2026 年 85 巻 4 号 p. 193-198
Objective: Vestibular rehabilitation (VR) outcomes are conventionally assessed using subjective measures such as the Dizziness Handicap Inventory (DHI) and posturography. The dynamic Visual Acuity (DVA) test and Functional Vision Head Impulse Test (fvHIT) are emerging functional tools, but their utility for assessing VR outcomes remains underexplored. Methods: We performed the video head impulse test (vHIT), DVA test, fvHIT, and posturography at two time points in two patients undergoing VR. Case 1 was that of a 41-year-old man who developed mild left vestibular hypofunction following sudden sensorineural hearing loss with vertigo. Case 2 was that of a 65-year-old woman with bilateral vestibular hypofunction suspected as having been caused by aminoglycoside ototoxicity. Results: In Case 1, in whom the vestibular impairment was mild at baseline, the results of the vHIT, DVA test, fvHIT, and posturography showed no significant differences between measurements, indicating that little functional deterioration requiring central compensation was present. In Case 2, the vHIT gain remained unchanged between the two time points; however, the DVA improved (left: 1.4 to 1.0 logMAR), the result of the fvHIT showed marked improvement (e.g., LP: 13% to 92%), and posturography showed normalization (closed-eye path length: 695 to 297 cm). Conclusions: The contrast in the test results between the two cases, which differed in the severity of vestibular impairment, suggests that the DVA test and fvHIT can objectively capture functional recovery that remains undetectable by vHIT alone, supporting their utility as tools for assessing the outcomes of vestibular rehabilitation.
前庭リハビリテーション(vestibular rehabilitation)は中枢代償を促進し,めまい・ふらつきを改善する目的で施行される。その効果判定にはDizziness Handicap Inventory(DHI)などの質問紙による自覚的指標や重心動揺計が広く用いられてきた1)。
Dynamic Visual Acuity(DVA)は頭部運動中の視覚安定性を動的視力(logMAR: logarithm of the minimum angle of resolution,最小分離閾の対数値)として定量化する機能的評価指標である。Herdmanらは一側前庭機能低下患者を対象とした前向きランダム化二重盲検試験において,注視安定化訓練(gaze stabilization exercise)がDVAの有意な改善をもたらすことを示した2)。さらにSchubertらは,DVAの改善は受動的頭部回転時のVORゲイン(vHITで測定される末梢VOR)の回復とは独立しており,能動的頭部回転時のVORゲイン増大によることを明らかにした3)。すなわち末梢前庭障害が残存する症例においても,中枢代償の進行によりDVAが改善しうることが示されている。
Functional Vision Head Impulse Test(fvHIT)はhead impulse中に瞬間提示した視標の正答率(CA%: correct answer percentage,正答率)から前庭-視覚-中枢統合機能を評価する比較的新しいツールである4)。Fancelloらは前庭神経鞘腫摘出術後52例の前庭リハビリテーション前後においてvHITゲインが患側・健側ともに不変のまま,fvHIT正答率が患側・健側ともに有意に改善したことを報告しており5),fvHITがvHITでは捉えられない前庭リハビリテーションの効果を反映する指標となりうることが示されている。
今回われわれは,前庭リハビリテーション前後にvHIT・DVA・fvHITを施行し,DVAとfvHITが改善した症例と改善しなかった症例の2例を経験したので報告する。
vHIT(video head impulse test)はICS Impulse(Otometrics/Natus,デンマーク)を用いて6方向のVORゲインおよびcatch-up saccadeを測定した。DVAはVisual Eye(ダイアテックカンパニー)にて施行した。視標はランドルト環を用い,静止時に判別可能な最小視標を基準として,上下・左右4方向に約100–150°/sの速度で受動的に頭部を回転させた際の動的視力を測定し,静止視力との差(ΔlogMAR)を算出した。健常者では加齢による変動を考慮しても概ね0.2 logMAR以内とされることから2),本研究では0.2 logMAR超を異常とした。fvHIT(functional vision head impulse test)は同システムにて施行し,head impulse中(頭部回転加速度2,000–4,000°/s2)に80 ms間瞬間提示したランドルト環の方向判別正答率(CA%)を6方向で算出した。先行研究に基づきCA% 80%以上を正常,60–79%を軽度低下,60%未満を有意低下と判定した4)5)。なお頭部回転は検者が用手的に与えるため厳密な等速ではないが,装置がインパルスごとに頭部速度を計測し,規定の加速度域を満たした試行のみを採用した。重心動揺計(アニマ社)は開眼・閉眼各60秒間測定し,総軌跡長および外周面積を評価した。cervical Vestibular Evoked Myogenic Potential(cVEMP)は日本光電ニューロパックを用いて施行した。被検者を仰臥位とし,胸鎖乳突筋に表面電極を貼付(活性電極:胸鎖乳突筋中点,不関電極:胸骨柄)し,頭部を対側に約45度回旋した状態で筋収縮を維持させた。刺激音は500 Hzトーンバースト音(持続時間2 ms,rise/fall各1 ms)を95 dBnHLで単耳刺激し,200回加算平均を行った。p13およびn23波の振幅・潜時を測定し,無反応または振幅非対称比(Asymmetry Ratio: AR)が33%以上を異常と判定した。本研究は,特定非営利活動法人臨床研究の倫理を考える会倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:E2026-02-001,2026年2月2日承認)。本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施し,すべての対象者からインフォームド・コンセントを取得した。
【主訴】ふらつき,頭部運動時のめまい感
【現病歴】X年,めまいを伴う左突発性難聴を発症し,前医にて発症早期よりステロイド全身投与を受けたが,左高度感音難聴と左前庭機能低下が後遺症として残存した。発症から約6か月後,ふらつきと頭部運動時の視覚不快を主訴に当科を受診した。前庭リハビリテーションとして注視安定化訓練(gaze stabilization exercise:視標を注視したまま頭部を水平・垂直方向に振る運動を1回1分間,1日3回)および歩行・バランス訓練を指導し,自宅で継続させた。重心動揺計は前庭リハビリテーション開始時より約1か月間隔で3回施行し,1回目(開始時)および3回目(開始から約2か月後)にvHIT,DVA,fvHITを同日施行した。
【聴力・cVEMP所見】純音聴力検査では右耳正常聴力,左耳は低音域70 dBを含む高度感音難聴を認めた(図1)。cVEMPは右耳に明瞭なp13/n23波形を確認したが,左耳は無反応であり,左球形嚢機能低下が示唆された(図1)。【検査所見の経時変化】vHIT・DVA・fvHITは重心動揺計1回目(VR開始時,以下「検査1回目」)および3回目(約2か月後,以下「検査2回目」)と同日に施行した。vHITゲインは検査1回目LL 0.96・LP 0.52,検査2回目LL 0.98・LP 0.52であり,LLはほぼ正常域,LPは軽度低下域にとどまり両時点で大きな変化を認めなかった(図1,図4)。重心動揺の閉眼総軌跡長は1回目174 cm・3回目162 cm,閉眼外周面積は1回目5.8 cm2・3回目7.2 cm2と両時点で大きな変化を認めなかった(図3)。DVAは検査1回目に左方向0.5 logMAR(異常域)を認め,検査2回目0.4 logMARと有意な改善を認めなかった(図4)。fvHITではLP方向が検査1回目20%・検査2回目33%とわずかな改善傾向を示したが,依然として有意低下域にとどまった(図4)。なお自覚症状については,前庭リハビリテーション前後でめまい・ふらつきの明らかな改善は認めず,ほぼ不変であった。

右耳は正常聴力でcVEMPにp13/n23波形を認める。左耳は高度感音難聴を呈し,cVEMPは無反応であった(左側無反応)。

両耳とも正常聴力であった。cVEMPは右耳が無反応,左耳にp13/n23波形を認めた(右側無反応)。

上段:症例1(3回測定),下段:症例2(5回測定)。左:総軌跡長(cm),右:外周面積(cm2)。●実線:開眼,□点線:閉眼。

上段:症例1,下段:症例2。左列:vHITゲイン(変化なし),中列:DVA(ΔlogMAR)(改善),右列:fvHIT正答率(%)(著明改善)。黒棒:1回目,灰色棒:2回目。点線:各検査の正常・異常境界値を示す。
【主訴】ふらつき,歩行時の視覚不安定感
【現病歴】既往の重症感染症に対してアミノグリコシド系抗菌薬による治療を受けた後,両側前庭機能低下が出現した。臨床経過および両側性のvHITゲイン高度低下から,アミノグリコシド系抗菌薬による前庭毒性(vestibulotoxicity)が両側前庭機能低下の原因として疑われた。ふらつきと歩行時の視覚不安定感を主訴に当科を受診し,前庭リハビリテーションとして注視安定化訓練および歩行・バランス訓練を指導し,自宅で継続させた。重心動揺計は初診時より約2か月間隔で5回施行し,2回目(初診から約2か月後)および4回目(初診から約8か月後)にvHIT,DVA,fvHITを同日施行した。
【聴力・cVEMP所見】純音聴力検査では両耳とも正常聴力であった(図2)。cVEMPは右耳が無反応,左耳にp13/n23波形を確認し(図2),右球形嚢機能低下が示唆された。 【検査1回目(重心動揺計2回目・初診から約2か月後と同日)】vHITは全6方向でゲインの著明な低下(LL 0.25, RL 0.29, LA 0.30, RP 0.18, LP 0.18, RA 0.44)(図2)。DVAは左方向1.4 logMARを最大として全方向で高度低下。fvHITはRH 0%,LH 7%,RP 33%,LA 60%,RA 33%,LP 13%と全方向有意低下であった(図4)。重心動揺では閉眼総軌跡長695 cm,閉眼外周面積46.9 cm2と高度の異常を認めた(図3)。
【検査2回目(重心動揺計4回目・初診から約8か月後と同日)】vHITゲインは全方向で1回目と不変。DVAは左方向1.0 logMARと改善(1回目1.4 logMAR)。fvHITはRP 100%,LA 92%,RA 92%,LP 92%と著明に改善し,多方向で正常域に回復した(1回目:RP 33%,LA 60%,RA 33%,LP 13%)(図4)。重心動揺では閉眼総軌跡長297 cm(1回目695 cm),閉眼外周面積14.4 cm2(1回目46.9 cm2)と著明に改善した(図3)。自覚症状についても,前庭リハビリテーション後に歩行時のふらつきおよび視覚的不安定感が軽減し,日常生活動作における改善を自覚していた。
本稿では,前庭リハビリテーション施行前後にvHIT・DVA・fvHITによる評価を行い,対照的な経過を示した2症例を呈示した。
DVAの前庭リハビリテーション効果判定指標としての有用性はHerdmanらの古典的研究2)以来確立されており,視覚安定性の回復が末梢VORゲインの回復とは独立した機序によることも示されている3)。症例2ではこの知見と一致して,vHITゲインが両時点で不変のままDVAおよび重心動揺が改善した。加えてfvHITも著明な改善を示した点は,Fancelloら5)が前庭神経鞘腫術後症例で報告した所見と類似しており,fvHITがDVAと同様に中枢代償の進行を反映する指標として機能しうることを示唆する。
一方,症例1は左前庭機能低下の診断であったが,vHITゲインはLL 0.96とほぼ正常域,LP 0.52と軽度低下にとどまり,もともと前庭障害が軽度であった。DVA(左0.5→0.4 logMAR),fvHIT(LP 20%→33%),重心動揺(閉眼総軌跡長174→162 cm)のいずれも2時点間で大きな変化を示さず,機能的にも比較的保たれた状態が維持されていた。すなわち症例1は,障害が軽度であるために中枢代償を要する機能的破綻が初めから乏しく,経過中も大きな変動を示さなかった例と解釈される。両側高度前庭障害から中枢代償が進行した症例2とは障害程度が大きく異なり,両者の対比は,DVA・fvHITが障害の程度と代償状態に応じて異なる経過を描出しうることを示している。また,症例2では機能的検査の改善と並行して自覚症状の改善を認めたのに対し,症例1では検査所見・自覚症状ともに大きな変化を認めず,DVA・fvHITをはじめとする機能的評価の変化が自覚症状の推移とおおむね一致していた。
DVA・fvHITを2回測定したことによる学習効果(練習効果)の可能性も考慮する必要がある。本研究の測定間隔は2か月以上であり,視標の方向はランダムに提示されるため,単純な記憶による正答率上昇は生じにくいと考えられるが,課題への習熟が結果に影響した可能性は完全には否定できない。一方,症例2のfvHIT正答率の改善(例:LP 13%→92%)は学習効果のみで説明するには大きく,重心動揺の著明な改善(閉眼総軌跡長695→297 cm)を伴っていたことから,中枢代償の進行を反映したものと考えられる。fvHITのCA%はattentionや認知負荷の影響を受け再現性が中等度にとどまるとの報告もあり6),解釈には注意が必要である。また本報告の限界として,症例数が少数であること,2症例間で前庭障害の程度が大きく異なり代償の有無を同一条件で比較したものではないこと,前庭リハビリテーションの施行内容・アドヒアランスを定量化できていないことが挙げられる。今後は症例を蓄積し,特に高度前庭障害において代償が進行しない非代償例との対比を含め,DVA・fvHITの変化パターンと予後の関係を系統的に検討する予定である。
1.前庭リハビリテーション施行前後にvHIT・DVA・fvHITによる評価を行い,対照的な経過を示した2症例を報告した。
2.高度両側前庭障害を呈した症例2では,vHITゲインが不変であってもDVAおよびfvHITが著明に改善し,中枢代償の進行を機能的評価により客観的に捉えることができた。一方,障害が軽度であった症例1では機能的評価も含め大きな変化を認めず,両症例の対比は障害程度と代償状態の違いを反映していた。
3.DVA・fvHITはvHITでは捉えられない中枢代償の進行を定量化する指標として,前庭リハビリテーションの効果判定に有用と考えられた。
本研究に使用したDVA・fvHIT測定機器(Visual Eye,ダイアテックカンパニー)は同社より機器貸与を受けた。また著者はダイアテックカンパニーより講演料を受領している。本論文の一部は2025年日本めまい平衡医学会学術講演会のランチョンセミナー(ダイアテックカンパニー共催)で発表した。
本論文の作成過程において,文章の構成・修正・英文抄録の作成補助にClaude(Anthropic社)を使用した。
別刷請求先:五島史行