Equilibrium Research
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CASE 35 メニエール病との鑑別を要した外リンパ瘻の1例
神田 裕樹
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2026 年 85 巻 4 号 p. 208-211

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 症例提示

症例:70代男性

主訴:回転性めまい・ふらつき

既往歴:右突発性難聴(40年前)

現病歴:10年前より,ふらつきおよび回転性めまい,右耳閉感を反復していた。近医にてメニエール病と診断されたが,特記すべき治療は施行されなかった。その後も同様の症状を繰り返していたが,当科初診3か月前より,回転性めまい発作の頻度が増加を認めたために前医を受診し,精査加療目的に当科紹介受診となった。

初診時所見:両側外耳道および鼓膜に明らかな異常所見は認めなかった。純音聴力検査は右103.8 dB,左65.0 dB(4分法)と右重度感音難聴および左中等度感音難聴を認めた(図1)。Dizziness Handicap Inventory(DHI)は54点であった。前庭機能検査として,video Head Impulse Test(vHIT)では,外側半規管のgainは右0.81,左0.88であり,両側にcatch-up saccadeを認めた。前庭誘発筋電位(VEMP)は,cVEMPのasymmetry ratioは14%であった。oVEMPでは右側無反応であった。重心動揺検査(60秒)では,外周面積は開眼時3.00 cm2,閉眼時5.21 cm2,総軌跡長は開眼時121.57 cm,閉眼時210.61 cmであった。眼振検査では,注視眼振を認めず,頭位・頭位変換検査でも眼振を認めなかった。追跡眼球運動はsmoothであり,視運動性眼振は左右ともに良好に誘発され,左49.3°/sec,右48.4°/secと明らかな左右差は認めなかった。頭部MRIでは,明らかな中枢性病変および内耳出血などの内耳異常を示唆する所見は認められなかった。内耳造影MRIは当時当科では未導入であったため施行していない。側頭骨CTは中内耳奇形を含め明らかな異常所見は認めなかった。

図1  初診時純音聴力検査

右103.8 dB,左65.0 dB(4分法)と右重度感音難聴および左中等度感音難聴を認める。

経過:当科初診後,回転性めまい発作時の頭位・頭位変換検査にて右向き水平性眼振を認め,間歇期には眼振を認めなかった。また,発作時に右耳の違和感(耳閉感)を自覚し,左耳の聴覚症状は認めなかった。ふらつき症状も持続的ではないものの認められた。以上から,右メニエール病確実例と診断し,生活指導,薬物投与(イソソルビド・五苓散・ベタメタゾン)での加療を開始した。加療開始後も,めまいおよびふらつき症状の寛解・増悪を繰り返し認めたため,中耳加圧治療を施行した1)2)。右耳への中耳加圧時にめまいが誘発をされるとの訴えを認めた。中耳の加圧時にめまいが再現性をもって誘発されたことから外リンパ瘻を疑った。追加の問診では,臥位から座位への頭位変換時に回転性めまいが誘発されるとのことであったが,外因的・内因的な圧外傷の既往は認めなかった。また,外リンパ特異的蛋白(CTP)検査を施行したが陰性であった。外リンパ瘻の診断基準からは,カテゴリー分類4に該当し,臨床症状のみを認めることから外リンパ瘻の疑いであった(表1)。患者の意向もあり試験的鼓室開放術・内耳窓閉鎖術の方針とした3)。術中所見では,アブミ骨底板周囲に滲出液の貯留は認めたが,明らかな外リンパの漏出は認めなかった。正円窓からも漏出は認めなかった。アブミ骨底板周囲および正円窓を脂肪組織で被覆し,フィブリン糊を用いて固定し手術を終了とした(図2)。術後は,ふらつきおよび回転性めまい発作は軽快し,術後6ヶ月以上経過した時点でDHIは26点であり,めまいおよびふらつき症状の再燃は認めていない。

表1 外リンパ瘻 診断基準・カテゴリー分類(文献3より引用)

A.症状:下記項目の外リンパ瘻の原因や誘因があり,難聴,耳鳴,耳閉塞感,めまい,平衡障害などが生じたもの。
(1)中耳および内耳疾患(外傷,真珠腫,腫瘍,奇形,半規管裂隙症候群など)の既往または合併,中耳または内耳手術など。
(2)外因性の圧外傷(爆風,ダイビング,飛行機搭乗など)
(3)内因性の圧外傷(はなかみ,くしゃみ,重量物運搬,力みなど)
B.検査所見
(1)鼓室鏡検査・内視鏡検査 :開窓術,内視鏡などにより中耳と内耳の間に瘻孔を確認できたもの。瘻孔は蝸牛窓,前庭窓,骨折部,microfissure,奇形,炎症などによる骨迷路破壊部などに生じる。
(2)生化学的検査 :中耳から外リンパ特異的蛋白が検出できたもの。
C.参考
(1)外リンパ特異的蛋白Cochlin-tomoprotein(CTP)の検出法
シリンジで中耳に0.3 mLの生理食塩水を入れ,3回出し入れし,中耳洗浄液を回収する。ポリクローナル抗体によるELISA法で蛋白を検出する。カットオフ値は以下の通りである。0.8 ng/mL以上が陽性,0.4以上0.8 ng/mL未満が中間値,0.4 ng/mL未満が陰性
(2)明らかな原因,誘因がない例(idiopathic)がある。
(3)下記の症候や検査所見が認められる場合がある。
  1.「水の流れるような耳鳴」または「水の流れる感じ」がある。
  2.発症時にパチッなどという膜が破れるような音(pop音)を伴う。
  3.外耳,中耳の加圧または減圧でめまいを訴える。または眼振を認める。
  4.画像上,迷路気腫,骨迷路の瘻孔など外リンパ瘻を示唆する所見を認める。
  5.難聴,耳鳴,耳閉塞感の経過は急性,進行性,変動性,再発性などである。
  6.聴覚障害を訴えずめまい・平衡障害が主訴の場合がある。
D.鑑別除外診断
他の原因が明らかな難聴,めまい疾患(ウイルス性難聴,遺伝性難聴,聴神経腫瘍など)
E.外リンパ瘻の診断
Aの臨床症状のみを認める場合は疑い例とする。
Aの臨床症状があり,さらにBの検査所見のうちいずれかを認めれば確実例とする。
外リンパ瘻のカテゴリー分類

1 外傷,疾患,手術など
(1)a.迷路損傷(アブミ骨直達外傷,骨迷路骨折など)
  b.他の外傷(頭部外傷,全身打撲,交通事故など)
(2)a.疾患(中耳および内耳疾患。真珠腫,腫瘍,奇形など)
  b.医原性(中耳または内耳手術,処置など医療行為)
2 外因性の圧外傷(爆風,ダイビング,飛行機搭乗など)
3 内因性の圧外傷(はなかみ,くしゃみ,重量物運搬,力みなど)
4 明らかな原因,誘因がないもの(idiopathic)
図2  手術所見

A.アブミ骨底板周囲に少量の滲出液の貯留は認めたが外リンパの漏出は認めなかった。

B.アブミ骨底板周囲・正円窓に脂肪組織を被覆。

 症例解説

外リンパ瘻の症状としては,突発性・変動性・進行性の難聴,耳鳴,耳閉感,めまいが挙げられる。さらに,瘻孔症状(外耳道の加圧・減圧によりめまい・眼振が誘発される),POP音,流水様耳鳴といった随伴症状を伴うこともある。これらの症状は経過中に変動することもしばしば認められる。聴力低下やめまいを主訴とする患者の中で一定の割合を占めるものの,症状が他の内耳障害と類似しているため,診断に至らないことも少なくない。そのため,外リンパ瘻を念頭に置いた詳細な問診が重要である3)4)。本症例は,発作時の回転性めまい・右水平性眼振,および右耳の耳閉感を主症状とし,当初は右メニエール病として加療を開始した。しかし,保存的治療に対する反応は乏しく,さらに中耳加圧治療中にめまいが誘発される経過を認めた。中耳加圧治療は,外耳道から陽陰圧波を加えて症状の改善を目的とした治療であり,めまい抑制に対して高い有効性が報告されている。しかし,本症例において中耳加圧時にめまいが再現性をもって誘発されたことから,外リンパ瘻を疑った。外リンパ瘻の診断基準に照らすと,Aの臨床症状を満たすものの,外因性や内因性の誘因は認めず,CTP検査も陰性であった。病歴に誘因のない症例におけるCTP陽性率は21%と報告されており,誘因の有無に関わらず外リンパ瘻を鑑別に上げる必要性はあると考える。また,外リンパ漏出が停止もしくは間歇的漏出の場合にはCTP陰性となるため,CTP陰性が外リンパ瘻を否定するものではないと考えられる3)5)6)。このことから,外リンパ瘻が疑われる症例ではCTP検査を反復して行う必要性も報告されているが,今回は患者の意向もあり,複数回の検査は行わず,試験的鼓室開放術・内耳窓閉鎖術の方針とした7)8)。術中所見では,術中に明らかな瘻孔が確認できなかった。正円窓およびアブミ骨底板周囲に脂肪組織による被覆を行った。術後はふらつきおよびめまい発作は消失し,再燃を認めていない。これらの経過から,本症例は外リンパ瘻であった可能性が考えられた。術中に明らかな瘻孔が確認できない症例も存在することから,診断および治療効果の判定には臨床経過を含めた総合的な評価が重要となる。

 メッセージ

本症例ではメニエール病を疑い加療を開始したが,保存的治療に対する反応が不良であった。また,中耳加圧という外的圧刺激により再現性をもってめまい発作が誘発されたことから,外リンパ瘻を疑い,手術加療を施行した。術中に明らかな瘻孔は認めなかったが,術後の症状改善の経過を見ると,外リンパ瘻が存在していた可能性が考えられる。難治性めまい症例においては,治療反応性の経過やめまい誘発因子を踏まえ,加療方針を見直すことが重要であると考えられる。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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