2024 年 59 巻 4 号 p. 135-138
Isolates of Flavobacterium psychrophilum that produce brown pigments were obtained from ayu Plecoglossus altivelis at a farm in Hiroshima Prefecture, Japan in 2014 and 2015. In 2016, similar bacteria were isolated from ayu caught in a river in a different area. Eleven isolates producing brown pigments were obtained from both farmed and riverine ayu, and PCR-RFLP revealed the same A/S/QS/C genotype in all isolates. Infection experiments conducted with two isolates from farmed and riverine ayu revealed that both isolates had a similar LD50 and relatively weak pathogenicity. However, the property of this brown pigment remains unknown and requires further investigation.
Flavobacterium psychrophilumを原因菌とする細菌性冷水病は,世界的にはサケ科魚類の疾病として知られているが,日本においては1987年に徳島県の養殖場のアユPlecoglossus altivelisで最初に確認されてから,各地の河川や養殖場に広まり,アユにおける主要な疾病となっている(Wakabayashi et al., 1994;Iida and Mizokami, 1996;熊谷,2016)。F. psychrophilumは寒天培地上にフレキシルビン型色素によると考えられている,黄色を呈したコロニーを形成することが知られているが(Lorenzen et al., 1997),2014年にこの黄色に加え褐色色素を産生するF. psychrophilumが,広島県で養殖されていた細菌性冷水病で死亡したアユから分離された。その後,この養殖場とは無関係である他の河川で漁獲されたアユからも褐色色素を産生する菌株が分離された。本報では,この褐色色素を産生する菌株の分離状況や病原性について記載する。
広島県内の太田川水系の河川水を飼育用水としている養殖場において,細菌性冷水病を発病し死亡したアユ(体重 6.9 gから 42.8 g)と江の川水系の河川で友釣りによって漁獲されたアユ(10.3 gから 47.0 g)を供試魚とした。供試魚からの細菌分離は1/2CGY(0.25% Bacto casitone(BD),0.15% Difco gelatin(BD),0.05% yeast extract(Oxoid))寒天培地を用いて腎臓から行い,接種した培地は20°Cで5日間培養した。分離された細菌はPCR法(吉浦ら,2006)によりF. psychrophilumと同定した後,PCR-RFLP法により遺伝子型(Izumi et al., 2003;吉浦ら,2006;Izumi et al., 2007;Izumi et al., 2019)の判定を行った。さらに,抗F. psychrophilum FPC840血清(日本水産資源保護協会)を用いたスライド凝集試験にも供した。スライド凝集試験には,自己凝集を抑制するため100°Cで30分間加熱した菌液を用いた。
褐色色素を産生する2菌株の人工産アユ2系統に対する病原性を,人為感染試験により調べた。供試魚には,広島県立総合技術研究所水産海洋技術センターにおいて紫外線処理水を用いた循環ろ過水槽(水温20°C)で飼育されていたF. psychrophilum非感染のアユ2系統(累代系:平均体重 4.4 g,海産交配系:4.2 g)を用いた。累代系および海産交配系アユは,異なるF. psychrophilum株に対して異なる感受性を持つことが明らかになっている広島県の人工アユ系統である(Nagai and Nakai, 2020)。褐色色素を産生する菌株として,2014年に養殖場のアユから分離されたPH-1427株および2016年に河川のアユから分離されたPH-1639株を用いた。各菌株を1/2CGY寒天培地により20°Cで2日間培養後,PBS(-)に懸濁し,5段階の10倍希釈系列を調整した。各希釈段階の菌液を10尾のアユの腹腔内に 0.1 mL/尾接種し,水温19°Cに調温した脱塩素水道水を注水した,かけ流し式水槽に移した。その後,無給餌で飼育しながら10日間死亡状況を観察し,半数致死菌数(LD50)を算出した。なお,PBS(-)のみを接種した対照区も設けた。水槽から取り上げた死亡魚は冷凍保存し,MightyPrep reagent for DNA(Takara)を用いて腎臓からDNAを抽出し,PCR法(吉浦ら,2006)によってF. psychrophilumを検出することで感染状況を確認した。
養殖場のアユから分離されたPH-1427株の褐色色素の産生状況をFig. 1に示した。20°Cにおける培養3日目までは褐色色素の産生は目立たなかったが,培養4日目以降に1/2CGY寒天培地上(Fig. 1A)および1/2CGY液体培地中(Fig. 1B)に水溶性の褐色色素が観察された。寒天培地上よりも液体培地中での褐色色素がより観察しやすかった。液体培地を遠心分離(12,000 × g, 1分間)して得られた上清にも褐色色素が確認されたことから,この色素は水溶性と考えられた。なお,全ての分離菌については,F. psychrophilum特異的PCR法および抗F. psychrophilum血清を用いたスライド凝集試験で陽性反応を示したことから,F. psychrophilumと同定された。褐色色素を産生する魚病細菌としてはAeromonas salmonicida subsp. salmonicidaがよく知られている(山本,2017)。また,アユから分離されたPseudomonas plecoglossicidaや,ヒラメParalichthys olivaceusから分離されたVibrio anguillarumにおいても褐色色素産生株が報告されている(Park et al., 2000; Sakai et al., 2006)。しかし,F. psychrophilumにおいて褐色色素産生株はこれまで知られていない。

褐色色素を産生するF. psychrophilumの分離状況をTable 1に示した。この養殖場では,F. psychrophilum非保菌の人工産種苗を用いてアユを養殖しており,毎年5月から7月の間(水温14°Cから20°C)に河川水が感染源と推定される細菌性冷水病の発生が確認されている。2014年はこの時期に細菌性冷水病で死亡したアユから11株のF. psychrophilumが分離され,1株が褐色色素産生株であった。2015年の同時期にも12株のF. psychrophilumが分離され,2株が褐色色素産生株であった。一方,2016年の同時期には12株のF. psychrophilumが分離されたが,褐色色素産生株は確認されなかった。江の川水系で漁獲されたアユについては,2016年には8株が分離されすべてが褐色色素産生株であった。一方,2017年には3株分離されたが,いずれも褐色色素を産生しなかった。なお,2016年にF. psychrophilumが分離された8尾においては,1尾には細菌性冷水病の症状である下顎の赤変が認められたものの,残りの7尾については細菌性冷水病の外観症状は確認されなかった。以上の結果,養殖場および江の川水系のアユから合計11株の褐色色素を産生するF. psychrophilumが分離された。
| Source | Number of | ||||
|---|---|---|---|---|---|
| Location | Year | Date | Examined fish | F. psychrophilum isolates | Brown pigment producing isolates |
| Ayu farm*1 | 2014 | May 8 | 8 | 5 | 0 |
| June 9 | 4 | 2 | 0 | ||
| July 11 | 6 | 4 | 1 | ||
| 2015 | May 18 | 2 | 1 | 0 | |
| June 6 | 8 | 6 | 0 | ||
| July 10 | 6 | 5 | 2 | ||
| 2016 | May 18 | 6 | 5 | 0 | |
| June 3 | 6 | 4 | 0 | ||
| June 17 | 2 | 1 | 0 | ||
| July 19 | 4 | 2 | 0 | ||
| Gonokawa River*2 | 2016 | June 8 | 35 | 7 | 7 |
| June 14 | 26 | 1 | 1 | ||
| 2017 | June 14 | 41 | 3 | 0 | |
| June 22 | 31 | 0 | 0 | ||
褐色色素産生株2株および非産生株1株のPCR-RFLP型を代表例としてFig. 2に示した。褐色色素を産生する11株はいずれもA/S/QS/Cと判定された。一方,同じ養殖場の死亡アユから2014年から2016年に分離された褐色色素非産生の32株の遺伝子型については,A/S/QS/Cが27株(84.4%,2014年:9株,2015年:6株,2016年:12株),B/S/QR/Cが4株(12.5%,2015年のみに分離),A/R/QR/Cが1株(3.1%,2014年のみに分離)となった。褐色色素産生株の遺伝子型は,分離数が最も多いA/S/QS/Cと同じで,特異的な遺伝子型ではなかった。全国的なアユ株における調査では,A/S/QS/Cの割合は1.5%と比較的少ない遺伝子型であった(Izumi et al., 2019)。一方,群馬県の河川で実施された調査によると,主に流行していた4遺伝子型の中でA/S/QS/Cは3番目に多い型でその分離割合は12.5%であった(Arai et al., 2023)。調査した養殖場においてはA/S/QS/Cが最多となり,同養殖場が用水としている河川で優占していたものと考えられた。

褐色色素を産生する2株の感染実験の結果をTable 2に示した。PBS(-)を接種した対照区に死亡はみられなかったが,2株を接種後,死亡した全てのアユの腎臓からF. psychrophilumが検出され,これらのアユは注射感染によって死亡したものと判断された。Table 2に示したように2株の各アユ系統に対するLD50に大差はなく,2株の病原性は同程度であると考えられた。2株のLD50 を海産交配系アユよりも累代系に対してより強い病原性を示すDo型株(PH-1034)およびその逆の病原性を示すAm型株(PH-1037)(Nagai and Nakai, 2020)と比較すると(Table 2),2株の病原性の特徴はDo型株と同じ傾向を示したが,両系統に対する病原性はPH-1034と比較すると低かった。また,PH-1639株は,河川で友釣りにより漁獲されたアユの腎臓から分離されたが,このアユには細菌性冷水病の症状がみられなかった。このことは,PH-1639株の比較的低い病原性と関連している可能性がある。
| Isolate | Challenge dose (CFU/fish) | AS*1 | DS*1 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| Mortality (%) | LD50 (CFU/fish) | Mortality (%) | LD50 (CFU/fish) | ||
| PH-1427 | 1.8 × 107 | 80 | 1.8 × 106 | 80 | 3.1 × 105 |
| 1.8 × 106 | 50 | 80 | |||
| 1.8 × 105 | 10 | 50 | |||
| 1.8 × 104 | 20 | 10 | |||
| 1.8 × 103 | 0 | 10 | |||
| PH-1639 | 3.0 × 107 | 80 | 3.3 × 106 | 100 | 2.7 × 105 |
| 3.0 × 106 | 50 | 60 | |||
| 3.0 × 105 | 10 | 30 | |||
| 3.0 × 104 | 10 | 30 | |||
| 3.0 × 103 | 10 | 30 | |||
| PH-1034 (Do pathotype) *2 | – | – | 5.0 × 105 | – | 1.4 × 102 |
| PH-1037 (Am pathotype) *2 | – | – | 4.6 × 102 | – | 5.9 × 105 |
以上の結果から,褐色色素を産生するF. psychrophilumがアユから初めて分離されたが,全ての菌株のPCR-RFLP型は同じで,その病原性は比較的低いことが明らかになった。褐色色素の性状については水溶性であること以外は不明であり,今後はその性状について詳しい検討が必要である。