2026 年 85 巻 3 号 p. 165-172
Falls among older adults represent a major public health issue in aging societies such as Japan. Quantitative evaluation of gait function is therefore increasingly important for assessing fall risk and for the clinical evaluation of patients with dizziness and balance disorders. Although three-dimensional motion analysis systems using force plates and optical motion capture systems are considered the gold standard for gait analysis, their high cost and laboratory constraints limit their use in clinical and real-world environments. This article introduces a wearable shoe-based sensor system that integrates multiple triaxial force sensors and an inertial measurement unit (IMU) to evaluate gait biomechanics. The system measures local ground reaction forces at four locations on the sole, and foot motion using an IMU mounted on a toe. By combining these data, the system enables simultaneous estimation of the three-dimensional ground reaction forces (GRFs) and spatiotemporal gait parameters during walking. Machine learning models, including multiple linear regression and Gaussian process regression (GPR), were used to estimate the ground reaction forces from the sensor data. The GRFs estimated using GPR showed good agreement with the results of force plate measurements, with percentage root mean square errors (RMSEs) of less than 10%. In addition, the system estimates minimum toe clearance (MTC), an important parameter associated with trip-related falls. Validation against optical motion capture demonstrated a strong correlation (r = 0.870) and an RMSE of 5.6 mm, which is within the clinically acceptable error range. Applications of the system include gait analysis in older adults, assessment of gait characteristics in stroke patients, and large-scale gait measurements in community-dwelling older populations. The proposed wearable system provides a practical approach for gait analysis outside laboratory environments and may contribute to fall risk evaluation and rehabilitation assessment.
日本は世界でも有数の超高齢社会に突入しており,高齢者の転倒事故は大きな社会問題となっている。転倒は骨折や寝たきりの原因となるだけでなく,高齢者の生活の質(QOL)を大きく低下させる要因となる。そのため,転倒リスクの評価や予防を目的とした歩行機能評価の重要性が近年ますます高まっている。また,めまい・平衡障害を有する患者においても歩行や姿勢制御の評価は診療やリハビリテーションの重要な指標となる。
歩行解析においては,歩行速度,ストライド長,歩幅,両脚支持時間,最小つま先クリアランス(minimum toe clearance: MTC)などの運動学的指標1)~5)に加え,床反力やすべりやすさの指標である必要摩擦係数などの運動力学的指標6)~10)が転倒リスク評価に重要である。これらの指標を高精度に計測する方法としては,フォースプレートと光学式のモーションキャプチャシステムを組み合わせた3次元動作解析システムが広く用いられており,運動力学・運動学解析のゴールドスタンダードとされている。しかしながら,これらのシステムは高価であり,計測場所の制約やセットアップの煩雑さ,自然な歩行を妨げる可能性があることなど,実験室以外の日常空間での計測や臨床現場での導入には制約が多い。
近年では慣性センサを用いたウェアラブルセンサ11)~13)やカメラ画像によるAI解析14)~16)を用いた歩行評価技術,圧力センサを用いたインソール型の床反力推定手法17)18)や小型フォースプレートや小型の力覚センサを靴底に搭載した3次元床反力計測システム19)~22)が提案されているが,歩行パラメータと床反力を同時に計測できるシステムは限られている。そのため,日常環境や実験室外において歩行パラメータと床反力を同時に定量評価できる新しい歩行解析技術の開発が求められている。
本稿では,筆者らが開発を進めている,高容量小型3軸力覚センサと慣性センサ(inertial measurement unit: IMU)を組み合わせた靴底センサシステムを紹介し,3次元床反力や歩行パラメータの推定方法,および高齢者や脳卒中者を対象とした歩行解析の実例23)~26)について詳述する。
図1に靴底センサシステムの概略を示す。本システムは,靴底の踵部,第1中足骨頭部,第5中足骨頭部,およびつま先部の4箇所に高容量小型3軸力覚センサを配置し,さらに足部運動を計測するためにつま先部に慣性センサ(IMU)を搭載したウェアラブルデバイスである。本靴底センサシステムは,足が接地している立脚期における床反力計測と,足が床から離れている遊脚期における足部運動に関する時系列データを取得可能である。

(A)側面,(B)力覚センサの配置,(C)IMUの取り付け位置
力覚センサにはCr-N感歪薄膜を用いた小型3軸力覚センサ27)(寸法:20 mm × 20 mm × 7.5 mm,重量:18 g,公益財団法人電磁材料研究所)を用いている。同センサの定格容量は鉛直方向で±1000 N,水平方向で±500 Nである。かかと部分の大きな床反力も計測可能であり,走行に近い動的な動作においても計測が可能である。また,IMU(BNO055,寸法:18 mm × 11 mm × 4 mm,重量:0.6 g,秋月電子通商)により,つま先部分に作用する3軸加速度(±156.8 m/s2),x,y,z軸周りの角速度(±1000°/s)を計測することでつま先部分の運動情報を取得することができる。靴の総質量は,サイズによって異なるが4個の3軸力覚センサ,IMU,バッテリー,およびマイクロコントローラーを含めておよそ300 gと軽量であり,装着時の歩行動作への影響は小さい。本システムにおける3軸力覚センサ,IMUにおけるデータ計測のサンプリング周波数はそれぞれ約1000 Hz,100 Hzである。本システムの特徴は,靴底の複数箇所で計測される局所床反力とIMUデータを組み合わせることにより,歩行中の三次元床反力と歩行パラメータを同時に推定できる点にある。これにより,従来の三次元動作解析システムを用いずに,実験室外で詳細な歩行機能を評価することが可能となる。
本システムでは,4箇所の力覚センサから得られる局所床反力データを用いて,足底全体に作用する3次元床反力を推定することができる23)。具体的には,各センサ位置で計測された3軸方向の力(計12変数)を説明変数とし,フォースプレートで計測された3軸方向それぞれの床反力を目的変数とする機械学習モデルを構築することで,床反力を推定する。これまでに,若年成人を対象とした直線歩行実験で得られたデータを用いて,重回帰分析(MLR: multiple linear regression)やガウス過程回帰(GPR: Gaussian process regression)などの機械学習手法により床反力推定モデルを構築している。GPRは,データのばらつきを確率的に扱いながら回帰モデルを構築する手法であり,カーネル関数を用いることで非線形な関係も柔軟に表現できる。そのため,歩行のように複雑な変動を含むデータの推定に適していると考えられる。
図2に,直線歩行の立脚期間における3軸方向のフォースプレート計測値と推定値の比較例を示す。同図より,いずれの回帰モデルにおいても推定値はフォースプレート計測値の傾向をよく再現していることが確認されている。特に非線形回帰モデルであるガウス過程回帰による推定では,立脚期全体にわたりMLRに比べて高い精度で予測できる。表1は,直線歩行における各回帰手法における平均絶対誤差(MAE: mean absolute error),正規化二乗平均平方根誤差(%RMSE: percentage root mean square error)および決定係数(R2: coefficient of determination)の平均値±標準偏差を示している。同表より,GPRは全ての評価指標においてMLRを上回る精度を示した。特に鉛直(z)方向の%RMSEは4.9%,前後(y)方向は6.2%と低い値を得ている。また,決定係数(R2)においても鉛直,前後方向ともに0.91を超えており,波形パターンの高い再現性も確認されている。さらに,一般に推定が難しいとされる左右(x)方向の床反力においてもGPRを用いることで%RMSEを9.8%まで低減していることが報告されている。なお,機械学習を用いて床反力を推定する先行研究では,相関係数が0.9以上,かつ%RMSEが15%未満であることが,優れた推定精度を示す一つの目安とされている28)~30)。以上の結果から,本システムを用いることで,フォースプレートを使用せずとも歩行中の3次元床反力の時系列変化を高精度に推定できる可能性がある。

横軸は正規化した歩行周期を示し,0%はかかと接地,100%はつま先離地を表す。縦軸は,実験参加者の体重で除した実測値(黒線)および予測値(赤線及び青線)を示す。赤の実線は重回帰分析(MLR: multiple linear regression)による予測値,青の実線はガウス過程回帰(GPR: Gaussian process regression)による予測値を示す。また,水色の網掛はGPRによる予測値の95%信頼区間を示す。(A)左右方向,(B)前後方向,(C)鉛直方向
| 回帰 モデル |
左右(x)方向 | 前後(y)方向 | 鉛直(z)方向 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| MAE | %RMSE | R2 | MAE | %RMSE | R2 | MAE | %RMSE | R2 | |
| MLR | 0.067 ± 0.044 | 12.8 ± 4.3 | 0.551 ± 0.217 | 0.121 ± 0.104 | 9.5 ± 3.3 | 0.819 ± 0.071 | 0.617 ± 0.432 | 10.8 ± 4.5 | 0.682 ± 0.161 |
| GPR | 0.047 ± 0.034 | 9.8 ± 2.7 | 0.706 ± 0.215 | 0.111 ± 0.090 | 6.2 ± 1.4 | 0.916 ± 0.066 | 0.237 ± 0.209 | 4.9 ± 2.2 | 0.917 ± 0.067 |
最小つま先クリアランス(MTC)は遊脚期におけるつま先と床面の最小距離を示す指標であり,つまずき転倒のリスクと密接に関連する歩行パラメータとして知られている。特に高齢者では,加齢に伴い遊脚期中期におけるMTCの低下と,その歩行周期変動の増大が報告されており5),転倒リスクを定量化する上で極めて重要な歩行パラメータである。
本靴底センサシステムでは,IMUから得られる3軸加速度データと姿勢角度情報を用いてつま先部の運動軌跡を算出し,つま先クリアランスを推定する。まず,IMUから出力されるセンサ座標系(ローカル座標系)の加速度(ax, ay, az)を,IMUの姿勢角から求めた回転行列を用いてグローバル座標系(X, Y, Z)に変換する。その後,重力加速度成分を除去し,加速度(aX, aY, aZ)を算出する。次に,鉛直方向(Z方向)加速度aZを時間積分することでIMUの鉛直方向速度を求める。このとき,積分誤差が時間に対して線形に増加すると仮定し,立脚期間において足底全面が接地しているフットフラット期間において鉛直方向速度が0 m/sであることを利用して,1歩ごとに速度補正(Zero-velocity update: ZUPT)を行う31)。さらに,フットフラット期間ではつま先の鉛直位置が一定であることを利用して1歩ごとに位置補正を行うことで,鉛直方向(Z方向)のIMU変位の時系列変化を求める31)。このようにして得られた各時刻の鉛直方向(Z方向)のIMU変位にIMU初期高さを加算することで,つま先クリアランスの時系列変化を算出する。MTCは,遊脚期中期に現れるつま先クリアランスの極小値として定義される。
図3(a)は,若年成人14名(女性7名,男性7名)の直線歩行におけるMTCの光学式モーションキャプチャシステムによる計測値と靴底センサシステムによる推定値を比較したものである。両手法によって得られたMTCには強い正の相関が認められる(r = 0.870, p < 0.001)。また,RMSEは5.6 mmであり,この値は臨床応用に求められる許容誤差範囲(20 mm)を十分に下回る32)。また,Bland–Altmanプロット(図3(b))より,固定誤差は1 mm未満と極めて小さく,両システムの差の大部分が1.96σ(σ:標準偏差)の範囲内に収まっており,本システムの計測手法としての妥当性が示されている。

(A)光学式モーションキャプチャシステムとの比較,(B)Bland-Altmanプロット
Matsumotoら24)は,本センサシステムを用いて,健常若年成人8名(女性3名,31.1 ± 9.8歳)と健常高齢女性8名(75.3 ± 4.5歳)を対象に,10 m直線歩行時における各センサ位置の床反力の時系列変化,MTCの平均値と歩行周期間変動の比較を行った。図4は,全体の床反力に対する各力覚センサ部位における局所床反力の寄与割合の時系列変化である。若年者群と比較して高齢者群では接地直後のかかと部分(図4(a)),つま先離地直前のつま先部分(図4(d))の床反力の寄与が小さく,第1中足骨(図4(b)),第5中足骨(図4(c))に代表される前足部の寄与が大きい傾向が見られた。これらの結果から,高齢者群では足底全体で接地する傾向があることが示唆された。また,図5に示すように,高齢者群では若年者群と比較してMTCの平均値が小さく(図5(a)),さらにMTCの歩行周期間変動(変動係数)が大きい(図5(b))ことが示された。すなわち,高齢者では遊脚期につま先が十分に挙上されないだけではく,その高さの一歩ごとの変動も大きいことが示唆される。これらの局所床反力およびMTCの結果は,3次元動作解析を用いた先行研究33)34)において報告されている高齢者歩行の特徴と整合するものである。

立脚期間0%~100%を10%刻みで比較したもの。*p < 0.05;**p < 0.01;***p < 0.001(A)かかと部,(B)第1中足部,(C)第5中足骨,(D)つま先部

***p < 0.001。(A)平均値,(B)変動係数
Naitoら25)は靴底センサシステムを用いて,脳卒中者16名と健常者19名を対象に,連続34歩行周期の直線歩行実験を実施し,歩行解析を行った。その結果,脳卒中者の麻痺側において,前後方向床反力の歩行周期間変動が立脚期最終盤(91–100%)で有意に小さいことが示された。これは,脳卒中者が立脚期から遊脚期へ移行する重要な区間において前後方向床反力の歩行周期間変動を抑制している可能性を示している。また,脳卒中者の中でも退院後に転倒を経験した群では,前後方向床反力の歩行周期間変動が有意に小さいことが確認された。これは,床反力の歩行周期間変動を過度に低下させて歩行動作を維持する制御戦略を選択している脳卒中者では転倒リスクが高い可能性を示すものである。すなわち,床反力の歩行周期間変動の減少は,歩行安定性の低下と密接に関連していると考えられる。
5.3 大規模歩行計測への応用本システムは,地域在住高齢者を対象とした大規模歩行調査にも応用されている26)。東京都健康長寿医療センター研究所が実施する高齢者健診において,本システムを用いた歩行計測が行われており,1000名以上の高齢者を対象とした歩行データの収集が進められている26)。従来のストップウォッチによる歩行速度計測に加え,床反力やストライド長,つま先クリアランスなどを短時間で計測できることから,実験室外でのより詳細な歩行計測・評価が可能となる。このようにして得られる歩行ビッグデータを活用することで,将来的には転倒リスクの予測などへの応用が期待される。
本稿では,力覚センサと慣性センサを搭載した靴底センサシステムによる歩行解析技術を紹介した。本システムは,3次元床反力と歩行パラメータを同時に計測・推定可能なウェアラブルデバイスであり,従来の三次元動作解析システムを用いずに歩行機能を評価できる点に特徴がある。本研究ではつま先クリアランスの推定結果のみを紹介したが,本システムにより,水平方向加速度の二階時間積分に基づくストライド長の推定や,力覚センサ出力を用いた足部の接地・離地判定による単脚支持期間および両脚支持期間の計測など,歩行の時空間パラメータを取得することも可能である。
今後,本システムは転倒リスク評価やリハビリテーション効果の評価に加え,めまい・平衡障害患者の歩行機能評価にも応用できる可能性がある。さらに,AIを用いた転倒予測や在宅環境での歩行モニタリングなどへの応用も期待される。本技術が,医工連携の架け橋となり,高齢者の健康寿命延伸とめまい平衡医学の発展に寄与することを願う。
本論文の要旨は,第84回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会(2025年11月26日~28日,横浜)のシンポジウム「医工学との接点」において講演した。シンポジウムでの発表の場を与えてくださった会長の瀬尾徹先生,座長の田浦晶子先生に感謝いたします。
利益相反に該当する事項はない。