2025 年 60 巻 1 号 p. 12-15
Ovigerous females of the cymothoid isopod Anilocra clupei were found around the opercula and dorsal fin of the Japanese sardine Sardinops melanostictus captured in Aso-kai Lagoon, Kyoto Prefecture, Japan. The attachment sites showed loss of scales and pigmentation, along with ulceration. The estimated infection prevalence, intensity, and mean intensity of A. clupei, including fish possessing presumably parasitic wounds, were 41%, 1–2, and 1.01, respectively. The infection prevalence, including individuals possessing only parasitic wounds, tended to be higher in the smaller-sized fish and they were also significantly less obese. When assessing economic impact of A. clupei, fish without isopod infection but showing parasitic wounds should also be considered.
ウオノエ科Cymothoidaeの等脚類は,体表,口内および鰓腔などに寄生する甲殻類で,その多くは,熱帯海域や亜熱帯海域に生息する海水,汽水および淡水魚類を宿主とし,現在までに47属395種が記載されている(Boyko et al., 2024)。ウオノエ科ウオノギンカ属 Anilocra の1種であるサッパノギンカ Anilocra clupei は,主にニシン目魚類ニシン科サッパ Sardinella zunasi,マイワシ Sardinops melanostictus およびウルメイワシ科ウルメイワシ Etrumeus micropus に寄生し,日本沿岸の亜熱帯,温帯域に生息する広塩性種である(Nagasawa and Kudo, 2024)。ウオノギンカ属の複数種による,宿主体表への外傷(Bunkley-Williams and Williams, 1981),成長阻害(Adlard and Lester, 1994)および摂餌率の低下(Meadows and Meadows, 2003)の報告があり,漁獲対象種への経済的な損失を与えることが知られているが(Mahmoud et al., 2017),本種についての寄生率や宿主への影響に関する知見は限られている。著者は,京都府宮津市の阿蘇海において,刺網で漁獲されたマイワシでサッパノギンカの寄生を確認し報告した(Nagasawa and Kudo, 2024)。本報では,当該海域のマイワシにおける本種の寄生状況と魚体への影響について報告する。
供試魚として2023年6月26日に,阿蘇海内(中心緯度経度:35°34′04″N, 135°10′36″E)で刺網により漁獲されたマイワシ144尾を用いた。阿蘇海は日本海若狭湾西部に位置する宮津湾と砂州により隔てられ,2本の水道でつながる閉鎖性が強く汽水性(PSU < 30)の潟湖である。漁獲直後から発砲スチロール内で氷冷された供試魚を翌日に実験室内へ移送し魚体表を観察したところ,体表に損傷のある個体,形態観察からサッパノギンカと同定された等脚類に寄生された個体と寄生は見られない個体が確認された(Nagasawa and Kudo, 2024)。魚体に寄生したサッパノギンカは,漁労作業等により脱落することが漁業者によって確認されていることや虫体の死亡後も寄生による損傷は残存することから(Adlard and Lester, 1995),虫体が脱落せずに残存していた個体を被寄生魚,被寄生魚と類似の損傷が認められた個体を寄生痕魚,虫体および損傷が認められなかった個体を健常魚とした。本種による寄生数を推定するため,被寄生魚および寄生痕魚1個体における虫体数および損傷痕数を計数した。推定寄生率を推定寄生率(%)={(被寄生魚数+寄生痕魚数)/供試魚数}×102 により算出し,推定寄生強度(個体)は被寄生魚および寄生痕魚1個体における虫体数および損傷痕数とし,推定平均寄生強度を推定平均寄生強度(個体)={(虫体数+損傷痕数)/(被寄生魚数+寄生痕魚数)}により算出した。供試魚の被鱗体長(SL, mm)および体重(BW, g)を被寄生魚および寄生痕魚においては全数,健常魚においては無作為に選んだ30尾について測定した。被寄生魚,寄生痕魚および健常魚の肥満度を肥満度=(BW / SL3)×106により算出し,魚体の損傷の有無による魚体への影響を明らかにすることを目的として,ウィルコクソンの順位和検定によって比較した。統計解析にはR version 4.3.0(R Core Team, 2023)を用いた。採取されたサッパノギンカは,70%エタノール液で固定・保存し,頭部前端から腹尾節後端までの体長(BL, mm)を測定した。
供試魚144個体のうち,被寄生魚は1尾,寄生痕魚は58尾,健常魚は85尾であった。SLおよびBWは,被寄生魚では 152 mm,52.4 g,寄生痕魚では 138–168 mm,34.5–61.8 g,健常魚では 150–176 mm,45.1–84.6 gであった(Fig. 1)。サッパノギンカは3個体採取され,30.2–32.0 mm BL(平均:30.9 mm BL)で,全て抱卵雌であった。虫体は,第1~3胸脚で被寄生魚の鰓蓋上端付近の体表に寄生しており(Fig. 2A),寄生痕魚58尾のうち,53尾で鰓蓋上端付近,4尾で背鰭付近,1尾でその両方に寄生痕と推定される損傷が見られた(Fig. 2 B)。被寄生魚の寄生部位および寄生痕魚の損傷部位の鱗は消失し,色素の消失および潰瘍が認められた。


(A) fish infected with Anilocra clupei (arrowhead) showing a wound on the attachment site (circle). (B) fish with parasitic wounds showing a wound on the body surface (circle). Scale bars: A, B 20 mm.
寄生痕魚の損傷部位数をサッパノギンカ寄生数と推定し,被寄生魚のサッパノギンカ寄生数と合わせてマイワシの体長階級別の推定寄生率を求めたところ,マイワシ150 mm SL未満では100%(n=8),150–160 mm SLでは87%(n=45),160–170 mm SLでは43%(n=28),170 mm SL以上では0%(n=8)であった。全144個体の推定寄生率は41%,推定寄生強度は1~2個体(推定平均寄生強度:1.01個体)であった。
サッパノギンカの生活史は不明であるため,生活史が明らかなオーストラリア北東の珊瑚海に生息するスズメダイ科魚類Chromis nitidaに寄生するA. pomacentriの生活史を参考に(Adlard and Lester, 1995),サッパノギンカの宿主への寄生時期について推定し,マイワシの成長(安達, 1985)との関係から,マイワシの体長階級別の寄生率について考察する。A. pomacentriの生活史は,以下のとおりである。雌の育房中で卵から孵化したマンカ幼生が水中に放出され,宿主の尾叉長(FL, mm)が 29 mm 以下の個体に寄生する。その後,短い雄の期間を経て,雌へと性転換する。雌の育房中で卵からマンカ幼生の発生まではおよそ2か月間で,成体雌の寿命は12~14か月である。虫体の腹尾節と宿主の尾叉長は相関があることから,宿主の成長とともに,虫体が成長することが知られている。この近縁種とサッパノギンカの生活史が同様であるとすると,6月に虫体が抱卵雌であったことから,本虫が宿主に寄生する時期は育房からマンカ幼生が放出される8~9月頃と推定される。宿主への寄生は,マイワシの体長がおよそ 29 mm FLとなる生後2か月までに起こり,その12~14か月後にマイワシの体長が 170 mm SLになると虫体は寿命で宿主から脱落すると考えられる。このことから,170 mm SL未満のマイワシでは推定寄生率が43–100%と非常に高く,170 mm SL以上では,寄生は確認されなかったと推察される。一方で,近縁種の寄生による宿主の成長阻害も報告されていることから(Adlard and Lester, 1994),本種においても寄生による宿主であるマイワシの成長阻害が起こったことで体長 170 mm SL未満の推定寄生率が高かった可能性もある。山内(2003)は,島根県安来市および松江市の閉鎖性海域である中海において,延べ1,793尾のサッパを調べ,サッパノギンカの寄生率が1%であったことを報告したが,被寄生魚の定義が明らかにされていない。カリブ諸島に生息するイサキ科魚類 Haemulon flavolineatum に寄生する近縁種 A. haemulid 被寄生魚の寄生率は0–66%であり(Welicky and Sikkel, 2014),カリブ海に生息するスズメダイ科魚類 Chromis multilineata に寄生する近縁種 A. chromis 被寄生魚の寄生率は18–19%であることが知られている(Williams et al., 2021)。これらの近縁種と比べても,今回の推定寄生率41%は,比較的高い寄生率であると判断される。
阿蘇海における,体長 29 mm FL以下のマイワシ小型魚の加入の知見はないが,阿蘇海内は閉鎖性の強い海域であるため,本種がマンカ幼生を放出する場合,マンカ幼生およびマンカ幼生が寄生可能なマイワシ小型魚は水域内に滞留する可能性が高い。その結果,宿主魚類への感染機会が多くなり,高い推定寄生率となった可能性も十分に考えられる。当該海域でのサッパノギンカ推定寄生率の高さを解明するため,今後,年間を通して小型の宿主個体も含めて採集し,阿蘇海へのマイワシ小型魚の加入や本虫が宿主に寄生する時期や宿主体長,さらには寄生による宿主の成長阻害の影響を明らかにする必要がある。
寄生痕魚と被寄生魚を合わせた魚と健常魚の平均肥満度および標準偏差をマイワシの体長階級毎に見ると,150–160 mm SLでは,それぞれ12.80 ± 1.08,14.83 ± 2.04,160–170 mm SLでは,13.07 ± 0.92,14.70 ± 1.12 であった。ウィルコクソンの順位和検定の結果,どちらの体長階級においても,寄生痕魚と被寄生魚を合わせた魚の肥満度は健常魚に比べ,有意に低いことが明らかになった(150–160 mm SL: p < 0.01, W=35; 160–170 mm SL: p < 0.01, W=25, Fig. 3)。近縁種 A. pomacentri では,宿主血液を摂食することが知られており(Adlard and Lester, 1995),また,A. apogonae や A. nemipterid では,寄生に伴い宿主の行動エネルギーの消費量が増大することも報告されている(Binning et al., 2013)。被寄生魚の肥満度が有意に低かったことについて,サッパノギンカも同様に宿主に負荷を与えており,肥満度の低下を引き起こしているのであろう。

■ (grey bars): fish with parasitic wounds or fish infected with Anilocra clupei, □ (white bars): non-infected fish. The asterisks indicate statistically significant difference between the grey bar and the white bar, *p < 0.01 by Wilcoxon signed-rank test.
サッパノギンカの寄生による魚体表の損傷については,青木(2017)の報告があるのみで,サッパの体表に体長18.7–19.6 mm BLの虫体の寄生によって「鉤爪状の脚跡が残る」と報告したが,本報では観察されなかった。本報で扱った虫体の体長は,青木が報告した虫体と比べて大きく,宿主個体における寄生期間は青木の報告より長かったと考えられる。その結果,損傷範囲が広くなり,鉤爪状の脚跡が損傷部に位置したことで,体表に脚跡が観察されなかったと考えるが妥当であろう。国内におけるウオノギンカ類は,サッパノギンカ以外に,ニザダイ Prionurus scalprum に寄生するニザダイノギンカ A. prionuriおよびニセタカサゴPterocaesio marriに寄生するウオノノドボトケ A. harazakii の2種がある(Nagasawa and Kudo, 2024)。前者では,ニザダイの鼻孔下部の表皮損傷(Nagasawa and Fujimoto, 2018),後者では,ニセタカサゴの腹鰭基部の体表に凹んだ傷,出血,鱗や色素の消失(Uyeno and Tosuji, 2023)が生じたと報告されている。今回,マイワシの魚体表の損傷程度については,潰瘍が観察されたものの,宿主の筋肉は露出していなかった。しかし,漁業者によるとサッパノギンカにより魚体が損傷した漁獲物は,市場に出荷させないとのことから,寄生による経済的な損失が生まれていると考えられる。
少なくとも阿蘇海では,マイワシに損傷を引き起こす要因は,魚体表に寄生する他の大型寄生虫の存在も含めて確認されておらず,損傷が認められた宿主個体の肥満度は有意に低いことから,経済的な損失を把握するためにも,サッパノギンカ被寄生魚には,虫体が確認された個体だけではなく寄生痕を有する個体を含めることを提案する。
本論文で述べたマイワシを提供していただいた村上純矢氏およびウオノエ類を種同定していただいた水族寄生虫研究室長澤和也博士に感謝の意を表する。