Equilibrium Research
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カンファレンスルーム
CASE 34 カルバマゼピン中毒による薬剤性めまい症例
松田 和徳
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2026 年 85 巻 3 号 p. 181-187

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1) 症例提示

症例:33歳,男性

主訴:ふらつき,浮動感

既往歴:結節性硬化症,てんかん,多房性嚢胞腎による慢性腎不全,高血圧

家族歴:特記事項なし

現病歴:幼少時より結節性硬化症に伴うてんかん発作を認め,当院小児科および腎臓内科にて抗てんかん薬による薬物療法を受けていた。10年以上前よりカルバマゼピン(CBZ)900 mg/dayおよびバルプロ酸ナトリウム(VPA)800 mg/dayの内服を継続しており,てんかん発作は生じていなかった。20XX年10月Y日,2か月前より持続するふらつきや浮動感を自覚したため,精査加療目的で当科へ紹介となった。

 初診時所見:(20XX年10月Y日)

S:2ヶ月以上前からふらつきがあり,歩くときも「ふらふら」・「ふあふあ」し,まっすぐ歩けない感じです。震えるような感じもあります。

O:両側鼓膜は正常であり,標準純音聴力検査では難聴を認めなかった。両脚直立検査(開眼)では動揺を認め,単脚起立検査(開眼)は不能であった。閉眼での動揺が増大していたために,Romberg徴候は陰性であった。さらに,開眼での歩行検査でも明らかな動揺および失調を認めた。指―鼻試験は両側とも推尺異常や振戦があり,拙劣で,小脳症状は陽性であった。軟口蓋麻痺や舌運動障害は認めなかった。

血液検査:BUN 43 mg/dl,クレアチニン5.52 mg/dl,Cockcroft-Gault式による推算クレアチニンクリアランスは17.5 ml/分と腎機能障害を認めたが,電解質異常は認めなかった。また,ヘモグロビン11.8 g/dlと軽度貧血を認めた。肝機能,甲状腺機能は正常で,耐糖能異常も認めなかった。

平衡機能検査:注視眼振は認めなかったが,赤外線CCDカメラによる自発・頭位眼振検査とStenger法による頭位変換眼振検査では下眼瞼向き眼振を認めた(図1a)。Video-oculography(VOG)による眼振の三次元解析では,下眼瞼向き垂直成分に弱い左向き回旋成分と弱い左向き水平成分が伴っていた(図1b)。重心動揺検査では,開眼および閉眼による外周面積,速度とも基準範囲外の異常な動揺を認め,Romberg徴候は陰性であった。(図1c)。

図1  初診時の眼振検査所見,VOGと重心動揺検査(a.眼振検査所見,b.VOG,c.重心動揺検査)

a.赤外線CCDカメラによる自発眼振検査・頭位眼振検査・頭位変換眼振検査で,下眼瞼向き眼振を認めた。

b.VOGによる眼振の三次元解析(X;回旋成分,Y;垂直成分,Z;水平成分)では,下眼瞼向き垂直成分に弱い左向き回旋成分と弱い左向き水平成分が伴っていた。

c.測定された数値と健常者の男女別年齢別基準値と比較し,2SDを超えるものをRomberg徴候陽性と判定した。外周面積(開眼)7.03 cm2,外周面積(閉眼)16.03 cm2,Romberg率(外周面積)2.28,総軌跡長(開眼)131.40 cm,総軌跡長(閉眼)225.26 cm,Romberg率(総軌跡長)1.71であり,Romberg徴候は陰性であった。さらに,速度(開眼)2.19 cm/秒,速度(閉眼)3.75 cm/秒であり,開眼および閉眼による外周面積,速度とも基準範囲外の異常な動揺を認めた。

A:小脳症状が陽性であり,平衡障害を伴う下眼瞼向き眼振を認めたことから中枢性めまいを疑う。

P:画像検査と,すでに施行した重心動揺検査を除く精密平衡機能検査(二次検査)

 再診時所見(20XX年10月Y + 7日)

S:起床して2時間くらい経過すると視界がずれる感じがしてきます。さらに2時間くらい経過するとその症状になれてきます。夕方になったら同じような症状がでてきます。

O:

画像検査:頭部MRIで異常を認めなかった。

精密平衡機能検査(二次検査):視標追跡検査では,滑動性眼球運動は時にsaccadeが混じる異常パターンであったが(図2a),二点交互注視検査ではdysmetriaを認めなかった(図2b)。視運動性眼振検査では両側とも視運動性眼振の解発が不良であった(図2c)。温度刺激検査(20°C,5 ml,少量注水法)では,右側の最大緩徐相速度は16.0 deg/secで,左側の最大緩徐相速度は26.5 deg/secであり,右半規管麻痺疑いであった。Visual suppression(VS)検査では右VS%=26.6%,左VS%=80.2%であり,左向き温度眼振に対するVSの減少を認めた(図3a. b)。前庭誘発筋電位検査(vestibular evoked myogenic potential, VEMP)では,cVEMP(cervical VEMP,前庭誘発頸筋電位)は両側とも反応良好で,asymmetry rateは13.8%と正常範囲であった。oVEMP(ocular VEMP,前庭誘発眼筋電位)も両側とも反応良好で,asymmetry rateは16.4%と正常範囲あった。

図2  初診時の視刺激検査(a.追跡眼球運動検査,b.二点交互注視検査,c.視運動性眼振検査) 上段;原波形 下段;速度波形

a.滑動性眼球運動は時にsaccadeが混じる異常パターンであった

b.二点交互注視検査ではdysmetriaは認められなかった

c.視運動性眼振検査では両側とも視運動性眼振の解発が不良であった

図3  初診時の温度刺激検査(a.右耳冷水刺激,b.左耳冷水刺激) 上段;原波形 下段;速度波形

少量注水法による温度刺激検査では,右側の最大緩徐相速度は16.0 deg/secで,左側の最大緩徐相速度は26.5 deg/secであり,右半規管麻痺疑いであった。visual suppression(VS)検査では右VS%=26.6%,左VS%=80.2%であった。

A:精密平衡機能検査(二次検査)から小脳片葉・結節,橋などの脳幹の障害による中枢性めまいが疑われたが,画像検査上で頭蓋内に明らかな異常所見を認めなかった。さらに,変性疾患などの家族歴はなく,耐糖能異常や甲状腺機能低下もなく,GAD抗体関連ならびに橋本脳症病などの自己免疫性小脳失調症は否定的であった。「朝夕に症状が増悪する」との訴えから,症状に日内変動が存在する可能性が示唆された。特に,朝夕はいずれも薬物内服後の時間帯に相当することから,「薬物内服後に症状が増悪しているのではないか」と考えた。抗てんかん薬の投与量については10年以上にわたり変更がないものの,薬剤性めまいを除外する必要がある

P:抗てんかん薬の血中濃度測定

 臨床経過:

CBZの血中濃度は10.7 μg/ml(治療域基準4.0–10.0 μg/ml)と異常高値であり,VPAの血中濃度は50.1 μg/ml(治療域基準50–100 μg/ml)と基準値内であった。抗てんかん薬であるCBZ中毒による薬剤性めまいを疑い,担当科へ投与量の減量および調整を依頼した。CBZを600 mg/dayへ減量した結果,初診から50日目にはCBZの血中濃度が4.1 μg/mlと治療域基準内まで低下し,初診から60日目にはふらつきや浮動感が軽快し,平衡障害と下眼瞼向き眼振も消失した。

2) 症例解説:

下眼瞼向き眼振は通常,正面視で明瞭に観察されるが,偏位視でも出現し,重力依存性を示す。多くの場合,下方視で増強し,輻輳や側方視により緩徐相速度が増加,あるいは眼振が誘発される。また,固視により抑制されず,過換気や頭振りなどの条件により眼振の性状や方向が変化する1)。頭位依存性の下眼瞼向き眼振は,前半規管型および非典型的後半規管型良性発作性頭位めまい症との鑑別を要するが2)3),正面視で認められる下眼瞼向き眼振は中枢性眼振である。下眼瞼向き眼振の約40%は原因不明で特発性とされるが,脊髄小脳変性症やArnold-Chiari奇形などによる小脳障害などを伴う様々な疾患で報告されている1)表1)。

表1 下眼瞼向き眼振が認められる主な原因疾患

分類 疾患・機序など
1.血管病変 ・虚血性/出血性脳卒中 ・椎骨脳底動脈系の動脈奇形 ・椎骨動脈圧迫
2.炎症性・自己免疫疾患 ・視神経障害 ・脱髄性病変(多発性硬化症など) ・自己免疫性甲状腺炎/橋本脳症 ・セリアック病 ・抗GAD抗体関連疾患(下眼瞼向き眼振,特発性小脳失調,stiff-person症候群,てんかん,辺縁系脳炎) ・抗NMDA受容体脳炎
3.感染症 ・破傷風(GABA作動性プルキンエ細胞抑制) ・ヘルペス脳炎(脳幹/小脳片葉の障害) ・ウエストナイルウイルス脳炎(頸髄延髄接合部(CMJ)の障害) ・HTLV-1感染(小脳変性)
4.進行性神経変性疾患 ・多系統萎縮症(MSA) ・筋萎縮性側索硬化症(ALS) ・運動ニューロン障害
5.奇形・構造異常 ・Arnold-Chiari奇形(I型で4–7%に下眼瞼向き眼振) ・延髄空洞症 ・頭蓋底陥入症 ・大後頭孔症候群
6.腫瘍随伴症候群 ・小細胞肺がん(抗CV2/CRMP5,抗Hu,抗Zic1/4抗体) ・卵巣/乳がん(抗Yo抗体) ・精巣腫瘍(抗Ma抗体) ・胸腺腫(抗CV2/CRMP5抗体) ・ホジキンリンパ腫(抗Tr抗体) ・抗Yo/抗Tr抗体による小脳変性 ・抗Ma抗体脳炎 ・抗Hu抗体脳幹脳炎
7.有害物質・中毒 ・トルエン曝露 ・慢性アルコール乱用(ビタミンB1欠乏→Wernicke脳症) ・急性過量飲酒による一過性下眼瞼向き眼振
8.欠乏症(栄養性小脳疾患) ・ビタミンB12欠乏 ・マグネシウム欠乏(NMDAチャネル調節異常) ・ビタミンB1欠乏(Wernicke脳症と関連)
9.医原性(薬剤性) ・抗てんかん薬:フェニトイン,カルバマゼピン,ラモトリギン,プレガバリン(Nav1.1/1.6阻害)
・抗不整脈薬:アミオダロン
・オピオイド:モルヒネ,フェンタニル,ペチジン,ピリトラミド(μオピオイド受容体作動作用による小脳障害)
・胃酸抑制剤:ラニチジン
・その他:リチウム中毒,クエチアピン,エスタゾラム
10.その他の原因 ・頭部外傷 ・頭蓋内圧亢進症 ・水頭症 ・前庭性片頭痛 ・腫瘍(転移を含む)
11.遺伝性神経変性疾患 ・脊髄小脳変性症6型(SCA6) ・反復発作性運動失調症2型(EA2) ・家族性片頭痛1型(FHM1) ・特発性小脳失調症(孤発性成人発症型小脳性運動失調症など) ・家族性発作性運動失調症 ・毛細血管拡張性運動失調症 ・ミトコンドリア脳筋症(MELAS)

後半規管以外の半規管前庭動眼反射は,小脳片葉により抑制されている。小脳,特に両側片葉が障害されると,両側の前半規管由来の眼球を上転させる前庭動眼反射の中枢路の脱抑制(興奮)が生じ,眼球がゆっくりと上転して(緩徐相),下眼瞼向き眼振が解発される。しかし,左右の外側半規管由来の前庭動眼反射の中枢路の脱抑制により生じる水平方向の緩徐相はキャンセルされる4)。また,両側の後半規管由来の眼球を下転させる前庭動眼反射の中枢路は,前庭神経核間の第四脳室底で交差して内側縦束を上行し,動眼神経核に至る。第四脳室底が障害されてこの中枢路が抑制されると,眼球がゆっくりと上転し(緩徐相),下眼瞼向き眼振が解発される4)

CBZは電位依存性ナトリウムチャネル(Voltage-gated Sodium Channels, Nav)を阻害して,抗てんかん作用を示す5)。小脳片葉のプルキンエ細胞にはNav 1.1およびNav 1.6が発現しており,高濃度のCBZによりこれらのチャンネルがブロックされると,小脳片葉が障害される。その結果,前半規管動眼反射が脱抑制され,下眼瞼向き眼振が生じたと考えられた。さらに,本症例で認められた滑動性眼球運動の異常,視運動性眼振の解発不良およびVSの減少も,CBZによる小脳片葉の障害により生じたと考えられた。

3) ピットフォール,コツ,メッセージ:

めまい・平衡障害は多様な要因によって発症するが,既知のめまい疾患に該当しない症例では,「薬剤性めまい」を鑑別に含める必要がある。薬剤性めまいの原因となりうる薬剤を表2に示す。薬剤性めまいは全有害事象の約5%を占めるとされ,特に高齢者では23%の症例で薬剤の関与が指摘されている6)。また,5種類以上の薬剤を併用する多剤内服は,めまい発症リスクの上昇と関連する。薬剤性めまいを評価する際には,薬物代謝に影響する肝・腎機能,被疑薬を含む薬物相互作用,さらに服薬アドヒアランス(過量内服を含む)を慎重に確認する必要がある。従来の検査値と比較して肝・腎機能障害が新たに認められる場合,最近の新規処方薬が存在する場合,あるいは認知機能低下が疑われる高齢者では,薬剤性めまいの可能性を疑う必要がある。

表2 めまい・平衡障害をきたしうる薬剤

分類 原因薬剤
循環器科領域 抗不整脈薬(class 1A群),ジキタリス,ジピリタモール,硝酸薬,降圧薬,抗利尿薬(フロセミド,ヒドロクロロチアジド),β遮断薬,抗血小板薬,抗凝固薬,コレステロール降下薬(シンバスタチン,アトルバスタチン)
神経・精神科領域 抗Perkinson病薬,抗てんかん薬,筋弛緩薬,抗認知症薬,抗ADHD薬,ベンゾジアゼピン系薬,片頭痛薬,抗精神病薬(クロルプロマジン,クロザピン),抗うつ薬(SSRI,NaSSA,三環系,5HT2A受容体遮断薬),リチウム
感染症科領域 抗菌薬(アミノグリコシド系,グリコペプチド系,テトラサイクリン系,キノロン系,マクロライド系),抗インフルエンザ薬,抗真菌薬(アムホテリシンB,フルシトシン,イトラコナゾール,フルコナゾール),抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキン)
内分泌代謝科領域 糖尿病薬(低血糖を生じうるもの),抗甲状腺薬
泌尿器科領域 抗コリン薬,PDE5阻害薬
免疫アレルギー科領域 抗リウマチ薬,抗ヒスタミン薬
その他 アルコール,麻薬,非ステロイド性抗炎症薬,アセトアミノフェン,カルボシステイン,ヒ素,水銀,白金製剤,免疫チェックポイント阻害薬,葉酸代謝拮抗薬(メトトレキサート)

本症例は平衡障害を伴う下眼瞼向き眼振を認め,さらに滑動性眼球運動の異常,視運動性眼振の解発不良およびVSの減少を認めたことから,中枢性めまいが疑われた。しかし,頭部MRIでは明らかな異常所見を認めなかった。一方で,CBZの血中濃度は治療域基準外の高値であった。CBZの減量後,平衡障害が改善し,下眼瞼向き眼振も消失したことから,本症例をCBZ中毒による薬剤性めまいと診断した。CBZは主に肝臓で代謝され,その主要な代謝酵素はチトクロームP450 3A4(CYP3A4)である。CBZは尿中への排泄が少ないが,腎機能障害によりCYP活性が低下することが報告されており7),腎不全患者ではCBZの血中濃度が上昇する可能性がある8)。本症例は慢性腎不全を合併しており,腎機能低下に伴いCBZの血中濃度が上昇したと考えられた。さらに本症例では,てんかんの治療としてVPAを併用していた。VPAは血漿タンパクと高率に結合するため,CBZの血中濃度を上昇させる可能性があり9),VPAとの併用によってCBZの血中濃度が上昇した可能性も考えられた。

以上より,長期間同一用量のCBZを投与されている症例であっても,腎機能低下や併用薬の影響によりCBZ中毒が発症し,薬剤性めまいを生じる可能性があるため,適時の血中濃度測定も含めた注意が必要である。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
© 2026 一般社団法人 日本めまい平衡医学会
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