第3週のみ週2回介入した。診断としては,PPPDが3例,一側性前庭障害が2例,両側性前庭障害が1例,その他のめまい症が2例であった。今回PPPDと分類した3例には,vHITおよびcVEMPにより前庭障害を認めた症例は含まれていない。case 1は左下肢のしびれが残存し,NPQ 16点であったが,視覚刺激による増悪エピソードに乏しく,脳梗塞後の感覚障害の影響を否定できなかったため,その他のめまい症群に分類した。case 6は先行疾患がなく,NPQ 14点であったが視覚刺激による増悪エピソードを欠き,PPPDとは診断しなかった。症例ごとの詳細なデータは表1に示した。当科から抗めまい薬の処方はしておらず,診療録上,安定剤およびSSRI/SNRIの内服症例は認めなかった。睡眠剤としてスボレキサントの内服歴を有する症例はあったが,当科から処方変更や中止指示は行わなかった。cVEMPと握力検査はVR診療開始後に導入したため,一部症例では測定できなかった。DHIは,介入前の平均39.8点から介入後には平均18.5点に改善し,介入前後の合計点,および小項目であるDHI-P,DHI-Eで有意な改善を認めた(図2)。一方でPPPDの重症度を評価するNPQの合計点および小項目については,介入前後で数値の減少傾向は認められたものの,PPPD症例が3例であり統計的な有意差は認められなかった(図3)。次に,転倒リスクおよび動的バランス能力の他覚的評価を行った結果,ABC scaleは,介入前の平均56.8%から介入後の平均82.8%に有意に増加し,統計的に有意な改善を認めた(図4A)。FGAは,介入前の平均19.5点から介入後の平均26.9点に増加し,DGIは,介入前の平均18.3点から介入後の平均22.8点に増加と,それぞれ統計学的にみても有意な改善を認めた(図4B,4C)。TUGに関しては,当初評価していなかったこともあり,6例での検討となったが,6例中5例で改善を認めたが,統計学的に有意差は認めなかった(図4D)。10 m歩行に関しては検討を行った7例全てで改善を認め,統計学的にも有意差を認めた(図4E)。

表1 症例一覧

症例 1 2 3 4 5 6 7 8
年齢 74 81 72 66 79 75 69 82
性別
診断名 めまい症 PPPD PPPD 一側性前庭障害 PPPD めまい症 両側性前庭障害 一側性前庭障害
先行疾患 脳梗塞 前庭神経炎疑い 慢性中耳炎術後 外リンパ瘻疑い 片頭痛回転性めまい 原因不明 原因不明 前庭神経炎
vHIT VOR gain LL/RR 1.1/1.07 0.86/0.96 1.09/1.28 1.08/0.67 1.15/1.17 0.95/0.97 0.71/0.64 0.76/1.34
VOR gain LA/RA —/— 1.11/1.15 —/— 0.87/0.55 —/— —/— 0.94/0.82 0.53/0.87
VOR gain LP/RP —/— 1.03/0.92 —/— 0.98/0.65 —/— —/— 0.84/0.83 0.65/0.75
cVEMP R>L,AR6.8% R>L,AR5% R>L,AR27%
握力(kg) R/L —/— —/— —/— —/— 21/18 35/36 20/24
DHI(点) 24 66 50 32 38 22 36 50
18 16 26 0 12 34 2 28
P(点) 6 22 12 6 12 10 18 12
8 6 8 0 4 10 2 10
E(点) 10 20 20 4 14 6 2 22
2 6 8 0 4 12 0 8
F(点) 8 24 18 6 12 6 16 16
8 4 10 0 4 12 0 10
NPQ(点) 47 41 15
14 17 7
立位 17 17 7
3 8 1
体動 12 13 4
1 6 3
視覚 18 11 4
10 3 3
ABC(%) 43.7 31.25 80 51 75.6 61.3 55 58.75
82.5 92.5 88.8 100 93.1 68.2 82.5 75
FGA(点) 6 12 22 18 28 22 14 24
9 28 30 30 30 28 24 26
DGI(点) 8 11 21 16 23 19 16 22
12 24 24 24 24 22 19 23
TUG(秒) 15.5 12.15 7.85 11.7 10.7 16.53
12.2 7.93 5.49 12.8 9.12 9.44
10 m歩行(秒) 13.3 13.31 9.19 10.22 7.5 10.2 14.38
10.8 10.28 8.49 8.25 7.2 9.53 10

本文で記載した基準値を上回った項目を太字で記載した。

vHIT:Video Head Impulse Test,cVEMP:Cervical Vestibular Evoked Myogenic Potential

PPPD:Persistent Postural-Perceptual Dizziness,VOR gain:Vestibulo-Ocular Reflex Gain

LL:Left Lateral(Semicircular Canal),RL:Right Lateral(Semicircular Canal)LA:Left Anterior(Semicircular Canal),RA:Right Anterior(Semicircular Canal),LP:Left Posterior(Semicircular Canal),RP:Right Posterior(Semicircular Canal),前:前庭リハビリテーション開始前,後:前庭リハビリテーション開始後,DHI:Dizziness Handicap Inventory,NPQ:The Niigata PPPD Questionnaire,ABC scale:Activities-specific Balance Confidence Scale,FGA:Functional Gait Assessment,DGI:Dynamic Gait Index,TUG:Timed Up & Go Test.

図2  Dizziness Handicap Inventory(DHI)の治療前後比較

DHIは合計点,および小項目であるDHI-P,DHI-Eにおいて介入前後で有意な改善を認めた。

A.合計,B.DHI-P:身体面,C.DHI-E:感情面,D.DHI-F:機能面,* p < 0.05,NS:not significant

図3  The Niigata PPPD Questionnaire(NPQ)の治療前後比較

NPQの合計点および小項目については,介入前後で数値の減少傾向が認められた。

A.合計,B.立位・歩行,C.体動,D.視覚,NS:not significant

図4  転倒リスクと歩行評価の治療前後比較

転倒リスクおよび動的バランス能力の他覚的評価を行った。ABC scale,FGA,DGI,10 m歩行において介入前後で有意に改善を認めた。TUGに関しては6例中5例で改善を認めたが,統計学的な有意差は認めなかった。

A.ABC scale:Activities-specific Balance Confidence Scale.B.FGA:Functional Gait Assessment.C.DGI:Dynamic Gait Index.D.TUG:Timed Up & Go Test.E.10 m歩行.* p < 0.05,** p < 0.01,NS:not significant

 考察

本研究では,地域中核病院において新たに導入したRPs(PT,OT)との連携によるVR症例を対象として,その初年度の治療成績を検証した。慢性めまい症8例に対するVRは,DHI,ABC scale,FGA,DGI,10 m歩行といった主要指標において統計学的に有意な改善を示し,本邦のガイドラインに示されているVRの治療効果1)を支持する結果となった。

VRによる改善効果の背景には,前庭代償(vestibular compensation),運動学習(motor learning),神経可塑性(neuroplasticity)といった複数の神経生理学的プロセスが関与するとされる。また,高齢者では視覚・体性感覚・前庭感覚を統合する多感覚統合(sensory integration)の機能低下が転倒や歩行不安定性に影響することが知られており,VRはこれらの再構築を促進する治療として位置づけられる。実際,VRが歩行能力・バランス能力・自覚的めまいを多面的に改善することは海外のレビューでも示されており18),本研究の結果とも一致する。

PPPDの治療におけるVRの有用性に関しては,外来で自宅でのVR指導のみを施行した報告では,自宅でのVRを2ヶ月完遂した症例においてはDHIとNPQが有意に改善したが,アドヒアランス不良例が十分な治療効果を得られないという報告や19),薬物療法を併用した自宅でのVRのアドヒアランスが不良であった症例に対してPTが介入した症例において,アドヒアランス向上とDHI・NPQの改善が得られたと報告されている20)。今回報告したPPPD症例では,SSRIやSNRIといった薬物療法を用いず,初期治療としてRPsによるVRを実施した結果,DHIおよびNPQの改善を認めており,これらの所見は,RPsによるVRがPPPDに対する安全で実践的な治療アプローチとなる可能性を示唆している。

本研究で特筆すべき点は,導入プロセスと考えている。耳鼻咽喉科医およびRPsともにVRの臨床経験がほぼない状態から体制を立ち上げたにもかかわらず,初年度から一定の臨床効果が得られている。これは,VRガイドラインに基づく標準化された介入内容が経験年数に依存せず再現可能であること,すなわちVRプログラムが高い普遍性と実装可能性を備えていることを示す重要な知見である。本邦では,RPsの教育課程において前庭領域の専門的カリキュラムが未整備であり,卒後教育の機会も限られている21)。当院においても導入当初はVRの経験があるRPsは不在であった。耳鼻咽喉科リハビリテーションワーキンググループ(耳鼻咽喉科リハビリWG)の2022年のアンケート報告では,VRの担当は医師が72%と大多数を占め,理学療法士による介入は全体の17%にとどまる22)。こうした教育的・制度的制約がVR普及の障壁となってきたが,本研究は,ガイドラインに準拠し医師とRPsが協働する体制が構築されれば,専門経験が乏しい環境でもVRを効果的に実施できることを実証した点で意義深いと考える。

2025年末現在,診療報酬の課題は本邦におけるVRの普及に向けた課題として指摘されている3)。耳鼻咽喉科リハビリWGの報告では,VRの保険点数は,脳血管疾患等リハビリテーション料で算定している施設が9%,運動器リハビリテーション料が2%,その他に廃用症候群リハビリテーション料で算定している施設がある。一方で,回答のあった約3割の施設にめまい外来が設置され,末梢性および中枢性めまい疾患に対してVRが実施されているにもかかわらず,保険点数の請求ができていない現状が指摘されている22)。当科でも,症例に応じて脳血管リハビリテーション料など然るべき算定項目を適宜相談しながら算定可能と判断した症例に対して請求を行っている。今後,VRに対しても適切な保険点数の制定が望まれる。

本研究は,研究デザインと規模に起因するいくつかの限界点が存在する。第一に,本研究は単一施設・小規模・単群比較のデザインであり,自然経過や非特異的効果を完全に排除することはできないが,慢性期症状を対象としている点から自然軽快の影響は比較的小さいと考えられる。第二に,診断名が混在しており疾患特異的効果の解析には至っていない点,治療効果の持続性を検証していない点も限界として挙げられる。第三に,眼振検査や重心動揺検査などの神経耳科学的検査は,前庭機能評価として有用であるが,当院ではVR導入初年度に実施できる機器を有しておらず,評価困難であった。前庭障害の判定は主としてvHITに基づいており,cVEMPは一部症例に対する補助的評価にとどまった。そのため,前庭機能全体を網羅的に評価した分類ではなく,今後は症例増加に伴う疾患別解析,多施設共同研究,長期経過観察などへ発展させる必要がある。

 まとめ

当院におけるRPsと連携した外来前庭リハビリテーション導入初年度の検討を行った。以上より,RPsと耳鼻咽喉科医による協働体制のもとで実施した外来VRは,初年度から有意な臨床効果を示し,慢性期めまい患者に対する有用な治療方法であることが確認された。今後のVR普及に向けて教育体系と診療報酬制度の整備が求められる。

 謝辞

VRについて日頃よりご指導・ご助言を賜り,当院での講演会を通じてRPs(PT,OT)へのご指導をいただきました奈良県立医科大学 塩崎智之先生に深謝申し上げます。

本研究の要旨は2025年11月第84回日本めまい平衡医学会総会学術講演会(横浜)にて報告した。

利益相反に該当する事項はない。

Notes

別刷請求先:平岡晃太

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